【野村総合研究所】タイ、アセアンの自動車ビジネス新潮流を読む
PTTが進める全方位的なEV関連バリューチェーン戦略

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今年3月23日から12日間にわたり開催された「第43回バンコク国際モーターショー」で、タイ国営会社PTTの関連会社ARUN PLUSはEVのプロトタイプを初披露した。
加えて、PTTのEV受託生産事業の合弁パートナー・鴻海(ホンハイ)精密工業(FOXCONN、以下鴻海)による新モデルの他、バッテリー充電サービス、二輪バッテリー交換、EVレンタカーといった事業が紹介され、国営会社による全方位的なEVバリューチェーン戦略が急展開していることを印象づけた。

モーターショーで公開されたPTTグループのEVプロトタイプ
PTTと鴻海の合弁による受託生産事業
PTTは石油の採掘や石油精製、石化コンビナートからガソリンスタンドまで手掛ける総合エネルギー企業であるが、化石燃料事業への依存から脱却するために、EVのバリューチェーンへの全方位的な展開を本格化している。2021年には関連会社を次々と設立し、ビジネスモデルを固めてきた。同グループでEVにおけるバリューチェーン事業の中心となるのが前述したARUN PLUSであり、その他にGPSCがリチウムバッテリー事業、PTT Global Chemicalが材料などを担当する予定だ。
ARUN PLUSの中核となるのが、鴻海とのEV受託生産事業であり、24年までに生産能力5万台の工場を建設し、30年には15万台まで拡大する算段だ。また21年に立ち上げた関連会社EVME PLUSを通し、EVのレンタルカーサービスやEV関連のアプリケーションを提供する。さらに同社主導により、2,000以上あるPPTのガソリンスタンドにPTT関連会社ONIONによる充電ステーション、二輪のバッテリースワップ「Swap & Go」などを展開していくという。
EV生産委託事業の狙い
鴻海とのEV受託生産事業は、タイにおけるEVの販売・生産・輸出を計画しており、新規参入メーカーに対して鴻海が開発したプラットフォームと受託生産サービスを提供することで、右ハンドル車のEV生産の受け皿になることを目指す。生産ボリュームが比較的小さいEVメーカーにとっては、最低限の投資と最短のリードタイムで現地EV市場に参入できるなど生産・投資効率を高める上でのメリットは大きい。
なお受託生産のビジネスモデルは、鴻海がアップルなどの電子機器委託生産で培ったノウハウを活かすことができる。現地誌によれば、最初の受託生産事業として、中国系の合衆新能源汽車から小型EVモデル「Neta」の生産が検討されている。「Neta」は鴻海のMIHプラットフォームを基盤に開発される予定だ。
このビジネスモデルは、受託生産サービス料が収入の大半を占めることから、いかに高い稼働率で安定的に生産できるかが事業の成功のカギとなる。つまり工場への投資を回収するには、いかに多くのメーカーから受託生産してボリュームを確保できるか、いかに受託した多様なモデルを効率的に生産できるかが重要になる。
iPhoneの受託生産事業のように単一の製品の大量生産に強みを持つ鴻海の真価が問われる。その一方で、PTTグループによるEVバリューチェーンとの関わりは引き続き注視したい。タイ政府による、30年までにEV比率を30%に引き上げる「30@30」といったEV戦略の要になることは確実だろう。
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野村総合研究所タイ
マネージング・ダイレクター田口 孝紀
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野村総合研究所タイ
シニアマネージャー 山本 肇
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TEL : 02-611-2951
URL : www.nri.co.jp
399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua, Wattana, Bangkok 10110
《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション
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