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タイ・ASEANの今がわかるビジネス経済情報誌アレイズ

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不動産のプロ・GDM記事

サシン経営大学院日本センター 藤岡資正所長コラム

【経営対談】Sasin×GDM:これからの経営者の在り方を考える

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      2022年はチュラロンコン大学サシン経営大学院が創立40周年を迎える記念すべき年である。 そして、タイ・ASEANの今がわかるビジネス・経済情報誌「ArayZ」も創刊10周年を迎えた。 経営者の在り方について今後どう取り組んでいくべきか、サシン経営大学院の 藤岡資正日本センター所長とArayZ発行元であるGDM(Thailand) Co., Ltd 代表取締役社長の高尾博紀が対談を行った。

      GDM (Thailand) Co., Ltd. 代表取締役社長 
      高尾 博紀Takao Hiroki(左)
      早稲田大学商学部卒業。2008年来タイ。1,200,000㎡を超えるタイ不動産取引実績を有し、企業の不動産取得支援を行っている。ホテル・オフィス用地や工場倉庫用地及びホテルやオフィス、商業施設などの事業用不動産売買に強みを持つ。「タイで最も土地取引を行う日本人」として、豊富な知見を生かし企業の投資に関するコンサルティングなども行う。
      チュラロンコン大学サシン経営大学院日本センター所長
      明治大学専門職大学院教授
      藤岡 資正 Fujioka Takamasa(右)
      英オックスフォード大学より経営哲学博士・経営学修士(会計学優等)。チュラロンコン大学サシン経営大学院エグゼクティブ・ディレクター兼MBA専攻長、ケロッグ経営大学院客員研究員などを経て現職。NUCBビジネススクール、早稲田ビジネススクール客員教授。神姫バス(株)社外取締役、アジア市場経済学会理事、富山文化財団監事などを兼任。

      中国企業に日系企業はどう立ち向かうべきか

      40周年を記念して新しくリノベーションを行ったサシン大学キャンパス内

      高尾 サシン経営大学院創立40周年、また日本センターも創設10周年を迎えられたとのこと、おめでとうございます。私たちが発行するArayZも創刊して10年になります。年々購読いただいてる方の層も広がり、読者の方から直接お声がけいただく機会も増えました。藤岡先生をはじめ、さまざまな方たちのおかげで我々は成長できていると思う次第です。

      私たちのArayZは、編集部独自の意見を書いたりすることは少ないのですが、藤岡先生を含め、有識者の方たちの声を情報発信する「プラットフォーム」としての役割を担っています。

      改めまして、本日は過去を振り返りつつ、現在、そして未来はどうなるのか。特に問題が多かったこの10年、さらにこの次の10年にあたって、個人事業主も含め、日本企業はどういう心構えでこれからの時代を迎えるべきかお話を伺えたらと思います。よろしくお願いします。

      藤岡 こちらこそ大変お世話になっております。本日は、よろしくお願いします。

      中国企業の台頭とEV産業

      高尾 早速ですが、直近、特に企業の方から一番関心が高いのが自動車産業のEVです。当社では事業用不動産も扱う中、この8〜9月にかけ中国のEVメーカーの進出がどんどん増えていて、他業界でも同様に中国企業の進出が目立ってきています。私自身、土地を売買する中で、台湾や中国の顧客の数が激増しているのを実感しています。

      2018年頃からパワフルでスピーディーな中国企業が入ってきた環境で日本企業はどうすべきか、私も含め非常に興味があります。そのあたりはどう思われますか?

      藤岡 サシンでは2008年ぐらいから各種講演や講義などでも中国企業をはじめ新興国企業との競争について取り上げてきました。つまり、現在の状況は、技術革新やコロナによって出現したのではなく、コロナ禍によって懸念していた問題が顕在化するスピードが加速してしまったということだと思います。来るべくして、来たということなのですけども、ご存じのように最近タイの街中を見ても、中国ブランドの家電や自動車などで溢れています。

      少なくともコロナ禍以前はまだ、タイの消費者は自動車に関しては日本製、あるいはヨーロッパ製が良いと答えていたと思うのですが、急速に消費者意識も変化しました。家電で起こったことが、自動車でも起こりつつあるとも言えます。

