【インドネシア】「視界不良」続く首都移転=複数リスク抱え発車(ジャカルタ支局 榊原 康益)

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インドネシアの首都をカリマンタン島東部に移転させる事業が始動した。ジョコ大統領の「レガシー(遺産)」づくりに国会がゴーサインを出し、現地で地鎮祭も行われた。
だが、肝心な資金確保が難航している上、複数の事業中止リスクを抱えており、「視界」は晴れないままだ。
見切り発車
首都移転の方針は、ジョコ大統領が2019年、再選された直後に表明した。新型コロナウイルス対策で財政が悪化したこともあって事業の頓挫がささやかれたが、移転を認める法案が今年1月18日に可決。2月15日に施行された。
3月には新首都の運営を担う行政機関「ヌサンタラ(群島)首都庁」を設立し、トップを任命。森林内の予定地で、大統領や閣僚、全国の知事が集まって地鎮祭を執り行った。インフラ整備も着手されたが、資金面の問題を先送りにした「見切り発車」の側面が色濃い。
政府は当初、事業費を466兆ルピア(約3兆8800億円)とし、このうち8割を国費以外でまかなう方針を示した。だが、1月に国会の予算委員長が「600兆ルピア」に膨らむと明かした他、政府の公式サイトが国費の割合を「53%」と一時記載。さらに、新型コロナ対策予算の一部を首都移転に流用するか否かで、主要閣僚が180度異なる見解を示した。
事業費がいくらで、どう確保するのか。統一的な見解は今も示されず、ゴタゴタ感が目立つ。政府は民間企業や外国に出資を期待するが、投資を決めた企業や国は現れていない。地鎮祭が行われる前日には、有力な出資元とみなされていた日本のソフトバンクグループ側の「投資見送り」が判明。地元メディアが連日大きく報じた。
次の大統領は…
移転反対の動きも増している。
「新型コロナ禍での移転は不適切で緊急性がない」「一部の者を利するだけだ」。イスラム団体の元トップやエコノミストら著名人45人がネット上で始めた反対署名運動は、1ヵ月で約3万5000筆を集めた。
国立アンダラス大学の政治専門家アルディ氏は、時事通信の取材に「首都移転は24年の大統領選で争点になりうる」と指摘した。世論調査で首都移転が民意の支持を得ているとはいえない中、「有権者の共感を得るため、論点として持ち出される可能性がある」と分析した。
ジョコ大統領は現在2期目で、憲法は三選を禁じている。次の大統領が移転に反対だったり後ろ向きだったりする場合はどうなるのか。国家開発企画庁のスハルソ長官は今年1月、出席したテレビ討論番組で、移転法が次の政権で差し替えられる可能性を否定しなかった。
法的にも問題視されている。地元メディアによると、移転法に対する違憲審査が少なくとも4件、憲法裁判所に申し立てられた。
憲法裁といえば、昨年11月にジョコ政権の看板政策「雇用創出法」を違憲とした判決が記憶に新しい。判決が違憲として挙げた三つの理由のうち、「国民への公開が不十分」はそのまま首都移転法に当てはまる。この他、「ヌサンタラ首都庁の形態は憲法に反する」との指摘も有識者から出ている。 財政、政治、司法。あらゆる面から首都移転は急制動・転回される恐れがある。
※この記事は時事通信社の提供によるものです(2022年3月24日掲載)
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