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タイでイノベーションを巻き起こす日本発スタートアップ

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      セター・タウィシン新政権が今年9月5日に発足し、政策動向に企業関係者から関心が集まっている。タイ経済活性化に向けた重要政策の一つが、スタートアップ振興だ。産業界からも、タイ資本市場協会連盟(FETCO)のコブサック・プートラクーン会長(元タイ首相府相)が「タイのデジタル革命やインダストリー4.0に向け、スタートアップが鍵となる。タイ国内のユニコーン企業数が限られる中、スタートアップの国外からの誘致にも注力すべき」と指摘している。
      本稿では、JETROバンコクおよびMUリサーチ&コンサルティング監修のもと、日系スタートアップのタイ市場における可能性について解説するとともに、革新的な技術やサービスでタイ政府や企業から注目を集める20社を紹介する。

      日本のスタートアップシーンとタイ市場の可能性

      日本のスタートアップ概要

      日本国内においては、政府が2022年を「スタートアップ創出元年」と位置付け、同年11月に「スタートアップ育成5ヵ年計画」が打ち出された。戦後の創業期に次ぐ、第二の創業ブームを実現するとし、官民一体となったスタートアップの成長を加速させようという動きがある。

      INITIAL(スタートアップ情報プラットホーム)によると、22年の日本国内のスタートアップ企業の資金調達額は、過去最高額であった21年を越え、8,774億円を記録している。

      しかしながら、日本における開業率やユニコーン企業(創業10年以内で、時価総額10億ドル超の未上場企業)の数は、欧米と比較しても未だ低い水準である(図表1)。スタートアップ育成5ヵ年計画では、27年度には資金調達額が10倍(10兆円規模)となることを目標に、ユニコーン企業を100社創出※1することを目指している。

      出所:CB Insights「The Complete List of Unicorn Companies」

      出所:CB Insights「The Complete List of Unicorn Companies」

      日本国内の行政機関、自治体は、海外各国にて開催されるスタートアップ関連展示会などのイベントにブースを構えることが多い。コロナ禍が明け、タイにおいてもスタートアップ企業が集う展示会・ピッチイベントが、行政機関や民間機関、開催規模の大小問わず多く開催されるようになっている。

      23年8月、クイーン・シリキット国際会議場で開催された「Techsauce Global Summit 2023」は、タイの民間組織が主催機関となるタイ最大級のスタートアップ・テックイベントである。ここに、JETROバンコク事務所はジャパン・パビリオンとして一画を構え、日系スタートアップ企業10社の参加を支援した。

      「創業間もないスタートアップ企業にとって、販路開拓機会の獲得は大きなメリットがある。タイ企業のキーパーソンとの繋がりを得る機会は非常に希少。大型イベントへの参加実績自体が会社の信用度向上に繋がる」と、ある出展企業は語る。海外進出を図るスタートアップ企業にとって、人的・資金的リソースが限られる中、各国で開催される大型の展示会・ピッチなどのイベント参加は大きなリード獲得に繋がる。

      日系スタートアップ企業のタイ進出契機

      ベンチャーキャピタル等から多くの出資を受けるスタートアップ企業にとっては、上場・M&Aを果たすことがひとつの出口戦略となる。継続的な売上拡大を狙うため、国内市場のみならず、並行して海外展開を含めた事業展開の必要性を意識するスタートアップ企業は多い。

      タイに現地法人を構える、ある日系スタートアップ企業は「タイ進出前から、日系企業からの引き合いがあった。進出する日系企業の多さから市場の裾野の広さを感じていた」と語る。JETROバンコクの調査では、5,856社(タイ日系企業進出動向調査2020年)もの日系企業がタイに進出しており、進出初期における顧客・パートナー対象として、現地日系企業の裾野を捉えようとする。

      終章で紹介する日系スタートアップ企業からも多く耳にしたが、タイ進出の契機としては、①顧客対象となる進出日系企業の数、②進出前からの現地企業からの引き合い、③国内出資元企業からの提案、④タイ特有の市場性に着目、といったことが挙がる。

      ①②現地日系企業数、引き合いの存在による進出判断については、スタートアップに限らない話ではあるが、海外事業へ注入するリソースが限られる体制下、進出初期における顧客対象が見えやすいという側面は、進出要素としては当然に強いのが現状である。

      ③国内出資元企業からの提案については、スタートアップ特有の状況でもある。日本国内市場の成熟状況を鑑み、海外展開状況・市場性が投資家による出資判断材料となることもある。投資家との相談を踏まえ、彼らの現地商流・ネットワークを活用しながら、進出に乗り出すことも多い。

      ④タイ特有の市場性に着目するスタートアップ企業は、近年タイ政府が推し進める「BCG(バイオ・循環型・グリーン)経済モデル」をはじめとする経済戦略に対して、企業が提供するサービス・プロダクトそのものが解決策に繋がることからも、マーケティング活動を強めている。現在は特に、AI・サステナビリティ分野の強化を進めるタイ大手財閥企業からの引き合いや市場性からタイ進出に取り組む企業が目立つ。

