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タイ鉄道-新線建設がもたらす国家繁栄と普遍社会

タイ鉄道
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      1897年3月26日はタイの「鉄道記念日」。この日、タイ初の官営列車がバンコクから中部アユタヤに向けて運行を開始した。蘭印(現インドネシア)ジャワ島の視察を終えたラーマ5世の指示だった。国家繁栄のためには遍(あまね)く国土の隅々まで及ぶ鉄道建設が欠かせない。そう考えた政府は以来4,000キロに及ぶ鉄道網を完成させる。
      それから120年余。タイは再び鉄道の時代に突入している。相次ぐ新線の建設。鉄道は文明社会のバロメーターである。目指す先にあるのは国土の未来ある発展、そして鉄道がもたらす王国としての普遍社会の形成だ。奇しくも19世紀初頭に鉄道の発祥地イギリスがそうであったかのように。
      鉄道時刻表は大規模で全国的な、複雑で正確に結合する日常生活という観念をもたらした。それは他のいかなるもの以上に技術進歩の可能性を示した。なぜならば、それはその他の大半の技術活動の諸形態よりも進歩していたと同時に普遍性を持っていたからである。
      (ホブズボーム「産業と帝国」1984年/浜林正夫他訳/未来社)

      イエローライン・ ピンクライン

      首都圏初の郊外型環状路線

      タイ初となるモノレール形式の首都圏鉄道「イエローライン」と「ピンクライン」。その運賃無料の試験運行が2022年末に始まった。23年6月にも本格運行を開始する。これに合わせて首都圏一円で路線バスを運営するバンコク大量輸送公団(BMTA)は、利用客の利便性に応えようと、2つの鉄道路線の各新駅を経由する新たなバス路線を整備する。一方、新路線が共に郊外を走行することから、住宅建設や商業開発など新たな沿線開発も見込まれている。

      ピンクラインではバンコク北郊のインパクトアリーナに乗り入れる支線の建設も進んでおり、イベント需要に伴う人流の変化にも期待が持たれている。バンコク都心部を取り囲むように運行される初めての郊外型環状路線。ヒトやモノの配置と動きを大きく変えそうだ。

      都心延伸路線との乗り換えが特徴

      イエローラインのうち運行を開始するのは、バンコク北部ラップラオ駅から東郊サムットプラカーン県サムロン駅までを南進する30.4キロ23駅。ラップラオ駅で地下鉄MRTと、サムロン駅でBTSスクンビット線とともに乗り換えが可能。フアマーク駅ではエアポート・レール・リンクとも接続する。将来的には、バンコク中心部を東西に横断するオレンジラインや、トンロー駅を通過し同様に首都圏を南北に縦断するグレーラインの両新線とも乗り換えができるようになる。ラップラオ駅から先BTSスクンビット線パホンヨーティン駅まで延伸もする。

      一方、ピンクラインで運行を始めるのは、ノンタブリー県のケーラーイ駅からほぼ真東に向かって東部ミンブリー駅に至る34.5キロの30駅。途中のラックシー駅でレッドラインと、さらにBTSスクンビット線やグレーライン、オレンジラインとも接続する。注目されるのは、途中のムアントンターニー駅で北部に支線(3キロ2駅)を設け、モーターショーや食の見本市「THAIFEX」などのイベント会場として知られるインパクトアリーナに接続されることだ。ノンタブリー県にあって、長らく陸の孤島だった同施設周辺へのアクセスが格段に向上する。両線とも都心部から延伸する路線との乗り換えが特徴だ。

      バンコクイエローライン路線図

      バンコクピンクライン路線図

      運営はともにBTSグループ

      イエローラインの開発主体はイースタン・バンコク・モノレール(EBM)、ピンクラインはノーザン・バンコク・モノレール(NBM)とそれぞれ異なる会社だが、高架鉄道を運営するBTSグループHDとゼネコン大手シノタイ・エンジニアリング&コンストラクションなどが組成するコンソーシアム(共同事業体)のいずれも傘下企業。資材の調達などを共同で行い、コストを削減してきた。運行車両も、世界最大の鉄道車両メーカー中国中車とカナダ・ボンバルディアで作る合弁会社から調達している。

