【インドネシア】最高裁裁判官らの逮捕相次ぐ=調査官含め3事件で5人

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インドネシアの最高裁判所の裁判官が9月以降、相次いで収賄容疑で逮捕された。調査官を務めていた裁判官を含めるとその数は何と5人。日本で万が一こんなことが起きれば報道各社は取材合戦を繰り広げ、しばらく騒ぎが続くと思われるが、この国の住民は至って冷静だ。 (ジャカルタ支局 曽根洋一郎)
判決、次々覆る
インドネシアも日本と同様、基本的に三審制を採用しており、最高裁の下に通常裁判所として高等裁判所と地方裁判所があるほか、宗教、軍事、行政、憲法裁判所が設けられている。最高裁の裁判官は日本の3倍以上、51人いる。
事件が最初に発覚したのは22年9月。特別捜査機関の汚職撲滅委員会(KPK)が、担当していた民事訴訟絡みで賄賂を受け取ったとして、最高裁の裁判官スドラジャド・ディムヤティ容疑者らを収賄容疑で逮捕した。受領金額は8億ルピア(約680万円)、職員ら5人の分も含めると22億ルピア(約1,870万円)にも上る。5月に贈賄側の主張通り、下級裁の判断を覆す判決を言い渡していた。
KPKはこの事件をきっかけに次の案件に着手。11月下旬には先の民事訴訟で被告だった会社の経営者の刑事裁判でも不正が行われた疑いがあるとして、担当していた最高裁の裁判官ガザルバ・サレフ容疑者を収賄容疑で逮捕した。経営者は地裁段階では無罪となったものの、最高裁で禁錮5年を言い渡されていた。
12月19日には、別の民事訴訟絡みで最高裁調査官が収賄容疑で逮捕された。一方の当事者から37億ルピア(約3,100万円)を受け取り、判決に影響を与え得る立場を利用したとの疑いを持たれている。
調査官は少なくとも10年以上の経験がある裁判官が就くポストで、最高裁の裁判官を補佐する役割を担う。最初に摘発された二つの事件でも、最高裁裁判官と共に調査官がそれぞれ1人ずつ逮捕された。身柄を拘束された事務員も計5人に上る。
「お金には勝てない」
最高裁が蜂の巣をつついたような騒ぎになりそうな事件が秋以降、続いているわけだが、新聞は淡々と事実を伝えるだけ。テレビは警察幹部が部下を公邸内で射殺した事件の裁判の進捗状況を連日、法廷の中継映像などと共に流し続けており、裁判官が逮捕されたことは短く報じただけにとどまっている。
こうした状況について、首都ジャカルタ市内のオフィスで働くあるインドネシア人男性は「汚職はよくあることだから、驚かない」と素っ気ない。別のインドネシア人男性は「お金の力には勝てないから」と裁判官に同情するような反応を示す。
「国をリードする立場にあり、社会の模範にならなければならない人たち。収入も保証されているのでは」との問い掛けにも、答えは変わらなかった。
ジャカルタで働いていた経験がある日本人男性は「インドネシアの司法が、過去の判決を基に判断する判例法主義にならない限り、こうした事件は続く」と断言する。「判決を金で買うようなことが横行する社会でいいのか。インドネシア人自身が考えなければならない時ではないか」と訴えた。
※この記事は時事通信社の提供によるものです(2022年12月27日掲載)
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