【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む
進むタイの自動車市場の両極化-セグメント別に見た各市場動向とは

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タイにおける2022年1~9月の自動車販売台数は、前年同期比19.1%増の63.4万台となり、コロナ以前の9割近くまで回復した。特に、SUV(スポーツ用多目的車)やピックアップの好調が顕著である一方で、半導体の供給不足やウクライナ危機の影響等が回復の足かせになっている。
継続する、世界的なSUVブーム
図表1において同期をセグメント別にみると、SUVの成長率が最も高い。
世界的にSUVブームが続いており、「トヨタ・カローラ・クロス」や「ホンダHR-V」のモデルチェンジ等、各社が新車を投入したことがユーザーの購入意欲を高めている。BセグメントのSUVでも80~100万バーツ台と比較的高額だが、購入層は所得の高いユーザーであるため、コロナ禍の影響を受けにくいセグメントと言える。
逆に、コロナ禍の影響を最も受けたセグメントは乗用車である。22年には前年比18%増と回復しているが、20年に30%減してからの販売額をまだ取り戻していない。高所得層は乗用車からSUVにシフトする一方で、都市の中間所得層が最もコロナ禍の影響を受けて低価格小型車セグメントのエコカー離れが進み、両方向から挟まれた格好となった。
エコカーはコロナ禍以前は約20万台の水準であったが、20年は15万台程度まで落ち込み、21年以降も緩やかな回復に留まっている。50~60万バーツの価格のエコカーを購入するユーザーは、自動車にギリギリ所得が届く層が多いゆえ、コロナ禍による所得減により、金融機関によるローン審査を通りにくくなってしまったことが市場回復にブレーキをかけている。
地方に戻った若者の需要で回復したピックアップ
他方、ピックアップは地方を中心とした乗用のダブルキャブ※の人気の高まり、デリバリー需要の拡大を反映した商用のシングルキャブの拡大により、ほぼコロナ禍前の水準に戻っている。ピックアップを主に使う地方農村地域のユーザーは農産物価格が上昇傾向にあり、コロナ禍の影響は比較的少ないことが影響している。
また、業界でしばしば聞かれる理由として、コロナ禍で失業した若者が地方に戻り、地元でピックアップを購入していることも需要を押し上げているようだ。さらに、ピックアップは再販価格が高くローン審査が通りやすいため、比較的所得の低いユーザーでも購入できることも理由の一つである。
※後部座席がある(4ドアタイプ)のトラックのこと。シングルは2ドアタイプ。
コロナ禍によるソーシャルディスタンスと中古車需要の拡大
タイでもコロナ禍以降のソーシャルディスタンスの傾向から、公共輸送から自家用車へのシフトが進んでいる。通常であれば、低価格のエコカーの需要が増えるはずであるが、より中古車市場需要の拡大に繋がっているようだ。その背景として3つの要因がある。
1つ目は、新車より2〜3割安い中古車の方がローンを組みやすいこと。2つ目は、半導体の供給不足により、好きな新車が購入しにくくなっていること。3つ目は、コロナ禍以降、ECの利用が増えたことに背景に、CARSOMEやCARROなどのB2Cのオンライン中古車販売が普及し、中古車を購入し易くなったことが挙げられる。
高級車ではポルシェの 販売が倍増
上記のトレンドと対極的なのは、高級車市場の急成長である。250万バーツ以上の価格帯のモデルが中心のメルセデス・ベンツやBMW(MINIを含む)の販売は、合計で3割以上の高い伸びを示している。また、2021年のポルシェの販売が1,400台近くに届き、前年比で倍増しており、異常な事態となっている。
市場でベンツやBMWの販売が増えたことを嫌って、一部の富裕層がポルシェに乗り換えたためである。税優遇を受けられるPHVやBEVなどの投入により、車両価格が下がったことも影響しているが、タイでも高所得層が着実に増え、所得格差が拡大していることを如実に示している。
市場の両極化の進展
以上のようなセグメント別動向から、SUVをはじめとした中高価格帯の車種・モデルへの上方シフトと、中古車を初めとする低価格車への下方シフトで、市場の両極化が進展していることが分かる。
その主な要因として、コロナ禍で一層拡大した所得格差である(図表2)。中間高所得層は信用が高いために、低額の頭金、低金利ローンを受けやすく、より上級の車種・グレードにシフトしている。タイで最近最も売れるのが、同じモデルでも上級グレードであるのはそのためである。
また、今年になって販売が急増しているEVを購入しているのも新しいテクノロジー好きの中間高所得層であり、世帯内の2台目、3台目としての増車が多いとみられる。逆に、中間所得層以下はローンを受けにくくなり、その一部は中古車市場にシフトしている。
以上のような市場の両極化に対応して、日系メーカーとしては、シェアを維持するためには、中所得層の上級志向に対応のために安全機能などより新しいテクノロジーを搭載した上級車種・グレードを投入する反面、日系独壇場であったエコカーなどのBセグメントなどでの魅力的かつ手頃な価格の製品投入が求められている。
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野村総合研究所タイ
マネージング・ダイレクター田口 孝紀
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野村総合研究所タイ
シニアマネージャー 山本 肇
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《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
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