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EV業界企業交流会-SAICモーターやGWMなども参加(TJRI × タイ電気自動車協会(EVAT) )

知り・学び・協創するタイ日プラットフォームTJRI(運営会社メディエーター)は7月18日、タイ電気自動車協会(EVAT)と共催で「EV業界の日タイ企業交流会」をバンコクで開催した。

日系企業と地場企業の合計65社、90人以上が参加。タイが東南アジアの電気自動車(EV)の生産ハブになることを目指し、EV業界のネットワークの拡大を図ることが狙いだ。交流会では、EV関連事業の講演が行われ、SAICモーター・CPや長城汽車(GWM)タイランドなどタイのEV産業を牽引する中国系の大手自動車メーカーもゲストスピーカーとして登壇。

冒頭でEVATのクリサダ会長は、タイの自動車生産台数と電気自動車の登録台数を紹介し、2022年にバッテリー電気自動車(BEV)の登録台数が急増した背景を「政府のEV補助金政策が後押しした」と説明。引き続き今年もBEVの登録台数は増加傾向にあるとの見通しを示した。さらにEV充電ステーションは、タイ全土で1,400ヵ所以上、4,600以上の充電器があり、18台の自動車あたり1台の充電器が設置されていると述べた。EV充電ステーションの開発には政府の支援策が不可欠であり、今後も政府に働きかけながら充実を図る考えを示した。

SAICモーター・CPのスロート副社長は、「タイ国内のサプライチェーンの促進のためにも現在輸入に頼っているEVの主要部品の国内生産を目指す」と述べた。一方で、「現在の支援策は25年までと限られており、EVの生産体制を整える上での技術的な課題がある」ことを強調し、より実現可能な政策導入を政府に求める必要性を指摘した。

前進党の交通担当スラチェート氏は、EVの支援は今後も必要であるとの考えを示した上で、「EV政策は渋滞や排気問題、事故、干ばつなど様々な問題とともに考慮すべき側面の一つであり、限られた予算の中で、他の政策とのバランスをとりながら国家の利益を最優先にして進めるべき」と訴えた。

長城汽車(GWM)セールス・タイランドの渉外・政府担当副社長カンチット氏は、輸入関税免除の恩典により、現在は完成車をタイに輸出する中国メーカーが有利であるとした上で、タイのEV生産ハブ化について「すでに生産体制を持つ中国や欧州、日本の自動車メーカーらがEV促進プロジェクトに参加しているが、いつEV生産を開始するかが重要だ」と指摘した。また、「過去に日本の自動車メーカーが部品調達の輸入関税を巡り、高額な追徴課税を課せられた事例もあり、関税免除で海外から部品を調達するメーカーは高いリスクを伴う」と述べ、タイ国内生産の重要性を強調した。

この他、タイ石油最大手PTT傘下でEV関連事業を手掛けるアルンプラスやEVMEプラスが登壇し、EV事業の展開状況とEVエコシステムの戦略を紹介した。

本イベントの企画及び司会進行を務めたメディエーター代表のガンタトーン氏は、共催のEVATに感謝を述べた上で、「今回の中国企業も交えた交流会が、EV生産のハブを目指すタイの自動車産業の活性化において一役を担えたら幸いだ。今後も日タイのビジネスの発展に貢献できるよう価値を提供していく」と意欲を示した。


TJRIの今後の開催イベントについてはこちらをご覧下さい
https://tjri.org/event/

日タイのファミリービジネスの展望(JETRO × チュラロンコン大学サシン経営大学院セミナー)

日タイのファミリービジネスの展望
〜 タイのファミリービジネスと日本企業の連携の可能性 〜

SCGグループ最高経営責任者、サシン経営大学院元学長など パロン・イスラセナ・ナ・アユタヤ氏

2023年6月27日、チュラロンコン大学サシン経営大学院にて「日タイのファミリービジネスの展望」セミナーがJETRO共催のもと開催され、在タイ日本人ビジネスマンや明治大学ビジネススクール生など約270名が参加した。SCGグループの最高経営責任者やサシン経営大学院の学長、タイ国国家経済社会開発委員会(NESDB)など多数の企業や政府組織で要職を歴任したパロン・イスラセナ・ナ・アユタヤ氏をスペシャルゲストに迎え、著名なスピーカーたちがタイのファミリービジネスと日本企業の連携をテーマに講演した。

サシン経営大学院学長 イアン・フェンウィック氏

主催者であるイアン・フェンウィック学長は、日本がタイにとっての重要な投資パートナーであり、両国間の持続的な関係を築いてきたことに言及し、「両国のビジネス交流を促進する機会を提供できることを嬉しく思う」と述べた。

ジェトロ・バンコク事務所長 黒田 淳一郎 氏

JETROバンコク事務所黒田淳一郎所長は、日本企業のタイ進出支援にも尽力してきたパロン氏からタイと日本の協力の歴史について伺える機会に感謝するとともに、日本ではあまり馴染みのないファミリービジネスを知ることで、「日本企業がタイに根ざし、日タイの企業の発展になることを願う」と期待を示した。

サシン日本センター所長、 明治大学ビジネススクール教授 藤岡 資正 氏

サシン日本センター所長・明治大学ビジネススクール教授の藤岡資正教授によれば、北米の上場企業の約2割がファミリービジネスなのに対し、日本は約5割、タイは約7割にのぼり、北米に比べファミリービジネスの比率が高い。彼らの特徴として、第一優先が事業承継であり、タスキを繋いでいくことが高次の目標だと駅伝に喩えて解説した。

バンコク銀行 執行副頭取 小澤 仁 氏

その後、タイのファミリービジネス企業との付き合い方についても実務家から講演が行われた。バンコク銀行の執行副頭取である小澤仁氏は、日本側もタイ側もお互いにビジネスパートナーとの意思疎通に課題を感じている現状を伝え、タイ社会では役職などにとらわれず人と人とのつながりが重要であると強調した。

Thai Kikuwa Industries 代表取締役社長 菊池 英之 氏

日本に約80人、インドに約220人、タイに約1,000人の従業員を抱えるThai Kikuwa Industriesの代表取締役社長菊池英之氏は、アジアに複数拠点を持つ企業の経営戦略や人材について語り、日系ではなくアジアの会社となるため変化に強い企業を目指すとした。

パーソネルコンサルタント 代表取締役 小田原 靖 氏

パーソネルコンサルタント代表取締役社長小田原靖氏は、日系企業におけるタイ人採用の歴史について紹介した。1990年代はマネジメント層は日本人だけで、働き手としてのタイ人採用だったものが、2000年代以降はタイ人のマネージャーや幹部の登用が進み、さらにコロナの影響で、タイ人が社長職を務めるなどの変化が起きている。その一方で、中国企業の進出に伴い、日系企業の人材確保が難しくなっていることにも言及した。

小田原氏は、日本企業がタイで成功するためには、企業理念などよりも良好な関係構築や意思疎通が重要だと語った。

セミナーは盛況のうちに終了し、日タイのファミリービジネスの連携が今後ますます強まることが期待される。

 

ASEANシフトが進む昨今、新たなる舞台での変革 ベトナム市場のポテンシャル

監修 三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱
  • Managing Director 池上 一希 プロフィール写真
  • Managing Director
    池上 一希

    日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に当社入社。大企業向けの欧米、中国、アセアン市場での事業戦略構築案件を中心に活動。18年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等のテーマに取り組む。


  • Senior Consultant Pareena Wongsukkasem プロフィール写真
  • Senior Consultant
    Pareena Wongsukkasem

    財務省財政政策事務所にてASEAN諸国マクロ経済、経済政策分析を経験、2018年にMURCタイに入社、タイ及び周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、マクロ経済分析などの業務を担う。


  • Associate 池内 勇人 プロフィール写真
  • Associate
    池内 勇人

    製造業全般の現場管理サポート、業務効率化サポートや新工場立ち上げなどを経験。2021年にMURCタイに入社、タイをはじめ周辺国へのビジネス展開支援、市場調査、企業ベンチマークなどの業務を担う。

第1章 ベトナムのマクロ環境 – 執筆者:池上 一希

1.再考される中国事業、東南アジアへの影響

アメリカのシンクタンク、ユーラシアグループが2023年1月3日に公表した世界の重大なリスクを占う「Top Risks 2023」において、アジアで一番影響が大きいのは第2位に挙げられた「『絶対的権力者』習近平」であろう(図表1)。同社は追加的に、米中デカップリングと日本の関係性について独自の検証を加えるなど、本テーマを重要課題と位置付けている。

2023年の「世界の10大リスク」

一方で、今年に入り3つのイベントが日本企業への投資マインドに大きな影響を及ぼしている。2月のアメリカにおける中国気球撃墜事件、3月の全国人民代表大会(全人代)における習近平氏の国家主席への3選と権力集中への懸念、同月中旬に起きた「反スパイ法」違反の疑いで邦人が拘束された事案である。これらの動きは従来から問題意識が持たれていた日本企業にとって、中国事業の在り方の再考とサプライチェーン再構築を進めることになるだろう。

図表2ではサプライチェーン検討において挙げられる外部環境をまとめている。その大半は中国を起因としたものであり、グローバルビジネスによる多極化の推進はますます重要な経営課題となる。具体的には、米半導体大手マイクロン・テクノロジーは技術流出防止の観点から22年年初に上海に設置しているDRAM設計部門のうち研究開発センターについて中国からの移転を公表した。

多極化の観点で、東南アジアの利活用を検討する企業も増えている。ソニーグループは足元でカメラの世界における中国での生産体制を再編し、日米欧向けに輸出する分をタイに移管し、中国の工場は原則、中国国内向け製品のみの生産という棲み分けとした。また、トヨタグループはタイ地場大手財閥CPグループとの脱炭素に関する提携推進を重点施策として進めている。22年12月の両グループ首脳陣の意向表明から約4ヵ月というタイトなスケジュールで基本合意書までこぎつけており、同グループのASEANにおける戦略的重要性の意味合いが高まっていることを感じさせる。

サプライチェーン再構築の主要論点(仮説)

2. 変化するベトナムのポジショニング

このようなASEANの環境の中でも、最も注目を浴びているのがベトナムであろう。アメリカ米民主党政権下で、初の閣僚級の東南アジア訪問となった21年7月のオースティン国防長官、翌月のハリス副大統領のASEAN歴訪ではシンガポールと並びベトナムは訪問国として選ばれ、同国にとりベトナムの戦略的な重要性が示された。また、同様に中国の閣僚も域内ではベトナム首脳との面談を頻繁に行っており、ASEANをめぐる両陣営の綱引きにおいて重要なエリアとなっている。

企業活動においても同様である。10年前後より「世界の工場」である中国における人件費の高まりにより、チャイナ・プラスワンという観点で中国から周辺国、特にベトナムへの産業移転が進んでいる。代表例として電気電子大手・韓国サムスンは、従来韓国や中国でスマートフォンを集中生産してきたが、韓国の一部の製造機能を除きその機能の移転をベトナムへ進め、19年には中国から製造機能を完全移管した。また、コロナ禍以降はGoogleやFoxconnなどが中国からベトナムへの移転を進めている。

日系企業も同様である。図表3はASEAN域内主要国であるタイ・インドネシア・ベトナムを比較したものだが、GDPの成長性、海外直接投資の規模、日系企業の進出数の伸び代でベトナムに優位性が見られ、同国の位置付けが高まっているのがわかる。

域内主要国比較

足元、ベトナム投資が活発な理由として図表4「ベトナムの魅力」の通り5点が挙げられる。

ベトナム市場の魅力

日系企業だけではない。ASEAN域内の地場大手企業、投資ファンドも同国への投資を活発化させている。例えばタイの上場企業の海外投資のトレンドを見るとASEANが最も多く、15年に海外投資した192社中152社、19年には232社のうち191社がASEANに投資している。CLMVへの進出がそのうち8割近くを占めているが、中でもベトナムが首位となっている。

また、タイ地場財閥で小売り大手のセントラルグループはベトナムを最重要市場と位置付けており、グループCEOのトス・チラティヴァット氏は「われわれは、毎年10%超の成長を続ける国内総生産と9,300万人超の人口を有するベトナムの経済規模に、強いビジネスチャンスを感じている」と述べている。

少子化が今後進み、横ばいが見込まれるタイ国内事業を補完するためにも、21年だけで66億バーツかけて5店舗の新規展開を行う。さらに小売りの各業態のM&Aも積極的に進めフルセット型の小売りフォーマット業態での展開を図り、第2の創業の地としてベトナムを位置付けているように見受けられる

COLUMN ベトナム第8次国家電力マスタープラン(PDP8)

PDP8の概要

現在ベトナムにおいて最も注目されている政策の一つが「第8次国家電力マスタープラン(The 8th Power Development Plan:以下PDP8)の公布である。PDP8は国家のエネルギー計画の柱となるものであり、ベトナム国家の再生可能エネルギーの普及と安定した価格での導入を決める重要な計画としてエネルギー事業者への影響も大きく、注目度が高い。本来であれば2021年から30年までの計画になるはずであったものが大幅に遅延していたが、23年5月15日を以て正式に公布が決定した※1。
PDP8の特徴として、もともと21年に発効予定だったこともあり、2年の遅れを取り戻す意味合いも含め意欲的な電源開発プロジェクトが盛り込まれていることが挙げられる。またベトナム史上初の再生可能エネルギーを最優先事項として掲げた電源開発計画となっている点である。その比率は30年までに発電量全体の30%から39.2%、50年までに70%前後とする目標を設定、そのメインの電源には洋上風力を掲げており、30年までに約600万kW相当を開発するとしている。また、石炭火力発電からの依存の脱却を大きな課題として挙げている点も特徴として挙げられる。2016年に承認された「第7次国家電力マスタープラン」(以下「PDP7」)の改定版にて既に計画中の案件以外での新規開発の凍結を発表。一方で石炭による環境負荷を軽減すべく既存の石炭火力発電所の燃料をより環境負荷が軽い天然ガスへの転換するなどの施策も挙げられている。

送電網の整備という課題

更に既存のエネルギー計画であるPDP7の反省として、複数の再エネ案件が点在する形で開発されたことにより、効率的な送電網の整備が追い付かなかった反省が挙げられる。結果として送電網全体の逼迫が深刻な問題として取り上げられている為、PDP8では電源開発において発電所のみならず、送電網の拡充も視野に入れた計画となっている。全投資計画の内の28%を送電網への投資とすると計画している点も特徴である。

PDP8が正式に決定した後でもエネルギー分野を管轄する商工省としては、多くの案件を30年までに承認することは脆弱な電力網に対し過剰な電力供給を引き起こすと見ている。しかし、一部の稼働及び売電契約上で稼働させないと事業者から訴訟による法的リスクがある為、そういった案件に関しては30年以前の商用発電(COD)の許可を行わざるを得ないのが実態である。この点については今後ベトナムのエネルギー分野における一つの懸念点として挙げられよう。