      開業に合わせてバンコクで路線バスを運営するBMTAは、大幅な路線増設を進める。バンコク都庁が指示した。それによれば現在、イエローラインの各駅と接続するバス路線は計59系統あるが、これを81系統にまで拡大する。ピンクラインについても50系統あるのを82系統に増やす。新設される鉄道路線の利用率を引き上げ、営業収入を確保するという狙いもある。

      都心を走行しない新形態路線

      この2路線がこれまでの都市鉄道と決定的に違うのは、いずれもバンコク首都圏の郊外を走行し、都心部を走行しないという点だ。イエローラインは北部ラップラオ駅から東進後、東部のシーナカリン通りにほぼ沿う形で南進し、郊外の南北を繋ぐことを目的とする。一方、ピンクラインはバンコク北部一帯を、弧を描くように路線が敷かれている。都心部から放射状に開発が進められてきた従来路線とは異なり、これまでになかった新しい形態の路線となっている。

      このため、住宅開発や商業施設開発も従来とは異なった展開が見込まれている。両新線の開業時期が具体的に見通せるようになった2021年以降、イエローライン沿線のラップラオ通りやシーナカリン通り、ピンクライン沿線のラムイントラ通りやバンナー通りなどでは新規コンドミニアムの供給計画が盛んに発表されている。コロナ禍などの影響もあってバンコク全体で供給減が続く中では、異色の様相となっている。

      郊外の地価が上昇

      これに伴い、沿線の地価も上昇している。タイ政府住宅銀行のシンクタンク不動産情報センターによると、新設される首都圏鉄道の沿線では地価の高騰が続いており、このところの上昇幅は四半期ごとに前年同期比がいずれも10%を超えている。

      特に上昇率が高いのが、いずれも都心部を走行するBTSスクンビット線や都心部から郊外に延びるオレンジラインの東部区間(タイ文化センター駅~ミンブリー駅)、それにMRTパープルライン(タオプーン駅~ノンタブリー県バンヤイ駅)などの路線沿線だ。過去10年間の年平均上昇率はいずれも30%を超える。

      こうした中にあって目を見張るのが、これまでは比較的安価だったイエローラインなど郊外路線地域での伸びだ。ラップラオ駅~サムロン駅間の沿線区間の伸び率は過去10年間で平均約27%を記録した。都心部に劣らず郊外でも、急激な勢いで地価の高騰が進んでいることが分かる。

      レッドライン

      首都圏北郊開発の要となる

      開発の進む首都圏高架鉄道網の中で、このところバンコク北郊を走るレッドラインの存在感が増している。すでに2区間計41.6キロが開通。さらに延伸3区間総計約30キロの建設計画が固まっているほか、乗客者数も開業当初に比べて最大で3倍にも増加しているのだ。周辺沿線では住宅や商業施設などの開発が進み、国立病院へ接続する支線の建設も計画される。北部では現計画をさらに延長してアユタヤ県の工業団地にまで直通させるという構想もある。ドンムアン空港にも接続し、首都圏北郊域の基幹線として利用価値が高まっている。

      PPP方式、事業効率も引き上げ

      レッドラインの現在開通している区間は2つ。始発基幹駅のクルンテープ・アピワット中央駅(バンスー中央駅から改称)からパトゥムターニー県ランシット駅に北進するダークレッドライン計10駅26.3キロと、同中央駅から折り返して西に延びるバンコク西部タリンチャン駅までのライトレッドライン計6駅15.3キロの2区間だ。いずれも、2021年11月末に正式運行を開始した。

