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キーワードは「協創」日タイ関係新時代

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      2022年9月26日で修好135周年を迎える日本とタイ。今や日本企業にとってタイは海外進出の一大拠点であり、欠かせない存在となっている。タイにとっても日本は最大の投資国であり、親日という印象は強い。
      しかし、中国を筆頭に外国企業の勢いが増している近年。タイ国内における日本企業の影が薄まっているという見方をする識者もいる。現在、立たされている状況と取り組むべき課題について、専門家の視点も含めて整理していく。

      タイ投資5年連続1位と迫り来る海外勢の足音

      タイはこれまでに、農水産業に重点を置いたタイランド1・0、軽工業を推進するタイランド2・0、重工業に注力したタイランド3・0を通じ、経済成長を遂げてきた。製造業を中心に多くの企業がタイ進出を果たしてきた日本企業は、その成長に貢献してきた国の一つである。しかし2015年、産業高度化に向けた長期的な国家戦略タイランド4・0が打ち出されて以降、特にここ数年で海外勢の進出が加速し、風向きが少々変わりつつあるとも言われている。

      輸出入を含めた貿易総額で見ると、新型コロナウイルスの影響で全体的な落ち込みはあるものの、中国が他を圧倒しているのは図表1の通り。

      タイの国別・貿易総額の推移

      一方、タイへの貢献度とも言える外国資本による直接投資額(認可ベース)を見ると日本が首位を維持している(図表3)。

      外国資本によるタイへの直接投資額の推移(認可ベース)

      しかし投資額全体の割合を見ると、17年は約4割を占めていた投資額が21年には26・2%となり、その分中国の割合が増加。17年は日本の10分の1ほどの投資額だったが、19年には26・2%、20年には22・1%と日本に迫る勢いで投資を実施し、以降もその存在感を示している。

      2022年上半期は台湾が約3割を占めて1位に

      また近年はスタートアップを中心に力を入れ、19年から直接投資額(同)トップ5に名前を連ねている台湾の動きも気になるところ。タイ投資委員会(BOI)が8月17日に発表したデータによると、21年上半期における同投資額の国・地域別では台湾が前年比8・1倍の全体割合29・3%で首位。日本が22・2%、中国が16・5%と続いた。

      なかでもタイランド4・0でターゲット産業とする12分野の投資状況を見ると、「タイを世界のEV生産ハブにする」と政府が力を入れる自動車・同部品が前年比(同)約2・5倍となる最も大きな伸びを見せていた他、デジタル分野も大幅に増加するなど、国内外問わず関心が高いことが分かる。

      他方で、商務省によると22年6月末時点における東部経済回廊(EEC)域内での累積投資総額は1兆5440億9590万バーツで、そのうち外国資本の割合は全体の54・5%だった。国・地域別で見ると、日本が46・1%と2位の中国を大きく引き離しているが、中国は年々その割合を増やしている傾向にある(図表2)。

      EEC域内・外国資本の累積投資総額の割合

      EV分野を筆頭に存在感を高める中国と台湾

      前述したタイ直接投資額について中国に焦点を当てて見ると、18年以降その割合が顕著に増加している。なかでも大型投資(投資額10億バーツ以上)が相次いでいるのが特徴で、19年には328億バーツから738億バーツへと、前年の2・25倍に急拡大。外資全体に占める割合は、前年の12・8%から26・2%に倍増したのは前述の通りだが、20、21年も日本に次ぐ第2位の投資国になっており、その動向に注目が集まっている。

      その主な投資先分野を金額ベースで見てみると、金属・機械を中心に増加していることに加え、近年はやはり電気自動車(EV)の製造事業が目を引く。他方、日本を見てみると金属・機械、電気電子、化学分野がいずれの年も大半を占める反面、自動車関連事業においては中国と重なる点が見られ、今後の戦略が重要視されている。

      増えるローカル企業との事業提携やメディア露出

      とりわけEV分野に焦点を当てると、大手タイ企業との覚書(MOU)調印や事業提携、工場設立など中国と台湾企業に関する話題が絶えない。補助金に始まり、充電スタンドを中心とした関連インフラや、バッテリー電気自動車(BEV)などに対するBOIの振興策が加わった影響は大いにあるが、ローカル企業との関係性構築や露出の巧さも一因ではないだろうか。