PDP8公布により再開が期待される投資

また、本計画の公布が遅延が発生した背景としてベトナム国内の政局なども挙げられる。13年より汚職防止中央指導委員会は政府傘下の委員会から共産党傘下の組織になり、「聖域なき反汚職闘争」と銘打った闘争激化に繋がった。なかにはエネルギー系企業の元役員の高官の解任なども含まれ、22年だけでも高官党員の交代が複数続いている。これにより意思決定者の不足と各種プロジェクトの停滞が各分野で続いている状態である。

また、個別案件レベルでもPDP8公布の遅れによる影響は出ている。たとえば、ベトナムが注力する洋上風力の開発プロジェクトも無期限延期となっており、T&T Groupのグエン・チー・チャン・ビン氏はVietnam Investment Review紙23年3月9日掲載の記事※2にて「PDP8が保留になっている現状を考えると、(当初の予定の)30年までの7GWの洋上風力発電の開発は困難になる」と述べ、「予定地の沖合や海上などの洋上風力に必要な実地調査や風力評価なども布告「11号/2021/ND-CP」の承認保留により、企業や個人による海上・海中資源の活用を妨げられている」と懸念を表明していた。

今回のPDP8公布により日系企業を含めたエネルギー分野の各事業者や投資家は改訂PDP7より持ち越された案件などへの投資検討を再開することが予想され、停滞していたエネルギー分野での投資が再び活発になることが期待される。

PDP8の発電容量の計画

3.今後の有望分野と参入課題

今後、同国において有望な分野はどこになるのか。2023年の4月には人口が1億人を突破するベトナムにおいては、内需分野をはじめ、どの分野も有望といえるが、有力投資ファンドのベトナムへの投資事例を俯瞰してみると、金融、エネルギー、不動産などの分野が主である。加えて、今後国民1人当たりGDPも増加傾向にあり、さらなる内需拡大が見込まれる小売りやECやフィンテック、教育分野なども浮かび上がってくる(図表6)。

直近のベトナムにおける主な外資投資ファンドによる投資事例*

例えば、日系においても近年小売り分野ではアパレルや、雑貨などの投資事例が見られ、活発な日系企業の投資意欲が見て取れる。具体的な投資事例としては、ユニクロが19年12月にベトナム初店舗を、良品計画が20年11月にホーチミンに1号店をオープンさせた。

また、エネルギー分野における投資も活発である。ベトナム政府は50年までの温室効果ガスの排出量実質ゼロ(カーボンニュートラル)を目指しており、脱炭素に向けた施策を進めている。日系企業各社もこの分野での投資は活発である。ENEOSはベトナム最大手の国有石油製品販売会社Vietnam National Petroleum Group(ペトロリメックス)への出資により川上のLNG調達から川下の小売りまでの一気通貫を図っている。同時に、エネルギー大手JERAも再生エネルギー事業者に出資するなど日系企業の投資も活発化している。

一方で、参入における障壁もみられる。国際協力銀行による「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告」によると、日系製造業各社の同国における課題として上位に上がるのは「法制の運用が不透明」「他社との厳しい競争」「労働コストの上昇」「管理職クラスの人材確保が困難」などが挙げられる。法規制の運用については、例えば前述のエネルギー分野においては国家エネルギー政策であるPDP8の施行が遅れに遅れており、政府の方向性・許認可姿勢が不透明な中、企業の投資活動が停滞している傾向も見られる(前述コラムPDP8参照)。

参入課題 - M&Aを積極活用し参入

また、裾野産業の未成熟による現地調達率の低さからくる原材料・部品調達、物流コスト上昇による近年の業績悪化も在ベトナムにおける企業活動においては悩みの種である。人件費は域内では依然として安価なものの年率5-6%で上昇しており、今後は労働集約型のモノづくりから、より付加価値を意識したラインナップが各社の問題意識としてあがるようになってくるであろう。

参入方式としてM&Aを積極活用する動きもみられる(図表7)。参入国ならではの商習慣、参入制約を回避するためにパートナー企業の強い販路や知見を活用する動きはどの国でもみられることであるが、ベトナムならではのM&Aの論点として2点挙げられる。

直近のベトナムにおける主な外資によるM&A事例

1点目は、参入障壁の軽減を図ったものが多くみられることである。規制業種を中心に許認可の手続きは新規企業設立より既存企業に出資した方が簡易なケースも多い。特に地場の有力な入札情報やライセンス取得に時間がかかるエネルギーや不動産分野などでは外資単独では中央政府、地場政府との折衝や許認可取得に時間を要するケースが高く、結果として相対的に地場企業とのアライアンスニーズが高い。

2点目として、国営企業の民営化の進展が今後、日系企業にとっても大きなポテンシャルとして見込める点である。すでに1986年のドイモイ政策以降、政府は国営企業の民営化を推進しているものの、現在でも約500社の国営企業の民営化が道半ばとなっている(第2章コラム「国営企業民営化」にて後述)。例えば、韓国大手SK Groupは、ベトナムを戦略的エリアと位置付け、近年マサングループやビングループなど地場の大手民間財閥への投資を実行しているが、この狙いとしては出資を通じて市場での事業基盤構築を図るとともに、今後地場財閥からの民営化に関する情報や投資拡大の架け橋としての役割を期待しているといわれている。

また、地場企業からみた日系と組むメリットの訴求も重要な要素である。例えば同国における成功事例として消費財大手のユニ・チャームの事例が挙げられる。同社は2011年に地場の同業ダイアナ社を買収した。当初は欧米系の競合が業界首位であったが、17年前後に逆転し、足元では業界首位となっている。日系の技術力、生産に関するノウハウやブランド力とあわせ、パートナー企業の販売力やローカル目線でのマーケティング、ビジネスセンスがうまく融合した例といえる。

一方で、買収後のPMI(Post-merger integration)に苦労している企業も多い。例えば重要事項の見落としや想定していた販売ネットワークを出資先が有していない、また、元々いた経営陣と出資後に関係悪化が生じ退職してしまい、経営に空白が生じてしまうなどの例もみられる。適切な情報収集と併せ、理想と現実のギャップをもとに、双方のビジョン・経営目標の設定やシナジー創出、各種制度設計について戦略的に手掛けていくことがベトナムにおいて従来以上に重要となっている。
第2章以降では、ベトナムにおける企業の特徴や動向について検証する。

第2章 ベトナムにおける企業分類 – 執筆者:Pareena Wongsukkasem

ベトナムにおける大企業は①国営企業、②民営化された元国営企業、③民間企業の3つのグループに分類できる(右頁参照)。ベトナムの時価総額企業ランキングを見ると、①国営企業が4社、②民営化された元国営企業が2社、③民間企業が4社とバランス良く分散されていることが分かる(図表1)。元国営企業も含めると60%が国営企業を母体としている点は、社会主義国家であるベトナムならではと言える。また、これらの企業は後述する様に基幹産業のリーディングカンパニーであり影響力も大きい。

ベトナム大企業の時価総額ランキング(2022年11月29日時点の統計)

一方で、これは民間企業の活動が脆弱であることを意味している訳ではない。ベトナムの代表企業とも言えるビングループ系列内の中核会社Vingroup JSCおよびVinhomes JSCの2社が時価総額トップ10にランクインし、両社の時価総額を合算すれば184億ドルにも達し、国営企業であるPetroVietnamを凌駕している点も見逃せない。また、日系企業との提携も民間企業においては活発である。

COLUMN 国営企業民営化

ベトナムにおける国営企業の民営化は、外国投資家のベトナム事業機会の有力な手段の1つとなるため、注目テーマとして取り上げられることが多い。ドイモイ政策が採択された1986年以降、政府は国営企業の民営化を推進し、2021年時点では約500社の国営企業を残し民営化が完了している。ただし、近年の傾向としては民営化の停滞が目立っている。

停滞の理由としては、近年のベトナム政府の政治的不透明性なども要因として挙げられるが、一番のボトルネックとなっているのは企業評価算定である。例を挙げると、ベトナム石炭公社であるVinacominは16年にIPOにて2.364億ドルの株を新規公開したが、実績は1.2百万ドルであった。これは株価設定が割高であったことが要因と言われている。また、同様のことが18年ベトナム電力公社(EVN)の子会社であるGENCO3の新規上場時でも起きており、目標2.7億ドルに対して8百万ドル程度と大幅な未達となった。

ベトナム政府も民営化の停滞については問題点として自覚しており、22年に首相によるDecision 360/QĐ-TTg 2022 Scheme on “Restructuring state-owned enterprises in 2021-2025”により、25年までに民営化の再構築に目途をつける目標を掲げた。その中で、企業価値の算定方法に関する法令、国営企業への公開入札に参加する外国投資家による外貨預金を許可するなど、国有株式売却の円滑化を施策として盛り込んだ。

近年の大型民営化の事例では17年の地場ビール大手メーカーであるSaigon Beer(SABECO)などが挙げられ、タイ大手財閥であるThai Beverageが65.2億ドルで同社株式53.59%を購入し注目を集めた。今後はビール大手HABECO、損保大手Bao Viet GroupやBao Minh JSC、プラスチックパイプメーカーTien Phong Plastic JSCなど大型国営企業のより一層の民営化が注目、期待されている。

国営企業民営化

ベトナムにおける企業分類と特徴

1.国営企業

例:EVN、PetroVietnam、Petrolimex、Vietcombank

・ガスや石油をはじめ自然資源、電力など基幹産業に関する分野に集中
・行政同様に内部の意思決定プロセスが長い
国営企業
今後の動向:一部の事業で民営化が徐々に進む

代表的な企業として、エネルギー大手PetroVietnam、Petrolimex、発電大手であるベトナム電力公社 (EVN)、通信大手Vietcombank、Viettelなどが挙げられる。各国営企業は、主にガスや石油をはじめとしたエネルギー関連やインフラ、金融などを担っているケースが多い。また、その投資方針や事業範囲は国により規定されており、異業種・異業態への参入などの多角化ではなく、業界内での競争力強化を目的としたものが多く見られる。例えば、発電事業者であるEVNはガス、発電事業者を主に手掛けているが、近年は太陽光発電などの再生可能エネルギー分野への投資は行うものの、送電分野はNational Power Transmission Corporationなど、別の国営企業が担っており棲み分けがされている。また、どの企業も基幹産業におけるリーディングカンパニーということもあり、意思決定においては政府ともコミュニケーション上、緊密なつながりを有し、結果として内部の意思決定プロセスが長期化する傾向にある。

2.民営化された元国営企業

例:Vinamilk、Saigon Beer (SABECO)、Bao Viet Life Group、FPT Group

・公共性が低い分野が多い(食品、通信、保険など)
・国の保有持分が様々であり経営のスピード感に濃淡あり

民営化された元国営企業

今後の動向:既存事業の強化とあわせ、川上・川下へ垂直展開

食品大手Vinamilk、IT大手のFPT、金融大手Bao Viet Life Corporationなどが挙げられる。ドイモイ政策以降、民間の経済活動を円滑化するための法整備や外資規制の撤廃が進むと同時に、既存の国営企業の民営化も進んだ(コラム「国営企業の民営化」)。民営化のレベルは企業ごとに異なっており、例えばVinamilkの場合、2003年に民営化されて以降、現時点でも国営ファンドであるState Capital Investment Corporation (SCIC)が持ち分36%を有する大株主である。一方で、ベトナム保険大手であるBao Viet Life Groupの場合はベトナム財務省が株式の約68%を保有している。

同グループの企業の多くは元国営という背景から、政府とのパイプや事業基盤を生かしつつ、民間ならではのスピード感を備えているケースも多い。事業戦略については事業基盤の整った中核ビジネスのさらなる成長、高度化を志向する事例も近年多く見られる。Vinamilkの例では、21年に双日と提携し牛肉製品の加工・販売を目的とする合弁会社を設立した。既に酪農・乳製品製造販売事業での強固な事業基盤を有していたが、日系企業の畜産製品製造ノウハウを生かし、より一層の安全・安心な製品供給を目指している。

3.民間企業

例:Vingroup、Masan Group、Hoa Phat Group、Truong Hai Group

・歴史が相対的に浅く、創業者が経営権を有しているケースが大半
・大手は近年事業の多角化、垂直統合など積極的な事業拡大を志向

民間企業

今後の動向:再生可能エネルギー、IoT・AIなどの先端技術、電動自動車などの新分野に積極的に参加

ベトナム最大民間コングロマリットVingroup、ベトナム最大総合食品メーカーであるMasan Groupなどが挙げられる。ベトナムで一番歴史の長い民間コングロマリットであるHoa Phat Groupは創業1992年であり、設立31年であることからも分かる通り、民間の経済活動が許可されてから40年に達してないベトナムでは、歴史が浅く若い企業が多いという点も特徴である。また、創業者を見ると、Vingroupのファム・ニャット・ブオン氏(Mr. Pham Nhat Vuong)やMasan Groupのグエン・ダン・クアン氏(Mr. Ngyuen Dang Quang)は、両者とも旧ソ連で教育を受けた背景を持つなどの共通性も挙げられる。

これらの大企業はコアビジネスを強化するための商品ラインアップの拡大、垂直展開などを同時に進めている。例として、従来不動産分野がコアビジネスであるVingroupは電気電子、自動車の生産やIT産業など近年手掛けており、事業分野の多角化を進めている。また、食品メーカーであるMasan Groupは子会社のMasan Resourcesを通じて世界最大のタングステン鉱山であるヌイファオ鉱山で採堀を行っており多角化を進める一方、自社製造の消費財拡販のために小売り分野に参入し、垂直展開を志向している。国営企業のように公共部門の内部プロセスや国策に縛られることなく、意思決定プロセスが迅速である点は民間企業の利点である。

第3章 ビングループ(Vingroup) – 執筆者:池内 勇人

ビングループとは

ビングループ(Vingroup)はベトナム最大財閥の一つとして不動産や小売り、ホスピタリティ、ヘルスケア、教育、自動車製造と幅広い産業に参入している。同社は1993年にウクライナにて会社を設立、その後2000年に祖国貢献を目指しベトナムに拠点を移し、中核事業である小売とリゾート事業に参入した。07年にはホーチミン証券取引所に上場、21年には54.3億米ドルのグループの連結売上と国営石油・ガスのペトロリメックス(Petrolimex)に次ぐ国内2位の規模となっている。

ビングループの事業内容

ビングループの代表的な子会社には、ベトナム最大の不動産開発会社であり、全国各地で多数の住宅・商業プロジェクトを手がけるビンホームズ(Vinhomes)、ショッピングモールや小売りセンターを運営するビンコムリテール(Vincom Retail)、高級ホテルやリゾートを運営するビンパール(Vinpearl)、病院や医療施設のネットワークを運営するビンメック(Vinmec)、電気自動車やオートバイを製造するビンファスト(VinFast)などが挙げられる。