      中国企業の決定の速さとは

      高尾 中国企業と日系企業のスピードの違いはどこにあるとお考えですか。

      藤岡 まず1つは創業経営者。カリスマ的なリーダーがトップダウンで決定し、ほかはそれに従う。文化もあるのでしょうけども、日本の場合、現在はどうしてもサラリーマン経営者の方が多いので、なかなか自分の判断で大胆なリスクテイクをすることができませんし、意思決定の仕組み上どうしても時間がかかります。

      この点に関しては、経営学でもアメリカと日本との比較で日本が遅いという研究はありましたが、アメリカ企業の場合決定は早いのですが、さまざまな問題を擦り合わせる前にスタートすることがあるので、運用を始めたら問題が発生してしまい、決定後の実行に時間がかかると言われています。

      一方、日本の場合決めるまでは協議・確認を繰り返すことでコンセンサスを得るために長いのですが、一度決まるとその後はスムーズに物事が運ぶとも言われます。

      ただ現代は環境が違う。想定外のことがビジネスでたくさん起こってくるのでトライアンドエラーを繰り返しながら修正をしていくことが必要な場面が出てきます。事前に計画・議論している間にいろんな前提も変わってきてしまいます。条件や環境自体がどんどん変わってくるので、細部までしっかり計画・議論する、というようなやり方が通用しなくなってきています。

      日本のやり方とアメリカのやり方、どちらが良いということではなくて、それぞれのマネジメントスタイルっていうのは、ある環境にはフィットするし、そこのズレを修正できる経営者の力量や組織学習のスピードが大切になります。中国企業は、意思決定が早く、経営陣を中心に組織成員が夢中で働くという“がむしゃらさ”もあります。

      日本企業は今、危機に面している

      高尾 先ほどの中国企業のスピードの件ですが、私も実感した事例があります。2018年にタイ進出した台湾の大手企業の土地売買をサポートしました。進出に際して、土地を買い、買った後の工場建設までのスピードの速さに驚きました。

      特に工場建設に関しては、通常2年ほどかかるものをぎゅっと1年にまとめた。日本企業からすると、安全面を考慮し時間をかけて作るというのがあるかと思うのですが、彼らはそこの部分は目をつぶってでも生産開始までをとにかく急ぐ。

      そこで伝わってきたのは彼らの猛烈さ。工場の中に寝泊まりさえします。日本企業では近年、ワークライフバランスやコンプライアンスが叫ばれ難しいと思いますが、その台湾企業の工場には敷地内に寝室やリビングがあって、エグゼクティブ自ら24時間そこに滞在します。この猛烈さと、近年の「働き方改革」で日本はどう戦っていくのか。藤岡先生はどうお考えですか。

      藤岡 サシン経営大学院「日本センター」という名称でやっていますが、ここ数年は企業研修やコンサルティングも含めて、中国企業からの問い合わせが増えています。少なくとも表向きは、謙虚に学ぶ姿勢を示し、企業としても国の戦略としても、一貫して同じ方向を向いている。「国を良くしないと残された時間がない」ということは中国エリートの方はよく理解されており、その危機感が猛烈さにつながっているとも感じます。

      また、担当者は自分が結果を出さなければいつでも取り換えられてしまうので、「何とか結果を」という意識は非常に日本よりも強いと感じます。

      高尾 ある半導体装置のマネージャーの方がおっしゃっていたのですが、中国企業からある製品の見積りと試作機の制作依頼があり、受注したそうです。そのときは値切りもなく購入になったのですが、1年後には類似品を中国で探してきてそれを使う。金額は3分の1ぐらいなので確かにクオリティは劣るが許容範囲で、しかも安い。

      要するに市場が取られてきていることを認識しており、それがここ数年で加速していると。今はまだ日本の製造現場で日本製品のシェアが占有している状況ですが、5〜10年でシェアが入れ替わる可能性を危惧していました。

      日本のものづくりはどうしても各々の会社、「点」で戦っているような気がします。中国は国を挙げてものづくりに対する政策を行っている。要は「点」ではなく「面」で戦う、その違いはどこにあるのでしょうか。

      藤岡 業界や役割が違っても、昔の日本と一緒で「今、何とか先進国の仲間入りを果たさないと、次のチャンスはない」という意識が中国にはあります。

      先ほども述べたとおり、国民の意識が一点を向いていることは想像以上の国力になります。これが良いか悪いかはわかりませんが、「愛国心」や「プライド」が非常に強く、「自分がここで勉強できているのは国や自分のために苦労して支えてくれている家族のおかげ」と考える方が多くいます。

