当職担当の回では、タイの知的財産権法について詳細に説明している。
今回からはタイの知的財産制度の中でも特許制度について、日本との相違点を中心に取り上げる。
保護対象
日本・タイの両国において、特許法によって保護されるのは「発明」である。
「発明」とは、日本において「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のもの」(日本特許法2条1項)と定義され、タイにおいては「新しい製品もしくは製法を生み出す技術革新もしくは発明、または既知の製品もしくは製法の改良」(タイ特許法3条)と定義されている。
このように、「発明」に代表される知的財産法の保護対象は「財産的価値のある情報(アイデア)」(=無体物)であり、具体的な「物」(=有体物)に直接的に及ぶ「所有権」等とは異なる点に注意が必要である。
これらの定義に該当する「アイデア」であれば、原則として特許法の保護対象となる。ただし、形式的には定義に当てはまるものであっても、主に政策的な観点から特許を与えることを許可しないと定められている類型が存在する。これを一般的に「不特許事由」といい、ここに日本とタイで相違点が存在する。
タイにおいては、次の類型が「不特許事由」として定められている(タイ特許法9条)。
① 自然発生する微生物およびそれらの成分、動物、植物、または動物もしくは植物からの抽出物
② 科学的または数学的法則および理論
③ コンピュータ・プログラム
④ 人間および動物の疾病の診断、処置または治療の方法
⑤ 公の秩序、道徳、健康または福祉に反する発明
このうち、②と⑤は日本でも同様に特許の対象となるものではない。しかし、①と③は日本においては問題なく特許の対象と成りうる。
また、④について、日本においても「人間」の診断・治療方法等は同様に特許の対象から除外されているが、「動物」の診断・治療方法等に関しては特に不特許事由とはされていない。なお、医薬品についてもこれらの不特許事由に該当しないものであれば、登録を受けることができる。
このように、タイでは不特許事由が日本より多く、日本で特許を受けられるものでもタイでは特許を受けられない場合があるので、その点については留意する必要がある。
特に、①のうち植物からの抽出物や、③のコンピュータ・プログラム等については、日本には相当程度特許による保護の要請が見込まれる分野であるため、これらを事業の主眼に据えている企業は、タイへの進出に際して十分ご留意いただきたい。
なお、ハードウェアにソフトウェアが実装されており、ソフトウェア以外の構成要件が特許請求の範囲に表現されている場合は特許される可能性があることから、権利化について対応の余地はあるといえる。
外国語出願
特許出願を行う場合、権利保護を求める国の言語を用いて発明の内容を詳細に記載した「特許明細書」を準備する必要がある。
しかし、タイにおいて特許出願を行う場合、既に外国で出願済みの出願であれば、必ずしも最初からタイ語での特許明細書を準備しておく必要はない。外国での出願を基礎として優先権を主張し、その外国出願の言語のままとりあえず出願できるからである。
この場合、あらゆる言語での出願が可能である。ただし、出願から90日以内にはタイ語の翻訳文を提出する必要があり留意が必要となる。
したがって、日本で行った特許出願を基礎として、日本語のままとりあえずタイに出願し、後から翻訳文を準備する(90日以内には提出が必要)、というプロセスを取ることも可能となる。
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TNY国際法律事務所
日本国弁護士・弁理士
永田 貴久京都工芸繊維大学物質工学科卒業、2006年より弁理士として永田国際特許事務所を共同経営。その後、大阪、東京にて弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所を設立し代表社員に就任。16年にタイにてTNY Legal Co., Ltd.を共同代表として設立。TNYグループのマレーシア、イスラエル、メキシコ、エストニアの各オフィスの共同代表も務める。
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