また、ビングループはベトナムにおける科学技術の研究開発を支援するVingroup Innovation Foundationや、科学技術教育に特化した私立大学であるVinUniversity(VinUni)など、社会的・慈善的な活動にも精力的に取り組んでいる。

グループ全体の事業戦略

ビングループは政府との太いパイプを持ち、観光・娯楽開発や不動産開発で成功を収めたグループである。事業の展開としては「ビンID」と呼ばれるビングループの電子マネーアプリがあり、同グループのスーパーマーケットやモール、旅行など幅広く活用したエコシステムの形成と事業間のシナジー組成に長けており、ビングループの住宅を買うと同社の車が割引されたり、同社のサービスを使う際に一律で10%からの割引が適用されるなど、家から病院までを幅広く捉えるビンならではの販売方法と市場攻略を行っている。

19年には小売業を同業最大手のマサングループに売却し、製造業に注力する姿勢を見せた。一方で、その製造業事業もスマートフォンや家電の製造から早期に撤退するなどのスピーディーな意思決定で同社の環境は目まぐるしく変化している。

ビングループの現在の最重要課題といえるのが、自動車部門のビンファストによる欧米市場の攻略である。22年末に米国での上場を申請し、環境意識の高い市場に対し安価なEVを提供するビンファストは比較的好感触である。

一方で、業績は05年以降低迷しており、特に21年にはビンファストを含む製造業の赤字が33兆ドン(約1,947億円※1)まで膨らんだこともあり、回復傾向にある他事業の黒字を食いつぶしている状態である。

小売り Vincom Retail

小売り Vincom Retail

ビンコムリテールはベトナム全国に83店舗、延べ売り場面積175万平米を誇る、同国の小売業界におけるリーディングカンパニーであり、高品質な小売り施設を提供することに特化し、全国にそれを展開することに長けている企業である。

ビンコムリテールのショッピングモールには、ファッション、コスメ、電化製品、書籍、フードコートなど、幅広い種類のテナントが入居しており、設備やデザイン面で高い品質を備えているとともに、豊富なアメニティーや娯楽施設も備えている。また、一部の物件には、高級ホテルやオフィスビルも併設されている。

ビンコムリテールの展開の特徴としては「ビンコム」ショッピングセンターを市場セグメント別に4つに分けており、富裕層向けで都心に立地する「Vincom Center」、統合的開発地区に立地し全所得層を訴求する「Vincom Mega Mall」、省都や主要都市の非中央地区にてファミリー向けおよびアクティビティハブとしての役割を持つ「Vincom Plaza」、地方や非中央区の大衆向けの「Vincom+」を展開している(図表2)。

ビンコムグループのセグメント別展開


不動産 Vinhomes

不動産 Vinhomes
ビンホームズはビングループの不動産開発子会社であり、ベトナム最大の不動産開発会社でもある。同社はベトナム全国各地で多数のプロジェクトを手掛けており、代表的なプロジェクトとしてはホーチミン市ビンタン区にある「ビンホームズセントラルパーク」だ。ホーチミン市の大規模レジデンスには高層マンションだけでなく、公園や商業施設を含めた都市開発が行われ、プロジェクトの中心には東南アジアで2番目の高さとなる「ランドマーク81」がそびえる。

ビンホームズは、住宅プロジェクトにおいては、高層マンション、ヴィラ、タウンハウス、ショッピングモール、レジャー施設などを開発しており、また商業用不動産においては、オフィスビル、ショッピングモール、ホテル、レストラン、カフェなども手掛け、現在では約46,700軒、30万人の入居を誇る最大の不動産事業者となっている。


レジャー Vinpearl

レジャー Vinpearl
ビンパールは、ビングループのホテル・リゾート・エンターテインメント部門でベトナムを代表する高級リゾートブランドでもある。同社は全国各地にリゾート施設を所有・運営しており、ビーチリゾート、ゴルフリゾート、シティリゾートなど幅広い種類のリゾートを提供しており、代表的なものはベトナム屈指にリゾート地であるニャチャンの超大型統合型リゾート「ビンパールランド」などが挙げられる。

ビンパールの戦略としては高品質でラグジュアリーなリゾート体験を提供することに焦点を当てており、1つ目に施設内の品質維持と豊富なアメニティや娯楽施設を設けることによるプレミアムなリゾート体験の提供、2つ目に多種多様なリゾート開発で、ビーチリゾートやゴルフリゾート、シティリゾートなど顧客の好みやニーズに合わせ、多様な顧客層へのアプローチを可能としている。3つ目に徹底したブランディングとマーケティング戦略の施行により、国内外の両方でブランド認知度の向上と顧客獲得を進めている。


自動車 VinFast

自動車 VinFast
ビンファストは、ビングループの自動車部門であり製造・販売などを担っている。17年にビングループは自動車製造業への参入を公表し、ベトナム・ハイフォン市に工場を建設。その翌年にはイタリアのカロッツェリア※2最大手のピニンファリーナのモデル生産契約、BMWからの知的財産権購入、ベトナム国内のゼネラルモーターズのシボレーディーラーネットワークとハノイ市にある生産工場の買収と、大きく生産能力と販売能力を向上させ、25年までに年間生産台数を50万台まで拡大することを目標としている。

ビンファストは欧米のノウハウを徹底的に導入したことで、最後発ながら早期の市場参入を果たした点が特徴として挙げられる。上記3社以外にも電動分野や電気系統ではシーメンス、自動車部品はボッシュ、マグナ・インターナショナルとの提携が功を奏して、既製品ベースでありながら設立5年にして欧米市場への輸出を行うことができるようになった。ビンファストの経営目標としては電動車の普及が進む欧米市場の攻略が今後の目標であるとされている。

第4章 おわりに

私事になるが、2008年にベトナムの投資有望性について書籍を執筆した。07年に同国がWTOに正式加盟し、流通分野など制約が多かった業種で参入が容易となり同国への期待が高まっている時期であった。「今が投資のチャンス」とやや大げさに筆を振るった記憶がある。

それから15年経った今、ベトナムの輝きはますます増しているといえよう。ベトナム保健省によると昨年(22年)のベトナムの人口は9,900万人。今年中に1億人を達成する見込みである。人口規模の増大は経済規模の拡大につながる。ハノイ、ホーチミンの1人当たりGDPは6,000~5,000USD台と域内でも有数のレベルとなっている。また、経済安全保障という観点で同国と日本との親和性も高い。米中両国の経済摩擦やロシアのウクライナ侵攻といった地政学的要因を踏まえたサプライチェーン構築において同国は外せない存在である。15年前の前言撤回になってしまうが、市場としてのベトナムの舞台がいよいよ整い、日系企業にとり投資を真剣に考えられる飛躍期に入っているように思う。

本編でも述べた通り同国は魅力的な市場ではあるが、個別にみると未だまだら模様である。北と南の違い、都市と地方部の貧富の差などから医療、環境分野などの問題も山積しており国として解決すべき大きな問題も多い。同時に、日系企業のベトナム事業も過渡期にある。製造業では従来型のコスト競争力のある人件費を背景とした輸出拠点から、より付加価値の高い製品や製造機能が求められるようになっている。また輸出拠点から消費市場としての位置付けが強まり、事業体制を再構築する動きもみられる。

三菱UFJリサーチ&コンサルティングはMUFGグループのシンクタンクとしてメコンエリアに根を張ったコンサルティングサービスを展開している。日系企業のベトナム進出はもちろんのこと、近年はタイからの生産事業の移転など域内でのサプライチェーン再編にベトナムを絡めた動きも数多くみられ、各種のコンサルティングサービスを行っている。今後はベトナム財閥の動向についての連載をはじめとして「ArayZ」読者の皆様にベトナムの魅力について数多く発信していきたい。

(池上 一希)

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開発者に聞く!男性用オールインワンスキンケア 「VARON」のココがスゴイ!

男性用オールインワンスキンケア
「VARON」がタイ全土で販売開始!

サントリーウエルネスから誕生した日本で大人気の「VARON(ヴァロン)」が、2023年5月からタイ全土で販売を開始。

サントリーの独自開発を含む4つの成分配合と、サントリーが開発し特許を取得した3ステップ浸透技術「W/O/Wエマルジョン」で、安定させることが難しかった水相・油相・水相構造を実現。

化粧水、美容液、クリームが役割順に浸透していくため、これ1本のお手入れだけで、しっとりとしたすべすべ肌へ導きます。

  1. サイズ展開:ミニボトル(20ml)、ラージボトル 約2カ月分(120ml)
  2. フレグランス:3種類(Original・Classic・Fresh)
  3. 希望小売価格:790THB(20ml)、2,990 THB(120ml)
  4. 販売場所:公式サイト・LINE・電話ほか
  5. HPhttps://store.brandsworld.co.th/

「VARON」のココがスゴイ!

男性用スキンケアを開発することになったきっかけは?

当社は1980年頃から、健康や美容に関する研究を行っており、40年ほどの歴史があります。大人向け男性用スキンケアについても10年以上前から開発したいと思っていたんです。しかし、「男性用スキンケアの市場がない」「男性にとってスキンケアが一般的でない」といった不安の声が多く上がりました。

その中で「老化を科学する」という目標を掲げ、サントリーに脈々と流れる「やってみなはれ」精神の後押しもあり、年齢を諦めたくない男性へ向けた商品開発を続けてきました。その試作品の開発段階で、(使用した男性から)スキンケアをして見た目に変化があると「肌だけでなく気持ちも変わる」といったポジティブな声が多く寄せられるようになりました。

これは、私たちにとっても「大きな気づき」であり、スキンケアを使うことによって「男性も楽しめる」「前向きで幸せな気分になる」ということが分かり、本格的に「VARON」を開発することになったんです。

「VARON」ならではのこだわりは?

「VARON」という名前は、スペイン語で男性を意味する「Varón」に由来し、「人生を力強く謳歌する」「男性を応援する」という意味が込められています。銀色のボトルやハットのイラストを入れることで、「やんちゃな大人の男性の遊び心」を表現し、男性でも手に取りやすい見た目にこだわりました。

「VARON」を使うことにより、肌に どのような効果をもたらし、気持ちや 行動に変化があらわれますか? 「VARON」を使うことによって2つの効果を体感できます。まず、使い始めてから10日程度で肌のキメが整いはじめ、肌が明るく見え始めること。そして、自分自身で肌の変化を体感することができるので、気持ちが前向きになります。

また、自分だけでなく、周り(友人や家族など)からも「変わったね」というフィードバックを受けることで自己肯定感が高まることも分かってきました。

「VARON」を使ったことがない人やこれから使ってみたいと
思っている男性に向けて、メッセージをお願いします。

紫外線対策やお肌のケアをしないまま20年、30年経っていくと、肌はダメージを蓄積しボロボロになっていき、気分が下がってしまいます。

まずは10日間「VARON」を使うだけでお肌の変化に自分で気づくことができ、周囲からの見え方も180度変わります。まずは、是非1度、1回1~2プッシュ、使ってみてください。

サントリーが独自開発したW/O/W構造※を活かした3ステップ浸透技術で化粧水、美容液、クリームの役割順に肌へ浸透。

「VARON」は心地よい使用感を実現するのと同時に、肌に水分と油分をバランスよく与えることに優れております。W/O/W構造の技術により使用感と快感のバランスを実現しました。

※W/O/W構造とは・・・ Water in Oil in Waterの略。水と油のように本来は混ざり合わないものを、乳化剤を用いて安定した形で均一に混ぜ合わせ、水相の中に油相、その油相の中にさらに水相が含まれている状態のこと。

顔の印象が変わる10日間!
VARON無料お試しキャンペーン(タイ国内居住者限定)

■応募期間 2023年6月10日(土)〜6月30日(金)
■応募条件 ※応募はお一人様一回限り ※タイ国内居住者限定
・ご覧になった雑誌名をお答えいただいた方
・サントリーウエルネスからお肌に関する10個の質問にお答えいただいた方
・お名刺の写真をお送りいただける方

https://lin.ee/hGXHyQk

お友達登録して 「VARONキャンペーン応募希望」と メッセージください(日本語可)


・お届けされる商品のフレグランスは選択できません。
・いただきました個人情報は製品送付の目的にのみ使用されます。
・確実にお受け取りいただくため、製品送付の際に弊社からお電話させていただくことがあります。
・ご応募に際し、個人情報の取り扱いについて、当社Privacy Noticeをご確認ください。

JETROが日系スタートアップを支援-Techsauce GlobalSummit 2023

2023年8月16日、17日の2日間に亘り、バンコクのクイーン・シリキット国際会議場(QSNCC)で「Techsauce Global Summit 2023」が開催された。「JAPANパビリオン」には日本のスタートアップ企業10社が参加。タイ企業とのビジネスマッチングや国際的な投資家からの資金調達の場をJETROが支援した。

「Techsauce Global Summit」は、各国から15,000人以上の参加者が集まるアジア最大級のスタートアップ・テック関連イベントである。同展示会内にJETROが設けたJAPANパビリオンには、AI、ヘルステック、フィンテック、特殊素材を扱う企業など、ディープテック型のスタートアップ企業10社が参加した。

参加企業は2日間に亘り、在タイ企業、投資機関等との商談を行った。合計300件以上の商談が行われ、新たな取引、資金調達に繋がる案件が多くあった。JETROでは、JAPANパビリオン出展企業へ、商談コーディネートや事業計画のメンタリングなどのサポートを行った。

会期2日目の17日には、会場内にてJAPANパビリオン参加企業10社によるピッチイベントが行われ、各社は自社製品・サービスについてプレゼンテーションを披露した。

ピッチイベント終了後には、多くの在タイ企業・投資家がJAPANパビリオンに集まった。

JETROバンコク事務所中小企業支援部松浦英佑ディレクターは、「今回参加した日本のスタートアップ企業は、単に販売先発掘だけではなく、現地タイ企業と協力し、新たな製品・サービスを共創しようとする動きが多かった。現地が求める課題やニーズに合わせて、ビジネスモデルを組み立てようとすることが、一つの成功のポイントだと考えられる」また、スタートアップ企業のタイ進出における昨今の傾向として、「SaaS関連のスタートアップ企業だけではなく、独自の特殊素材、製造技術を扱うハードウェア関連企業にも、タイ企業・投資家から多く注目が集まった」と述べた。

JETROは、昨年に引き続き同イベントにおいてJAPANパビリオンを設けるなど、日本のスタートアップ企業の進出支援を続けている。今後も、スタートアップ企業のタイ進出支援のため、ピッチイベント等の各企画を検討している。

 

外資規制についての違反と罰則

タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。 本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。

違反は手続き面に集中、 実体面が認定されるケースは少ない

外資規制を規定する「外国人事業法」は、タイで事業を行う日系企業にとって、もっとも気を配るべき重要な法律の一つである一方で、違反によって罰則を受けた事例は、あまり耳にしません。しかし商務省の月次レポートによれば、これまでの約20年間で違反が認定された事例は800件超、年平均で40件程度と、相応の件数に達することが分かります。

