日系企業のタイ進出後の頻出トラブルに関する調査

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目次
タイ進出の日本企業の78%が拠点管理のトラブルを経験。
内部不正も約半数が経験
トラブルは「隣」の企業で起きている。1年目からの管理部門の強化が、カギ。
日本企業の海外進出は年々増え続け、外務省による『海外進出日系企業拠点数調査』(2021年7月)によると2020年には約8万拠点が海外に進出して、そのうち約5,800拠点がタイ国へ進出している。
日本経済が頭打ちを続ける中で、販路拡大やコストダウンを求めて海外に進出する日本の企業は今後も増加すると考えられる。しかし、海外進出には当然ながら「トラブル」はつきものであり、多くの企業がその回避を願うのは常である。
しかしながら、文化や生活様式そして価値観の異なる海外において、トラブルそのものが予見不能であることが多く、またトラブルが起こった後では、非常にその解決に苦労するものである。
このようなトラブルは一般的に外部の専門家に解決を依頼し、内部的に処理されることが多く、どのようなトラブル事例があるのか具体的にはあまり知られていない。そこで『ArayZ』協力のもと、「日系企業のタイ進出後の頻出トラブルに関する調査」を行った。
日系企業のタイ進出後の頻出トラブルに関する調査
• 調査時期:2021年12月
• 対象:タイに拠点がある日系企業の方、日本からタイ拠点管理・マネジメントを行っている方
• 回答数:60名
• 回答者属性:回答の多くは各企業のタイ拠点責任者(70%程度)から回答を得た。次にタイ進出プロジェクト責任者、タイの経理責任者、本社海外拠点管理者も含まれている。
進出1年後からトラブルが顕在化
回答者のうち、トラブルを経験した企業は8割に近く(図表1)、トラブルの発生タイミングについては、進出1年後から認識が顕著になる(図表2)。
労務・会計・税務等のトラブルは、性質上一定期間を経て顕在化する。進出当初は事業あるいは工場などのセットアップに専念するため管理は後回し、もしくはタイ人の管理スタッフに任せっきりとなり、1年を超えた決算タイミング等で顕在化し、認識するに至ったと考えられる。これらは組織や体制作りを1年目から取り組む必要性の裏返しとも言えるのではないであろうか。
トラブルを身近なものと認識すべし
各分野のトラブル発生の割合については図表3の通りだが、非常に身近な「隣」の企業で、大小様々な問題が発生していることが伺えた。特に労務・会計・税務においては実に回答企業の7割が実際にトラブルに遭遇している。経営管理の重要性が改めて確認できた。
一方で、組織規模については調査対象外であったが、総じて中小規模の拠点では人的な制限や日本本社での経営管理手法を理解したメンバーが少ないこともあり、駐在員一人で営業から経営管理までを担うことが多く、管理業務は後回しにされがちである。
労務トラブルTop3
現地社員との労働条件・解雇でのトラブルが頻出
現地社員とのトラブルがもっとも多い回答となり、その内訳は労働条件、従業員解雇、労働組合に関する項目が挙げられた。特に、労働条件に関する点について多く寄せられた。
タイは一般的には労働者保護の考えが非常に強く、企業側に負担を求める法制度が諸々存在する。また労働組合と組織との衝突事例、就業規則に基づく解雇等の措置を不当解雇として訴訟を起こされる事例も寄せられた。
例えば、本社の就業規則をタイ語に翻訳したタイミングで意図した内容と異なったものが運用された結果、トラブルに至ることがある。具体的な文字での表現が少ない就業規則等の規程を翻訳した場合には特に注意を要する。
会計・税務トラブルTop3
経理スタッフの退職等、現地社員への依存が原因に
トラブルが多い順に、経理スタッフの退職、売掛金の未回収そしてVAT還付遅延、税務調査対応と続く。自由回答からは退職に伴って問題が露呈されたと考えられる回答を得た。
経理業務はタイの現地スタッフによる業務遂行が必要な領域でもあるため、スタッフの知識や経験に左右されることも多いと考えられる。特に現地へ赴任する責任者が経理の知識・経験が伴わない場合においては注意を要する。
タイのみの問題はないが、売掛金の回収遅れに関する声が複数あり、支払期日通りに入金することが稀であるという認識に立って、現地責任者や本社経理は確実に期日管理する運用が求められる。
法務・コンプライアンストラブルTop3
機密事項持ち出しや当局からの法令違反指摘、株主間トラブル等、問題は多岐に渡る
当該カテゴリについて回答は比較的少なく、「トラブルがあった」は23%程度となった。当カテゴリに包含する範囲は広く、機密事項の持ち出し、当局からの法令違反の指摘、そして社員の金銭使い込みに関する事柄が続いた。
