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【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む

苦境が深まるVinFastの「一足跳び戦略」

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      VinFastは、ベトナムで2019年に自動車産業に参入して数年も経たずに米国市場に参入し、グローバルプレイヤーを狙う無謀ともいえる「一足跳び戦略」を展開している。しかし、アメリカ・ノースカロライナ州の工場の稼働が当初予定していた2024年から25年に延期が発表されるなど、同社の米国進出戦略には早くも暗雲が垂れ込めている。

      VinFastの米国進出戦略

      VinFastは、ベトナム最大の財閥Vingroupの資金力を元に、2019年にハイフォンに25万台の量産工場を立ち上げ、同グループの主力業種の不動産業・小売業から全く異業種の自動車産業に参入した。21年11月に、同社が開発したEVの生産・販売を開始し、欧米に販売拠点を設立。22年末には米国向けのEVの輸出を開始した。22年7月には、2,445億円を投じて米国のノースカロライナ州に生産能力15万台の工場を24年に設立する計画を発表している。

      筆者は過去にVinFast関係者から、同社が米国に進出するにはどのような戦略が必要かと意見を求められたことがある。これに対して、「産業保護主義が高まる中、政府からの支援やユーザーの信頼を勝ち得るには、最初の段階は輸出するにしても、米国で現地生産をしなければ本格参入は難しいだろう」と答えた。しかしこの戦略は、自国や周辺国でブランドを確立し、量産規模を確保することが前提である。米国へ進出し成功した日系メーカーはもとより、韓国系メーカーも、国内市場での高いシェアをもつことで量産規模を確保しながら輸出を開始し、徐々に米国での国内生産の比率を増やしてきた。VinFastはそのような土台作りをすっ飛ばし、ベトナムでの生産開始から程なくして米国への進出を果たそうとしている。ましてや25万台の国内生産能力を抱え、国内市場で2~3万台しか販売していないにも関わらず海外で工場を建設する計画を発表するのは、投資回収の原理からも辻褄が合わない。

      VinFastの「一足跳び戦略」の背景

      その一方で、「一足跳び戦略」の背景を探ってみると、ベトナム企業としての特有の事情が透けて見えてくる。一言でいうと、ベトナム企業には自国市場が発展してから海外に進出するというように、悠長に時間をかける余裕がないのである。ベトナムはタイを上回る海外直接投資を受け入れ、22年のGDP成長率は8%と近隣諸国と比べて高い水準に達し、急速な経済発展を遂げている。しかし、40年には人口ボーナス期が終了することを考慮すると、ベトナムにとってはこの先20年が勝負となる。それまでに、国内産業の柱となる国際競争力のある新規産業を発展させる必要がある。その新規産業の一角として期待されているのはEVであり、VinFastはベトナム政府からも支援を受けている。ベトナムの国内自動車市場は22年に50万台に到達しており、VinFastのシェアは4%に過ぎない。小さい国内市場に注力し、量産効果を得られるまで海外進出を待っていれば、その残された貴重な時間が失われてしまう。世界第二の米国市場で足場を確保し、グローバルブランドとしての認知が高まれば、ベトナム国内市場の販売や輸出の拡大にも貢献すると見立てていたのかもしれない。

      二つ目の背景は、VinFastは新興メーカーであるにも関わらず、比較的スペックが高いEVセグメントへの参入を図ってきた点だ。米国で販売するEVは、ミッドサイズSUVの「VF 8」で4万9ドル以上であり、中国系メーカーがタイなどの周辺国で投入している2~3万ドルクラスのEVと比べると割高だ。VinFastとしては、より安い価格帯が求められ、中国系メーカーと競合する新興市場への参入より、高価格のEVセグメントが中心の米国市場での競争が有利とみた。

      三つ目の背景は、以前の拙稿でも指摘した米国での政府の支援である。米国は、中国の台頭をけん制するために、新興国として成長が注目されているベトナムの産業発展に協力的である。Vingroupには、KKRなど米国系のファンドが入っている。その一方で、中国系自動車メーカーは政治的な背景から米国への進出に二の足を踏んでいる状態であり、米国から支援を受けられればVinFastに有利になる。競合が本格参入しない段階で工場を建設し、先行者メリットを享受する戦略だ。

      VinFastが直面する三重苦

      しかし、このような超楽観的な見通しに立ったVinFastの戦略は、現在、三重苦に直面している。一つ目は、国内不動産市況の悪化である。これまで、VinFastは国内不動産業で儲けた資金を自動車事業に注ぎ込んできたが、その資金源が絞られ、今後の事業維持・拡張に支障をきたす可能性がある。国内不動産市況の悪化で、自動車市場も今年は成長が伸び悩むと指摘されている。資金繰りの悪化が、米国での工場建設の遅延の要因と考えられる。
      二つ目は、22年8月にアメリカで成立した「インフレ抑制法(歳出・歳入法)」、通称IRA(Inflation Reduction Act)法である。同法では、7,500ドルのEVの補助金を得るためには、①北米(米国、メキシコ、カナダ)で生産されていること、②電池材料の重要鉱物のうち、調達価格の40%が自由貿易協定を結ぶ国で採掘あるいは精製されるか、北米でリサイクルされていること、③米国で電池用部品の50%が北米で製造されていること等が条件とされており、VinFastは補助金対象外となった。補助金を受けられる米国メーカーとの競争関係上、同社にとっては不利となる。米国での工場稼働の延期との因果関係は明らかではないが、IRA法はVinFastの米国進出戦略に影を落とすことは避けられない。

      三つ目は、EVの生産が計画通り拡大できないことである。テスラがかつて経験したEV生産地獄に直面している可能性がある。足元では、3月の国内納車台数は915台に到達し、前月の416台から伸びているが、生産拡大が品質問題や部品調達の問題で遅れている。

      急ぎすぎたツケを払う局面に陥るVinFast

      米国市場開拓のためにVinFastは多額の資金を投入しているが、米国市場での販売がIRA法の影響で伸び悩むことになると、米国事業は大きな重荷として同社ににのしかかる。国内市場も不動産市況の悪化により、不動産業からの巨額の資金注入が期待できない。VinFastにとって今後焦点となるのが、米国で計画しているIPOによる投資資金の確保である。中国系の新興EVメーカーNIOはEVの生産を開始する前に米国で上場し、10億ドルを確保するなど、新興EV企業の将来性に賭けて巨額の資金が集まっているのも事実である。世界のEV市場が22年に前年比7割増とも大きく成長していることや、VinFastが今後成長を期待されているアジアの有望企業であることは、IPOにとってプラス材料となる。

      しかしその一方で、VinFastは手っ取り早くパートナー企業から技術を買ってきたために、他の新興EV企業と比べると独自技術をもたず、サプライチェーンは外部に依存するために、市場では高く評価されない可能性がある。案の定、米国でのIPOの計画も22年末から先延ばしされている。VinFastは文字通り先を急いできたが、“急ぎすぎた”ツケを払う局面に陥ったのかもしれない。

      図表1 VinFastの戦略

      寄稿者プロフィール
      • 三宅 洋一郎プロフィール写真
      • 野村総合研究所タイ
        マネージング・ダイレクター三宅 洋一郎

      • 山本 肇 プロフィール写真
      • 野村総合研究所タイ
        シニアマネージャー 山本 肇

      • 野村総合研究所タイロゴマーク
      • TEL : 02-611-2951

        URL : www.nri.co.jp

        399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua, Wattana, Bangkok 10110

      《業務内容》
      経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

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