激動するインド小売市場

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1.インド小売市場の歩み
インド小売市場は2023年現在では日本に次ぐ第4位に位置づけられる。だが、25年には日本を抜いて世界第3位になると見られている(図表1)。
この巨大市場はグローバルメガリテーラーが過去来、参入と拡大を狙っており、その代表格が共に米国出自であるウォルマートとアマゾンだ。既にインド小売市場で強いプレゼンスを確立した二社であるが、その歩みは決して順調ではなかった。その背景には『キラナ』と呼ばれるインドの伝統的小売がある。
アジア新興国では、一般的に伝統的小売がグローサリー小売市場に占める割合が高い。その中でもインドは伝統的小売比率が非常に高く、その値は80%近くに至る(図表2)。
キラナは物理的密度の高さも相まって、インド消費者にとって精神的にも身近に存在する、無くてはならない小売店なのだ。インド政府もキラナ保護政策を打ち出しており、インド小売市場における外資規制は強い。
ウォルマートは、11年と比較的早い段階でインド参入を果たしているものの、本丸である小売業態の展開は認められず、当初は卸売業態によるものであった。
潮目が変わり始めたのは10年代中頃だった。世界的にもEC化が進んだが、インド小売市場もEC化の波が押し寄せた。インドが推進するデジタル政策とECが合致していたことも追い風であった。また数日以上のデリバリー日数を要するECは「今すぐ欲しい」というニーズに応えるキラナとは競合しないため、規制は緩かったと言われている。実際、13年にインドに進出したアマゾンは15年からそのシェアを一気に高めている。また、ウォルマートも18年にはインドEC大手のフリップカートを買収し、実店舗ビジネスではなくECの強化を図った。EC市場は、外資リテーラーの市場となったわけだ。
2.リライアンス・リテールの戦略
一方で、インド出自のリライアンス・リテールはウォルマートやアマゾンといった外資勢とは異なる戦い方をしてきた。
親会社のリアイアンス・インダストリーズは、石油化学を中心としたインド最大の財閥だ。その小売事業会社として、リライアンス・リテールは外資リテーラーが動き辛い実店舗領域でトッププレイヤーとして君臨し、なお拡大を続けている。主力業態のスマート・ポイントやリライアンス・デジタルのオーガニック成長だけではなく、20年にはインド小売2番手のフューチャー・グループを買収。また、小売に限らず、卸売にも触手を伸ばしており、22年にはメトロ・インディアを買収するとも発表した。さらには実店舗領域だけでなく、外資勢の主戦場であるECにも拡大している。20年には家具ECのアーバン・ラダーを買収するなど精力的な展開を続けている。
そんなリライアンス・リテールの事業方針のひとつとして、キラナを含めた小規模事業者との共存を強調している。例えば、インド政府主導ECプラットフォームのONDCに対する連携もそうだ。ONDCの目的は小規模小売事業者の支援であり、自らで巨大ECプラットフォームを作ろうとしているアマゾン等にとっては脅威とも言える。リライアンス・リテールはそのONDCに賛同意向を示している。また、前述の卸事業者であるメトロ・インディア買収についても、キラナとのネットワーク強化を企図したものである。リライアンス・リテールは、外資勢との差別化も含め、地域に根差した事業展開を目指しているのだ。
3.激動が続くインド小売市場
このままリライアンス・リテールの躍進は続くのか。それを妨げる可能性があるのは、ウォルマートやアマゾンではなく、インドのローカルスタートアップだと考える。コロナ禍を経て、インドではQコマースと呼ばれる10分内デリバリーであったり、無人キオスク的な自販機業態であったりが脚光を浴びている。ダンゾやブリンキット等、非常に多くのスタートアップが登場し、活況だ。
Qコマースや無人キオスクが創る商圏は非常に小さく、まさにキラナと競合する業態である。彼らの勢いは強く、これまで守られ続けてきたキラナの崩壊可能性も論じられるほどだ。このようなスタートアップの動きは、キラナ経済圏との共存を標榜してきたリライアンス・リテールの方向性にも影響を与えるのではないか。これからも激動を続けるインド小売市場から目が離せない。
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Roland Berger下村 健一
一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略コンサルティングファームであるローランド・ベルガーに在籍。プリンシパル兼アジアジャパンデスク統括責任者(バンコク在住)として、アジア全域で消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心にグローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、事業再生等、幅広いテーマでのクライアント支援に従事している。
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