ArayZオリジナル特集

タイ会計・税務・法務〜よく起こる問題やコロナ禍の制度変更などを解説〜

この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

寄稿者プロフィール
  • 倉地 準之輔 プロフィール写真
  • BizWings (Thailand) Co., Ltd.
    倉地 準之輔 CEO & Founder

    1980年生まれ。大学在学中に公認会計士二次試験合格後、あずさ監査法人(KPMG)入所。外資系企業勤務を経て、2013年来タイ。外資系会計事務所のジャパンデスクにて日系企業向けコンサルティング業務に従事した後、2015年10月にBizWings (Thailand) Co., Ltd.を設立。主に日系企業向けに管理業務に関する経営コンサルティング業務を提供し、現在に至る。公益財団法人東京都中小企業振興公社タイ事務所経営相談員。公認会計士(日本)。東京大学経済学部経営学科、米ケロッグ経営大学院卒業(MBA)。


    東京SMEタイ事務所にて 無料で倉地氏に相談できます
    倉地氏の担当は、木曜13時~17時。
    詳細は、「東京SMEタイ」で検索。
    ホームページ上のMENUから「サービスのご案内」→
    1.現地経営相談の「詳細はこちら」へ。
    ※倉地氏は、東京SMEタイ事務所の経営相談員として木曜の午後在籍。
    ※経営相談は、相談に対する助言・アドバイスを行うものであり、公社は経営責任を負うものではありません。

コロナ禍を受けて2020年のタイの実質GDP成長率は前年比6.1%減となり、残念ながら新型コロナウイルスの影響をASEAN諸国で最も強く受けた国の一つになってしまいました。

一方で、タイのGDP規模は依然としてASEANにおいてインドネシアに続く第2位の地位にあり、21年以降は経済も回復の見込みです。

また、自動車産業を中心とした製造業の産業集積が進んでおり、この一翼を担う日系企業も多数進出していることから、タイの日系企業数は約4000社、在留邦人数も約8万人と、ともに世界4位となっています。

そのような状況を鑑みた場合、タイにおいては一定の経済水準や日本人にとっての情報源はある程度確保されていることになり、タイでビジネスを展開するに当たって全くのゼロからスタートしなければならない、ということには恐らくならないでしょう。

他方、実はタイでは情報がないことではなく、あり過ぎるが故に問題になるということが発生しています。

例えば、ある税金の適用に関するルールについて、インターネットの検索機能を使えばたくさんのページがヒットするかと思います。それでは、どれが現在適用になっているルールなのでしょうか。どこが個人の見解で、どれが信頼に足る事実なのでしょうか。

このように、関係しそうな情報があったとしても、適用時期が異なっていたり、情報が正しくなかったが故に誤った判断をしてしまう、ということがあり得ます。

そして、日々の業務をこなしながら、本当に使える情報を必要十分に、かつタイムリーに獲得していくというのは、実は簡単な作業ではありません。

そこで本稿では会計・税務・法務という管理業務対応に実際に活かすことができる情報提供を目的とします。

税務の概観と 『歳入法典』 関連税制

図表1は過去の特集でも紹介しているものですが、今回も諸々のアップデート及びタイ税務に関する概観を把握していただくために記載しています。

また、国税のうち法人税、個人所得税、VATを含む「歳入法典」関連税制については、詳細規定として図表2のような勅令や財務省令、財務省告示といった詳細なルールも設けられています。

一部税制には、2国間の徴税に関する条約である租税条約も関連してきます。日本とタイは1963年に日タイ租税条約(正式名称「所得に対する租税に関する二重課税の回避及び脱税の防止のための日本国とタイとの間の条約」)を結んでいます。

年間業務カレンダー(3月末期末決算日の例)

タイにおいて年間業務として原則すべての株式会社(非公開会社・非BOI企業)に必要となる会計・税務・法務に関する業務をまとめたものが下の表です。毎月の業務と暦年(カレンダー年、1月1日~12月31日)の業務については会社ごとの決算日に関係なく同時期に発生しますが、中間決算日後の業務と期末決算日後の業務については、会社ごとの決算日によって時期が変わります。

今回はタイでも多くの日系企業が採用している3月末決算を例としたスケジュールとしましたが、自社の決算日に合わせた業務カレンダーを作成すると、各業務が網羅的に把握できて便利です。

注 : 税務の申告期限は、インターネット申告にすることで約1週間程度延ばすことが可能
以下、クリックで拡大可能

事例をもとに、Q&Aでお悩み解決!