      スタートアップ関連イベントPHOTO

      スタートアップ関連イベントPHOTO

      大手・スタートアップ問わず注目されるタイにはない日本の技術

      23年度にタイ国内で開催されたスタートアップ関連イベント(図表2)では、大学の研究開発等をもとにした独自の製造技術や特殊素材を扱う、いわゆる「ディープテック」と呼ばれる企業にタイ企業・投資家からの注目が集まった。特にコロナ禍においては、SaaS(クラウド系のソフトウェア)関連企業への投資熱を経た時があったが、昨今においては、ディープテック企業がその傾向にある。

      (主に、経済産業省、JETROバンコク、在タイ日本国大使館等が開催に関わるイベント)

      (主に、経済産業省、JETROバンコク、在タイ日本国大使館等が開催に関わるイベント)

      日本の技術、新規性・将来性は、タイ大手財閥企業、ベンチャーキャピタルからも非常に関心が高い。タイ最大財閥CPグループは、2030年までのサステナビリティ目標として、GHG排出量の削減、再生可能素材の利用率向上といった項目を掲げている。例えば、農業・食品加工工程において発生する食糧廃棄をゼロにする取り組みが挙げられるが、こうした課題解決に関連した革新的な技術は、日本をはじめとする国外スタートアップに求められている。

      一方で、ディープテック企業は、SaaS型のインターネットサービスと比較し、社会実装に至る開発期間・コストがかかることが多い。今年8月にバンコクで開催されたスタートアップイベント「Techsauce Global Summit 2023」に参加した、特殊耐熱素材を開発するスタートアップ企業ThermalyticaのWu(ウー)氏は「プロダクトの用途開拓・開発のための資金・量産体制の確保を同時に進めている。国内市場だけでなく、海外での市場前提のため、各国での調査・商談を続けている」と語る。技術開発のみならず、その研究資金確保・さらには上市(製品の市場流通開始)のための量産体制・製造コストダウンの方法も探していかなければならない。

      自社の技術力・市場性が、タイのBCG経済・環境問題等における課題解決に適していると訴求することが、タイ大手財閥との協業に進展すると言える。

      Techsauce Global Summit 2023にて 独自の技術で開発した最高の断熱材の社会実装に取り組む

      Techsauce Global Summit 2023にて 独自の技術で開発した最高の断熱材の社会実装に取り組む

      寄稿者プロフィール

      JETROバンコク事務所

      • 松浦 英佑 プロフィール写真
      • SME Promotion Department
        Director松浦 英佑

        2012年より行政機関にて中小企業、スタートアップ支援に従事。23年よりバンコクにて日系スタートアップ企業のタイ進出、タイ財閥系企業とのイノベーション促進を担当。

      タイ財閥と日系スタートアップの共創

      タイがスタートアップ育成する背景

      タイ経済はイノベーションを渇望している。観光産業をはじめとして新型コロナウイルスの影響から完全に経済が回復していないことや、将来的な人口減への懸念もあり、中長期のタイ経済は緩やかに衰退を迎えるとの悲観的な見解もある中、ブレークスルーが従来以上に求められているといえよう。

      タイ政府もそれを見越し近年各種のスタートアップ優遇政策を進めている。政策は複数の政府機関にまたがっており、1つはデジタル経済推進庁(Digital Economy Promotion Agency:DEPA)による施策が挙げられ、タイのみならずAEC全域での知的財産権に関するサポートと特許申請の迅速化を行っている。更にDEPAはデジタルスタートアップや技術・テクノロジー系の事業者に対して信用保証協会への手続き支援を行い、100億バーツまでの資金調達などを支援している(詳細条件あり)。また、DEPAはソフトウェア・デジタルコンテンツ事業者の登記も行っており、過去に70件、検討中の事業者も310件ほどあり、スタートアップによる様々なコンテンツやソフトウェアの展開を加速している。

      その他の機関ではタイ証券取引所(Stock Exchange of Thailand:SET)の取り組みが挙げられる。SETでは「LiVE Plateform」というプラットフォームを展開し、スタートアップや中小企業に向け、大手監査法人による経営ノウハウのEラーニングの実施や法務関連の知識提供、上場企業とのビジネスマッチングなどによる機会提供も行っている。