      これまでタイ国鉄(SRT)自らが開発主体として計画を進めてきたが、資材の値上げなどに伴う建設費の高騰や開発速度の加速させるといった課題を解決するため、22年からは官民連携(PPP)方式に事業形態を変更している。当初総事業費は1,880億バーツ(約6,500億円)。開業済みの2区間で1,080億バーツを要した。鉄道の運営そのものは子会社のSRTエレクトリック・トレインに委託するなどして、さらなる事業効率を引き上げていく方針だ。

      総合病院にも乗り入れ

      延伸が決まっているのは、
      ①ランシット駅からさらに北に伸びタマサート大学ランシット校駅までの計4駅8.8キロ、
      ②タリンチャン駅から西郊ナコーンパトゥム県サラヤー駅を結ぶ計6駅14.8キロ、
      ③タリンチャン駅から支線としてチャオプラヤー川沿いに南東に向かいマヒドン大学医学部シリラート病院駅に至る計3駅5.7キロ
      の3区間。開業予定は前2区間が2026年、支線が27年となっている。

      レッドライン開発には、このほかにも構想路線として2つの延伸区間がある。ダークレッドラインをそのまま南下させ、フアランポーン駅に繋がる計5駅7.5キロの区間と、中央駅からライトレッドラインを東進させ、エアポート・レールリンクのフアマーク駅をつなぐ計4駅18.4キロの2区間だ。このうち前者区間の途中で、シリラート支線同様にマヒドン大学医学部ラマティーボディー病院に接続する構想がある。シリラート病院と合わせた二つの病院とも富裕層をターゲットとした歴史ある総合病院。海外からの医療ツーリズムに力を入れるタイ政府の思惑も透けて見える。

      洪水で利用客が急増

      タイ国鉄によると、運行開始当初は新型コロナウイルスの感染拡大もあって、利用者数は2区間合わせて1日あたり8,000~9,000人と低迷した。それがコロナ対策の規制緩和とともに徐々に上昇に転じ、2022年6月の時点では1日平均1万3,000人にまで拡大した。それに留まらず、同年8月以降は、予想を超えてさらに利用者が増える展開となった。その大きな要因に11年ぶりとなるバンコクの洪水がある。

      22年雨期は当初から雨量が多く、11年後期以来の大洪水が懸念されていた。北部の主要な貯水ダムはたびたび警戒水域を超えるなど非常事態への警戒が高まっていた。実際に小規模な冠水はパトゥムターニー県ランシット付近から、ドンムアン空港やバンコク北郊のウィパワディー・ランシット通り周辺で何度か確認されていた。その度に沿線住民が活用したのがレッドライン。

      8月26日の小規模洪水の際は、約1万9,000人の通勤通学者が鉄道を利用した。10月3日の洪水時は、過去最高となる2万5,000人超の乗客がレッドラインに詰めかけ、職場や学校に向かった。古くからの水の都バンコクでは、冠水して道路が通行できないほどの大雨や洪水時は、臨時休業・臨時休校が当然の行動様式だった。それが鉄道の開通によって事態は大きく変化した。かつてない出来事であった。

      沿線で開発が目白押し

      こうした鉄道利用の高まりは、住宅などの都市開発をも後押ししている。住宅総合開発のNCハウジングは、パトゥムターニー県クロンルアン郡などで低層住宅開発を進めている。開発名称は「Baanfah Greenery Neola Rangsit Khong 2」。40ライ(6.4ha)の土地に一戸建て住宅とツインハウスを建設。最低価格389万バーツから分譲を開始する計画だ。

      近くにはダークレッドラインの終着駅ランシット駅があり、鉄道が延伸されれば利便性はひと際増す。開発予定地周辺では他にも住宅や商業施設計画が目白押しで、デベロッパー各社も虎視眈々と機会を狙っている。レッドラインを含む都市鉄道沿線では地価も上昇しており、22年第2四半期はライトレッドラインの延伸予定区間(タリンチャン~ナコーンパトゥム・サラヤー)が前年同期比8.5%で全国1位となった。

