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タイ文化を踏まえたこれからの「人事管理」とは?

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      筆者は、タイを中心に東南アジアに進出する日系企業の人事関連の施策をサポートしているコンサルタントです。多くの企業様とお話していると「タイの文化に合わせる点と、日本企業として守るべき点をどう調整していくか」というお悩みを伺う場面が多くあります。本稿ではこの問いに示唆を出すべく、タイ文化の特徴と人事施策の立案の際に気をつけるべき点をご紹介していきます。

      タイ人と働く際に文化は必要ない?

      文化の話をすると、よくこういった反論があります。「ひと口にタイ人と言っても真面目な人もいるし、怠け者もいる。それは日本人も同じだ。だから結局、一人ひとりを見ないといけない」と。この考えはある意味で正しく、ある意味で間違っています。

      一人ひとりは違っても、集団になると「傾向」が生まれます。それが、いわゆる「国民性」です。人事施策というのは集団に対しての打ち手ですから、「最大公約数として何が適切か」を判断基準として決めないといけません。そういった意味で、その国の文化を考慮することは失敗を防ぐために重要なことです。

      人事管理をする際に押さえるべきタイ文化の特徴5つ

      タイ文化と人事上の配慮ポイント

      ⑴ 階層社会 − 上下関係とメンツを重んじる

      アユタヤ王朝時代に成立した階級社会が長く続いた名残で、今でもタイには見えない階層意識が残っています。目上の人には配慮しNOと言わない「グレンジャイ(遠慮)」の文化などはその表出の一つで、しばしば日本人マネージャーを悩ませます。日本にも「面従腹背」といった似た文化もありますが、タイのそれはさらに少し強い傾向があります。

      こうした文化の中では「序列」をしっかりとわきまえることが重要です。ときどき「ベテラン層に不満があるので若手を一気に抜擢したい」と、いきなり序列を超えた登用をする場面が見受けられますが、摩擦が起こらないかに注意をしましょう。若者の立場からしても、年配者の「メンツ」を潰すのは心地よく思わないことが多いです。こうした序列については、〝日本以上に日本的である〟という認識で構えておいた方がいいでしょう。

      では、何となく年功序列を維持すればいいのかというと勿論そうではありません。評価基準を「明文化する」ことで、公平な人事管理をしていくことが必要です。

      ⑵ ハイコンテキスト文化 − 言葉にしない文化

      タイは「ハイコンテキスト文化」、つまり言葉にしない文化であると言われます。これは日本も同じで、いわゆる「空気を読む」社会です。日本人同士なら「阿吽の呼吸」で通じますが、タイ人と日本人ではそれぞれ読んでいる空気が異なるので、ミスコミュニケーションが頻発します。それゆえに、たびたび我々の頭を悩ませるのが日々の業務での「言った・言わない」問題です。

      対策は「ローコンテキスト」にすること。つまり、なるべく言葉にしておくことです。日々の業務指示であれば、仕事の納期や品質、やり方を言葉と文章ではっきりと伝える。人事制度であれば、各ポジションへの期待は何なのか(JD=職務規定)、どうすれば次のグレードに上がれるのか(昇格基準)を明文化して従業員に配布する。

      それらを通じて、何が評価されて何が評価されないかを最大限に明確にしておきましょう。そのような明文化が、先ほどの「何となく年功的に昇格する」ことを防止する、あるいは昇格してしまった人に厳しくフィードバックをすることの根拠となります。

      ⑶ 集団主義 − 自分が属する集団を優遇する

      タイは集団主義社会であるとよく言われます。日本人も集団主義と言われますが、少し性質が違います。研究によると、タイ人は家族や親しい友人などの「内集団」を大切にし、それ以外の「外集団」はそこまで大切にしないと言われています。日本人は、例えば会社や地域社会など比較的多くのコミュニティを所属集団と捉えて、その規範に従う傾向があります。

      タイ人との関係性が外集団のままだと、会社のために身を粉にして働いてはくれません。うまくいかない場合は、敵対的な態度をとられることもあるでしょう。それが内集団の関係になった瞬間に、驚くほどの忠誠心とエネルギーを爆発させてくれる。これがタイ人の凄いところです。