弊職の業務上、よく寄せれる質問と回答例をQ&A方式でまとめました。日系企業にも関連する問題や実例を元にした内容となっており、皆様の会社の経営にも応用できる内容があるかと思われますので、ぜひご参照ください。

① 管理業務との付き合い方

Q.タイの現地法人責任者になり、初めて会計・税務・法務といった管理業務も自分の責任の範囲になりました。日本に居た時は、これらの仕事は全く携わったことがなく、知見がありません。どうすれば良いでしょうか。

A.公的・民間機関や各種専門家から幅広く情報を収集することが大切です。また、特定のスタッフに頼らない仕組みも必要になります。

① 最低限の情報収集を行う

タイにおいて日系企業向けの情報源はたくさんあります。この記事もそうですし、公的・民間を問わず多数の記事やセミナーに触れる機会があります。

自身として取り組まなければならない日々の業務がある中で、知見がない分野の情報収集はどうしても怠りがちです。しかし、少しでも時間を割いてそういった記事を読んだり、セミナーに参加したりして最低限の情報収集をしておくと良いと思います。

その際、収集した情報の全てを覚える必要はなく、その情報がどこにあったか、あるいは“こんな感じだった〟という感覚を持てれば十分です。

② 専門家の照会先を複数確保し、困ったらすぐに尋ねる

「専門家」を「複数」という点がポイントです。専門家はその分野における情報収集力と理解力についてやはり優位性があり、照会した内容についても精度の高い回答をしてくれる可能性が高いです。

一方、専門家も人間ですので、常に正しいということはないでしょうし、さらには専門家の中でも見解が分かれるテーマも存在します。

タイでは専門家が相談に乗ってくれる公的機関の無料相談窓口も複数存在します。自社の顧問弁護士や税理士のような専門家に加え、こういった外部の専門家を含めて複数の聞き先を確保し、困ったらすぐ質問するようにしましょう。

③ 社内の特定のタイ人スタッフに頼りすぎない

知見がない分野の場合、その分野の仕事をしているタイ人の業務には関与しない、あるいは言われた通りにする、という対応になりがちです。

しかし、これが常態化すると不正の温床となったり、当該タイ人の作業がブラックボックス化して不当に権力が集中し、マネジメント上の重大な問題を引き起こすことに繋がります。

社内でモニタリングの仕組みを作ったり、社外に業務の一部を外注するなどし、特定のタイ人に頼らないと仕事が回らない、という状況を極力避けるようにしましょう。

② 経理業務を内製している場合の留意点

Q.社内で経理業務を進めるうえで、留意すべき点について教えてください。

A.日本とはスタッフの職能や労働市場などが大きく異なることを理解したうえで、日本人は経理業務のマネジメントに注力すべきだと思います。

経理業務を内製されている会社からよく受ける相談内容と、それに対する解説をそれぞれ4つ紹介します。


経理部門のマネージャーが独善的に仕事をしてしまい、
マネジメントの言うことを聞いてくれません。

= 職権が集中しやすい構造
経理は既存の業務フローに対して日本人駐在員が手を入れることが難しい部門です。また、タイの財務諸表や法人税申告書には会計責任者の署名がないと申請ができないことからも、職権が特定の個人に集中しがちな構造にあります。

A.日本人マネジメントのガバナンスが利く状況を確保しましょう。実施作業の文書化や業務分掌の 明確化、業務ローテーションを行い、業務が属人化しない仕組みの確立が重要です。


会計スタッフが頻繁に退職してしまいます。

= 日本と異なる労働市場の構造
タイの失業率は世界トップクラスに低く(コロナ前は約1.0%)、終身雇用制度が存在する国でもありません。このため転職をすることに抵抗が全くなく、また、良い条件の仕事があれば転職を当然のように行う傾向にあります。

A.特定の会計スタッフに依存した業務体制を作るのを極力避けましょう。例えば、一部業務だけでも外注してしまい、退職による業務遅延リスクを回避するといった方法も有効です。


会計記帳・税務申告に加え、 経営分析を依頼したのですが、
思うような成果が上がりません。

= 職能に関する期待ギャップ
一般的に会計記帳・税務申告を担当する「会計記帳者」は、書類に基づいて情報を記録するのが仕事です。当該情報を分析し、経営上のアクションに反映するという業務は仕事の範囲として認識していない場合があります。

A.会計記帳者と、経営分析者は明確に分けましょう。両方できる方がいたら、それはラッキーです。もしくは割り切って経営分析は日本人管理者が実行したり、外注してしまうのも有効な打ち手です。