      北郊の工業団地延伸に期待

      延伸構想があるレッドラインの北側エリアは、パトゥムターニー県とアユタヤ県との県境が目と鼻の先だ。そのさらに北にはいくつもの工業団地が林立する。主要なものだけでも、ナワナコン工業団地、バーンパイン工業団地、ハイテック工業団地、ロジャナ工業団地など日系企業にもおなじみの顔ぶれだ。こうした工業団地でも今、レッドラインの延伸を心待ちにする声が広がっている。

      11年秋の大洪水時は、国道1号線や32号線といった沿線の幹線道路が軒並み冠水し、少しずつ水没し続ける工場に近づくことさえできなかった。バンコク北端から船をチャーターして物資の運搬を試みたこともあったというが、距離がありすぎて現実的ではなかった。この時に将来の課題として検討されたのが自動車道と並ぶ交通・輸送手段の確保だった。10年の時を超えて見つかった回答が高架鉄道を利用するというものだった。

      かつてあった鉄道計画

      この地域にはもともと高架鉄道の建設計画が存在した。1990年代に着手された香港企業によるホープウェル計画だ。地上を含め3層となる橋桁を造り、鉄道と高速道路を並走させるという構想だった。第1期計画では、フアランポーン駅に近いヨムマラート駅から北にランシット駅まで、東西はフアマーク駅からヨムラマート駅を経由してタリンチャン駅などを結ぶ計画だった。これに期待を寄せたのがアユタヤ近郊の工業団地だった。

      だが、同計画はずさんな資金繰りや場当たり的な対応が露呈し、その後遅延を続ける。最終的には97年のアジア通貨危機で完全に行き詰まり、白紙破綻となった。以来20数余年。計画区間の沿線では錆びた支柱だけが虚しく放置されていたが、そのいくつかは今次のレッドライン建設に活用されている。この地域ではホープウェル計画が頓挫した後も、高架鉄道の必要性だけは優先事項として共通の認識とされていたのだった。

      1971年に創業し、タイで最も古いナワナコン工業団地のニピット・アルンウォン・ナ・アユタヤーCEOもそう思っていた1人だ。コロナ禍前に実施したインタビューでは、「ダークレッドラインの延伸を心待ちにしている」と話していた。渋滞とは無縁の鉄道が完成すれば、同工業団地はバンコクなどから容易な日帰り通勤圏内となり、他の工業団地との差別化も一層進むと読む。今後の生き残りを果たすためには高付加価値の産業育成や団地内のスマート化は急務で、そのためには人の移動や流入が不可欠との判断から便利な鉄道が最も効果的と考えた。

      ドンムアン空港にも接続

      レッドラインは、タイの主要な空港であるドンムアン空港とも接続されている。駅舎は近代的に改装された空港第2ターミナルに直結し、天候にも左右されず乗り換えも非常に便利となった。ここからタイ国内各地に航空路線が網羅されているほか、隣接する第1ターミナルに向かえば国際路線網も広がっている。これらを使って出張に出掛けたり、国内外の旅行を楽しんだりという需要にも期待が注がれている。

      アユタヤ県にある部品メーカーは近頃、バンコクや東部にある取引先工場への出張の一部をレッドラインなどの公共交通機関に切り替えた。自動車で移動すれば自由に時間を選ぶことができ便利だったが、渋滞によるロスと事故の危険を考えた。納品など製品を伴うものは自動車輸送のままだが、ミーティングや製品説明の場などは人の移動が確保できれば十分と判断した。

      タイの都市鉄道の建設は、まだまだ緒に就いた段階に過ぎず、完成しているのは構想も含めて全体計画のわずか10%にも満たない。だが、その効果と効用の認識は産業界のみならず国民生活にも着実に広がっている。その実情の一端をレッドラインの建設現場に見ることができる。

