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LiB Consulting (Thailand)

なぜ、日系企業では経営改革が進みにくいのか?

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      昨今の新型コロナウイルスの影響により、日系企業の多くが事業構造改革の必要性に迫られている。売上回復が困難な企業では「早期コストダウン」と「中期リカバリープランの実行」に注力し、売上への影響が軽微であっても中長期的な需要変化が見込まれる企業は「ビジョンや戦略の再構築」などの事業構造改革を進めている。そうした改革における日系企業特有の失敗要因や成功要因について、日本とタイの両国で勤務した経験があるタイ人経営コンサルタントの2人に語ってもらった。(全3回)

      第1回 なぜ、日系企業では経営改革が進みにくいのか?

      経営者アンケートが示す日系企業の経営課題

      昨今、多くの日本企業が環境変化に適応すべく、様々な改革を進めている。リブコンサルティングが昨年行った日系経営者アンケートでは、①営業・マーケティング、②ビジネスモデル変革、③業績管理(コスト削減)が改革テーマのトップ3であった(図1参照)。特に、昨今の顧客動態の変化を考慮すると、ビジネスモデル変革が上位にランクインすることは必然と言えるだろう。新型コロナウイルスがもたらしたニューノーマルに対応するために、企業の存在価値・ビジョン・組織の在り方を再定義し、迅速な変革が求められている。

      日系企業で改革が進みにくい理由

      しかし、多くの企業で理想通りに変革を実現できずにいるのが実態だ。

      戦略方針がまとまらずに頓挫してしまっているケース、戦略が決まっても実行段階で急停止し"絵に描いた餅〟になってしまうケースなどがその典型だ。これは経営そのものに問題があるというよりは、日系企業という企業体の特徴上、変革が進みにくくなる構造上の要因があると考えている。そこで、こうした要因について、3つのポイントを解説していきたい。

      ❶ 現状認識のズレ

      駐在で赴任する経営者の場合、赴任してから自社が置かれている状況をキャッチアップするために時間を要するだけでなく、認識ギャップも生じやすい。特に、市場ニーズや自社製品への評価など駐在員が直接触れにくい領域においては、常にマーケットと向き合っている現地社員と認識合わせをするために何度も議論を重ねる必要があるだろう。過去の意思決定の経緯についても、当時立ち会っていた社員と最近合流した経営陣とでは視点や解釈が異なり、議論が噛み合わないこともある。また、新規駐在員は、以前から赴任している駐在員から情報収集することが多く、現地社員とのコミュニケーション頻度が高まらず、リアルな情報を得られていないケースも見られる。その結果、課題設定や施策立案を行う際に認識のズレが発生し、施策の質や双方の納得感に悪影響を与えている。

       

      ❷ 危機感度のズレ

      失われた20年という言葉があるように、日本経済は長らく低成長から抜け出せていない。図2のように名目GDP成長率の推移を10年おきに辿ると2000年代以降の日本は1%未満で推移している。一方、タイの経済成長率は徐々に低下しているとはいえ、2010年代は3・6%程度となっている。両国ともに右肩下がりではあるが、両国の差は常に2~3ポイントのギャップがある。

      ここから何が言えるだろうか。それは、この差が「日本人とタイ人の間に危機感のズレ」を生み出しているということだ。現在の経営の主力を担う日本人は低成長時代にマネジメントしてきた経験から、業務効率化、コスト削減、リスク回避などに慣れており、そうした細かな改善を現場社員にも求めていく。しかし、多くのタイ人は直近20年間で成長率5%前後の時代を経験してきた世代だ。そのため、経済は成長し、物価は上がり、給与水準も当たり前のように上がるという感覚を保有している。

      こうした体験からくる感覚は一朝一夕で変えることはできず、将来に対する危機感の持ち方にも影響する。新型コロナウイルスによって危機感を持ちやすくなったとはいえ、未だにこうした違いが「経営幹部陣が一枚岩になれない原因」となっていることもある。

      ❸ 改革サイクルのズレ

      駐在員制度の宿命ではあるが、3年~5年程度で経営陣が刷新される構造が「改革のブレーキ要因」となりやすい。タイ国内で数十年単位で経営している企業であれば、過去に駐在経営者が何度も変わってきたことだろう。この制度は、右肩上がりで成長していた企業であれば大きなデメリットはなく、むしろ新経営陣の新たな視点がメリットとなっていただろう。しかし、変革が必要な低成長期においては、定期的な経営陣変更はデメリットとなりやすい。企業改革には、課題設定・施策立案・継続的な実行まで一貫したリーダーシップが必要であり、通常は1年~2年、最低でも半年は辛抱強く進める必要があるからだ。

      一定期間で経営陣が変わると、現地従業員の"改革方針への信頼感〟や"実行へのコミットメント〟が高まりにくい。仮に質の高い戦略方針が示されていても、数ヵ月後に経営陣が変わるのであれば、積極的に実行する社員はほとんど現れないだろう。実際に、過去に経営陣が変わるたびに何度も方針が変わった経験がある現地社員は、トップから方針が出されても実行せず、次のタームまでやり過ごそうとするケースもある。こうして、改革を進める心理的インセンティブが機能せず、"変わりきれない〟企業もあるのが実態だ。

      以上が、主な原因である。言うまでもないが、こうした要因は個別企業の状況によって大きく異なり単純にまとめられるものではない。当記事掲載用に理解しやすい視点で整理していることを述べておきたい。そのため、紙面の都合上網羅できていないポイントもあることは了承願いたい。また、改革という視点での意見交換は弊社コンサルタントのライフワークであるため、必要に応じて各経営者とも討議させて頂けると幸いだ。

      次回は、上記のような要因を踏まえたうえで、「改革が進みやすい企業の特徴」について論じていきたい。

      寄稿者プロフィール
      • LiB Consulting (Thailand) プリンシパル プロフィール写真
      • LiB Consulting (Thailand) プリンシパル
        ベン(Sra Chongbanyatcharoen)

        文部科学省の奨学金を受け日本に留学、一橋大学経済学部卒業。リブコンサルティング入社後は東京で勤務した後、タイオフィスで勤務。日系企業の構造改革支援に加え、財閥系企業や上場企業などタイのエクセレントカンパニーの経営支援も担当している。タイオフィスを代表するトップコンサルタント。

      • LiB Consulting (Thailand) プリンシパル プロフィール写真
      • LiB Consulting (Thailand) プロジェクトマネージャー
        ペス(Darin Lanjakornsiripan)Ph.D.

        文部科学省の奨学金を受け日本に留学、東京大学理学部、東京大学大学院博士課程卒業。数学オリンピック金メダル取得。 主に、通信業界、農業・食品業界、住宅業界、自動車製造業などで、戦略立案から実行支援までを一貫して支援している。タイオフィスの戦略チームをリード。


      • 代表 : Managing Director 香月 義嗣(Katsuki Yoshitsugu)
        住所 : 29Fl, Exchange Tower, Klongtoey District Bangkok

      成果主義・現場主義を重視した日本発の経営コンサルティングファーム。
      「“100年後の世界を良くする会社”を増やす」を理念に掲げ、
      企業や政府機関へのコンサルティングを通じてタイ国を良くするため、
      戦略から実行まで「成果コミット型」で支援している。

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