【シンガポール】外国人「歓迎」から「選別」へ=40代半ばなら月収100万円以下だとビザ門前払い

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シンガポール政府の外国人受け入れ姿勢が近年、大きく変化している。経済発展の原動力として幅広く歓迎する政策を転換。就労ビザの給付基準を急速に厳格化して取得しにくくし、ほしい人材や労働力のみ選別する姿勢を強めている。日本人駐在員からも「外国人にビジネスフレンドリーだったシンガポールは過去のもの」との声が漏れる。(シンガポール支局・新井佳文)
ビザ発給最低額を引き上げ
政府は2022年9月1日から、会社員向け「EPビザ」の発給基準を一段と引き締めた。最低月収は月額5,000シンガポールドル(以下ドル、約50万円)に。段階的に引き上げられており、01年当時の2倍、14年に比べ1.5倍になった。
最低額は年齢に比例して、学歴の高さに反比例(名門大卒業なら優遇)して上がる仕組みで、40代半ばで1万500ドル(約105万円)ほどになる。現地給与(所得税は別途。日本国内給は対象外)が年収1,200万円以上ないとビザがもらえない計算になる。金融業ではさらに高い給与基準が課される。
ある日系企業がビザ厳格化に伴う人件費増大に耐えられず、撤退を決めた。顧客に日本人が多いため、日本人駐在員に加えて現地採用の日本人もEPビザで雇用していた。しかしEPビザは「高給取り」限定となり、駐在員配偶者も制度改定で働きにくくなったため、事業継続を断念したという。多くの日系企業で、駐在員数を絞り込んだり、これまで以上にローカル人材の活用を進めたりするなど人事戦略の再考を迫られている。
出稼ぎ労働者と金持ち外国人は優遇
政府は一律に外国人に門戸を閉ざそうとしているわけではない。工場や飲食店で働くマレーシア人、建設現場のバングラデシュ人、メイドとなるフィリピン人やミャンマー人といった出稼ぎ労働者は引き続き歓迎。地元民に不人気な職種では労働力が不足しており、地元雇用を奪われる恐れがないからだ。ITなどの高度な技能を持つ人材や、多額の資金を持ち込んでくれる富裕層も大歓迎だ。
リー・シェンロン首相は8月、「世界で優秀な人材の争奪戦が始まっている。シンガポールも後れを取ってはならない」と力説。月収3万ドル(約300万円)超の高額所得者や「世界的トップ人材」を優遇するビザを23年1月に導入することが決まった。
高まる国民優先主義
「建国の父」リー・クアンユー初代首相(1923~2015年)は、外国人や外国企業を積極的に誘致し、驚異的な国家発展の起爆剤にした。その戦略は奏功した半面、人口(約545万人)に占める外国人比率は4割近くに膨張。「高給な職が外国人に奪われている」といった排他的な声が国民から上がりやすくなった。対策として政府が近年打ち出したのが「シンガポーリアン・コア政策」。
労働力の3分の2以上を国民・永住者が占めるよう企業に呼び掛ける国民優先主義だ。EPビザの厳格化もその一環だった。強権でカリスマ性もあったクアンユー氏亡き後、一党支配を続けてきた人民行動党(PAP)の求心力は徐々に弱まっている。世論に敏感に配慮せざるを得なくなったことも、コア政策推進の一因とみられる。新型コロナウイルス流行の初期には、経済活動の停滞で雇用情勢が急速に冷え込んだこともあり、政権幹部までが「解雇するなら外国人から」と差別的に主張した。
ただ、排他的なイメージが広がることも政府は警戒。クアンユー氏の長男であるリー・シェンロン現首相は繰り返し、「外国企業が歓迎されていると感じられる環境を保つ必要がある」と訴え、外国人にオープンなイメージの維持に腐心している。
※この記事は時事通信社の提供によるものです(2022年9月16日掲載)
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