しかし、近年の違反件数の内訳には明確な偏りが見られます(図表1)。

累計で全体の6割を占めるのは40条違反で、これは担当官からの要請があったにもかかわらず書類を提出しなかったものとされています。特に、最近の3年間に限っては、違反認定のほぼ全てが、この40条違反に集中しています(なお、この統計は残念ながら2021年10月分までで公開が停止されています)。

他方、それ以外の違反については、2019年に38条違反(最低資本金の不足)が1件あることを除くと、この3年弱の間に違反認定の事例はなく、大幅な減少傾向にあると言えます。日系企業にとって気になる37条違反(無許可での事業実施)や、36条違反(名義貸し)についても、累計でもそれほど大きな数ではありませんし、近年では事例が見られません。

こうした傾向からは、商務省も決して積極的に外国人事業法違反を認定したいということではなく、まずは企業に対して説明を求め、問題がある場合には改善を促し、それでも対応されない場合に違反を認定する、という外資企業に配慮した抑制的なスタンスにあると理解することもできます。

ただし件数の多い40条違反は、手続き上の違反ではあるものの、求められた書類を提出しなければ、当局からの不信感を招く可能性も考えられ、痛くもない腹を探られることにもなりかねません。また、違反件数が多いということは、それだけ書類提出を求められるような事例も多いということです。最近も日系企業で、商務省から外国人事業法に関する照会があり、書類提出と出頭を要請される事例がありました。期限は通知から約2週間と、かなりシビアなものです。商務省からの通知は、当然ながらタイ語でしか届きませんので、日本人が見落とし、意図せず対応が遅れるようなこともあり得ると思われます。

最近追加された商務省の資料によれば、例えば2020年の1年間で、約300件もの外国人事業法に関する検査を行っており、うち50件程度で何らかの課題が検出されているとのことです。ここでも、やはり大部分は40条(書類提出義務違反)に関係するものとされています。

図表2でご紹介するように、40条違反の罰則は大きいものではありませんが、そこから他の違反に伝播すれば、より厳しい罰則も生じえます。前回も述べたように、タイ人の法務スタッフによっては外国人事業法に対する理解が十分ではないこともあります。違反認定事例が少ないことに安心せず、特に外資ステータスとなっている企業の場合には、日本人もよく注意しておくことが必要です。

罰則には懲役刑も規定、日本人取締役にとって違反リスクは高い

タイの法律の一般的な特徴として、違反に対する罰金の額はそれほど大きくないものの、規定上は懲役刑が設けられていることが多い、というものがあります。特に外国人事業法は、制定から20年ほど経過している法律で、この間に改正等もされていませんので、こうした特徴が顕著に表れています。

図表1でご紹介した6種類の違反類型について、それぞれ図表2のような罰則規定が設けられています。

違反認定件数が圧倒的に多い40条違反は、実は5千バーツ以下の罰金と、罰則としては非常に小さいものです。しかし、40条違反に問われるということは、外国人事業許可書(FBL)を取得している場合であれば、19条違反(許可取り消し)に発展する可能性も商務省資料には言及されていますので、単に5千バーツ払えば解決するという問題ではありません。FBLを取得していない場合であっても、他条の違反を疑われるリスクを招くことは前述した通りです。

日系企業にとって気になる36条(名義貸し)と37条(無許可での事業実施)は、違反認定件数こそ少なく、また罰金額としてはそれほど大きくないものの、条文上は懲役刑の可能性が規定されています。この場合、特に取締役として登記されている日本人は、自身が認識していないリスクを負っていることもあります。もちろん直ちに懲役刑につながるというものではありませんし、実際に懲役とされた事例が多いわけでもなく、そもそも違反認定の件数自体も限られるものですが、だからといって蔑ろにできるようなルールではない、ということが読み取れます。

どちらかと言うと名義貸しは意図的に行われるものですが、他方で無許可での事業実施については、外国人事業法の理解不足から意図せず行ってしまうケースも多々ありますので、次回、詳しくご紹介していきます。

なお37条は「外資企業」として事業を行なっている企業に対して適用されるものであるのに対して、36条は表面上「タイ資本企業」として事業を行なっている企業に対して適用されるものである点にも注意が必要です。外国人事業法は、外資ステータスであるか、タイ資本ステータスであるかを問わず、タイでビジネスを行なっている全ての日系企業にとって、気を付けるべき法律であることに変わりはなさそうです。


三菱UFJリサート&コンサルティング

三菱UFJリサーチ&コンサルティング㈱ タイ現地法人
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【事業概要】 タイおよび周辺諸国におけるコンサルティング、リサーチ事業等

外資規制の基本的な考え方

 タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。 本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。

外資規制の基本的な考え方

タイの外資規制の概要

タイの外資規制は、商務省が所管する「仏歴2542年(西暦1999年)外国人事業法」という法律で定められています。名前の通り99年に公布され、翌2000年から施行されている同法は、これまで20年以上もの間、何度か改正の議論はあったものの、現在まで改正されずに至ります。

ただし、後でご紹介するように、内容については後から公布された複数の省令(下位規則)で補完されています。また解釈についても、企業等からの照会に対する回答という形で、商務省のウェブサイト上でこれまでの事例が多数公開されています。毎月数件ずつ追加され、既に800ページを超える膨大な資料です。

外国人事業法は、日系企業を含む外資企業にとっては、タイにおいて民商法典(会社法)や労働者保護法(労働法)と並ぶ重要な法律です。一方で、個人的な経験から言えば、例えばタイの大学でビジネス法の講義を聴講しても、その中で外国人事業法について触れられることは、ほとんどありません。

また、外国人事業法について解説するタイ語の法律書も、他の主要な法律に比べると非常に限られています。タイ人にとって、外国人事業法とは、外資企業や外国企業に対して適用される特別の法律であって、一般のローカル企業やタイ人のビジネスにはあまり関係のないものと捉えられているようです。

このためタイ人弁護士でも外国人事業法に意外と詳しくなかったり、タイ人の法務スタッフであってもほとんど知識がなかったり、というような事態がよく発生します。
タイの外資規制の内容を一言で言えば、「外資企業は、実施できる事業が限られる」というものです。ここで問題となるのは、「外資企業」とは何か、「実施できる事業(及び実施できない事業)」とは何か、という点です。

前者については、外国人事業法にも法律的な説明が詳細にされていますが、極めて簡略化して言えば、「外資比率が50%以上の法人」です。商務省から株主リストを取り寄せると、各株主には必ず国籍が振られていることが分かります。外国籍の株主(法人・個人のいずれも)が保有する株式の比率が50%以上であれば、その企業は外資企業であり、50%に達していなければタイ資本(内資)企業とみなされます。日系企業で、特にサービス業や飲食業を行なう場合に、日本本社からの出資を49%に抑え、タイ側パートナーから51%の出資を受けてタイ資本企業とする例が多いのは、このためです(本社の持分を可能な限り増やすために、外資49.9%とする事例も多く見られます)。またタイ資本企業が、さらに別のタイ法人に出資する場合に、その出資分は全てタイ資本とカウントされる(出資側がタイ資本100%であろうが51%であろうが、資本比率に応じて按分されない)点は特徴的です。

外資企業の定義については、比較的ルールが明快、かつ日系企業に広く認知されているものでもあります。後でご紹介するタイ資本企業同士の株式持ち合いのような事例を除けば、実務上の問題となることも、それほど多くありません。他方、「実施できる事業(及び実施できない事業)」は、より多くの問題を孕んでいます。本連載では、外資企業が実施できる事業について掘り下げます。

外国人事業法における「外国人(外資企業)」の定義

外国人事業法と規制事業リスト

「仏歴2542年(西暦1999年)外国人事業法」には、別表として規制事業リストが記載されています。このリストは、「リスト1」から「リスト3」に分類され、それぞれ以下のように対象事業が列挙されています。ここに示される各事業は、外資規制の対象事業であることを意味します。つまり「外資企業は原則として実施できない」、「実施するためにはタイ資本企業でなければならない」、「外資は50%未満でなければならない」事業ということになります。
このリストを眺めながら、ここに該当しない事業、すなわち外資企業であっても実施できる事業を検討するようなケースは日系企業にも多いのですが、実は、この作業はあまり意味があるものではありません(このため本稿でもリストを掲載しませんが、「外国人事業法」で検索すれば見つけることは容易です)。それは、このリストの最終行、「リスト3」の21番目に記載されている「その他のサービス業(省令が規定するサービス業を除く)」によって、およそ全てのサービス的な要素を含む事業が、外資規制の対象とされてしまうからです。企業等からの照会に対する商務省の解釈においても、大多数がこの「その他サービス業」に該当する、との判断によって規制対象と示されています。
では、結局のところ、外資企業として実施できる事業とは何でしょうか。

タイにおいて「外資企業」が実施可能な事業

一つ目は、規制事業リストに該当しない、すなわち「その他サービス業」にも該当しないと商務省が判断している事業です。これには、「製造」「輸出」が該当します。ただし、タイ政府が考える「製造」と、我々日本人が考える「製造」が一致しない可能性に留意する必要があります。
二つ目は、規制事業リストにおいて、条件付きで外資企業にも実施が認められている事業です。これには「小売」「卸売」が含まれます。実施においては、条件を正しく理解することが求められます。
三つ目は、「その他サービス業」でありながら、省令によって例外が認められている事業です。これにはグループ会社向けサービスが含まれます。実施可能な事業には限りがありますので、詳細は要確認です。
四つ目は、タイ投資委員会(BOI)や工業団地公社(IEAT)などから認可を得た事業です。この場合、外資企業として実施可能であることを商務省から認められ、外国人事業証明書(FBC)と呼ばれる書類を取得します。
最後に、商務省から直接、個別に許可を取得した事業です。この場合は、商務省から外国人事業許可証(FBL)を取得します。ただし一般論として、許可取得のハードルは高いことが知られています。

以上の5パターンについて、商務省の最近の解釈をもとに、今後詳しくご紹介していきます。次回は、外国人事業法の重要性を示す要素の一つとして、外資規制に違反した際の罰則について簡単に触れておきます。

リスト1(9事業)

特別の理由により、外国人による実施を認めない事業

リスト2(13事業)

1.国家の安全もしくは安定に関係する事業(2事業)
2.文化、慣習、地場工芸に影響を与える事業(6事業)
3.天然資源や環境に影響を与える事業(5事業)

リスト3(21事業)

外国人との事業競争に、まだタイ人の準備ができていない事業


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セキュリティ対策もAI管理の時代

セキュリティ機器には投資したけど…

皆様、ご無沙汰しております。帰ってきた「これだけは押さえておきたいサイバーセキュリティ対策」でございます。昨年の連載終了後も、世界中でセキュリティインシデントの件数は増加の一途を辿っています(図表1)。

インシデント報告件数の年間推移

改めて、セキュリティインシデントとは不正アクセスやウイルス感染など、企業の情報資産に被害を与える可能性のある出来事を指します。特に、読者の方々におかれましては海外拠点で発生したインシデントについてもお耳にされているかもしれません。物流や調達などのビジネスプロセスに潜む脆弱性を悪用し、複数の企業に対して攻撃を仕掛ける“サプライチェーン攻撃”による直接・間接的被害が多発しており、それらの対策としてサイバーセキュリティ関連の設備投資も活発になっています。

一方で、比較的高額な設備投資となるサイバーセキュリティ商材について、「導入したものの、ちゃんと動いているのか分からない、効果が分からない」といった事態に陥ってしまっている企業様もいらっしゃるのではないでしょうか。

人材確保が最初で最大のハードル

一般的にサイバーセキュリティ対策には多くの人材やリソースが必要です。しかし、海外拠点においては現地の専門家や言語や文化に詳しい人材の確保が難しく、人材不足による運用上の問題が生じる可能性もあります。加えて、地理的、文化的、言語的な障壁も存在します。

また、日本国内と同様のセキュリティ対策を実施するだけでは不十分で、特にIT環境が日本国内と異なる場合が多く、社内情報システムやネットワークの設計や構成、セキュリティポリシーの適用範囲など日本本社と異なる点についても考慮する必要があります。

自動化で運用の負荷と被害リスクを軽減

当社の提供する「IIJ Safous SOARaaS(IIJセーファスソアーズ)」は、セキュリティ運用業務を自動化し、人材不足をカバーするだけでなく、早期発見・早期対処で被害を最小限に抑えることができるサービスです。AIがお客様に代わって、クラウド、ネットワーク、エンドポイントなど幅広いセキュリティ機器を24時間365日、専属SPさながらに監視。

インシデント発生時にはセキュリティアナリストがアラートを分析、重要度に応じてメール・電話でお客様と迅速に情報連携し、端末隔離や通信遮断などの一次対応まで行います。現在、日本語と英語で対応可能で、今後ASEANの主要言語にも順次拡大を予定しています。

情報漏洩は企業の信用やブランドイメージに大きな損害を与えるリスクや、法的責任を負う可能性もあります。迫り来るセキュリティ脅威から情報資産を守るために、海外拠点こそ今すぐに対策を強化しなければなりません。

SOARシステムには、「Cortex™ XSOAR」を採用

寄稿者プロフィール
  • 平野 一樹 プロフィール写真
  • IIJ Global Solutions (Thailand) Co., Ltd.
    平野 一樹 / Kazuki Hirano Sales Executive

    2013年にインターネットイニシアティブに入社。18年よりタイ駐在となり、在タイ日系企業を中心に、ネットワーク、クラウド、サイバーセキュリティ商品の提案・導入支援を行う。
    E-mail:kazuki.hirano@ap.iij.com
    Mobile:+66 061-051-5510


外資規制の対象ではない事業「投資」

本連載の第1回、「外資規制の基本的な考え方」でご説明したように、タイの外資規制は、外国人事業法に添付されたリストに規制事業を列挙しています。ただしリストに明示されていない事業であっても、リスト最後尾にある「その他サービス業」が幅広くカバーしてしまうため、およそ全てのサービス的な要素を含む事業が、外資規制の対象とされています。

反対に、どのような事業であれば「その他サービス業」にも該当せず、規制対象外であるかは法律上に規定がなく、商務省の解釈によるしかありません。この規制対象外となる事業は、本連載第3、4回で説明した「製造」と「輸出」の2つが代表的なもので、商務省の解釈にもたびたび取り上げられています。それ以外の事業については事例が極めて少なく、判断が非常に難しいというのが実情ですが、数少ない事例の一つとして、今回は「投資」を取り上げます。