書類の書式に厳しかったり、事あるごとに税務署の顔を見て
作業をしているような気がします。

= 税務署職員に与えられた強い権限
税務署職員はその調査に当たり、職員が判断して必要とした書類については要求する権利を有しています。このため、税務署が求める可能性があると経理部門が判断した場合、職員に詰問を受けることを防ぐため、とりあえず安全に書類を準備したがる傾向にあります。

A.経理部門との明確なコミュニケーションを行いましょう。タイの制度上、税務署側の意向を斟酌した方が良い場合があるというのはある程度事実ですが、経理部門の思い過ごしである場合もあります。分からないことがあったら、外部の専門家に聞くのも良いでしょう。


経理業務の内容そのものを日本人駐在員が理解するのはもちろん大事ですが、特に税務申告書が全てタイ語なため、経理業務を日本人駐在員が実施するのは現実的ではありません。

むしろ日本人駐在員はマネジメントとして、経理業務において権限が集中することなく、かつスムーズに流れるような仕組みで実施されることを担保することに注力するべきでしょう。

ただ、こういった仕組みを社内で構築するのは容易ではありません。そこで、例えば弊社ではこれらの問題を解決する一つのサービスとして、「BizWingsアシスタント」を提供しています。

これはタイビジネスに対応した日本語オンラインアシスタントサービスです。高い実務能力を有する日本人及び日本語話者のタイ人アシスタントと直接やりとりしながら、貴社業務を進めていただくことができます。こういった人材を社内で雇用するのに比べ、安価にしかも業務をブラックボックス化することなく、進めることができる仕組みになっています。

優秀な日本人 & タイ人 アシスタントが月13,900B~
経費精算 / 請求書発行 / 社内資料作成 入社・退社手続 / 残業代計算 / 求人情報管理 / SNS更新 / Web更新 etc… 様々な業務を代行いたします
コスト削減や不正防止にも! 無料お試しプランあり

③ 税務上でよくある指摘・赤字取引の考え方

Q.税務上の論点は多岐に亘ると思うのですが、マネジメントとして特に注意しておいた方が良い税務上のポイントはありますか。

A.いわゆる赤字取引(売上に対して売上原価の方が大きく、粗利益がマイナスになる取引)についてタイの税務署は厳しく、これに起因する追徴課税が発生した場合、納付額が多額になりがちという点を認識していただければと思います。

赤字取引に関しては、次のようなケースの場合は個別品目や特定の相手先との赤字取引が発生していても問題ないのではないか、という照会をしばしばお受けします。

•事業上の合理性がある場合 (例:取引先との関係性維持)
•会社全体として利益が出ている場合 •他社との取引の場合(グループ会社との取引でない限り、赤字取引が発生していても問題ない、という理解)

他方、タイの税法はむしろシンプルで、適当な理由なく市場価格よりも低い対価で資産譲渡やサービス提供をした場合、税務署は市場価格で取引がなされたとみなして課税できる、という内容が法人税及びVATの法令上定められているだけです。照会されたような状況については免除する、といった規定はありません。

これにより税務署はどんな状況にあったとしても当該法令をもって、「赤字取引を発生させた売価は市場価格より低い対価であった」という理屈のもと、売価を市場価格に修正した金額をベースに課税することができる、ということになります。

この問題を数値例で示すと、以下のようになります。

この数値例は元の売価は1000だったが、税務署に市場価格の1500であるとみなされて追徴課税を受け、加算税・延滞税も課税されたというケースを仮定したものです。   更生された金額500(=1500–1000)に対して、かなり多額の追加納税が発生することがお分かりいただけるかと思います。

対策としては言うまでもなく、赤字取引を極力避けるというのに尽きます。やむを得ず発生してしまった場合は、これらのような背景があることを念頭に置きつつ、当該取引はあくまで市場価格に準じていることを主張するしかありません。

経営上やむを得ず赤字取引を実施しなければならない状況になることも多く、実際のところ赤字取引に関する対処法にまつわる相談は非常に多いです。基本的なロジックは上記の通りですが、実際にどう対応すべきかという方法についてはケースバイケースですので、困ったらすぐに専門家に相談することをお勧めします。

右はBizWingsアシスタントなどを担当する東槇マネージャー

右はBizWingsアシスタントなどを担当する東槇マネージャー

④ コロナ禍におけるタイ政府の支援措置

Q.タイ政府の支援措置で、多くの日系企業に役に立つものはありますか。

A.「従業員賃金の3倍を法人税計算上の費用に計上できる」という制度があります。
要するに法人税が安くなる、ということを意味しますので、適用できる企業にとっては朗報かと思います。

対象となる賃金の条件

ただし、この制度の残念な点は、その範囲を「月額賃金が月1万5000バーツ以下の従業員」に限定している点です。すなわち、月額賃金が月1万5000バーツを超えてしまう従業員に対しては使えない、ということです。

