【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む
RCEPの自動車業界への影響

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ASEAN10ヵ国に中国、日本、韓国、オーストラリア及びニュージーランドを加えた計 15ヵ国は、2020年11月15日に「地域的な包括的経済連携協定」(以下、RCEP)に正式に署名し、22年1月から発効した。これにより、世界のGDP、貿易総額及び人口の約3割、我が国の貿易総額のうち約5割を占める地域の経済連携協定が誕生した。当協定がタイ、ASEANに展開する自動車産業への影響を考察する。
関税引下げ効果は限定的
本協定は、これまで経済連携協定(EPA)締結国ではなかった日中、日韓の間でも特恵関税が利用可能になったことが日本にとって最大のメリットである。RCEP発効後1年目に提供されるRCEP税率と最恵国(MFN)税率を比較してみると、対中国では88%の品目、対韓国では83%の品目で関税が21年から引き下げられる(MFNが既に0%の場合も含まれている)。
他方で、タイ・ASEANと日本は日タイ経済連携協定(JTEPA)、日ASEAN経済連携協定(AJCEP)が既に締結されているために、従来のEPAから上積みして確保できた関税引下げ品目は限られている。政府の資料によると、工業製品ではインドネシアでの鉄鋼製品(ばねの一部、貯蔵タンク)、タイではディーゼルエンジン部品の一部などに限られている。
タイのRCEPの税率を具体的に見ると、乗用車や商用車については20年後まで変わらない。自動車部品については、例えば乗用車用のガソリンエンジンやディーゼルエンジンは、基準税率の10%から発効後10年で0%に引き下げられるが、これはJTEPAの税率と変わらない。
今後電動化によって需要が増えると予想されるリチウムイオンバッテリーは、基準税率10%から10年ほど据え置かれ、20年後に8.5%まで引き下げられることから、税率の引き下げは余り期待できない(図表1)。
今後期待されるRCEP活用方法
これらのように、RCEPによる直接的な関税引下げ効果はあまり期待できないものの、累積国産化規則を活用することによって、より特恵関税率の適用を受ける機会が増えることが期待される。
例えば、図表2のように日系企業がASEANの拠点から中国や韓国に輸出する際に、従来は日本からの輸入原材料比率が高く、国産化率が40%に達しないために、ASEANと中国、韓国間で結ばれたFTAの特恵関税率を利用できなかった企業が、RCEPにより日本の材料も国産化分としてカウントされることで、特恵関税率の適用を受けることができる。
また、RCEPでは締結国の1ヵ国で特恵関税率が認められれば、他の締結国にも同税率が適用されることから、個別にEPA締結国・地域に申請する手間を省くことができるメリットがある。
コロナ禍以降、日本、中国、韓国を含めたより広域な地域間での最適な材料、部品のサプライチェーンを構築することが求められており、RCEPが材料、部品の輸入先の自由度を高めることはメリットがある。
また、タイやASEANの拠点の生産基盤をより強化し、自立化を高めるためにも、ASEAN域内、対日本のみならず、中国、韓国を含めたアジア広域への輸出拡大が望ましく、RCEPの活用が拠点化を後押しする可能性がある。
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野村総合研究所タイ
マネージング・ダイレクター田口 孝紀
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野村総合研究所タイ
シニアマネージャー 山本 肇
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《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
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