      22年で見ると、電子機器の受託製造サービス(EMS)世界最大手である台湾の鴻海精密工業(FOXCONN)と国営タイ石油会社(PTT)による合弁会社の設立や、中国自動車メーカー・長城汽車(GWM)とタイ発電公社(EGAT)らによるEV用充電ステーション開発でのMOU締結、中国の大手電気自動車メーカー・比亜迪汽車(BYD)による東部ラヨーン県での工場建設といった発表が続いている。

      さらに8月には長城汽車タイランドが、タイで開催されるアジア太平洋経済協力会議(APEC)の移動と運輸を支援すると発表。世界の目が向けられるAPECは、自社製品を訴求するには絶好の機会であり、小型スポーツタイプ多目的車(SUV)「哈弗(ハーバル)」のハイブリッド車(HV)「ハーバルH6ハイブリッド」の新型が10台提供された。

      こうした話題が目立つのも、そのスピード感と思い切り良く舵を切る国民性にもよるのだろうか。それに比べ、日本勢は慎重とも見てとれる。タイ電気自動車協会(EVAT)によると、22年6月時点で公表されているBEVの最新車種一覧では22車種中、日本車はトヨタの「レクサスUX 300e」と日産の「LEAF」のみといささか寂しいとも言える状況だ(図表4)。

      タイの最新BEV車種一覧(2022年6月時点)

      EVに関しては充電スタンドといった環境が整っていない現状では時期尚早だと踏んでいるのか。はたまた水素自動車(FCV)などの台頭に備えているのか。虎視眈々と巻き返しの一手を狙っていることは間違いないが、売り方も含めてタイ市場にいかに訴求していくのか。業界を問わず、今一度見直すべき時期に来ているのかもしれない。

      日本企業は「売るための組織」へ変われるか
      問われる「情報収集」の在り方

      上原 渉Wataru Uehara
      一橋大学 大学院経営管理研究科 准教授/博士(商学)
      日本企業のマーケティング組織や、アジアにおけるマーケティング活動について研究を行っている。2016~18年にチュラロンコン大学ビジネススクール客員研究員として在タイ。代表的な業績として『日本企業のマーケティング力』(2012、有斐閣、共著)や『新興国市場と日本企業』(2018、同友館、分担執筆)等がある。

      タイにおける日本企業はこれまで、モノを作ることを目的とした「生産のための組織」を築いてきた。しかし今、タイ企業や日系以外の外資系企業を顧客にするために、「売るための組織」に転換する必要に迫られている。それは、生産のための組織に営業やマーケティング部門を設置し、専任のタイ人スタッフを雇用するだけでは上手くいかない。組織全体の課題として取り組む必要がある。

      では、この転換を成功させるためには具体的に何が必要なのだろうか。結論を言えば、それは市場志向(Market Orientation)である。これは「お客様第一」のような精神論と誤解されがちであるが、学問の世界では企業の活動や文化として定義され、情報収集・情報普及・情報へ反応の3つの要素から成っている(図表)。

      市場志向を構成する3つの要素

      市場志向は、組織の外部から情報を集め、それを組織内で共有し、迅速に対応するという一連のプロセスかつ、組織全体の活動である。

      組織内の体制構築が急務
      駐在員の役割再考も

      このプロセスの起点であり、日タイにおける関係性の再構築として重要になるのがタイ市場に関わる情報収集である。しかしながら、日本企業の多くが日本人駐在員のネットワークに依存し、タイ市場向けのビジネスを行うための有効な情報を得られていないのが実情だ。社内のタイ人スタッフに期待する企業も少なくないが、彼らがいくら優秀であっても、タイの富裕層や経営層といった自分で投資判断をする階層とは異なるため、次の一手を考える情報にはなり得ない。

      かつて製造業に外資規制があった頃は、有力財閥や大手のオーナー企業と合弁を組み、それによってタイの有力者とのネットワークを確保していた。だが、当時はモノの品質や性能で明確な優位性があったため、その価値が十分理解されていなかったのだろう。その状況に慢心し、外資規制が緩和された後に独資化を進めた企業は、生産をコントロールできるようになった代わりに、現地で販売するための貴重な情報源を失ったのである。