      内集団になるためには、とにかく人間関係です。業務の話だけではなくプライベートの面をさらけ出し、また相手の仕事以外の側面にも関心を持ち、時折話題にしましょう。昨今の日本ではこのような接し方はNGになっていますが、タイでは過度に避けると信頼を得られません。また人事管理では、個人のKPIよりもチーム貢献の指標や態度・行動を重視して評価項目に組み込みましょう。そうした「チームで頑張る」ことをトリガーにしておいた方が、タイでは成果創出に近づくでしょう。

      ⑷ 楽しみ重視 − 働くために生きるわけではない

      日本人とタイ人において大きく異なるのが、人生の優先順位です。シンプルに言ってしまうと「働くために生きる」のが日本人で、「生きるために働く」のがタイ人です。異文化研究では「男性性」という概念があり(少々この言葉は誤解を招きますが)、人生における仕事や地位の重要度において、日本は世界でトップクラスです。

      対して、タイ人はその逆に位置するため成果よりも人間関係、プレッシャーよりも穏やかな環境を好みます。日本企業に勤めるようなタイ人は比較的裕福な家庭環境の方も多いため、苦しさを我慢してまで働かなくていいという事情もあるでしょう。それゆえに、強いストレスは敬遠される傾向にあります。

      そういった点を踏まえ、タイでは「北風よりも太陽」アプローチがいいでしょう。言い換えると、プレッシャーではなく信頼と感謝でマネジメントすることです。目標をガンガン〝詰める〟アプローチより、対話を通じて感謝を伝えながら、「出来ていないこと」よりも「出来ていること」を伝えることを意識しましょう。

      ⑸ ゆったりした時間感覚 − 長期視点は一旦捨てる

      時間の感覚についても、日タイのギャップが大きいことは多くの研究から明らかです。5分前集合が徹底され、30秒電車が遅れても問題になる日本社会とタイ社会では前提が大きく異なります。時間管理については、意識の改革を促してもすぐに行動が変わることは難しいです。「○回遅刻をしたら有給1日取り消し」など、あくまでルールを明確にすることで対応しましょう。本人も自分の損になることはしませんので、最大限努力してくれるはずです。

      その一方で気をつけたいのは、計画に対する姿勢です。長期的な予測と計画が得意な日本人に対して、短期的な爆発力が強みなのがタイ人です。精緻な計画を求めるのは止め、ある程度ざっくりした予定を立てておいて細かく軌道修正する方がタイには合っていると思います。人事評価期間も半年程度と短くし、1ヵ月ごとに短いミーティングを設けて行動を修正していくことを弊社では推奨しています。

      企業文化はタイの文化を超える

      ここまではタイの文化に焦点を当てて論じてきましたが、一方で重要なのは「自社の企業文化」です。その会社の理念であり、価値観であり、またアイデンティティであるとも言えます。タイの文化を尊重しながらも、「企業文化」を形成する部分は妥協してはいけません。

      例えば、トヨタであれば世界のどの拠点であっても「カイゼン」は重視されます。こうした組織の文化は、いわばその企業の「旗印」です。こうした旗印は、企業のビジネスモデルや競争優位とつながっていますから、違う国だからと言って簡単に妥協せず、粘り強く浸透していくことが必要です。

      また、会社の旗印を明確にしておくと入社時のミスマッチも減り、評価基準も明確になります。文化的配慮が大事だと言いましたが、他の色が変わるほどに文化を書き換えてしまっては企業の強みが失われてしまいます。それゆえ、守るべき「自社の文化」をしっかりと意識しながらマネジメントをしていくことが大切であることも、最後に付け加えておきます。

      人事の学校 in タイ

      寄稿者プロフィール
      • 中村 勝裕 プロフィール写真
      • Asian Identity Co., Ltd. CEO & Founder 中村 勝裕

        バンコクを起点にアジアに特化した人事・コンサルティングファーム「Asian Identity」を経営。ネスレ、リンク & モチベーション、グロービスを経て現職に。タイを拠点としながらアジア各国でのコンサルティングや講演活動を行う。バンコクにおいてタイ人向けビジネス漫画『Su Su Pim! (がんばれピム!)』を執筆・販売。

      • Asian Identity ロゴマーク
      • Asian Identity Co., Ltd.

        アジアに特化した人事コンサルティングファーム。 「アジアの人々の良さを生かした強い組織づくり」を目指し、 タイを中心に顧客企業の支援に取り組んでいる。

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