【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む
タイの自動車産業の屋台骨として成長してきたピックアップ市場

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タイの1トンピックアップ市場は40万台。全体の4割に達する世界最大の市場である。ピックアップの総生産は年約100万台、うち輸出は60万台と総輸出台数の6割を占める。本稿ではタイの自動車産業の屋台骨とも言えるピックアップに注目したい。
コロナ禍でも底堅い需要
まず、タイのピックアップ比率の推移に目を向けたい(図表1)。
ピックアップは主に地方・農村で使われていることから、都市化やエコカーなど低価格の乗用車の普及により、自動車市場に占める比率は傾向的に低下するという見方もあった。
しかし、2018年以降ピックアップ市場は回復。特にコロナ禍の20年以降、乗用車需要が減少する中で、物流などにも使われるピックアップの需要が底堅いこともあり、ピックアップの比率は45%以上と近年にない高い水準で推移している。
さらに注目されるのは最近の売れ筋である。ここ数年、市場をけん引しているのは、後部座席のある4ドアのダブルキャブと言われるタイプ。販売台数は15年の10万台前後から18年以降は18万台前後まで拡大、価格は70~115万バーツと上級グレードではCセグメント以上の乗用車やSUVの価格帯にあり、ピックアップの高級化・乗用車化が進んでいる。
装備面でもトラクションコントロール、クルーズコントロールなど先進運転支援システム(ADAS)を搭載。前後のランプにLEDランプ、18インチのアルミホイールなどを採用しており、Cセグ以上のSUVに引けを取らない充実した仕様となっている。オフロード用のアクセサリーの装着や改造をしやすい構造となっており、近年のアクセサリーのデザインの進化も手伝って、若者を中心に趣味的に乗るユーザー層も増大している。
輸出の牽引役としてのピックアップ
タイで生産されたピックアップは、世界中で活躍している。海外でもピックアップの多様化・趣味化が進んでおり、欧州や豪州ではキャンピングカーなどをけん引する車として需要が高い。また、商用車として区分され税金が安いために、アクセサリーを付けて安いSUVとして、欧州の若者にも一定の人気がある。
ピックアップの輸出は、タイの部品メーカーの育成・発展にも大きく貢献してきた。元々ピックアップの現地調達率が高いこともあり、地場系部品メーカーがシャーシなどの基幹部品も含めて部品供給してきた。
また、補修部品やアクセサリーもタイから輸出されており、裾野も広い。例えば、タイに次いで市場の大きい豪州のアクセサリーメーカーは、タイの部品メーカーに生産を委託し、輸入している。
最近、いくつかのタイの地場系部品メーカーにインタビューする機会があったが、タイでの事業の柱はピックアップであると強調していたのが印象に残った。タイサミットオートパーツのように、ピックアップでの強みを活かして、南アフリカや北米などの海外で工場を増設する動きも出ている。
将来的なピックアップの課題
タイのピックアップの国内・輸出市場は前述のように安定して推移してきたが、将来的には環境・燃費規制の強化の影響は避けられない。欧州などでのEURO5、6などの排ガス基準の厳格化、世界的なカーボンニュートラルの流れの中でのは、ディーゼルエンジン主体のピックアップには逆風となる。
ピックアップは重量が大きく安易に電動化ができないため、急激な規制強化は市場全体の縮小にも繋がりかねない。これまで、新しい環境に対応しながら商品を進化させてきた日系のピックアップメーカーが、今後これらの変化をどう乗り切るのか。タイ政府はどこまでピックアップ優遇策を継続するのか。タイの自動車産業の屋台骨であることもあり、今後の対応を見守っていきたい 。
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野村総合研究所タイ
マネージング・ダイレクター田口 孝紀
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野村総合研究所タイ
シニアマネージャー 山本 肇
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TEL : 02-611-2951
URL : www.nri.co.jp
399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua, Wattana, Bangkok 10110
《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
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