      現在、その関係性をすぐに復活させることは不可能である。だからこそ、それに代わる情報源として潜在顧客や商慣行、キーパーソンに関する情報を探索・収集する機能を組織内に埋め込むことが求められている。

      こうした情報はフォーマルな組織間関係よりも、インフォーマルな個人間関係でやり取りされる場合が多いため、駐在員の役割を再考し、駐在期間を延長することも一案である。また、日本企業が持つ技術やノウハウを求めるタイ企業との接点を作るために、勤務時間外であってもタイの有力者が集まるイベントやコミュニティに参加することは有効だ。

      ただし、これを駐在員の個人的な活動と捉えては長続きしないだろう。企業は「売るための組織」への転換に向け、情報収集活動を一つの業務として捉え、支援することが重要である。

      日タイパートナーシップの新たな幕開け「TJRI」

      日タイパートナーシップの新たな幕開けTJRI

      Mediator Co., Ltd. CEO/ガンタトーン・ワンナワス
      在日経験通算10年。2004年埼玉大学工学部卒業後、在京タイ王国大使館工業部へ入館。タイ国の王室関係者や省庁関係者のアテンドや通訳を行い、タイ帰国後の09年に「Mediator Co., Ltd.」を設立。日本貿易振興機構(JETRO)や日本政府機関、地方自治体の仕事を請け負う他、在タイ日系企業の日本人駐在員やタイ人従業員に向けて異文化をテーマとした講演・セミナー・研修を実施(講演実績、延べ12,000人以上)

      日タイ企業を繋げる「TJRI」 B2Bマッチングプラットフォーム始動

      薄まりつつある日本企業とタイ企業との繋がり。「現状が続けばタイにおける日本企業の弱体化は避けられない」といち早く危機を察知し、橋渡し役として多角的なプロジェクトに取り組むのが「Mediator(以下メディエーター)」だ。日本とタイの文化に深く触れ、双方に精通する同社CEOのガンタトーン・ワンナワス氏(以下ガンタトーン氏)が考える、これからの日タイビジネスに求められるもの。そして動き出したTJRIプロジェクトについて尋ねた。

      日本の行政機関や大使館、タイでのプロモーションを図りたい自治体、民間企業などメディエーターは創業当初から一貫して、日本とタイに関わる事業に力を注いできた。その原点は、ガンタトーン氏の日本留学時代にまで遡る。

      同氏は、在京タイ王国大使館工業部・公使参事官補佐として5年間勤務し、タイの工業省や科学技術省と日本の経済産業省、文部科学省など産業政策・科学技術政策を中心に両国の協力を調整する窓口を担当した。日タイの経済・投資などの幅広い業務に携わるなかで、同氏が疑問を抱いたのが、投資・経済を含めた日本とタイの関係性だった。

      「今でもまだ残っていますが、当時の日本から見たタイは『安定して安くモノづくりができる日本企業の製造拠点』と強く認識されていました。ただ、日本とタイの長い友好の歴史を考えればタイはただの生産拠点ではなく、その先にある『新たな関係性』が作れるはずだとずっと考えていました。日本で働くことで体感した日本人が持つ『深く考える思考力』と、タイが持つ『豊富な資源』は大いなる相乗効果を生み出すと。そうして起業したのがメディエーターです」。

      希薄になる日タイ企業
      その溝を埋める糸口とは

      創業以前から同氏が思い描いてきた、日本とタイの新たな関係性。しかし起業を果たした後、「今のままでは在タイ日本企業が沈んでしまう」「タイの競争力がどんどん落ちてしまう」という危惧が強まっていったという。

      「日本企業は、独資を好むがゆえにタイ経済を支える経営層や知識層とのネットワークがどんどん枯渇していっていました。加えて、海外にいながらも日本企業同士の付き合いばかりが続いたことにより、タイ国内で“島国”状態に陥っていたんです。タイの就職市場においては就職したい会社トップ100から日本企業の名前は消えつつあるのに、『日本が一番だった時代はとっくに終わっている』ことにも気づいていない。優秀な人材が日本企業に集まらない状況が、もっとも危険だと感じています」。