      3空港高速鉄道

      首都圏の空の玄関口を結ぶ

      バンコク首都圏と東部ラヨーン県にある3つの国際空港を結ぶ「3空港高速鉄道」建設計画は、タイ政府が肝煎りで進めてきた東部の経済特区「東部経済回廊(EEC)」の開発と密接に関係する。担当窓口となるEEC事務局は、今後の外国企業の誘致にはインフラとなる高速鉄道交通網の整備は欠かせないと訴え、タイ国鉄と共同で計画および入札手続きを進めてきた。こうした中で落札をしたのがタイ最大の企業財閥チャロン・ポカパン(CP)グループが主導するコンソーシアム(共同事業体)だった。新型コロナウイルスのまん延や用地問題などで足踏みはあったものの、2023年中にも本格着工する見通しで、2029年の開業を見込む。

      エアポート・レール・リンクを延伸

      他にコンソーシアムを構成するのは、地下鉄MRTを運営するバンコク・エクスプレスウェイ&メトロ(BEM)と、いずれも地場大手のチョーカンチャン、イタリアンタイ・デベロップメントのゼネコン2社、そして中国国営の鉄道建設企業・中国鉄建の計4社だ。当初はイースタン・ハイスピード・レール・リンキング・スリー・エアスポーツと名乗ったが、後にアジア・エラ・ワン(AERA1)に名称変更した。事業時には特別目的事業体(SPV)を組成する。当初資本金は40億バーツ。

      入札は2018年11月に行われ、高架鉄道運営のBTSグループHDが主導するコンソーシアムが最後まで争ったが、CPグループ側が最安値を提示した。契約期間は50年の官民連携(PPP)方式で、総事業費は2,245億バーツ。スワンナプーム空港とバンコク都心部を結ぶ既存線のエアポート・レール・リンクを南北に延伸させ、北はドンムアン空港、南はラヨーン県ウタパオ空港に至る全長220キロの1,435ミリ標準軌鉄道を整備する。最高時速250キロ走行の特急列車は、この区間を最短60分で結ぶことになる。

      全15駅のうち新設されるのは、ドンムアンからパヤタイまでの区間と、スワンナプームから先チャチュンサオ、チョンブリー、シラチャー、パタヤ、ウタパオまでの各駅区間。パヤタイからスワンナプームまでの既設8駅(両端駅を含む)区間は、エアポート・レール・リンク(28.6キロ)を現状のまま転用する。また、ドンムアンとクルンテープ・アピワット中央(バンスー中央から改称)の両駅区間は、タイ中高速鉄道と重複するため共同乗り入れとする。開業時に全線をAERA1 City Lineに改称する計画もある。

      周辺商業開発とセットで開発

      ところが、同事業をめぐっては当初から採算性に疑問符が投げかけられていた。「空港間を移動する鉄道の旅客需要だけでは投資回収は難しいのではないか」というのがその最大の理由だった。そこで国鉄・EEC事務局では、区間内に設置する駅周辺の開発権も含まれるよう発注内容を切り替えた。こうして鉄道の建設・運営と駅前用地の商業開発がセットで入札にかけられることになった。このことが皮肉にも、同建設計画の進捗を遅延させる要因となった。

      駅周辺の商業開発は、クルンテープ・アピワット中央、マッカサン、チャチュンサオ、チョンブリー、シラチャー、パタヤの6駅で行われることになっている。このうち、マッカサンと東部シラチャーの両駅前を先行させる計画だ。

      マッカサン駅周辺には国鉄などが所有する約150ライ(24ヘクタール)の土地がある。ここにホテルや商業施設、コンベンションセンター、国鉄の研究開発センターなどが入居する総床面積200万平方メートルの総合複合施設を建設する予定だ。また、付近には1万戸以上の低所得者向け住宅や博物館なども整備し、一帯のスマート化や全体の6割については緑化も進める。当初の見積もり総事業費は1,400億バーツに上る。

