7月号ではタイにおける民事訴訟手続について紹介した。今回は、裁判とはやや異なる仲裁(商事国際仲裁)という手続きについて取り上げる。
国際仲裁はその特徴から、日本に所在する会社がタイの会社と訴訟する場合など、原告と被告の所在地が国境を跨ぐような場合に利用される制度である。
仲裁手続とは
仲裁は、裁判外紛争解決手続「ADR(Alternative Dispute Resolution)」の1つに位置付けられる訴訟とは異なった制度である。
仲裁手続においては、紛争の当事者が紛争を私人である第三者(仲裁人)の判断に委ね、その判断に従うことを合意し、それに基づいて紛争が解決される。
仲裁と訴訟の違い
仲裁と訴訟の主な違いは下図の通りである。訴訟も仲裁も、強制執行力のある判決ないし判断を下すことができる点は共通する。しかし訴訟では、原則として裁判所の判決はその国の中でしか効力を生じない。
そのため、ある国で判決を得ても、それに基づき他の国で強制執行することは原則としてできない。タイでも、外国で取得した判決をもってタイ国内で強制執行することはできない。
一方、仲裁の場合は外国仲裁判断の承認及び執行に関するニューヨーク条約に批准している国であれば、国境を超えてその効力が及ぶ。従って、仲裁は国外強制執行力を有するという点で大きなメリットがあると言える。また、クロスボーダー取引の場合、相手方の国の裁判制度が信用できないケースがあることも仲裁を選択する理由になるだろう。
他方で仲裁は、あくまで仲裁機関という私人を介した紛争解決手段であり、上訴ができない、費用面の負担が大きいなどのデメリットもある。
タイの主な仲裁機関
Thai Arbitration Institute(TAI)
1990年に法務省の傘下として設立された機関で、最も取扱い事件数が多いと言われている。
Thailand Arbitration Center(THAC)
ASEAN諸国における仲裁の中心的機関として国際仲裁を支援・促進することを目的として、2015年に設立された最も新しい機関である。
Thai Commercial Arbitration Committee of the Board of Trade of Thailand (TCAC)
タイにおける仲裁のパイオニア的な機関だが、現在はあまり利用されなくなりつつある。
仲裁の活用を視野に
タイにおける商事仲裁を積極的に利用する在タイ日系企業はまだ多くはない。これはタイの裁判所がそれなりに有効に機能するからでもあるが、他方で国外強制執行力を有する仲裁は、クロスボーダー取引の紛争解決手段として大きな役割を果たし得る制度であると思われる。
仲裁手続きのメリットとデメリットを把握した上で、有効に活用していただきたい。
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GVA Law Office (Thailand) Co., Ltd.
代表弁護士藤江 大輔2009年京都大学法学部卒業。11年に京都大学法科大学院を修了後、同年司法試験に合格。司法研修後、GVA法律事務所に入所し、15年には教育系スタートアップ企業の執行役員に就任。16年にGVA法律事務所のパートナーに就任し、現在は同所タイオフィスの代表を務める。
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