      その一方で、タイ企業は自分たちに技術がないことを理解していながらも、その技術を持つ日本企業との接点がないという課題を抱えていた。タイ企業が日本に求めているのは、タイ政府の施策にあるような「日本(外国企業)からの投資」でも質の高い製品でもなく、タイを拠点にグローバルに事業を拡大させていく「協業パートナー」である。それにも関わらず、日本企業にそのニーズを共有できていない状況に陥っていた。

      そこで同氏が考えたのが、プロダクトアウトではなくマーケットインの関係構築。タイ企業のニーズを直に発信することが日本企業の気づき、ひいては投資の活性化に繋がると考え、具現化したのがB2Bマッチングプラットフォーム「TJRI(Thai-Japanese Investment Research Institute)」だった(図表1)。

      TJRIサービス概要図

      このプラットフォームが、今の日本企業に欠けているタイ企業とのコネクションやタイにおける最新のビジネス情報、ニーズの把握といった喫緊の課題を解消し、さらなる「協創」を生み出す一手になると同氏は語る。

      「より多くの企業が出会い、同時多発的に新たな事業を作っていくためには『仕組み』が必要です。TJRIは“ニーズ発信型のプラットフォーム”として、日本企業と協業できる体制を持つタイの大手企業から現状の課題やニーズをヒアリングし、タイ企業が必要とする技術や事業モデルを持つ日本企業や研究機関をマッチングさせるサービスです。これは、弊社が今まで築いてきた日本とタイそれぞれの企業とのネットワーク、そして日本語とタイ語を操り、両国の文化や商習慣に精通するからこそ実現できると自負しています。TJRIを通して日本企業とタイ企業を繋ぎ、日タイ間の新たなビジネス創出を促します」。

      大手タイ企業100社にヒアリングして見えたもの

      タイ企業の最新ニーズをいかに抽出し、日本企業に共有できるかが同サービスの一つの肝になる。同社はサービスを確立するため、事前にタイ証券取引所(SET)と日本のマザーズに当たるタイ新興市場(MAI)に属する全800社へコンタクトを敢行。ガンタトーン氏は自ら、その中の上場企業100社の経営者と直接話をすることで、日本企業との協業に繋がる具体的な声を集めていった。

      「日本や日本企業に何を期待していますか?」に対する回答のほとんどは、「製品やサービスは欲しくない」というひと言。既存の事業に対して求めているのは、自社の課題を解決してくれる「技術・ノウハウ・経験」等を持っている企業と人。そしてビジネスを拡大させる新規事業に対して求めているのは、「協業パートナー」という意見が集中したという(図表2)。

      未開の地を共に 掘り進めていきたい!水を売るより、 井戸の掘り方を!製品・サービスではなく、既存事業を進化させる(ニーズに直結する)技術や経験が欲しい・日本で上位シェアのブランドを持っている企業 ・東南アジアの市場を一緒に開拓(現地生産)できる企業新規事業の場合既存事業の場合ビジネス拡大に向けた 協業パートナーの存在自社の課題を解決してくれる 技術・ノウハウ・経験を重視図表2タイ企業が日本企業に求めるもの

      「マッチングを考える際に求める基本的な条件と言えば、当然ながらタイにないものを持っている企業です。例えば製品の場合で見ると、日本で上位シェアのブランドを持つ企業や、東南アジアの市場を一緒に開拓できる(現地生産できる)企業です。スポーツで言うと、世界ランキングに入っていなくても、県や国の大会ではなくアジア大会やオリンピックに出場できる選手を紹介して欲しいといったところでしょうか。全社と話した感触からすると、『日本にはまだまだ良いものがあるに違いない』と非常に前向きな関心を示してくれていると感じました」。

      一方で興味深かったのが、タイ企業が抱く日本企業の印象だ。日タイ企業間でのビジネスマッチング実現の前に、一筋縄ではいかない壁がいくつか存在していた。特に、日本企業=同民族主義、日本企業同士の取り引きを好むというイメージは根深い。そうした見え方が、日本企業とタイ企業の距離を広げる一因になっていると言及する。