① 投資による配当受領は外資規制の対象外
案件番号 2021年4月 No.3
案件概要 外資企業H社は、種々の事業に合弁による株式投資を行ない、投資に対する配当を収益とすることを検討している
商務省の判断 合弁による株式投資を行い、配当から収益を得ることは、規制事業に該当しない。従って許可申請の必要なく、事業を行うことができる
解説 本タイにおいて、日系企業が持株機能を持つケースは、(1)タイ資本企業としてのステータスをもつ日系企業による、傘下のグループ会社をタイ資本ステータスとするための持株機能、及び(2)外資企業としてのステータスをもつ日系企業による、投資委員会(BOI)の認可を得た統括会社としての持株機能、の大きく2パターンに類別できます。前者はタイ資本企業なので外資規制はクリアされ、後者もBOIの認可を得ることで外資規制をクリア(別稿で解説予定)していますので、外資規制は問題となりません。本事例は、2パターン以外の場合、すなわち外資企業でありながら、BOIからの認可も得ていないようなケースにおいても、持株機能を持つことは可能である、という解釈を示しています。このようなケースは、外資規制の観点からも税制優遇の観点からも、現段階で大きなメリットは感じられませんが、グループ内での資本再編の過程や、不動産開発などの一部業種では発生し得うると考えられます。なお本事例では、「合弁」による株式投資という点が強調されているようにも見えます。しかし、より新しい事例(2022年4月No.2)では、ほぼ同様の状況において、合弁であるか否かには言及がないまま「他の会社への投資は外資規制に抵触しない」とする事例があり、投資先が合弁であるか独資であるかは判断に影響を及ぼさないと考えられます。
② 規制対象の「融資」と異なり、配当目的の「投資」は規制対象外との判断
案件番号 2021年4月 No.3
案件概要 外資企業I社は、海外の会社の優先株に投資を行っている。このような優先株への投資は、外資規制に抵触する事業に該当するか。また、融資に該当するか
商務省の判断 優先株への投資で、株主への優先性が配当の受領、出資金の返還、清算時の残余資産の分配のみの場合、規制事業に該当しない。この種類の株主への優先性の程度は、株式を譲渡する会社と、株式の購入者との間の取り決めまたは合意、及び関係する各国の法律に依る
解説 本事例では、少し背景が不明確な点あるため解釈が難しい部分がありますが、議決権がなく配当のみを目的とする優先株への投資についても、外資規制に抵触しないとの判断を示しているように見えます。このような優先株は実質的にサービス事業である「融資」とみなされて、外資規制に抵触するのではないか、と質問者が懸念を持っている様子が読み取れます。商務省は、「融資」に該当する可能性については触れていませんが、優先株であること自体を問題視したり、優先株の内容に立ち入ったりはせず、株式投資であるという形式さえ満たせば容認するとの姿勢を見せているようです。

事例の①と②は、タイの外資企業が他社の株式を持つケース、すなわち株式投資を行なうケースで、商務省は投資をして配当を得ることは、外資規制の対象外であるとしています。特に②の事例では、取得する株式が配当目的の優先株であっても、株式投資である以上は(現時点では「実質的に融資である」とみなすことなく)、外資規制の対象外との見解を示しています。

優先株に関連して、②の事例とは反対に、タイの外資企業が優先株を発行し、タイ人株主に保有させることで、タイ資本企業とみなすことは可能でしょうか。言い換えるならば、議決権や配当を制限した優先株であっても、普通株と同様に、タイ資本としてカウントされるのでしょうか。

本連載の第1回で、「外資企業の定義については、比較的ルールが明快かつ日系企業に広く認知されているものでもあります。後でご紹介するタイ資本企業同士の株式持ち合いのような事例を除けば、実務上の問題となることも、それほど多くありません」と述べました。しかし、実務上の問題になることがそれほど多くないのは、この問題を表立って議論することを避けてきた面がある、というのが実態に近いかもしれません。

「タイ資本企業同士の株式持ち合い」というのは、たとえばタイ資本51%、外資49%のタイ企業A社とB社を設け、それぞれのタイ資本分はA社とB社が相互に持ち合うことで、表面上の資本構成をタイ資本のステータスに見せかけることです。このような例は、現在はかなり少なくなりましたが、かつては日系企業でも多く見られました。これについて、商務省がどのような解釈を示していたかというと、実は判断を示した事例は、これまで知る限りでは存在しません。外資規制の理念からは相当にグレーではあるものの、敢えて明確には解釈を示さず、企業側の自主的な改善を期待したという見方もあるでしょう。

③ 優先株による外資規制逃れはリスクが残る
案件番号 2021年6月 No.3
案件概要 タイ国内で運送事業を行なうJ社は、議決権と配当に関する付属定款(筆者注:会社の規則)を設けている。株主は、①普通株48%を持つ外国法人、②普通株1%を持つ中国人(個人)、③優先株51%を持つタイ人(個人)、の3者である
商務省の判断 タイ人個人が株式の51%を持つ同社は、「外資企業」に該当しない
解説 上記は、優先株に言及する最新の事例ですが、これを含む、これまでの事例(4件)すべてで、商務省は出資比率からのみ外資企業に該当するか否かを判断しており、優先株であることによる影響について言及していません。一見すると、「優先株であってもタイ資本としてカウントされる」との結論により、長年の議論に終止符が打たれたようにも思われます。もっとも、「優先株であるかどうかは関係ない」とは明言しておらず、やはり優先株の議論には敢えて深入りしていないようにも読み取れます。現時点では、あくまで一般論として、優先株であること自体が外資規制逃れとみなされることはないものの、あまり極端な優先株スキームとなった場合には、依然として外資規制違反に問われるリスクは残っている、と、認識すべきだろうと考えられます。

優先株(事例③)についても、同様の問題をはらんでいます。タイ資本51%、外資49%としてタイ資本ステータスとするものの、タイ資本分は優先株とすることで議決権を調整し、実質的にはマイノリティである外資が主導権を握る、というスキームは、従前から多く行われてきました。

一方で、このような優先株の発行は、外資規制逃れの違法行為だとの主張にも、相応の合理性が認められます。これに関して、商務省の解釈は、長らく示されていませんでした。しかし、ここ数年間で、いくつかの事例が見られるようになっています。

次回は、残る「投資」についても触れるとともに、一旦ここまでの議論を整理します。

ここまで、外資企業が許認可なしに実施できる事業の一つ目の類型として、「外資規制の対象ではない事業」について説明しました。次の類型に進む前に、復習を兼ねてここまでの議論を整理します。

「外資規制の対象ではない事業」とは具体的に何を指すのか、法律や資料に明記されているわけではありませんが、商務省の解釈によれば、これまで「製造」と「輸出」については外資規制の対象ではない、との判断が多数示されています。

留意点の一つ目は、商務省が考える「製造」や「輸出」が、必ずしも日本人(日本企業)の考えるものと一致するとは限らない、という点です。これまで説明した通り、「製造」については「受託製造サービス」とみなされると「その他サービス業」として外資規制の対象となります。「輸出」についても「仲介」とみなされると外資規制の対象となる可能性があります。判断権限は商務省の側にあり、タイでの考え方を理解しないまま日本人が「当社は製造(輸出)しか行なっていない」と主張しても、あまり益はありません。商務省が「製造」「輸出」とみなすようなビジネスモデル、契約内容、対価の授受であることを明確に説明できることが必要です。

留意点の二つ目は、商務省はある意味において、極めて客観的、論理的に判断する、という点です。企業の側が、「これは自社のビジネスに必要不可欠な工程であり、実施できないのはおかしい」と主張する場面は多く見られます。心情的にはよく理解できる反面、商務省は、そういった観点からの判断はしません。少なくとも、そういった主張をするべきなのは、外国人事業法に抵触することを前提として外国人事業許可証(FBL)を申請する場面であって、この段階ではありません。商務省への説明や説得が求められる場合に、どのような方針を持って対処すべきか、よく検討しておく必要があります。

留意点の三つ目は、「製造」と「輸出」以外には、判断事例がほとんど見られないことです。商務省の基本的なスタンスとしては、やはり外資規制を厳格に運用する方針であり、「規制対象事業ではない」との判断は抑制的といえます。第三の事業例として「投資」を挙げていますが、これも判断事例はまだ多いとはいえず、解釈が確定しているというには尚早です。反対に、まだ事例が公表されていないものの、規制対象外とされる新たな事業が今後明らかになる可能性も、また否定できません。

外国人事業法が施行されてからの約24年間(解釈事例が公表されるようになってからは約17年間)、これまで多くの解釈事例が積み重ねられてきましたが、今後も更なる蓄積が期待されます。

次回からは、外資企業が実施できる事業の二つ目の類型「条件付きで実施可能な事業」について紹介します。


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第3回 「タイのがん患者を助けたい」内視鏡医の育成を通し地域医療の底上げに貢献

 経済成長に伴う食生活の欧米化や高齢化によって、タイなど東南アジア諸国でも近年患者が増えているがんなどの消化器系疾患。タイでは大腸がんが死因3位の癌である。ところが、有効な治療法である内視鏡や腹腔鏡を扱える医師が十分におらず、人口あたりの消化器内視鏡医の数は日本の9分の1程度である。こうした課題に貢献したいと立ち上がった日本の企業がある。医療機器メーカーのオリンパスは、バンコク郊外に医療従事者向けの研修施設を建設し、アジア一円から多くの人材を受け入れている。

木下 タイや世界の内視鏡医の現状はいかがですか。

得田 かつては開腹手術が中心だったがんなどの治療も、近年は患者への負担が少ない内視鏡や腹腔鏡を使ったものへと変わってきました。この分野で世界をリードするのが日本の医学会です。内視鏡が扱える日本人の医師は、最新のデータで人口10万人あたり世界トップレベルの28.2人。アメリカの4.7人、中国の2.8人と比べても際立っていることが分かります。

一方、タイのそれは3.1人。近隣のマレーシアやベトナムはそれぞれ1.8人、1.1人といずれも低水準にとどまっています。世界最多の人口を擁するインドにいたっては0.7人。ことアジアでは、内視鏡医の育成が喫緊な課題として認識をされています。タイについてはJICA事業を活用し、内視鏡及び内視鏡医の育成ニーズが高いことが確認できたことをきっかけとして現在の事業につながっています。

内視鏡手術統合システム「EndoALPHA(エンドアルファ)」を導入した模擬手術室

こうした要請を受けて、内視鏡メーカーである当社が着手をしたのが内視鏡医を育成するための研修施設(トレーニングセンター)の建設です。まずは2000年代初頭に中国・上海に開設。次いで北京、広州に順次設置した後に、16年4月、タイ・バンコク東郊の4,800平方メートルの敷地に地上4階建ての「Olympus Thai – Training & Education Center (T-TEC)」をオープン。その後、韓国・ソウルにも同様の施設を建てました。

木下 タイのトレーニングセンター「T-TEC」は、どのような施設ですか。

得田 実際の医療現場で使用される消化器内視鏡や、外科用内視鏡、外科手術向けのエネルギーデバイス、内視鏡用の洗浄消毒装置などを配備した模擬手術室(トレーニングルーム)が備わっており、実際の医療現場同様の設備と環境で最先端の技術トレーニングを受けていただける場となっています。 常に技術の向上を目指す医療従事者に、質の高い学びの機会と場所を提供するベースキャンプのような存在でありたいとの願いをもってT-TECを運営しています。

T-TEC外観

タイだけでなくアジア各国の研修医が多忙な業務の合間を縫って当地に集います。教官役を務めるのも、もっぱらアジア出身のベテラン医師たち。アジア共通の課題を、国境を越えて解決しようという意欲と情熱がここにはあります。これまでに約2,700人の研修終了医が巣立って行きました。

木下 各地の医療現場からは、どのような声が寄せられていますか。

得田 研修を受講した内視鏡医を対象に実施している満足度調査では、常に高い評価をいただいております。このような機会はめったにないと、複数回受講される方もいらっしゃいます。  周辺の後進国や辺境の地域などでは十分な医療設備や教育機会に恵まれず、技術の取得も容易でないケースが少なくありません。タイもかつてはそうした例の一つでしたが、今では医療先進国シンガポールに肩を並べる存在となっています。周辺後進国・地域の医療の底上げが何よりも大切です。

各種手技の模擬トレーニングが可能なドライトレーニングルーム

木下 どのような思いから、本研修施設を運営しているのですか。

得田 私企業ですから、社員や株主のためにも当然に利益は追求しなければなりません。しかし、それだけでは社会の構成員としての役割は果たせません。その国のニーズを正確に把握し、効果のある社会貢献を進めていく必要があります。  そのためにはJICAの企業支援事業などを活用していくことも効果的です。もちろん、現地の大学病院や医療NGOとの協力も欠かせません。関係機関と友好関係を保ちながら、現実的で実行力のある腰を据えたアプローチを心がけています。


Olympus (Thailand) Co., Ltd.

1999年に現地法人OLYMPUS (THAILAND) CO., LTD.を設立。バンコクの本社機能に加え、北部チェンマイと東北部コンケンに支店を置き、全国をカバー。タイで深刻な都市部と地方との医療格差の解消にも尽力。

Olympus (Thailand) Co., Ltd. 33/4 The Ninth Towers, Tower A, 32nd Floor, Rama 9 Road, Huay Kwang, Bangkok 10310

TEL:(66) 2000 7700

寄稿者プロフィール

JICAタイ事務所

  • 木下真人 プロフィール写真
  • Representative木下真人

    タイの社会課題解決につながる日系企業のビジネス支援を担当。インドネシア、中国、シンガポール、トリニダード・トバゴなどで15年以上にわたり海外のJICA、日本大使館の国際協力業務に従事。2008年以来二度目のタイ赴任。International Institute of Social Studies 開発学修士。

JICA
JICAタイ事務所
Tel: +66(0)2-261-5250
Email: Kinoshita.Masato2@jica.go.jp
31st floor, Exchange Tower,
388 Sukhumvit Road, Klongtoey
Bangkok 10110, THAILAND

第2回 日本唯一のメーカーがタイ酪農の品質・生産性 向上に寄与

 タイにおける酪農の歴史はそう古くはない。1960年代、王室交流をきっかけに北欧デンマークから技術者が派遣され、ノウハウを伝えたのが始まりだ。気候の違いや零細農家が多いという特殊性から大きな成長を見ることなく今日に至ったものの、近年になってタイ政府は主要な輸出産業の一つに育てたいとの意向を固めている。そこに白羽の矢が立ったのが、日本国内で唯一酪農機器を生産するオリオン機械株式会社だった。タイの搾乳機シェア率を着実に伸ばしている同社のタイにおける貢献の在り方とは。

木下 タイの酪農はどのような課題を抱えていたのでしょうか。

坂口 熱帯のタイにおいて酪農は主力な産業とは言えず、多くの酪農農家は生産性の低さに起因する低収入と生乳の品質に悩まされてきました。日本のような農家を助けるための補助金制度もなく、あっても低利融資がせいぜい。だから、十分な搾乳機すら購入できない、搾った牛乳を冷やすためのバルククーラーさえ買えない農家が存在していました。

搾ったばかりの生乳は、直ちに冷却しなければなりません。細菌が増殖し、品質が低下してしまうからです。日本では搾乳をした後は冷却タンクで保存し、そうならないように努めていますが、タイでは集乳車が到着するまで外気にさらされた状態です。ですので、タイでは安全性も考慮し、高温・超高温殺菌の牛乳が主流で、風味がいいとされる中低温殺菌牛乳は市場にはほとんど供給されていませんでした。