また株主間トラブルの発生の報告も挙げられている。これはBOI認定企業でない場合、持株比率の50%以上をタイ国企業が持つことが求められている外資規制があるため、例えば、タイ側のパートナーにはサイレントマジョリティの位置付けを契約で明確にするなどを行わないとトラブルが発生することも考えられる。
内部不正トラブルTop3
半数近くが内部不正を経験。内部不正を身近に捉える経営管理を
質問の性質上回答が得られない可能性も考えられたが、実に47%の企業から内部不正トラブルの経験ありとの回答を得た。
非常に目立ったのは、現金、在庫を含む資産の横領。その他、贈収賄・キックバックとして仕入先へのリベートが6社から寄せられた。キックバックやリベートは発見が困難であるため、可能な限り事前の対策に取り組む必要がある。
「不正が存在しないはずだ」という”性善説”の日本的管理手法は、海外では通用しないという認識を持てる結果ではないであろうか。身近に問題があるかもしれないという前提で、経営管理の仕組みを作り上げることが本社や各国の管理責任者に求められる。
有識者による調査補足コメント
本調査に対し、有識者2名からコメントをもらった。
タイでは従業員との労働条件の見解の相違や解雇にかかるトラブルが多く、就業規則や雇用契約書等の不備、複数言語で作成している場合の解釈の違い、労働法に詳細な規定がないため労働局の見解に委ねられる場合が多いことなどが原因と考えられる。
また、労働組合については違法やそれに近いストライキ・サボタージュ行為などタイ特有のトラブルも散見される。法令順守や社内規程整備に加え、タイ特有の法令・慣例を十分に把握し労務管理にあたるのが肝要である。
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長澤 直毅
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2008年以来およそ1000社の日系企業の海外進出支援のサポートを通じて、実に多くのトラブルを目のあたりにしてきました。小切手のサインの偽造による金銭の横領、幽霊社員への架空給与支払等、東証一部の企業様においても起こっている事例です。
社会・法制度の成熟度が異なり、言葉・商慣習・物理的距離の壁により容易にブラックボックスになる状況で、トラブルが起こりやすくなるのは当然の結果です。引き続き日系企業様に管理の重要性をお伝えし、トラブルの事前防止の仕組づくりの支援を継続していくことが重要と考えています。
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樋崎 康彰
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本調査の結果を踏まえると、早い段階で経営管理の仕組みを構築しておくことが重要であり、人的リソースに限りがある場合には日本の管理部門も積極的に構築の支援を行うことが肝要であるように思う。
こういった経営課題を解決するために、multibookでは海外拠点の一括管理ができるクラウド型会計・ERPサービスを提供し、世界25ヵ国、250社以上で利用されている。
日本企業の海外進出は、コロナ後ますます増加することが考えられるが、こういったトラブルを事前に考慮してしっかりと対策を取り入れることが必要であろう。
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タイの企業進出に関するトラブルについて、
労務、会計・税務、法務・
- 渡部 学 / Manabu Watabe
- 株式会社マルチブック
代表取締役CEO半導体商社にて経理・コーポレートIT・シェアードサービス・総務の責任者を経て、香港の買収先のPMIに従事、その後のアジアパシフィック全域のコントローラーを担う。帰国後はCFOとしてグローバル企業のリーダー職に従事。2019年、株式会社マルチブックにCFOとして参画しM&Aによる資金調達をリード。2021年CEO就任。20年以上のファイナンス分野でのリーダーシップに加えて、業績のターンアラウンドから新規立ち上げまで幅広い経験を有する。
税務当局に認められ、タイ PP30(VAT申告書)レポート等の国別機能を備えるなどタイでの利用に最適化された日本発の最新クラウド会計・ERPサービス。タイ、フィリピン、ベトナム、アメリカなど25ヵ国、250社以上の利用実績。海外拠点管理のあらゆる課題を解決。月額6万円より利用可能。
お問い合わせ:info@multibook.co.jp
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