      昔は日本もそうであったと思いますし、自分だけのために戦っているのではないという一人一人の意識を感じます。

      EV業界の未来はいかに

      高尾 今後、またコロナ禍のようなまったく予知できなかった事態が起こるかもしれないということを前提に、企業が今後行っていくべきこと、次の5年、10年先に向けしっかり心がけておくべきことは何かというのが日系企業の皆さんが興味を持たれているところかと思います。特にタイの中でいけば、自動車産業での大きな業界構造の変化が起こり得るかもしれない。

      一方でEVが失敗する可能性もあります。そういった先行きが読めないEV業界に対して第一報として挙げることはありますか。

      藤岡 これからEVが主流になるかどうか、まだ起こっていない未来なので非常に難しいご質問ですけども、どこがスタンダード・主流になっていくのか、デファクトスタンダードを取るのかというところで、ビデオデッキや携帯電話など、今までさまざまな転換期があったと思います。

      今のビジネスマンというのは3年後、5年後を話したがりますが、全ては後になってみないとわからないと思うんですね。だけどもそういったわからない中で船を、組織を動かしていかないといけないし、その責任をすべて取るのがリーダーになります。

      本質は「EVがうまくいく・いかない」ではなくて、「社会が何を求めているか」。自動車であれば、「ある地点からある地点まで安全に快適に移動できる」、これが求められています。EVはその手段でしかない。技術的にどうであれ、社会とか顧客とか消費者が求めているものは何なのか。ここにどれだけ寄り添っていけるのかってことだと思うんですね。

      少なくとも今の時代っていうのは、企業側が価値を生み出す時代ではないということです。今までは製品を生産した企業が価値を生み出し、製品がマーケットで値段をつけて市場で交換される。お客さんが価値を認めたら買ってくれる、そこで取引が終わる。しかし、情報技術革新によって、価値創出の源泉が企業側ではなく、顧客や消費者の生活空間へ移行していく。つまり、すべてがサービスになっていくのです。

      今までは物が中心で、それに付随するサービスであったのですが、今後はサービスこそが価値の主体になってくる。そうなってくると、「物の所有権が移転した後につながりの中で価値の創造が生まれる」。どういうことかというと、価値は製造プロセスで創造されるのみではなく、これからは所有権が移転した後にお客さんがそれぞれカスタマイズして、自分の生活をより豊かにするためにこれを使っていくプロセスで価値が生み出される。

      物を買ったところで、それを何らかの価値創造に使われなければ価値が生み出されない、という考えです。

      今後を握るキー 「価値共創」について考える

      藤岡 企業として大切なのはお客さんとの接点をどう保ち続けるか。これがIoTによって可能になってきているわけですよね。Internet of Thingsですべてがつながっている状況で、いかに生活世界の中で価値を共に作っていくのか、要は「コ・クリエイションバリュー/価値共創」にあります。これがやっぱり決定的に大切になってくると思うんですね。

      今はもうIoTでつながるようになったので、お客さんがその製品・サービスを使う中にいかに入り込むのか、そこで価値を一緒に作り込んでいく。すべての企業がそうなっていくと思います。

      逆に言うと、プライシングの在り方も変わってきます。今までは企業が決めていましたが、究極のところに行くとお客さんが価値を決める。これも今までは考えなかった流れです。それがどんどんビッグデータ化され、活用され、企業側もお客さんが選べるような仕組みを設けることが技術的に可能になってきました。

      結局はビッグデータの話とかに戻ってくるんですが、EV化もそうだし、太陽光もそうだし、バーチャルリアリティーとかもそうかもしれないですよね。しかし「本質的に何を求めているのか」っていうのは事前にお客さんも消費者もわかっていないことが多いです。そこで企業と消費者が一緒に価値を作り込んでいく。

      価値の創造者っていうのが必ずしも企業、今、僕たちがイメージする組織体である必要はなくなってくる。誰もが価値創造の側になる。

      高尾 今後の日本企業が進むべき道のヒントは「価値共創」にあるということですね。

      (ArayZ 2023年1月号に続く)


      1982年設立。提供される学位の多くがケロッグ経営大学院とのジョイントディグリーである点が特徴的で、特にマーケティングとファイナンスの分野に強みを持っている。MBA、EMBA、HRM、HRMディプロマ、PhDなどの学位プログラムを有しており、正規生として毎年約700名が在籍している。

      サシン経営大学院Webサイト

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