他方、この賃金レベルの従業員が多くいる会社であれば、それなりのインパクトをもった節税ができる制度かと思いますので、社内でその適用の可否をぜひ検討してみてください。

なお、その他のタイ政府によるコロナ禍の支援措置については日本の公的機関などで一覧を作成してくれています。参考にしてみるのも良いかと思います。

【タイにおける新型コロナウイルスに関連する支援措置(JETRO)】 

⑤ 取締役会・株主総会のオンラインでの実施

Q.取締役会や株主総会をリモートで実施する方法はあるでしょうか。参加者たる取締役や株主が日本にいたり、移動制限下にあったりし、一ヵ所に集まって実施することが難しいためです。

A.いくつかの条件を満たせば、テレビ会議を用いた株主総会などは認められています。

 取締役会・株主総会のオンライン実施条件

実はテレビ会議の実施そのものは16年から認められていました。しかし、日系企業のほとんどにとって次の条件があったため、非常に使いづらい内容になっていました。

•充足数の3分の1以上が同じ場所に居ること
•すべての出席者がタイ国内に 所在すること(タイ国外からの参加不可)

しかし、新型コロナウイルスの感染拡大が問題となった20年4月に、電子機器によるテレビ会議のルールが上のように変更されました。

現在のルールになってからはだいぶ利便性が向上し、日系企業にとっても使いやすい制度になっています。ぜひ有効活用されることをお勧めします。

⑥ コロナ禍での個人所得税の取扱いの留意点

Q.日本人駐在員や日本に出向していたタイ人従業員のタイでの滞在期間や方法が不規則な状況にあるところ、これが個人所得税の取扱いに与える影響について教えてください。

A.状況に応じて様々なケースが考えられるため、不明な点があればその都度専門家に相談することをお勧めします。

日本とタイの間を行き来した場合に発生する個人所得税上の諸論点と考えについて、表の通りまとめました。(以下、クリックで拡大)

日本とタイの間を行き来した場合に発生する個人所得税上の諸論点と考え方

基本的にタイにおける業務から発生した所得は、受取先がどこであれタイでの個人所得税の対象になります。ただし、タイでの滞在日数が1暦年中に180日を超えないなどの条件を満たすと免除になります。

「不明な点があれば都度専門家に相談を」と倉地氏

「不明な点があれば都度専門家に相談を」と倉地氏

現状ではまだ、新型コロナウイルスの感染拡大防止を目的として入国規制が日タイ双方で設けられており、本来はタイに赴任するところやむを得ずまだ日本で業務を行っていたり、駐在員はタイに入国できても帯同するはずの家族がまだ来られないといったケースもあるかと思います。

自社の類似ケースがある場合は表で専門家に相談されることをお勧めします。

⑦ 個人所得税の節税方法について

Q.弊社は駐在員の個人所得税を会社負担にしているのですが、結果としてかなりの金額が会社のコストになっていることに気が付きました。個人所得税を減らす方法はないでしょうか。

A.所得控除項目を上手に活用することで個人所得税を減らすことができ、結果として会社のコスト削減に繋がります。

下の個人所得税の計算方法から分かる通り、個人所得税を減らすには①総所得を減らす、②非課税所得を増やす、③所得控除を増やす、④税率を下げるの4つの方法が考えられます。(クリックで拡大)

計算方法

ここで①、②、④は会社としてコントロールの余地があまりないのに対し、③所得控除を増やすはその条件に合致する状況や支払の発生を、それなりに会社側でコントロールできるという違いがあります。

このため、所得控除項目をうまく使えば個人所得税の節税を実施できることになります。所得控除項目には図表1のようなものがあります。

例えば20年度は、日本人駐在員がShop Dee Mee Kuenキャンペーンを適用した買い物や、将来の資産形成のためのSuper Savings Fund(SSF)の購入を行い、これを申告することで個人所得税の節税が図られたことになります。

このように、所得控除項目に該当する支出を駐在員が行うようにできれば、会社の個人所得税負担というコストが軽減できます。

では、駐在員がそのような支出をしてくれるようにするにはどうすれば良いのでしょうか。会社と駐在員が黙示的にこれを行うというのが理想論になる一方、会社の報酬設計を駐在員がこのような支出をしたくなるように設定するという方法もあり得ます。

この点は細かい話になるので、ご興味のある方は次ページのコラムをお読みください。

さらに深掘りコラム!