      東部シラチャーの駅予定地前にも25ライの土地があり、ここで商業開発が始まる見通しだ。付近には日系企業が入居する工業団地や日本をテーマにした開業済みの商業施設がある。こうした施設とも連携しながら、テーマパークの色彩を強くした開発が進められる公算が高い。

      23年中にも入札実施

      3空港高速鉄道事業を落札したCPグループ主導のコンソーシアムAERA1と国鉄・EEC事務局との協議は、コロナ禍における各種行動規制もあって難航した。契約見直し交渉は21年10月の開始以降、2回も延長され、22年7月になって翌年中の着工がようやく見通せる段階となった。

      この間、議論の対象となったのは、CP側が譲り受けるエアポート・レール・リンクの事業権料支払いの問題や、ドンムアン~クルンテープ・アピワット中央両駅間の重複工事費用を誰が負担するかといった問題、発注側が交付する着工指示書の交付時期の問題などだった。マッカサン駅前の開発予定地には大規模な排水溝の跡地などがあり、この除去費用などをめぐっても交渉が行われた。

      航空需要拡大でウタパオ区間の先行着工も

      一方で、コロナ禍からの回復に伴い、拡大する航空需要からの要請も強まってきた。スワンナプーム空港では第1サテライトターミナルの供用開始が間もなく始まり、駐機場は28ヵ所も増える。第3滑走路の工事も進んでいる。ドンムアン空港でも第3旅客ターミナルの建設が行われ、完成すれば年間の処理能力は1,800万人増加して4,800万人となる。駐機場も12ヵ所増える。ウタパオ空港も第2旅客ターミナルを完成させ、処理能力を1,500万人から2,000万人に引き上げる。

      こうした待ったなしの状況に、事業計画はようやく重い腰を上げ動き出そうとしている。鉄道本体ではスワンナプーム空港とウタパオ空港間を優先させ、着工を急がせようという動きも広がっている。マッカサン駅前の商業開発では、一帯をA~Eの5ゾーンに分け一部を先行させる計画だ。まずは、総額420億円を投じて総床面積80平方メートルの複合施設の建設を急ぐ。

      3空港高速鉄道

      タイ中高速鉄道

      ラオス・ビエンチャン経て中国・雲南省まで

      タイ中高速鉄道は、クルンテープ・アピワット中央駅(バンスー中央駅から改称)を始発駅に、東北部イサーン地方の玄関口ナコーンラーチャシーマー駅を経由し、メコン川を挟んでラオスとの対岸国境にあるノーンカーイ駅までを結ぶ全長約609キロの高速鉄道。1,435ミリの標準軌が採用され、最高時速は250キロ。両端駅も含めてこの間に計11駅を置く計画で、在来線の寝台列車で10時間超を要していたものを3時間15分で結ぶ。さらに、メコン川を渡河してラオス・中国間を走る中老鉄路とも接続させ、雲南省昆明に至るという壮大な構想もある。賛否両論はあっても、インドシナ半島を縦貫する初の超特急であることに違いはない。

      第1期開業は2026年3月を予定

      工事は2つの工期に分けて行われている。第1期がクルンテープ・アピワット中央駅からナコーンラーチャシーマー駅までの約356キロで、途中駅としてドンムアン、アユタヤ、サラブリー、パークチョン(ナコーンラーチャシーマー県)の4駅が置かれる。2017年に着工したものの、技術やシステムの供与のあり方などをめぐって中国政府との交渉が長引いたほか、新型コロナウイルス感染症の流行や用地買収の難航もあって工事は遅れ、22年末の進捗率は15%程度にとどまっている。当初計画では37%を想定していた。それでも26年3月までの完成を目指す。

      第2期はナコーンラーチャシーマー駅からノンカーイ駅までの約253キロ。途中駅としてブアヤイ(ナコーンラーチャシーマー県)、バンパイ(コンケーン県)、コンケーン、ウドンタニの4駅が計画されている。第1工期の終了後から3~4年で完成させるとしている。全線の開業は早くても29年としており、タイ中両国政府が鉄道建設に合意した15年当時の予定から9年余りずれ込むことは確実だ。