      また、各国の製品に大きな差が見られなくなった昨今、日本企業による品質へのこだわりは変わらず認められているものの、時に「オーバースペックで必要以上に価格が高い」「企業判断が遅い」など率直な意見をもらったと同氏は振り返る。

      求められる人材は 「営業」ではなく 「新規事業開発担当者」

      「前述した課題に加え、日本企業がタイ企業と繋がるためにはもう一つクリアしなければいけない壁が営業スタイルです。タイにいる日本人駐在員は、営業や技術出身者が多く、その営業スタイルはまず自力での情報収集から始まり、案件になりそうな際に上長や日本本社へと上げていくボトムアップ方式。一方でタイはトップダウン方式のため、営業担当者はいくらタイ人マネージャーに話をしても案件は進まず、時間だけが経って結果的に自然消滅という話をよく耳にします。つまりは、決裁権限を持っている人物にアクセスできなければ何も始まらないのです」。

      稀少なケースではあるが、日本人駐在員が自力でネットワークができることもある。しかし駐在期間の終了後、後任への引き継ぎがうまくいかないことがほとんど。また社内外問わず、日本人とタイ人が英語でコミュニケーションを図っている姿を見かけるが、実は噛み合っていない・理解し合えていないことも多い。加えて、同氏によると日本企業に勤めているタイ人は、プレゼンテーション能力・コミュニケーション能力が高い人は少ないという。「日本人は『タイ人にタイ語で説明してもらうから大丈夫』と安心していると思いますが、タイ語が話せる能力とプレゼンテーション能力は別物であることに気づく必要があると思います」。

      こうした幾つものヒアリングを経て、ニーズの把握や情報の入手といった他に人材不足という課題も見えてきた。日本企業同士の取り引きの場合は営業担当者や技術担当者で問題なかったが、タイ企業と接点を持つためには全く別の視点が必要だと同氏は言う。 「様々なお話を聞いて、タイ企業との取り引きの場合に求められるのは『営業』ではなく『新規事業開発担当者』だと感じました。ただ、人材に関してはすぐに埋められるものではありません。だからこそ、TJRIでは日本企業に必要な新規事業開発担当者、そしてタイ企業に必要な日本企業担当者(ジャパンデスク)双方の役割をサポートしていきたいと考えています」。

      トライアルを経て感じたサービスの確かな手応え

      TJRIは、本格始動の前に1年をかけてPoC(概念実証)を行ってきた。もっとも象徴的で分かりやすいのが、タイ企業の求めるニーズを直接聞くことができるオンラインプログラム「Open Innovation Talk」だ。参加した日本企業側はそのニーズを基に、自社が提案できる内容をTJRI事務局を通して提出し、タイ企業側が興味を持てば具体的な商談に進むことができる。最終的に10回以上実施し、参加者3000名以上、提案受付後の商談実施率30%、2回目以降の商談継続率100%という結果を獲得するなど、目指しているプラットフォームになりつつあるという。

      「我々が間に入って調整するのは現時点では商談1回目までなので、2回目以降の商談は日本企業側の調整次第で継続できていないという課題はありますが、企業の出会いを高い確度で仕組み化できることを確認できた点は非常に大きい。特に、Mitr Phol Group(ミトポングループ)の回では“本当の意味でのオープンイノベーション”ができたと感じています」と同氏は手応えを口にする。

      タイ製糖業界のリーディングカンパニーであるミトポングループ・新規事業グループCOOのプラウィット氏は、本プログラムの中で「バイオ技術を活用した原料や製品開発を持つ企業」の必要性を強調した。その後の提案内容を見て感嘆したという。発したニーズに加えて、自身も気づいていなかった潜在的な課題に対する解決策が加わっていたからだ。同氏から「日本企業とのネットワークを含め、自社だけでは絶対に発見できなかった」という声をもらったガンタトーン氏は、TJRIに対する自信を着実に強めていった。

      「Open Innovation Talk」により、新たな事業創出の可能性を広げたミトポングループ(写真下が新規事業グループCOO・プラウィット氏)

