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【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

分岐点に立つベトナムの国民車メーカー・ビンファスト

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      ベトナムのビングループ傘下の国民車メーカー・ビンファストは2019年に本格生産を開始してから3年以上が経った。当時ベトナムの国内自動車市場全体が40万台程度である中で、25万台の生産能力をもつ(設計生産能力50万台)工場を立ち上げた後は、その社名の通り想像を絶するスピードで事業展開してきた。

      名の通り急成長したビンファスト

      2021年には、ビンファストの販売台数は35,700台に到達し、わずか2年で総市場の約9%を占めるまでに至った。22年8月には、主力であったガソリン車の生産を年内に停止することを発表し、EVに資源を集中させ、欧米市場などグローバルに展開する戦略を追求する方針だ。

      ビンファストの事業モデルは、親会社であるビングループの不動産事業の収入からの豊富な資金の注入が柱となっている。不動産部門ビンホームズが開発する住宅は、充電機器などのEVのエコシステムを備えることで、住宅と車をセットで売り込む。他の自動車メーカーにはないユニークな事業モデルであり、EVに軸足を移すのもそのような同社の優位性を活用できるからだ。

      陰りがみえる主力の不動産事業と
      足元の自動車販売

      しかし、足元では陰りがみえる。肝心の不動産事業が2022年上半期に前年同期比75%減と低迷し、連結売上高は31兆6,130億ドン(約1,897億円、1ドン=約0.006円)で、前年同期比48%減となった(JETRO短信「ビングループの上半期決算、主力の不動産事業が不振」参照)。ベトナムで過去好調に成長してきた不動産市場のバブルが弾けたことで、不動産価格が下がり始めたためだ。製造業グループでは、ビンファストの事業の影響で10憶ドルの赤字を出した。21年まで急速にシェアを伸ばした自動車販売も22年4月までの自動車販売は前年同期比18.1%減の1万8,052台と急ブレーキがかかっている。

      ビングループの収益の推移(2018~2022年9月)

      対して、ベトナム自動車工業会(VAMA)の統計(ビンファストやヒュンダイ等の販売台数は含まない)では同月までの販売は前年比49.9%増の26万2,940台であり、市場でのシェアは大幅に低下している。特に足元で部品の供給問題によりEVの納車が滞っている状況にあり、サプライチェーンの脆弱性が露呈した。加えて、発売したEVではセンサーの不具合など既に3回のリコールを発表しており、ブランドに対する市場の信頼にも影響が懸念される。

      強気な海外展開

      それでもビンファストは強気である。最初に発売したEVモデルの「VF e34」に加えて、2023年までにV6~V9の5モデルを順次発売する予定である。22年4月には、米国東部のノースカロライナに20億ドルのEV工場を建設することを発表し、資金調達のために米国で米国証券取引委員会にIPOを申請した。

      また、10月のバリモーターショーでは、EV市場が拡がる欧州でもドイツ(フランクフルト)、フランス(パリ)、オランダ(アムステルダム)に支社を設置することを発表した。ここまで国際展開を急ぐ背景は、過剰投資した25万台の生産能力をもつ工場が重くのしかかっている。国内市場が40万台程度と小さい中で、余剰の生産能力は輸出で埋め合わせるしかない。

      輸出のボリュームを稼ぐには、国内市場が大きい米国と欧州が欠かせなく、それらの市場で今後伸びるEV市場に照準を合わせた形だ。

      強気な背景にはベトナム政府とある国の支援?

      ビンファストがここまで強気になれるのは、ベトナム政府の支援があることは想像に難くない。2022年3月に、ベトナム政府はEV新規優遇策を決定し、EV購入時の特別消費税と自動車登録料を減免することを決めた。また、40年には内燃機関の廃止を打ち出している。これらの措置の目的は、ベトナム政府として、同国の自動車産業が立ち遅れたなかで、市場が立ち上がったばかりのEVで主導権を取ることと、国内最大のナショナルブランドであるビンファストの支援であると察せられる。

      しかし、より注目すべきはビングループとある意外な国との関係である。11月に開催されたAPECのある場で、日本や米国が出資するアジア開発銀行の企業向けファイナンスを統括するディレクターは、筆者に「バイデン政権はビングループを支援している」と語った。同行は、22年10月にビンファストのバス事業及び充電事業に1億3,500万ドルの気候変動ファイナンスを提供することを決めたばかりだ。

      また米国の代表的なプライベートエクイティファンドであるKKRを主体とするコンソーシアムは、20年にビングループの不動産部門であるビンホームズに6億5千万ドルを投資し、6%の株式を取得している。同社のIPOにも、Citiグループなどが関わっている。米国や米国の金融資本の後ろ盾がなければ、米国市場への進出のような大胆な事業戦略はないかもしれない。

      米国としても、ビングループはベトナムを代表する財閥であり、中国への対抗上ベトナムへの協力の一環として、ビングループに肩入れすることは合点がいく。ましてや、EVに集中するビンファストは、バイデン政権が掲げる環境やカーボンニュートラルの方針とも合致している。

      しかし、より長期的な視点に立てば、ビンファストの今後の成功を決めるのは、市場すなわち消費者である。足元の供給問題や品質問題を解決しなければ、消費者の信頼は勝ち得られない。消費者の支持があってこそ継続的な資金を見込むことができる。

      ビングループの本業である不動産市況の影響で陰りがみえる中で、壮大なEV事業への賭けを今後も続けられるのか、まさに今分岐点に立っている。

      寄稿者プロフィール
      • 田口 孝紀 プロフィール写真
      • 野村総合研究所タイ
        マネージング・ダイレクター田口 孝紀

      • 山本 肇 プロフィール写真
      • 野村総合研究所タイ
        シニアマネージャー 山本 肇

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      • TEL : 02-611-2951

        URL : www.nri.co.jp

        399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua, Wattana, Bangkok 10110

      《業務内容》
      経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

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