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タイ・ASEANの今がわかるビジネス経済情報誌アレイズ

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【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

中国との連携で成長するタイ地場企業

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      最近、バンコクの街中で青色の電動バスをよく見かけるようになった。この電動バスのブランドはMINESないしNex Point。また、その電動バスを運行するのは、Thai Smile Bus。実は、どれもタイの新興財閥のEnergy Absolute(EA)の関連企業であることは、意外と知られていない。更に謎深いのは、その背後にある大国の存在である。

      バンコクの街を走る電動バスの正体

      タイ・スマイル・バスは、運輸通信省から77路線を与えられ、傘下に10社ほどの民間サブコントラクターを抱えて、バンコクと近郊を中心に運行している。同社に出資しているBeyond Securityの最大株主はEA。また、同社に電動バスを供給しているのは、EA傘下のAbsolute Body。更にそのバスのリース会社はEA傘下の会社。タイの電動バスの生産、運行、販売まで、EAに掌握されていると言っても過言ではない(図表1)。

      Energy Absouteの電動バス関連事業

      タイ6位の富豪が立ち上げたEV事業

      EAは、太陽光発電や風力発電等の再生エネルギー分野やバイオ燃料で急成長したタイの新興企業である。タイのElon Muskとも称される現CEOのSomphote氏が創業者。同氏の資産は2022年には39億バーツに達しており、Forbesの富豪リストで6位につけた。10年代に立ち上げた再生エネルギー発電事業が大成功して、20年は総売上高約170億バーツの75%を稼いだ。

      そのEAの創業者が立ち上げたブランドが、MINE。「Mission No Emission」の略称であり、文字通り、ゼロエミッション車専用ブランドである。19年3月のモーターショーでEVのプロトタイプを披露し、タイ初の国産EVを開発したことで一躍注目を浴びた。また、21年5月には同国初の電動フェリーを生産し、チャオプラヤー川で運行している。

      EAは、EVのバリューチェーンの上流から下流まで幅広く投資しており、国内EV関連事業社で先頭を行く。17年にEV充電ステーション事業を立ち上げ、民間企業として最大の1,000ヵ所の整備に投資することを発表。18年に台湾リチウムバッテリー企業のAmitaを30億バーツで買収し、当社の技術でタイで地域最大の50GWh級の工場を建設すると発表し、21年12月から1GWhの稼働を開始している。

      MINE公式Webサイトより

      廉価な中国メーカーとは競争回避

      MINEブランドでタイ初の国産EVを開発し販売するという野望は、早くも20年以降転換を迫られる。Somphone氏はタイに投入される中国メーカーが廉価なEV乗用車には太刀打ちできないことを早々に察し、その代わりに眼を付けたのはまだ競合の少ない商用車であった。中でも政府が4万台以上の老朽化したディーゼルバスを電動バスに切り替える計画があり、確実な需要が見込まれるバス事業に注目した。バスは固定路線を走っており、出発点と終着点に充電ステーションを置けばいい。乗用車と比べて、充電ステーションの普及の制約を受けにくいのである。

      20年5月に中国ブランドのバスを販売する中国系タイ人が設立したNex Pointに出資し、EAとNex Pointとの合弁で電動バス・トラックの製造会社のAbsolute Assembly社を設立した。組立工場は公称年産9,000台/2直(実力的には3,000~4,000台/1直)で、トヨタのバンポー工場の真横に建設された。バスの生産は23年4月末現在1,800台納車しており、23年末までに累計3,200台に到達する計画であり、業界トップの生産量である。

      また、バスの溶接・組立ラインとは別に、トラックのラインを設置して、タイ初の電動トラクターヘッドと12輪(8x4)のダンプトラックの生産を開始している。顧客としては、港とコンテナヤード間の短距離をピストン輸送するトレイラーや、建設現場のダンプトラック向けを想定している。

      EAの商用車事業の背後にある中国企業の存在

      自動車生産の経験のないEAグループがバスやトラックの生産・販売をいち早く参入できた要因は、第一に中国企業とのパートナーシップが挙げられる。バスは、中国の最大のバス車体メーカーである金龍客車から、トラックは大運汽車から技術支援を受けている。

      バスの生産立ち上げ時には、中国から派遣された多数のエンジニアが生産支援しており、今もラインに多数の中国人労働者が働いているらしい。中国からの技術支援で、日本のバス会社を上回る中国に次いで最大規模の塗装工場を完成しており、全長14mまでのバスを脱脂、洗浄、電着塗装までの12の工程を一貫塗装することができる。

      第二に、卓越した公共交通事業への参入戦略である。EAはコロナ禍に採算が悪化した業者から200本以上のバス路線権を買い占めたことから、路線権を貸与したバス運行会社向けに独占的にバスを供給する立場にある。

      EAは、バスやトラックより大きな市場が期待されるミニトラックやピックアップへの参入も狙っている。この分野は、昨年10月には、スズキ・キャリーとほぼ同じサイズで最大積載量1トンのEVミニトラック「MT30」を発表した。また、中国からの技術で電動1トンピックアップの生産・販売も計画している。小型商用車に対しては、政府からのEV補助金を早々と獲得している。

      日系企業との関係は希薄

      EAの成長戦略の中で、透けて見えるのが中国系企業との提携企業の深化・拡大である。バス事業会社のNex Pointの社長もタイに帰化した中国人であり、中国との結びつきが強い。サプライチェーンは、ほぼ全て中国に依存しており、タイの傘下のAmitaの工場の供給能力が十分でないことから、中国からもリチウムバッテリーを調達している。

      対照的にEAの日本企業との関係は希薄であり、日系企業のプレゼンスは低い。中国企業が次々とASEANの地場企業との結びつきを強める理由として、地場企業が求めるAgileな開発や技術支援に対し、中国企業が短期に、低コストで、しかも大きなスケールで対応できる点が挙げられる。更にその背後には、ASEANに流入する中国人の経営者や技術者がいることも見逃せない。

      EAのバス事業が短期間で立ち上げられたのも、そのような中国系企業の支援及び人的ネットワークがあったからである。

      今後中国企業の動向を見る上では、このように表の報道では見えない、地場資本を通じて流入する中国の技術、部材、人材の動向にも注視すべきであろう。

      寄稿者プロフィール
      • 三宅 洋一郎プロフィール写真
      • 野村総合研究所タイ
        マネージング・ダイレクター三宅 洋一郎

      • 山本 肇 プロフィール写真
      • 野村総合研究所タイ
        シニアマネージャー 山本 肇

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      • TEL : 02-611-2951

        URL : www.nri.co.jp

        399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua, Wattana, Bangkok 10110

      《業務内容》
      経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

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