      ビジネスマッチングの成功によりタイ企業からの注目度は上昇し、問い合わせ件数は増加。さらに、「短期的ではなく、長期的に研究してくれる組織を探している」「研究機関のサイトに載っている“この担当者”を紹介してほしい」など、その要望がどんどん具体的、かつディープになってきているという。並行して、日本企業からも「Open Innovation Talk」に登壇したタイ企業への提案後、他のパートナー候補のタイ企業を探してほしいといった自発的な要望が増えてきている。

      「TJRIの効果を実証するために様々なパターンを試しましたが、その結果、思いもよらないような展開になることが何度もありました。加えて、やはり国籍が違う両者にとって本質的な会話の意味を読み取るにはお互いの努力が必要なのだと改めて感じました。会話は目に見えないため、課題がどこにあるか具体的に分からなかったことが問題の一つだったのでしょう。そういった潜在的な課題を可視化することも我々の役割ですね」。

      「投資・ビジネスでタイは親日国」と50年後も言える未来を創る

      TJRIから始まる日タイ協創の第2章

      TJRIではタイについて理解を深める勉強会やタイ企業との接点を持つ交流会なども実施

      TJRIの始動により、これまでにない日タイのパートナーシップ、そして協創関係の新たな扉が開かれた。ガンタトーン氏がその先に見据えるのは、「投資・ビジネスでタイは親日国」と50年後も言える未来を創ることだ。現段階はTJRIの存在を周知する時期とし、そのサービスにメリットを感じた企業や個人会員の獲得を目指す。

      「我々にとって会員数は、日タイのパートナーシップの関係値・密度を表す一つの指標だと捉えています。だからこそ、サービスの質はもとより数にもこだわりたい。最初は数十社だとしても、来年には数百社、3年後には1000社以上を目指します。同時に、タイ企業側には日本企業に興味を持ってもらえるよう、最新技術や協業によって得られるメリットを訴求していきます。それが日本企業のブランディングとなり、最終的にはタイの上層部社会にも日本企業の存在感が増していくことに繋がるはずです」。

      無論、その逆も然り。近年、ベトナムを筆頭に日本企業の関心がタイ以外の東南アジアの国に少しずつ移行していると感じる同氏。TJRIを通して、タイを「製造拠点」から「日本企業のパートナー」として認知度を高めることで、タイの存在を訴求していくという。

      日本とタイの間に立ち、双方の市場価値を高めるメディエーター。そしてTJRIは今後、両国のビジネスにおける未来を考える上で不可欠な存在になるに違いない。

      TJRI利用者の声

      TJRIのサービスを実際に利用したタイ企業と日本企業がそれぞれに感じたメリットとは?

      タイ企業
      【エネルギー】PTT Public Company Limited

      日本企業との繋がりや最新情報を得るための欠かせないピースに

      TJRIを通して、日本企業や日本の最新技術についての情報収集が格段にスピードアップしました。また、弊社のニーズにあった技術を持つ日本企業を紹介してくれ、その企業の担当部門と直接繋がることができるため話の展開も非常にスムーズ。自社のネットワークだけでは繋がることができない企業との出会いの場として重宝しています。

      Manager, Technology Foresight and Synergy Management Group
      Innovation Strategic Planning and Management Department
      Mr. Somnuek Jaroonjistathian

      【建材 他】SCG(The Siam Cement PCL.)

      思いもよらない企業との出会い、 日本のエコシステム参入へ

      弊社はタイ国内外の企業と多数の合弁事業を成功させてきましたが、その一方で日本の情報やビジネス機会を得ることに対しては少々難しさを感じていました。日タイ間のビジネスに特化したTJRIでは、弊社だけでは発掘できないような日本企業と素早く繋がることができ、日本のエコシステムに参入する機会を提供してくれます。

      Head of Innovation Portfolio and Public Alliance
      Mr. Anurak Bannasak

      【飲料 他 】Ichitan Group PCL.

      心強い商談サポートで日本企業との協創が加速!