JICA事業で導入したパクチョン試験場の搾乳風景

木下 どのようにタイの酪農業と接点を持つようになったのですか。

坂口 2015年に日本の農林水産省を経由して、タイの農業・協同組合省から打診があったのが始まりです。当時、タイでは酪農の生産性と品質を引き上げるための国家プロジェクトが進行していました。ところが、ローカル企業の知識やサービス不足などから上手く進まず、結果を出せずにいました。そこへ、長年の実績とノウハウを持ち、日本国内唯一の酪農機械メーカーである当社へ連絡がありました。その事業及びタイでの酪農事業を加速させるためにJICAの企業支援制度を活用させていただきました。

プロジェクトへの参加は翌16年から始まり、東部サケーオ県にあるワンナムエン農協に所属する53牧場を対象に搾乳機の提供や技術指導を行いました。意欲のある農家も少なくなく、一定の改善を見ることができました。しかし、大半の農家は個人経営で資金力に乏しく、自前で設備投資を継続してくことは難しいのが実情です。融資金の返済など多くの課題は山積したままとなっています。

木下 その後のタイでの取り組みはいかがでしょうか。

坂口 同様に酪農が盛んなサラブリー県で行われているタイデンマークプロジェクトにも参加をしています。乳牛の後継牛となる子牛の繁殖率と健康管理を高めるプロジェクトで、首用のタグとITを活用してそれを実現させようというものです。今後、搾乳頭数が増加し、収入アップが見込める牧場には搾乳機の提案をしていく予定でいます。

このプロジェクトは24年1月5日にサラブリで行われた共進会でシリントン王女様にもご覧いただき、今後のタイの酪農の在り方に強い影響を与えるものと考えます。雌の牛が発情を迎えた時に自動的にアラートが鳴り、酪農従事者はもとより獣医にもそれを知らせるというものです。また、将来的にはセンサーを通じて牛乳の管理も行えることから、生産性のアップも期待されています。

木下 タイで事業展開する際の難しさや心がけていること、やりがいなどは。

坂口 時間軸の違いを理解することが重要です。当社は民間企業ですからどうしても効率を意識し、短時間での結果を求めがちです。ところが、相手が他国で風土も習慣も異なるとなると、そうともいきません。結論を急ぐのではなく、相手の立場に立ちながら辛抱強く接していく必要があります。

国際協力機構(JICA)など日本の政府系機関を通じ、タイの行政機関と関係を構築していくことも大切です。普段は会えないような政府高官でも、JICA事業を活用することで対話の道が開けます。海外における人的コネクションの重要性を実感しています。

タイの酪農に関与することについては、社内にもさまざまな意見がありました。確かに利益はそう大きくはないでしょう。しかし、少しでも良い牛乳をと努力するタイの酪農家を支援することも社会的意義のあることだと思っています。酪農家がいる限り酪農機器を提供する。それが私たちの責務と考えます。信念を持って、やり続けることが大切です。


Orion Machinery Asia Co., Ltd. 

2011年に現地法人Orion Machinery Asia Co., Ltd.を設立。エアドライヤーやチラー、精密空調機などの産業機械に加え、16年からタイ農業・協同組合省からの要請を受けて酪農機械の提供・技術指導を開始。
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外資規制の対象ではない事業「小売」「卸売」その2

タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。

本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。

「資本金1億バーツ」で本当に販売事業が実施できるとは限らない

前回ご紹介したように、「小売」「卸売」ともに資本金が1億バーツ以上であれば、原則として規制事業には該当せず、外資企業でも実施できる、と理解されています。小体の販売会社やサービス会社としては、資本金1億バーツは非常に大きな額ですが、多額の設備投資を要する製造業であれば、資本金が数億バーツに達する企業は珍しくありません。このように資本金が1億バーツ以上でさえあれば、外資企業でも自由に販売事業ができるのでしょうか。

販売事業に必要な「資本金1億バーツ」は「控除後の資本金」

【案件概要】 タイ資本企業K社は、1億2,000万バーツの資本金を持ち、外資への転換を計画している。K社は顧客から金型のデザインを受領し、他社に金型製造を委託し、顧客が金型を使用する

【商務省の判断】 K社の事業は、製造ではなく小売である。外資企業が小売を行うためには、①商務省から許可を得る、または②外国人事業法が定める他の事業で必要な最低資本金と、他の法律で定める事業に必要な資本金を控除した、残りの払込済み資本金が1億バーツ以上であれば、許可申請の必要なく、事業を行うことができる

【解説】 K社の事例は比較的最近のものですが、同様の判断はこれまでに何度も繰り返されています。本件では、金型の「小売」が例示されており、外資企業が「小売」を無許可で実施するために必要な資本金が1億バーツ以上であることについては、本件でも明確です。問題は、「資本金が1億バーツ以上」であるということが、単純に会社の資本金の額とはならない点です。タイの会社には必ず「登録資本金」が設定されており、この「登録資本金」に対して「実際に払込まれた資本金」が存在します(後述)。この「払込済み資本金」から、更に下記の2種類の金額を控除した残りが1億バーツ以上であることが求められています。

控除の1つ目は、「外国人事業法が定める他の事業で必要な最低資本金」です。分かりやすいのは既に説明した「小売」と「卸売」の双方を行っているケースです。外資企業が無許可で実施する上で、「小売」と「卸売」は、どちらも外国人事業法で1億バーツの最低資本金が求められています。仮に上記の例で、既にK社が「卸売」を行っており、そのための資本金として1億バーツを充当しているとすれば、残額は2,000万バーツで、「小売」を行うための1億バーツに満たないことになります。他の多くの事例(2019年3月No.3)でも、「小売」と「卸売」の双方を行う場合には、2億バーツ以上の資本金が必要との判断を示しています。

加えて、外国人事業法は、他の事業についても外資企業の最低資本金を定めています。具体的には、①外資規制の対象外の事業(製造、輸出)を行う場合が資本金200万バーツ、②規制事業について許可を得て行う場合は「事業ごとに」300万バーツ(原則)と定められているほか、③「小売」、「卸売」の他にも事業によっては別の金額が個別に定められていることもあります。10月号(Vol.4)で取り上げたF社が、「輸出」と「卸売」を行うために1億200万バーツの資本金を設定していたのは、①と③の理由によるものです。

控除の2つ目の「他の法律で定める事業に必要な資本金」において、「他の法律」の代表的なものは投資奨励法、すなわちタイ投資委員会(BOI)から認可を得た企業に適用されている法律です(2015年11月No.2など)。BOIの認可を取得すると、申請した事業規模に応じて、最低資本金が個別に設定され、各社が受領している奨励証書に金額が明記されています。BOI申請における最低投資額は100万バーツとされているので、最低資本金も100万バーツと誤解している例もあるようですが、そうではありません。製造業の場合、申請した事業規模が大きく、それに伴って最低資本金の額も大きく設定されていることが多いため、資本金の額が何億バーツ、何十億バーツと大きい製造業だからといっても、「小売」や「卸売」を実施するための資本金1億バーツが残っているとは限らない、ということになります。

(注)論点整理と明確化のため筆者が内容を一部編集しています

「登録資本金」が1億バーツ以上でも販売事業が実施できるとも限らない

少し横道にそれますが、外資企業が「小売」「卸売」を行うための資本金1億バーツについてより理解を深めるために、過去にタイで話題となったトピックとして「登録資本金」と「最低資本金」との関係をご紹介します。

外資規制を規定する外国人事業法では、「最低資本金」という用語を使用し、この「最低資本金」として「小売」と「卸売」の「最低資本金」としては1億バーツ以上、規制対象外の事業では200万バーツ以上、などという表現をしています。

他方、タイの会社法である民商法典では、「資本金」を更に2つの概念に分類しています。1つは、定款に記載して商務省に登記する「登録資本金」で、もう1つは、実際に払込を行っている「払込済み資本金」です。民商法典(第1105条)では、登録資本金、すなわち株式の額面金額に対して25%以上の払込を求めています。登録資本金は必ずしも全額を払い込みする必要はない、というのがタイ会社法の考え方です。従って、1億バーツの登録資本金で会社を設立したと仮定すると、実際の払込は25%である2,500万バーツで足りる、ということになります。歴史的には、株主の資金負担を軽減することを目的に、段階的な払込を認めるために設けられた規定とされていますが、ある程度の事業計画と資本があることが前提となる日系企業にとっては、100%を払い込まないことに、メリットはそれほどありません。資本金の額が大きすぎるのであれば、小さく設定すれば済むだけの話ともいえますので、タイ企業にとっても段階的な払込は一般的ではありません。ちなみに払込状況は株主リストに記載されています。

問題は、外国人事業法でいう「最低資本金」が、民商法典でいう「登録資本金」と「払込済み資本金」の、どちらを意味するのかが、必ずしも明確にとはなっていなかった点です。タイ語の表現だけを見ると、むしろ「払込済み資本金」よりも「登録資本金」の方が、「最低資本金」のニュアンスに近いとも感じられる点が、話を更に話を複雑にしています。このため過去には、登録資本金を1億バーツ、ただし払込済み資本金は25%の2,500万バーツとして、「小売」または「卸売」の条件を満たしたと主張する外資企業の例が、日系企業を含めて多く見られました。

この問題について、ある日系企業とタイ商務省との間で、2009年に論争が生じました。この日系企業は、法律上の表現から解釈すれば最低資本金とは「登録資本金」である、と主張したのに対して、商務省は、立法趣旨を考えれば「払込済み資本金」を意味すると主張しました。商務省から判断を求められたタイ政府の法制委員会は2010年2月に図表1の内容を公表しました。

法制委員会の判断によって論争に一応の決着がつき、現在では「最低資本金とは登録資本金を指す(従って2,500万バーツの資本金払込で「小売」または「卸売」が可能)」との解釈は一掃されています。この解釈に基づき事業を行っていた外資企業も、ほとんどが1億バーツの資本金を払込済みか、タイ資本化など他の手段による対応を終えたと考えられています。

本件においてのもう1つ大事なポイントは、商務省が解釈を変更したという事実です。法制委員会の資料でも、かつては商務省も「最低資本金とは登録資本金を指す」との解釈をしていたと明記し、そのエビデンスも示されています。商務省の解釈は絶対的なものではなく、時代の変化等に応じて変更される可能性があるものといえます。だからこそ本連載でも、なるべく最近の事例をご紹介しています。


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外資規制の対象ではない事業「小売」「卸売」その1

タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。

本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。

資本金を大きくすることで外資企業が実施可能となる「小売」と「卸売」

外資企業が実施できる事業の類型の2つ目である「条件付きで実施可能な事業」とは、規制事業であることが外国人事業法の規制事業リストに明記されているものの、同リストに例外規定が設けられ、一定の条件を満たせば外資企業であっても実施できるとされる事業です。ここに当てはまる事業の代表例が「小売」と「卸売」です。

「小売」と「卸売」について、規制事業リストは図表1のように規定しています。これに該当する事業は外資規制に抵触しますが、該当しなければ外資規制に抵触しません。つまり、資本金が1億バーツ以上であれば、規制事業には該当せず外資企業でも実施できる、というのが第一段階での理解となります。

ここでの1つ目のポイントは、いわゆる「販売」事業とは、「小売」と「卸売」の2種類に分類される点です。タイ独自の分類であり、また頻繁に問題となる重要な論点ですので、これについては後で詳しくご説明します。

2つ目のポイントは、ここでの「小売」と「卸売」は、いずれもタイ国内販売を指すものであって、海外向けに販売する「輸出」を含まない点です。「輸出」については前回までに解説したように、外資規制の対象外とされています。

3つ目のポイントは、「小売」と「卸売」のいずれも、規制事業ではあるものの、同時に例外規定が付されている点です。つまり、資本金が1億バーツ以上であれば外資規制から外れ、外資企業であっても事業ができる、というのが大原則です。

加えて、以前ご紹介したように、自社が製造した製品の販売は「小売」でも「卸売」でもなく、「製造」事業の一部とみなされます。

上記の各ポイントを踏まえ、タイにおいて外資企業が、この条件を満たして販売事業を行うためには、まず自社の販売事業が、「小売」「卸売」「輸出」のうち、どの事業に該当するのかを整理する必要があります。複数の領域にまたがる場合には、必要となる最低資本金は累積されるというのが基本的なルールです。「輸出」であれば最低資本金200万バーツと比較的少額ですが、仮に「小売」と「卸売」を含めた3事業すべてを実施している場合には、必要な最低資本金は2億200万バーツに達します。1億バーツを満たして「小売」と「卸売」のどちらかを行なっている例は日系企業にも少なくありませんが、2億バーツを用意して「小売」「卸売」の両方を実施する例は、一部の大企業を除けば極めて稀です。

別の方法で許認可を得ようとする場合(別稿で説明予定)にも、一般的に販売先が不特定多数に及ぶ「小売」で許認可を得るためのハードルは高くなります。対して、販売先が特定されやすい「卸売」は、許認可も比較的取りやすい、という点からも、事業の整理は必要です。

また、資本金が1億バーツ以上といっても、「資本金1億バーツ以上の会社であれば販売ができる」、という単純な話でもありません。上記のように「小売」と「卸売」の双方を実施する場合だけでなく、他に実施している事業との関係によって、必要となる最低資本金も変わってきます。こうしたタイでの「販売」にかかわる定義と条件の詳細について、今回から詳しく解説していきます。

タイにおける「小売」と「卸売」の違いとは?

