タイと日本の産業連携の未来像(タイ国日本人会 × Mediatorインタビュー)
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Mediator Co., Ltd. 代表取締役社長
ガンタトーン・ ワンナワス(左)
在日経験10年。埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。09年にMediator Co., Ltd.を設立し、日本貿易振興機構や日本政府機関の業務を請け負う。在タイの日系企業向けに異文化をテーマとした講演も行っている(講演実績、延べ12,000人以上)。
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タイ国日本人会 会長
島田 厚 (右)
1955年、東京生まれ。90年に三井物産駐在員として初来タイ。以降、日本とタイを行き来し、2013年9月に同社を退職後、日本駐車場開発(タイランド)の上級副社長、アジア工業団地の顧問に就任。16年4月にタイ国日本人会の第51代会長に就任。
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プラユット政権下で動き出したインフラ開発
ガンタトーン:この10年間で一番印象に残っている社会的な出来事は何ですか。
島田:やはり印象として深く残っているのは2014年の「バンコク・シャットダウン」です。インラック首相の退陣を求める反タクシン派の大規模デモによりアソーク駅前などバンコク都内7ヵ所が封鎖され、駐車場事業を展開する当社は存続が危ぶまれました。
しかし、これを契機に、新たなビジネスの展開を模索し、法人向けの不正薬物検査をはじめとするヘルスケア事業の立ち上げに繋がりました。有事が発生してから新規事業を始めるには時間がかかります。ビジネス環境の変化に対応し続けるには、順調なうちに次の種蒔きをしておくことが重要だと痛感した出来事でした。
ガンタトーン:その後のプラユット政権時代はどうご覧になっていましたか。
島田:良いか悪いかは別にして、それまで進展が見られなかったプロジェクトがプラユット政権下で動き出したのは事実で、これはタイ経済の成長にとって必要な一歩だったのではないかと思います。
ガンタトーン:私も同じ意見です。当時、EECや高速鉄道、BTS開発などの承認が次々に下り、完成予想図を見た時は東京メトロ並みの発展を感じました。
高付加価値化が求められる工業国タイ
ガンタトーン:政策面では、タイランド4.0に始まり、20ヵ年計画、現在はBCG(バイオ・循環型・グリーン)経済を推進していますが、個人的にBCGはタイの強みに合っていると感じています。島田さんはこれまでのタイの政策についてどのようにお考えですか。
島田: 1960年代のサリット政権下で積極的に外資を導入し、製造業を誘致して農業国から工業国への転換を促した時代はタイ経済の発展には大きなポイントだったと思います。ここ10年の変化としては、人件費の上昇により、安価な製品ではなく付加価値の高い製品の生産が生き残りの鍵となってきたこと。また、タイ国外への輸出など、周辺国を含めたビジネスが強化されてきたことが挙げられると思います。
ガンタトーン:以前は「CLMV」や 「チャイナプラスワン」、「東西経済回廊」、「南北経済回廊」などが話題になっていましたが、近年はベトナムに関心が集中している印象ですね。
役割の変化する在タイ日系企業の経営者
ガンタトーン:日系企業の動向としては、三井物産が国営資源最大手のPTTや独立発電大手のガルフ・エナジー・デベロップメントとの合弁会社を設立するなど、タイの大手企業と連携して事業展開する動きが増えましたね。
島田:大手日系製造業がタイ財閥と連携する事例は以前からありましたが、タイの産業構造の変化に伴い、電力やガスなどインフラ事業においても日タイ連携の動きが見られるようになりました。
ガンタトーン:タイ企業は各分野において、日本、中国、アメリカなど協業相手を冷静に選定しています。近年では日本企業のプレゼンスが低下しているとも言われますが、私はまだ期待できる部分も多いと考えています。島田さんから見て、在タイ日系企業の変化として特筆すべき点はありますか。
島田:昔と比べて、現地法人に与えられる権限には変化を感じます。かつては投資や人材登用など、一定の範囲内で決裁権限を持っていましたが、現在は基本的に戦略は本社主導となっています。そのため、現法社長の役割は新規顧客開拓など地域密着型の業務が中心となっている印象です。
ガンタトーン:ある在タイ日系自動車部品メーカーの責任者は、「業績は守るからあとは任せてくれ」と現法主導で戦略を実行しています。いい意味で本社の言うことを聞かないことも時には必要だと思いますね。また、以上のような変化を昔と比べて権限が縮小したという捉え方もあれば、デジタル化が進み情報共有が迅速になったことで、本社主導でも効果的に現地法人を管理できるようになったという面もあるのかなと思っています。
拡大するタイ企業の海外投資
島田:日本企業の投資金額も昔に比べて増加しており、私が1990年に初めて赴任した頃とは桁違いです。
ガンタトーン:投資規模は明らかな変化ですね。近年では、タイ企業の海外投資が拡大しています。例えば、タイ企業が日本の再エネ市場へ投資をしたり、シンハビールの不動産部門がモルディブでリゾート開発を行ったり、タイユニオンが米レッドロブスターに出資をしたりと、業種を問わず、買って利益が出なければ売るという積極的な姿勢が目立ちます。
島田:タイ企業は売る時も決断が早く、潔さが際立っていますね。
ガンタトーン:種蒔きの観点では少額の投資も行われており、PTTは電動バイクのバッテリー交換所を展開するスワップアンドゴーなどのスタートアップに積極的に投資をしています。
島田:自社でできない領域に対しては、スタートアップなど新しい分野への投資も必要ですね。
自社が強みを持つ案件ごとの連携が鍵に
ガンタトーン:現在タイの工業団地では、法人税減免期間の延長など、安売り合戦が繰り広げられていると感じます。この状況ではどの産業も長期的に繁栄することは難しい。したがって、別のアプローチでの戦略が必要だと思います。タイは大手企業であっても自社技術を持っていないため、海外にその技術を求めています。800社以上あるタイの上場企業と日本企業の接点を増やすことで、双方が協力して成功を収める未来を期待しています。島田さんは日タイ共創の未来をどう見ますか。
島田:いくらタイと日本の関係が良好であっても、タイ企業は当然、国を問わずその分野で最も進んでいる企業とのパートナーシップを模索します。そのため、日本企業は自身の強みがどの分野にあるのかを明確に把握する必要があります。
ガンタトーン:繊維産業はその一例ですね。ユニクロは東レと提携し、ファッション性だけでなく機能性も重視し、他のブランドと差別化を図りました。これこそまさに日本らしい経営哲学だと思います。このようなアプローチは他の産業にも展開可能だと思いますか。
島田:産業による差異はありますが、自社の強みを明確にし、案件ごとに複数の企業とパートナーシップを構築することが重要だと考えています。
ガンタトーン:当社がマッチングをサポートした企業でも、MOU締結後に具体的な案件に進展しないことがしばしばあります。日本企業は自社の強みを整理し、それを必要としているタイ企業に提供する。それも、個別具体的な案件ごとに連携するという点がポイントですね。
当社では、4月に創刊するタイのビジネスガイド「THAIBIZ」および日タイのマッチングプラットフォーム「TJRI」を通じて、駐在員への情報提供やネットワーク構築、またタイ企業との共創支援をより一層強化していきます。
島田:ガンタトーンさんにしかできないことだと思いますし、それにより日本企業とタイ企業が共同で成功するプロジェクトが増えることを私も期待しています。
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