      今までも日本企業や自治体との関わりはありましたが、日本企業に向けて広くニーズを発表するのは初めての試みでした。TJRIを通じて、自社では思いつかないようなアイデアや技術の提案を得ることに加え、日本企業との細かな調整やフォローをしてもらえるため新規事業の立ち上げがより効率的に進められるようになっています。

      Founder, CEO
      Mr. Tan Passakornnatee

      【製糖・エネルギー 他 】Mitr Phol Group

      企業規模に関わらず日本の優れた技術を発掘できる

      Open Innovation Talk後、日本の大企業だけでなくスタートアップ企業からも提案を頂き、新たな協創パートナーを見つけることができました。やり取りにおいて多少の不安はありましたが、TJRI運営チームのサポートにより円滑に話を進めることができ、今後も優れた技術を持つ日本企業と協創しながら事業を拡大していきたいと思います。

      Chief Operating Officer, New Business Group
      Mr. Pravit Prakitsri

       

      日本企業
      【バイオ・化学 他】長瀬産業株式会社

      自社だけでは繋がれなかった大手とのビジネス機会創出

      自社の営業ルートではなかなかコンタクトを取れなかったタイの財閥企業とTJRIを通じて知り合うことができました。先方が何を求めているのか、詳細な情報を得ることができたので確度の高い提案ができ、現在は協業に向けて話が進んでいます。何よりも担当部門の決裁者と直接やりとりができるのは大きなメリットだと感じています。

      Deputy Manager, Life & Healthcare Division
      萩野 峻介 氏

      【産業用ガス 他】岩谷産業株式会社

      タイ企業が“今”求める幅広いニーズ情報が集結

      総合エネルギーやガスを基幹とした多角的な事業を展開する弊社にとって、TJRIが提供するタイ企業の幅広い分野のニーズ情報は非常に有益です。ASEANでは強力なネットワークを持つタイの財閥系企業の存在が大きいため、域内でのビジネス拡大を加速させる協創パートナーとなるべく、TJRIを活用していきたいと思います。

      Deputy General Manager, Plastic Section
      塚本 英智 氏

      B2BマッチングプラットフォームTJRI

      〈主なサービス〉

      1. タイ企業への提案に繋がる“Open Innovation Talk”

      他社の進んだ技術やノウハウ等を自社に取り入れたい(オープンイノベーションを行っている)タイ企業が登壇し、自社の抱える課題やニーズを具体的に公開する説明会「Open Innovation Talk」をオンライン/オンサイトで実施。会員の方はこの説明会を聴講することができ、さらに有料会員の方は登壇企業への提案機会に参加することが可能です。

      2. タイ企業のニーズを知る協創機会の創出

      TJRIウェブサイト等で公開される、当社が独自の調査で掘り起こしたタイ企業のニーズを閲覧することができるサービスです。有料会員の方は、公開された企業ニーズへの提案機会を利用することができます。

      3. タイ企業との繋がり・理解を深める交流会&勉強会の提供

      日本企業がタイについての理解を深め、タイ企業との接点を持つ機会を得ることを目的として当社が開催する交流会/勉強会/研修に参加できるサービスです。また、会員はタイのビジネス関連の情報を掲載したニュースレターを受け取ることができます。

      4. タイの最新動向を毎週配信 週刊ビジネス/経済レポート

      ニュースレターを通して、TJRIの豊富なネットワークを活かしたタイの企業やビジネスの最新動向を独自の視点で毎週お届けします。

      会員プラン

      Standard(一般・個人会員):無料
      タイ企業の日本に対する要望・ニーズ、ビジネスの情報収集に関心を持っている方向け

      Business(法人会員):5,000THB/月(税抜) ※10月末までの会員登録で3ヵ月間無料!
      タイ企業のニーズにソリューションを提案、販路開拓や新規顧客を獲得したい企業様向け

      Matching(マッチング会員):50,000THB/月(税抜)
      タイ企業に個別にアプローチ、タイ企業とパートナーシップを組みたい企業様向け ※事前審査必要

      各会員サービス詳細はこちら
      https://tjri.org/


      【TJRIに関するお問い合わせ】 TJRI運営事務局 

      Email:info@tjri.org
      Tel:+66(0)2-392-3288

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          6. タイ国外への支払いにかかる源泉所得税・前編
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          7. タイの歴史の振り返りと未来展望
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          8. タイ駐在中の生活で困ることとは?解決策もご紹介
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          9. SMG(サイアム・モーターズ・グループ)
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