      スタートアップ育成の遅れと挽回をリードする財閥

      このような施策によりサポートを受けているタイのスタートアップの事業環境であるが、域内主要国と比較して同国はスタートアップ育成で劣後しているとの見方がつきまとまっている。たとえば、スタートアップ企業はタイにおいて1,000社ほどあるといわれる中でイノベーション創出の目安ともなるユニコーン企業の数でみるとタイはBitkub(金融)とAscend Money(金融)、Flash Express(物流)の3社のみであり、シンガポール(同13社)はおろか域内のライバルであるインドネシアと比べても劣後している(同6社)。政府もこの遅れを挽回すべく、2022年にはベンチャーキャピタル(VC)や投資家がスタートアップ企業の株式売却時の売却益を非課税対象とする制度も導入した。90年代からスタートアップ育成で先行するシンガポールでの恩典にフォローする動きであり域内での競争環境が意識されているのがわかる。

      一方、タイの場合、伝統的に官よりも財閥を主とする民のほうがよりダイナミックな動きをとっており、これをカバーしているのも事実である。スタートアップと財閥との関連性でいうと、いくつかのパターンに分かれるが、①財閥自らが新規事業を行うケース、②CVCを立ち上げスタートアップとの接点を有するケース、③有望なスタートアップを財閥自身がM&Aなどの手段で取り込むケースなどが挙げられる。 たとえば、①についてはPTTが政府政策であるBCG経済モデルに沿い、自前でスマートファーミングなどの先進的農業事業に着手している。

      2023年6月9日、スタートアップ・マッチングイベント「Japan-ASEAN Startup Business Matching Fair 2023」より

      2023年6月9日、スタートアップ・マッチングイベント「Japan-ASEAN Startup Business Matching Fair 2023」より

      ②については各財閥とも近年ファンドを立ち上げ、有望企業への出資を行っている(図表1)。対象業種は暗号通貨やフィンテックなどの金融関連が多いのが特徴である。また前述分野以外でも環境面での投資も活発化しており、Thai Oil社(TOP)やPTG Energy社(PTG)などによるCVCを通したグリーンテクノロジーを有するスタートアップへのコンタクトを取り始めているケースも見られる。

      出所:GCV及び各社HPを基にMURC作成

      出所:GCV及び各社HPを基にMURC作成

      ③についてはポートフォリオの拡大や安定化を目指す企業による実施がみられ、こちらもPTTORの事例となるが、Oh ka Jhu Organic(オーガニック飲食店)やKamu Tea(タピオカミルクティー)、Kouen(日本食)やPacamara(スペシャリティカフェ)などの飲食まわりにおける買収を立て続けに行っている。また、これとはべつにCPグループは個別のスタートアップや事業投資にかぎらず、「True Degital Park」を設置し、起業家のためのオフィス環境の整備から会社設立などの立ち上げ支援も行い、一歩踏み込んだ施策を推進し、エコシステム形成を図っているといえよう。

      起爆剤となりうるタイ財閥×日系スタートアップの連携

      タイならではの動きとして、この一連の動きを強化する起爆剤となり得るのが、タイ財閥×日系スタートアップの連携であろう。一例としては、タイ娯楽大手Major Groupが筆頭株主であるタイ・マクドナルドの決済システムにおいて日系スタートアップのOmise(現Opn Payments)と協業したことが挙げられる。タイ・マクドナルドは同社に対し店舗におけるペイメント・ゲートウェイの全面的な委託を行うと公表している。その他の事例として、CPグループは活発的な機会提供を行っており、エビ養殖の生産性向上に向けたウミトロンとの提携やマーケティングへの効果的なデータ活用に向けたニューラルグループとの協業など、日系スタートアップとの積極的な取り組みがみられる(図表2)。

      出所:各種情報よりMURC作成

      出所:各種情報よりMURC作成

      また、投資環境整備に向けた取り組みも進んでいる。三菱UFJフィナンシャル・グループの連結子会社であるアユタヤ銀行(クルンシィ)はCVCを有しスタートアップとの接点づくりを進めており、本年6月に「Japan-ASEAN Startup Business Matching Fair」を実施。日系・ASEAN域内の投資家・起業家をつなぐ場としてタイ、日本、カンボジアを始めとするASEAN各国等9ヵ国60社以上のスタートアップが参加した。また、在タイ日本国大使館及びJETROバンコク事務所主催の「Rock Thailand」はCP Group、経産省、True Digital Parkとの共催の元、本年11月4日にイベントを行う予定であり、スタートアップピッチングの場を提供するなど、日タイ双方の活動促進を活発にすることを目的としている。

      寄稿者プロフィール

      MU Research and Consulting(Thailand)Co., Ltd.

      • 池上 一希 プロフィール写真
      • Managing Director池上 一希

        日系自動車メーカーでアジアの事業企画を担当。2007年に当社入社。大企業向けの欧米、中国、アセアン市場の事業戦略構築案件を中心に活動。18年よりバンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後の事業改善等のテーマに取り組む。
        Tel: +66(0)92-247-2436
        Email: kazuki.ikegami@murc.jp(池上)

      • 池内 勇人 プロフィール写真
      • Associate池内 勇人

        製造業全般の現場管理サポート、業務効率化サポートや新工場立ち上げなどを経験。21年にMURCタイに入社、タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。

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