賞与増なのにコスト減!?
所得控除項目の使用を動機づける方法とは

このコラムでは、そもそも所得控除項目を利用するとどのように税金が減るのかを数値例を使って説明します。その上で、そのように駐在員に所得控除項目を利用してもらうための報酬設計のアイデアについて、こちらも数値例を使って説明します。興味のある方はぜひお読みください。

所得控除項目を利用した節税の数値例(A


• 個人所得税負担額 : 当該賞与全額について最高税率である35%が適用され、かつ、計算された個人所得税についても会社負担となる場合の追加個人所得税額
• 法人税 : 税前利益の20%として計算


上の表のケース①と②は「20年内に賞与前利益が100,000THBの会社が、日本人駐在員に25,000THBの追加賞与を支給する場合」を想定した数値例です。

ケース①は控除項目を何も利用していない場合、ケース②は日本人駐在員が当該賞与を全額使用して何らかの控除項目の利用(例:Shop Dee Mee Kuen キャンペーンを適用した買い物など)を行った場合を想定しています。

ケース①では個人所得税負担額が生じている(所得控除項目が存在しないため、全額が個人所得税対象になっている)のに対し、ケース②では個人所得税負担が生じていません(全額が所得控除項目の対象になるため、個人所得税対象がなくなる)。

会社の個人所得税負担額というコストが減少することにより法人税は増加します。ただ結果として、会社の総コストである個人所得税負担額、法人税額、賞与の合計はケース①に比べ、ケース②の方が少なくなっている、つまり、所得控除項目の利用によりコスト削減が図られている、ということがお分かりいただけるかと思います。

駐在員に所得控除項目を利用してもらうための報酬設計アイデア(B)

ケース③と④は「20年内に賞与前利益が100,000THBある会社が、日本人駐在員に30,000THBの追加賞与を支給する場合」を想定した数値例を記載したものです。

ここでもケース③は控除項目を何も利用していない場合、ケース④は日本人駐在員が当該賞与を全額使用して何らかの控除項目の利用(例:Shop Dee Mee Kuenキャンペーンを適用した買い物など)を行った場合を想定しています。

ケース③と④はケース①と②に比べて賞与額が増えているわけですから、当該賞与額の増加に加え、個人所得税負担額の増加により、会社が負担するコストの合計はケース①と③、ケース②と④をそれぞれ比較した場合増加します。

一方、ケース①とケース④を比較した場合、日本人駐在員に支払う賞与の額は増加しているのに会社のコストは減少している、ということがお分かりいただけるでしょうか。

これはケース①では所得控除を利用していない一方で、ケース④では所得控除を利用しているからなのですが、このことから日本人駐在員が個人所得税の所得控除を利用してくれるのであれば、たとえ会社が当該日本人駐在員への支払(ここでは賞与)を増やしても、会社が負担するコストが結果的に減少することがある、ということが分かります。

これらの例を踏まえると、日系企業の日本人駐在員への報酬形態として「賞与は25,000THB。ただし、賞与全額を個人所得税の所得控除項目になる内容に使用するのであれば、30,000THB支給する」という案が、会社・日本人駐在員の双方にとってメリットがある案になりうる、ということです。

もちろんどのように所得を使用するかは個人の自由です。どんな強要もなされるべきではありません。

一方、日本人駐在員自身が例えばタイにおける長期投資にすでに関心があり、退職年金基金(控除対象)を投資対象として検討している場合等、収入の増加で日本人駐在員の行動を誘導できる余地がありうるのであれば、一つの人事施策として検討できるのではないでしょうか。


【免責】本稿は、一般的な事項についての情報提供を目的として作成されたものであり、実際の遂行にあたっては、多くの場合関連法規の検討、並びに専門家との協同が必要になります。このため、執筆者並びにその所属先は、本稿の利用に起因する如何なる直接的・間接的な損害に対しても一切の責任を負いかねます。また、本稿記載の情報は作成時点における調査に基づいたものであり、随時更新される可能性がありますことをご了承ください。

\こちらも合わせて読みたい/

(2016.05月号)ざっくり分かる 知っ得 タイの法務・会計・税務

(2017.06月号)経営者のための会計・税務入門

(2018.08月号)タイの会計・税務 概観

(2019.11月号)使える!タイ会計・税務概観とFAQ(法人税・個人所得税・VAT)


なお、過去記事内の記載事項は各記事作成時の法規制に基づいた記載になっており、それ以降の改正を反映していません。その点はご留意の上ご利用ください。
この記事はPDFでダウンロードできます

ダウンロードができない場合は、お手数ですが matsuoka@mediator.co.th までご連絡ください。

※入力いただいたメールアドレス宛に、次回配信分から定期ニュースレターを自動でお送りしております(解除可能)

gototop