知らなきゃ損する!タイビジネス法務

タイの商標制度


第2回でタイの知的財産権法制の概説を行った。今回から当職担当の回では、タイの知的財産権法それぞれについて詳細に説明したい。今回はタイの商標制度について説明する。

1. 商標制度について

商標は、およそ商取引を行う全ての企業、事業主にとって関わりがある法制度である。

特に近年では、日本の地名やブランドが中国など海外で勝手に出願される事例も頻繁に報道されており、国内外の商標管理にご関心をお持ちの方がますます増えてきていると思われる。日本で著名とまではいえないブランドや商品名であっても、中国ではすでに第三者によって出願や権利化がされているという事象が多発している。

そもそも日本で問題なく商標権を取得していたとしても、海外でその商標が自由に使えるとは限らない。商標権は国ごとに発生する権利であり、日本で取得した商標権の効力は日本国内にしか及ばないのが原則だからである。そのため、特に重要なブランドやハウスマークは、海外でもしっかりと権利化をしておくことが重要である。

以下、商標権に関する基本的な内容を解説する。

2.商標権は「商標」と「指定商品役務」との組合せ

商標権は、「商標」(trademark)と「指定商品役務」(designated goods / designated services)の組合せによって定まる。これは、商標法を理解するにあたって非常に重要なルールであり、タイや日本に限らず、原則として商標法が存在する全ての国に共通するものである。

ある名称(商標)について商標出願をする場合、その名称の独占権がこの世のあらゆる商品や役務に及ぶことになるわけではない。出願の際に指定した「指定商品役務」の範囲に限ってその名称を独占する権利が与えられることになっている。

例えば、私が所属するTNY Legal Co., Ltd.も、タイで「TNY」 (正確にはロゴとの組み合わせ)という商標について商標権を保有しているが、その名称を独占的に使用できる権利は、「契約書の作成」「出願業務」「法律相談」等、出願時に指定した「指定商品役務」の範囲に限られている。そのため、当該「指定商品役務」に全く関係のない役務、例えば、「飲食店の経営」に誰かが「TNY」の名称を用いたとしても、原則としてそれを止めることはできない。

なお当該商標の完全な独占を求めて、あらゆる範囲の商品役務を指定して出願することも理論上は可能ではあるが、それには莫大な費用が必要となるため、費用対効果が極めて悪い行為になってしまう。また、使用していない商標については、不使用による取消しという問題もあるため、通常は自己の業務(及びその周辺業務)に限った出願を行うことになる。

「具体的にどのような商品役務を指定するか」という点は、商標権の確保にあたって非常に重要な問題であるため、実際に販売している商品(提供している役務)、及び今後想定しうる紛争等も勘案した上で、出願の都度、じっくりと検討を行い、決定する必要がある。

日本でもたまに起こることであるが、自社が保有している商標権の指定商品が自社製品と異なっており、実は商標権で保護できていなかったということもあり得る。

また、特にタイでは、日本よりも指定商品の範囲を具体的に記載しないと受け入れられないという事情があるため(例えば、日本で受け入れられる指定商品「化粧品」が受け入れられず、「口紅」「洗顔クリーム」「マスカラ」等具体的に記載する必要がある等)、日本と同じ指定商品で権利化ができないためタイ独自の調整を行う必要がある。

TNY国際法律事務所
日本国弁護士・弁理士 永田貴久
京都工芸繊維大学物質工学科卒業、2006年より弁理士として永田国際特許事務所を共同経営。その後、大阪、東京にて弁護士法人プログレ・TNY国際法律事務所を設立し代表社員に就任。16年にタイにてTNY Legal Co.,Ltd.を共同代表として設立。TNYグループのマレーシア、イスラエル、メキシコ各オフィスの共同代表も務める。

URL: http://www.tny-legal.com/
Contact: info@tny-legal.com

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