      建設費約4,800億バーツはタイ負担

      高速鉄道建設は、2014年5月のプラユット・ジャンオーチャー陸軍司令官(現首相)らによる軍事クーデターの後、欧米諸国との関係が冷え込んだことをきっかけに貿易や経済の拡大を目的に計画が始まった。中国としても、習近平政権が13年から掲げる広域経済圏構想「一帯一路」とリンクできるなど、双方の思惑が一致するという背景があった。ところが、技術やシステムの供与に止まらず、建設資金や資材、労働者の派遣までも中国が主張したため一時停滞。最終的に約4,800億バーツ(約1兆7,000億円)の建設費はタイの全額負担とすることで着工となった。

      現在、具体的に工事が進んでいるのは、クルンテープ・アピワット中央駅の発着ホームと、ナコーンラーチャシーマー県に新設されるパークチョン駅周辺(クランドン~パンアソーク間)の3.5キロの土木工事のほかは目立ったものはほとんどない。それでも22年8月には関連する土地収用法が発効し、第1期工事の用地確保にも弾みがついたほか、第2期工区の環境影響評価の申請が間もなくの段階となっている。

      立ちはだかる世界遺産影響評価

      こうした最中、アユタヤ駅周辺の開発をめぐって物議を醸す事態が生じている。世界遺産「アユタヤ」に関して、管轄する国連の教育科学文化機関(ユネスコ)から「待った」がかかったのだ。タイ政府は当初、アユタヤ駅舎について仏教寺院を模した高さ45メートル3階建ての荘厳な造りとするプランを進めていた。駅舎を含む南北13.3キロの区間(バーンポー~プラケーオ間)についても高さ19メートルの高架とする計画だった。

      チャオプラヤーの本支流に囲まれた島状のアユタヤには古代遺跡が数多くあり、付近一帯の1,810ライ(約290ヘクタール)は1991年にユネスコによって「プラナコーンシー・アユタヤ歴史都市」として世界遺産に登録されている。景観を変える巨大建造物の建設や大規模開発には遺産影響評価が必要とされており、それがなければ工事は進まない。文化省芸術局も付近3,000ライを考古学研究の対象に登録しており、同様に開発には大きな壁が立ちはだかる。

      地下化、迂回案など代替案を模索

      そこで政府が取った新たな対策が5つの代替案の作成だった。まずは高架橋の高さについては全体として17メートル以下に引き下げ、新駅舎を地下化するというプランが第一に検討された。それによれば、駅舎の周囲5キロ全域が地下構造物となり、追加予算として153億バーツ、さらに5年の工期が必要とされた。続いて検討されたのが30キロにわたり世界遺産を迂回するという案だった。だが、これにも3,750ライの新たな土地収用が必要となり、264億バーツの追加費用が発生することが判明。工期も7年とされた。

      駅舎を移設し、北に3.5キロのバーンマー駅周辺にするという案も考案されたが、同様に工期は5年とされた。このほか、現行計画のまま後に都市計画を決定して解決するという先送りプランや、高架橋だけを作って駅舎の建設場所は後で決定するという案も相次いで挙げられたが、いずれも決め手を欠いている。検討の陣頭指揮には現内閣のプラウィット・ウォンスワン副首相が当たっている。

      一方、ユネスコは「遺産影響評価はタイの法律下にはない」とタイ政府の対応にくぎを刺す。特別法を制定して、遺産影響評価を回避しようというタイ国内の一部強行意見を警戒した対応だ。ただ、ユネスコはこうも指摘する。「最終的に判断するのはタイだ。世界遺産は国に観光客と観光収入をもたらす源泉なのだから」。投げられたボールにどう応えるのか。政府の対応が注目される。

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