タイ国内向けの「販売」は、「小売」と「卸売」に分類されると述べましたが、「小売」と「卸売」の定義は、法律上で定められたものではありません。しかし商務省の解釈において、これまで何度も繰り返し言及されています。タイ語の若干の言い回しが異なることもありますが、内容はこれまで一貫しています。

「小売」と聞いて、イメージしやすいのは、コンビニエンスストア、スーパー、百貨店などですが、タイの「小売」は、一般消費者向けの「小売」に限られるものではありません。例えば、タイ現法が輸入販売商社として、日本の本社が製造した工作機械をユーザーに販売するケースでは、その工作機械を購入したユーザーが直接使用するのであれば、自社の販売は「小売」に該当します。

他方、「卸売」は、以下2つのパターンに細分化されます。

1つ目は、製品を直接使用するユーザー向けへの販売ではなく、直接使用しない代理店等に対して販売するパターンです。購入者が自ら使用するのではなく、その購入者が更に第三者に対して販売するのであれば、自社の販売は「卸売」に該当します。  2つ目は、製品を原材料として使用するメーカー等へ販売するパターンです。この場合は、販売した製品を購入者が消費しているとの見方もできますが、あくまで他の製品を製造するための原材料であるとして、「小売」ではなく「卸売」として扱われます。

上記の工作機械を例にとると、自社の販売先が代理店で、代理店を通じてユーザーに販売されるケースでは、(1)自社から代理店に対する販売は「卸売」であるのに対し、(2)代理店からユーザーへの販売は「小売」となります。同じ製品であっても、販売先が異なれば、それぞれ「小売」と「卸売」の別事業としてみなされる可能性があることを意味しています。

更には、「同じ製品」を、「同じ販売先」に販売するケースであっても、「小売」と「卸売」が混在するケースも考えられます。メーカーである顧客に対して部品を販売する場合に、顧客が製品の材料として使用したり、最終ユーザーに対して補修部品として販売すれば「卸売」になります。しかし、顧客が部品を自らの設備補修等に使用すれば「小売」となる可能性があります。販売先の購入目的を全て管理することは困難ですし、書類等でも表面化しにくいため、商務省から指摘を受ける可能性は高くないと考えられますが、仮に指摘を受けた際には、自社としてどのように認識して事業を行なっているか、説明ができるようにしておくべきでしょう。

タイ資本企業であれば、外資規制を受けませんので、「小売」と「卸売」を分けて考える必要は基本的にありません。しかし外資企業にとっては、両者の整理は重要な課題です。実施するのは製造やサービス事業のみで、販売自体をまったく行なわない、という方針であれば簡単ですが、問題は、どちらか一方だけを実施できる状態になっているケースです。「小売」と「卸売」の違いに認識が及ばず、どちらか一方しか実施できない状態であるのに、すべて「販売」できる、と誤解している例が日系企業にも見られます。外資規制をクリアしていない状態で外資企業が「小売」または「卸売」を行なえば、外国人事業法の第37条「無許可での事業実施」違反となる可能性があります。「2億バーツ以上の十分な資本金があり、タイ国内販売しか事業を行っていない」という場合を除き、自社の販売が「小売」と「卸売」のどちらの事業と認識すべきか、整理しておくことが必要です。

今回は「小売」と「卸売」に関する基本的な事項を整理しました。ここまでは日系企業の間でも広く認識されている内容かと思います。次回からは、いよいよ商務省の判断事例を踏まえた応用編に入っていきます。

 


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外資規制の対象ではない事業「輸出」

タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。

本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。

外資企業が実施できる事業の類型の一つ目である「外資規制の対象ではない事業」のうち、前回の「製造」と並んで代表的なものが「輸出」です。

「輸出」は、タイにとって外貨を獲得する上で重要な企業活動であると同時に、タイの外資規制の基本的な考え方である「タイ企業の事業に影響を及ぼさない」にも合致することから、外資規制の対象とならないと理解されています。 外資規制の対象となるタイ国内販売は、タイ国内市場が限定されることから、外資企業が販売を拡大すれば同業のタイ企業がシェアを奪われると懸念されます。

これに対して海外市場は広大で、かつ競争相手も国内外に無数にあることから、外資企業による輸出拡大は、タイ企業への影響がほとんどないと考えられるためです。 なお「輸出」が論点となるのは、あくまで「自社が製造していない製品」の取り扱いに限られます。自社が製造している製品であれば、それは外資規制の対象ではない「製造」事業の一部として、タイ国内外を問わず販売することができるためです。

例えば最近の事例(2023年5月No.2)でも、自社が製造している製品の輸出について、それが「製造」であるか「受託製造」であるかのみを商務省は問題としており、「輸出」については論点とされていません。

①「製造」であれば「輸出」はその一部として外資規制対象外、②「受託製造」であれば「輸出」を論じる以前にサービス業として外資規制の対象となり、③製造でも受託製造でもない商品については「輸出」として外資規制対象外、と整理することができます。

タイ国内販売(卸売・小売)は外資規制対象だが、タイ国外販売(輸出)は外資規制対象外

【案件番号】2021年8月 No.3

案件概要

外資企業F社は、1億200万バーツの資本金をもち、ビレットやスクラップなどのタイ国内卸売と海外への輸出を検討している

商務省の判断

ビレットやスクラップなどをタイ国内で調達し、卸売を行うことは、外資規制を受ける「卸売」に該当する。外資企業が行うためには、商務省から許可を得るか、事業ごとに1億バーツの払込済み資本金があれば許可なく実施できる。ここには、外国人事業法および他の法律が定める最低資本金を含まない。一方、ビレットやスクラップなどをタイ国内で調達し、海外の顧客へ向けて輸出することは、規制事業に該当しない。許可申請の必要なく、事業を行うことができる。ただし、他の法律が定める最低資本金を除き、200万バーツの最低資本金が必要となる

解説

本事例は、タイ国内での販売(=卸売または小売)と、タイ国外での販売(=輸出)に対する取扱いの違いを示しています。タイ国内販売については別稿で詳しく説明しますが、ここでは輸出との違いに注目します。たとえ同じ製品(本件ではビレットやスクラップ)を、同じように調達し、同じように販売したのであっても、販売先がタイ国内であれば外資規制に抵触し、タイ国外への輸出であれば外資規制に抵触しない(従って外資企業が許可なく実施できる)ということです。

ただし輸出が外資規制に抵触しないといっても、輸出を行う外資企業は、外国人事業法に基づき200万バーツの最低資本金が求められます。一方で、外資規制に抵触するタイ国内販売(卸売)も、原則として1億バーツの最低資本金があれば、許可なく事業を実施することが可能です。このため結果として、どちらの場合も最低資本金の要件さえ満たせば、外資企業が許可なく事業を行える、という点には違いがありません。

しかし別事例(2021年7月No.2など)でも示されるように、仮に製品を「タイ国内向けには販売しない」と明確化できれば、外資企業としての資本金は200万バーツで足ります。これに対して、本事例のようにタイ国内販売(卸売)と輸出の双方を行なう場合には、卸売で1億バーツ、輸出で200万バーツ、合わせて1億200万バーツの資本金が求められます。加えて小売も行うのであれば、更に1億バーツで計2億200万バーツが必要です(商務省の判断にある「事業ごとに」というのは、卸売で最低1億バーツ、小売で最低1億バーツ、という意味です)。

一般的に販売会社は規模が小さいことも多く、1億バーツ以上の資本金を払い込むことが現実的となるケースばかりではありませんので、この違いは金額以上の実質的な差異と捉えることができます。また別の視点から捉えれば、タイ国内販売事業を別会社に切り分けるなど、うまく事業再編できれば、要求される最低資本金を大幅に低減させられる可能性がある、ともいえます。


「輸出」における、もう一つの重要な論点は、「輸出として認められる範囲はどこまでか」という点です。上記でお示しした通り、同じ販売であっても、それがタイ国内販売であるか、それともタイ国外への輸出であるかによって、外資規制上の取り扱いは大きく異なります。特に輸出については、外国人事業法に明記されたものではなく、あくまで解釈として「該当しない」と商務省が示しているものに過ぎませんので、どこまで外資企業による実施が認められるのか、判断は慎重にならざるを得ません。


三国間貿易についても外資企業が実施可能、ただし「仲介」は含まれない

【案件番号】2021年7月 No.4

案件概要

外資企業G社は、海外のメーカーから商品を調達し、別の国の顧客に向けて販売することを検討している。商品はメーカーから顧客へ直送される。所有権はG社にあり、G社は商品代金の100%を顧客から直接受け取り、また代金の100%をメーカーに直接支払う

商務省の判断

所有権がG社にあり、G社が商品代金の100%を顧客から直接受け取り、また代金の100%をメーカーに直接支払うG社の販売事業は、規制事業に該当しない。許可申請の必要なく、事業を行うことができる

解説

本事例は、二つの重要なポイントを示していると考えられます。一つ目は、タイ国内から国外への輸出(「In-Out」)だけでなく、本事例のような三国間貿易、つまり国外から国外への取引(「Out-Out」)も、外資規制の対象外としているという点です。本事例でも「輸出」という用語は使用されていませんので、三国間貿易を「輸出の一部に含む」と解釈すべきかどうかは、まだ不明確ですが、少なくとも外資規制に抵触する「In-In(タイ国内調達品のタイ国内販売)」と「Out-In(輸入品のタイ国内販売)」に対して、「In-Out」と「Out-Out」、すなわち販売先が海外である場合には、外資規制の対象とならない、という判断が示されています。商務省が解釈を公表するようになった2006年以降の約17年間、これまでの数百件に及ぶ事例のなかで、実は三国間貿易を取り上げた事例はほとんどありません。本事例によって解釈が明確になった意義は大きいと考えられます。

なお、「Out-Out」の派生として、タイ国外で生産した商品が、タイ国内をいったん経由して、国外の顧客へ販売する取引(「Out-in-Out」)についても、別の事例で外資規制の対象外としています(2019年7月No.1)。この事例では、明確に根拠を示しておらず、またタイ国内で部品として使用されている事例ですので、製造の一部として解釈されたとも考えられますが、仮にタイ国内で加工が加えられなかったとしても、その場合は単純な「輸出」として規制対象外とみなされる可能性が高いと推測されます。

二つ目のポイントは、本事例において、「所有権がG社にあり、G社が商品代金の100%を顧客から直接受け取り、また代金の100%をメーカーに直接支払う」、という取引の形態が示されている点です。三国間貿易は、日本語では「仲介貿易」とも呼ばれますので混乱を招きやすいですが、タイの外資規制の考え方においては、上記の取引形態は「仲介」とはなりません。タイにおける「仲介」とは、コミッションフィーを徴収するビジネスで、かつ規制事業リストに明記されている規制業種の一つです(詳細は別稿でご紹介します)。本事例において所有権や、商品代金の授受について繰り返し述べているのは、「仲介」に該当しないことを強調する意図があるものと読み取れます。

従って、仮に商流そのものが三国間貿易であっても、代金の授受が商品代金としてではなく、コミッションフィーとして発生する部分があれば、商務省の判断も異なる(=外資規制に抵触すると判断される)可能性が高いと考えられます。最近の別の事例(2022年4月No.4)でも、「コミッションやサービス料を徴収しない」ケースにおいては、外資規制の対象外であるとしており、この考え方を裏付けています。


外資企業が実施できる事業の一つ目の類型である「外資規制の対象ではない事業」について、前回は「製造」、今回は「輸出」をご紹介しました。

次回は、残る「投資」についても触れるとともに、一旦ここまでの議論を整理します。


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外資規制の対象ではない事業「製造」

タイ進出を新たに検討する企業だけでなく、進出済みの企業にとっても、タイでのビジネスにおけるもっとも重要なルールの一つが外資規制です。タイで自社が実施する事業は何か、その事業は外資規制をクリアできるのか、それによってタイ子会社の資本戦略や組織構造も大きく変わってきます。

本連載では、外資規制の基礎から応用までをご説明します。

本誌2023年7月号の「外資規制の基本的な考え方」で整理したように、外資企業として実施できる事業の類型の一つ目が、「外資規制の対象ではない事業」です。当たり前のことを言っているように聞こえるかもしれませんが、その判断は実際には難しく、たとえ「規制事業リストに明記されていない事業」であっても、外資規制の対象ではないとは言い切れません。そうした「規制事業リストに明記されていない事業」の大部分についても、商務省は、規制事業である「その他サービス業」に該当すると解釈しているためです。

反対に、リストや条文にも「その他サービス業」に該当しない事業は何か、外資規制の対象ではない事業は何か、明記されていません。従って「外資規制の対象ではない事業」とは具体的に何を指すのか、商務省の解釈に依ることになります。  商務省は、企業等からの照会に対する回答という形で、これまでの解釈事例を多数公開しています。

年月の経過によって解釈が多少変遷することもありますので、なるべく最新の事例を用いて、外資企業が実施可能な事業の範囲を探っていきます。

「製造」と認められるには、デザインが自前であることが条件

【案件番号】2021年6月 No.4

案件概要

外資企業A社は、工業団地公社(IEAT)から認可を得て、工業団地内で食品を製造している。なお製法や特徴は自社のものである

商務省の判断

自社の製法や特徴に基づいて食品を製造し、国内外に販売するのであれば、規制事業に該当しない。許可申請の必要なく、事業を行うことができる。ただし、委託者が定める製法や特徴に基づいて食品を製造する場合は、「受託製造サービス」として規制事業「その他サービス業」に該当する。IEATから「受託製造サービス」として認可を得ているのであれば、商務省に「外国人事業証明書(FBC)」を申請しなければならない

解説

外資規制の対象とされず、外資企業であっても無許可で実施できる事業の代表例が「製造」です。自社が「製造」した製品を、タイ国内外に「販売」することまでを含めて、「製造」は外資規制に抵触しないと解釈されています。上記の案件は食品の事例ですが、自動車や電機・電子など他の製造業においても、これまで同様の判断が多数示されています。

2021年6月以降も、定期的に類似の案件は発生していますが、論点が明確な本件を例に紹介します。  日本人が一般に考える「製造」と、商務省が解釈する「製造」は、必ずしも一致しない可能性があることに留意しなければなりません。その1つが、「受託製造サービス」の考え方です。

本件における食品の製造は「製法や特徴」、他の製造業では「デザイン」とされることが通常ですが、あくまで「自社が設定したデザイン等に基づいて製造する」というのが、商務省の認める「製造」です。たとえ製造工程や設備に変わりはなくとも、デザイン等が顧客等から提供されるのであれば、それは「製造」ではなく「受託製造サービス」とされます。すなわち規制事業である「その他サービス業」であって、商務省から許可等を得なければ事業を行うことができません。

自社が行う事業が「製造」なのか、それとも「受託製造サービス」なのかは、完成品メーカーにはあまり影響がないかもしれませんが、部品メーカー等にとってはセンシティブな問題です。納入先の意向を反映せず、自社のみでデザインを完結できるケースは、むしろ例外的でしょう。本件では、A社がタイ工業団地公社(IEAT)工業団地の入居企業であることから、外国人事業証明書(FBC)の申請が求められています(FBCについては、外資企業が実施可能な事業の四つ目の類型として、改めてご紹介します)。IEATまたは投資委員会(BOI)の認可を得ている事業の場合は、その認可内容にあらかじめ「受託製造サービス」まで含めておくことが肝要であり、現実的な解決策となります。

IEATとBOIのいずれも関係しない外資企業の場合は、自社が行う「製造」が、「受託製造サービス」とみなされないよう、デザインが自社のものであることを明確にしておくことが必要です。仮にもし「受託製造サービス」に該当するのであれば、商務省からの許可(外国人事業許可証(FBL))を申請するか、タイ資本企業として実施するか、いずれかを検討することになりますが、どちらもハードルは高まります。「受託製造サービス」は、比較的FBLが取得しやすいとされているものの、BOIやIEATとは異なり、要件さえ満たせば許可が得られるというものでもありません。「受託製造サービス」とみなされないためのビジネスモデルの再設計や、場合によっては資本再編による内資企業化などの検討も必要になります。


左記に紹介した事例において、「受託製造サービス」とみなされるポイントは、自社が設定した「デザイン」等に基づく製造であるか否か(クライアント等から提供されたデザイン等であるか否か)でした。ところが、デザインの問題の他にも、「受託製造サービス」とみなされるケースがあります。


