ArayZオリジナル特集

日系製造・販売業の今がわかる タイの産業界事情

【流通】 陸路輸送がキーワード インフラの向上でメコン経済を活性化

arayz nov 2014 tokushu
近鉄エクスプレス・タイランド 社長
鈴木 峰夫

製造業のタイ進出に合わせ、日系大手物流会社も各社がタイに法人を設けている。昨今ではメコン地域の中心であるタイからカンボジアやラオス、ミャンマー方面への陸路物流を発展させるため、現地に拠点を新設する動きが顕著だ。
1989年にタイ現地法人として進出した近鉄エクスプレス・タイランドでは、主に国際航空・海上貨物事業およびタイ近隣国間との国際陸運貨物(クロスボーダートラック)事業を展開。倉庫事業をグループ会社の近鉄ロジスティクス・タイランドが担う。近鉄エクスプレスはアセアン域内においては、タイをはじめベトナム、マレーシア、シンガポール、インドネシア、フィリピンに現地法人を、カンボジア、ラオス、ミャンマーに駐在員事務所を設置しており、来年1月にはバンコクからカンボジア方面への中間地点である、プラチンブリ県ロジャナ工業団地内に新倉庫を開設する。同社鈴木峰夫氏と山本 尚氏に物流業界事情について伺った。

タイの法運用は依然曖昧しかしそれにも勝る魅力がある

タイにおける物流業界の特徴について、鈴木氏は陸路輸送の重要性を強調する。
「国内の広範囲に渡り工業団地が点在していることから、国際航空・海上輸送だけでなく、トラックでの陸路輸送が重要になってきます。ただ、法整備が不十分で、例えば危険を伴う化学品の倉庫取り扱いなど、できる部分とできない部分の境目がはっきりせず、法運用が曖昧という点が特徴的です。新規で参入しづらい不便がありますが、同時に、勉強次第ではチャンスを生み出せるとも捉えられます。タイは過去事例がない事項への適応力が低く、これは法整備の整合よりも企業の進出が早かったのが理由なのかもしれません。しかしこれらを差し置いても、自動車製造拠点として裾野産業集積地であること、そしてアセアン地域の中心地という地政学的な意味で、タイには他国にない優位性があることも事実です」。

日系大手・欧米系とローカルは住み分けが明確

「タイ空港公社(AOT)が出している航空貨物輸送物量のデータを見ると、直近10年、タイからの月間輸出量は4〜5万トンで、うち半分が野菜、花、果物などの生鮮品です。この領域は歴史的に生産者・中間業者・輸送者がコンツェルンの形態になってしまっているため現地のローカルフォワーダーの管轄で、日系大手もなかなか参入できていません。限られた時間と航空便で輸送しなければならないうえ、航空会社の輸送スペースもすでに確約されており、ここに新規で交渉し参入していくのは難しい。リスクも高い品目であることから、日系や欧米系は工業製品に特化した戦略を取っています」。

企業の輸出=業界のトレンド 国際陸送事業に注力

タイは自動車関連部品や、コンピューター関連ではハードディスクドライブの一大生産拠点としての歴史が長く、近年では航空機関連部品、化学関連企業の進出も増加傾向にある。山本氏は、品目毎に異なるニーズに対応できるような物流施設の増設が急務であると話す。
「またカンボジア、ラオス、ミャンマーといったタイ周辺国の物流インフラはタイの空港・港湾・道路に比べるとまだまだ脆弱です。タイの空港・港に乗り入れている便数、船の数を考えると、タイが周辺国のゲートウェイとなることは必然です。周辺国とタイゲートウェイを結ぶ物流は確実に増えます。この理由からも、国際陸運貨物事業は注力すべきだと認識しています」。
しかし、発足が予定されているAEC(ASEAN経済共同体)への期待については、「EUのようにボーダーレスな陸運が直ぐに実現するかといえば、正直厳しいのではないかと思う」という。国により異なる車線、言語の問題、通関のプロセスや必要とされる書類などが障壁になっているのだ。
「規制緩和の方向には進んでいるものの、依然国家間の法整備や商習慣に温度差があるのは確かです。最適な方法を見極めながら物流ラインを構築する必要があり、予見しうる問題に対しては事前に対応策を練るなど、地場の優良パートナーと連携して事業を進めています。当社では、伝統的に戦略的重要地点に物流基地(ハブ)をいくつか設け、ハブ間を結ぶ幹線ルートとハブ周辺をカバーする集配網を構築するという〝ハブ&スポーク〞の形態を採用しています。タイは近隣の新興国の〝国際物流基地〞となり、同時に航空、海上の国際ゲートウェイとして、これから益々重要な拠点となると考えています。当社としては、タイ国内の重要地点に効果的に物流基地を設置すること、並びに陸路、空路、海上を問わず、タイと周辺国を結ぶ物流サービス網を整備することが急務であるとし、必要な経営資源を投入しています」。

arayz nov 2014 tokushu近鉄エクスプレス
東南アジア本部 副本部長
山本 尚

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