「製造」と認められるには、原材料も自社での調達が必要

【案件番号】2021年6月 No.7

案件概要

外資企業B社は、投資委員会(BOI)と工業団地公社(IEAT)の双方から、宝飾品製造の認可を得ている。海外の顧客(B社のグループ会社と、グループ外の会社の双方)がB社に原材料を提供し、B社が加工したのちに、顧客へ返還する

商務省の判断

本事業は「受託製造サービス」に該当する。BOIから認可を得ているのであれば、商務省に「外国人事業証明書(FBC)」を申請しなければならない。もしIEATの権利に基づき事業を行うのであれば、IEATの許可書の内容を「受託製造サービス」に修正した上で、商務省に「外国人事業証明書(FBC)」を申請しなければならない

解説

本件では、デザインについての言及はありませんが、「製造」ではなく「受託製造サービス」に該当すると解釈されています。これは、自社で調達した原材料を使用するのではなく、原材料が顧客から提供され、B社が加工のみを行う点が問題視されているためです。つまりタイにおける「製造」であるためには、製造工程の存在だけでは不十分であり、自社デザインであることと、更には原材料も自社で調達しなければならないことを意味しています。  この要件も、部品メーカー等にとっては非常に微妙な問題です。日本国内でも、顧客である完成品メーカー等から半製品が供給され、そこに加工を施して返送するようなケースは多く存在しますが、同様のビジネスモデルをタイで行なおうとすると、外資規制に抵触することになります。

もっとも、そうした製造関連事業の多くは投資委員会(BOI)の対象となっていますので、BOIから取得する認可に「受託製造サービス」まで含めることで、解決できる問題でもあります。ところが、本件のように工業団地公社(IEAT)やBOIから取得している事業認可の内容が、外資規制について十分に考慮されておらず、「受託製造」までカバーされていない場合があります。また、IEATやBOIから認可を受けたことで安心してしまい、外国人事業証明書(FBC)の取得が漏れているケースもあります。外資企業にとっては、土地取得や税制優遇のみならず、外資規制の観点からもIEATやBOIの認可内容は非常に重要なものですので、内容と手続きに漏れがないかきちんと確認しておくことが必要です。


ここまでの2つの事例とは反対に、受託する側ではなく委託する側、すなわち製造を他社に外注するケースではどのように考えるべきでしょうか。製造工程の一部ないし大部分を協力会社に委託しているようなケースや、受注変動などへの対処のために一時的に外注するようなケースは、製造業において日常的に見られる光景かと思います。

次の事例では、これまでタイ資本企業として、こうした「委託」(及び「受託」の双方)を行なっていたC社が、外資化に伴い留意すべき点を示しています。結論として、委託製造は「製造」ではなく、外資規制に抵触する「小売」または「卸売」に該当すると判断されています(「小売」と「卸売」については、外資企業が実施可能な事業の二つ目の類型として、改めてご紹介します)。

製造の「委託」は、「小売」または「卸売」とみなされる

【案件番号】2020年7月 No.1

案件概要

タイ資本企業C社は、外資企業にステータスを変更する計画である。C社は、投資委員会(BOI)の認可を得て、顧客の求めるデザインと品質に基づき、自動車部品を製造している。またC社は、自社が自ら製造を行なっている他、一部の製品については他社に製造を外注している。

外注先はC社から原材料を購入し、製品を納品する際に、C社に対して製品代金として請求する

商務省の判断

顧客の求めるデザインと品質に基づき、自動車部品を製造することは、「受託製造サービス」に該当する。同事業でBOI認可を得ている外資企業は、商務省に「外国人事業証明書(FBC)」を申請しなければならない。また、顧客への販売のために他社に製造を委託すること、及び外注先に原材料を販売することは、「小売」または「卸売」に該当する。

従って外資企業が行うためには、商務省から「外国人事業許可証許可(FBL)」を取得するか、事業ごとに1億バーツの払込済み資本金があれば許可なく実施できる。ここには、外国人事業法および他の法律が定める最低資本金を含まない

解説

ポイントの一点目は、委託する比率や分量、期間等には一切の言及がないことです。例え少量あるいは短期間であっても、他社に製造を委託することは「製造」事業から外れることを意味すると解されます。緊急の場合に一時的に少量を外注するようなケースであっても、「外資規制上は容認されていない」、と解釈することになりそうです。

ポイントの二点目は、「受託製造サービス」はBOI等の認可によって認められる余地があるのに対して、「委託製造」にはそうした余地はあまり想定されていないと解釈される点です。本件でも、C社はBOI認可を得ており、仮にタイ資本企業から外資企業にステータス変更されたとしても、BOIの認可内容によっては外資企業への移行後も「受託製造サービス」の継続が認められそうです。これに対して「委託製造」についてはBOIの言及はありません。「製造」の延長線上にあるとは言えそうな「受託製造サービス」に比べても、「委託製造」は製造業的な要素が乏しいと認識されているものと考えられます。

ポイントの三点目で、最大の論点は、「委託製造」は「製造」でも「サービス」でもなく、「小売」または「卸売」とみなされる点です。詳しくは別稿でご説明しますが、「サービス」と異なり、「小売」「卸売」は、資本金を大きくすることで、外資企業であっても無許可で実施できるとの例外が設けられています。単純に資本金1億バーツあれば良いというものではない点にも注意が必要ですが、企業規模が大きな製造業にとっては、増資がむしろ現実的かつ容易な選択肢となるケースも多く見られます。


「製造」の最後に、製造に付随する各種の事業についてご紹介します。例えば「販売」は、タイの外資規制上、タイ国内向けの「小売」と「卸売」、及び国外向けの「輸出」に分類されます。このうち次回ご紹介する「輸出」は「製造」と同様、外資規制の対象外とされる一方で、「小売」と「卸売」は外資規制の対象事業です。

しかし自社が「製造」した製品については、タイ国内外に「販売」することまでを含めて、外資規制に抵触しない「製造」の一部とみなされることは、上述した通りです。  それ以外の「製造に付随する」事業については、どのように考えるべきでしょうか。

製造の「付随」サービスは、判断基準が明確とはいえない

【案件番号】2019年9月 No.6

案件概要

外資企業D社は、投資委員会(BOI)の認可を得て冷蔵庫を製造している。以下は製造とみなされるか
・ 顧客が指定する場所へ商品を配送し、距離に応じた 配送料を徴収する
・ 商品を据付し、商品代金に据付料を含めて徴収する

商務省の判断

顧客が指定する場所へ商品を配送し、距離に応じた配送料を徴収することは、外資規制を受ける「輸送業」に該当する。商品を据付し、商品代金に据付料を含めて徴収することは、外資規制を受ける「その他サービス業」に該当する

解説

製造に付随する事業は、判断事例が多くないため(販売を除く)、まだ基準は明確とは言えませんが、本件では「配送」と「据付」について外資規制に抵触すると判断し、その理由を「料金を徴収していること」に置いているように見受けられます。また、製造ではありませんが、「卸売」に付随する「据付」について、無償であることから「卸売」の一部とみなし、外資規制に抵触しない、と判断した事例もあります(2017年2月の案件No.2)。

【案件番号】2015年1月 No.1

案件概要

外資企業E社は、クリーンルームに使用する断熱材を製造している。保証期間内に、無償で修理サービスを提供する予定である

商務省の判断

保証期間内に、無償で修理サービスを提供することは、取引とはみなさず、許可なく実施することができる

解説

本件は少し古い事例ですが、「修理」について外資規制に抵触しない、と判断したケースです。こちらは「無償であることから外資規制に抵触しない、そもそも取引ですらない」、と判断しているように見受けられます。これらの事例からは、やはり有償であるか無償であるかが、外資企業として無許可で実施できるか否かの判断の大きなポイントになるように思われます。

ただし商務省は、「取引であるか否かの判断において、利益や売上があることは要素の1つに過ぎず、事業の全体から検討する」とも繰り返し述べています(2018年6月の案件No.1など)。有償であれば実施不可(=許可が必要)と概ね推定されますが、無償の場合であっても、必ずしも無許可で実施可能とは思い込まず、慎重に判断することが必要と考えられます。


今回は、外資企業が実施できる事業の一つ目の類型である「外資規制の対象ではない事業」について、もっとも重要な論点である「製造」についてご紹介しました。

次回は同じ類型の残りの事業、すなわち「輸出」と「投資」についてご説明します。


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【事業概要】 タイおよび周辺諸国におけるコンサルティング、リサーチ事業等

高品質な金属加工油、最上級の無償アフターサービス 工場の全体コストを最小化

 エンジンオイルや潤滑油、良質な金属加工油などで知られる「カストロール」。100年以上も前に創業し、今や世界60ヵ国以上で展開。この著名ブランドの名を一度も耳にしたことのない人はまずいないだろう。その生産工場の一つが置かれているのがタイ法人のBP-Castrol (Thailand) Limitedだ。親会社の英石油大手「BP」への傘下入りに伴って社名にBPの名が加えられて以降も、従来と変わらぬ質の高い製品とサービスを供給している。グローバルエネルギー企業として、来たるカーボンニュートラル社会への対応を筆頭に、SDGsへの貢献を重要課題として取り組んでいる。

タイ全土に5,500店EV社会に向けた取り組みも開始

タイ全土に5,500店EV社会に向けた取り組みも開始自動車好きやオートバイ乗りにお馴染みのカストロール・オイル。緑色が鮮やかな看板を掲げるサービス店はタイ全土に5,500店もあり、その数は大手コンビニエンスストアの店数に匹敵するほど。店頭ではトップブランドのエンジンオイルを中心にメンテナンスサービスを提供している。

一方、二輪や四輪の各メーカーやディーラー向けには、純正品エンジンオイルとしてのOEM(相手先ブランド)供給を実施しているほか、潤滑油関連商品も取り扱う。電気自動車(EV)の普及など市場は大きく変化しているものの、新興国を中心にエンジンオイルなどのニーズは当面続くと読む。その一方で、EVの心臓部であるバッテリーを冷却するための潤滑油需要などの新たな用途への対応も進めている。

モノづくりを長年サポート金属加工油はタイ事業の柱

モノづくりを長年サポート金属加工油はタイ事業の柱

各種モノづくりの現場で使用される切削や研磨用の金属加工油、工作機械などのロボット類を作動させるための潤滑油も販売しており、タイにおいてもカストロール製品は半世紀以上も前から多くのユーザーに愛され続けている。

カストロール製品の魅力は、なんといっても幅広い製品とその高い品質だ。腐敗を抑えたり、工具寿命延長が期待できる金属加工油は、機械ダウンタイム削減につながり好評だ。洗浄と防錆を同時に行う特殊な製品は、1工程削減が可能だ。結果、工場全体コストの低減となり、安価なライバル製品にも負けない経済性も実現できる。

地道な営業努力を通じて、こうした理解の浸透も進めている。

「売って終わり」ではない、ソリューションプロバイダー

モノづくりを長年サポート金属加工油はタイ事業の柱

日系・欧米・ローカルモノづくり企業など約800社を顧客に年間5万ドラム以上を販売する一方で、もっとも注力しているのはアフターサービスだ。十分な訓練を施した自社サポートチームが顧客の工場を定期訪問。機械タンクに溜まった切くずの除去や清掃、さらには濃度管理や油の分析を現場で実施。これらは工具コストや不良率の改善、機械故障の防止や人件費の抑制に貢献している。

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Classmethod (Thailand) Co., Ltd. | クラウド導入でタイ市場の新たな時代を牽引AWSでコスト削減、IoTで現場の見える化を実現

クラスメソッドは、米AWSから、SI Partnerとしてグローバル No.1を受賞(2022年11月)。AWS Japanから、Service Partner of The Year in Japanを受賞 (2022年3月)。

 仮想化技術を使ってサーバーや各種ハードウェアリソースをネット上で利用するクラウドコンピューティングサービス。この分野で世界最大手のプレイヤーが、全世界で数百万者が利用する米アマゾンのAmazon Web Services(AWS)だ。東京に本社を置くクラスメソッド株式会社は、このサービスの構築や導入支援において最上位ランクの認定を受けるパートナであり、AWSからGlobalでのSI Partner of the Yearを受賞した企業。コロナ明けの今をタイローカル市場に浸透する絶好のタイミングと読む。

現在のタイ市場をどうみますか

コロナ明けが近づくにつれ、強く感じることがありました。製造業を中心とした新たな投資意欲の拡大です。コロナ禍で多くの方がオンラインや自動化、省人化の果たす役割を実感し、多くの経営者が生産効率の高まる現場を目の当たりにしました。ローカル市場も同様です。未だ残っていた労働集約型の市場が大きく変わるきっかけとなったのが皮肉にもコロナの蔓延でした。

クラウドに対する理解の深まりもそうです。見えないもの、価値の分からないものへの抵抗感は根強く、結局は据え置き型サーバーを選択するのがタイ市場の常態でした。ところが、あらゆるモノがネット空間と結び付けられるIoT(モノのインターネット)が浸透するなど、ビッグデータの解析にクラウドが欠かせないことが分かると、市場は大きく動きを変えました。モノ神話の意識を劇的に変えたのもコロナの効用でした。また、クラウドの方が据え置き型サーバーに比べコストが抑えられる点もコロナ禍でより導入が進んだ理由の一つです。

ICHIパビリオンでは何を出展しますか

AWSのほかIoTが展示の中心となります。当社の企業ミッションは、「タイのみなさんを豊かにすること」。AWSやIoTを活用することで何ができるのか。ブースではリアルタイムの解析結果をお示しし、ご来場者のさまざまなお困り事に応えていきたいと思います。

クラウドを導入することで、経済的な効果が計り知れないこともお伝えしたいと思っています。必要な時に必要なだけ使う従量制のためコスト削減効果が大きいほか、洪水などの災害やデータの漏洩、サーバーの盗難リスクなどから資産を守ることも可能です。効用は生産現場だけではありません。IoTで設備の情報を収集し、クラウドで見える化、分析をすることで使用電力量やCO2排出量の削減といった副次的な分野でも有用性が高いのが特徴です。

貴社を通じたAWS契約の利点は

アマゾン本体と直接契約するより3%の割引が受けられる点が大きな魅力です。さらに、日本語、英語、タイ語によるテクニカルサポートも無料付帯となります。タイバーツで決済ができる点も在タイ日系企業様から選ばれる理由の一つです。

社内サーバーからクラウドへの移行を検討している企業様やクラウドを活用してデータ分析することにご興味をお持ちの企業様、またCO2削減やSDGsの推進に取り組んでいる企業様など、ぜひ一度当社ブースにお越しいただければと思います。

PLCデータの可視化はGrafanaを利用。 上記は一部の可視化イメージ画像


【お問い合わせ】 Classmethod (Thailand) Co., Ltd.

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担当:三並
TEL: +66 02-115-0160
E-MAIL: inquiry@classmethod.co.th
URL: https://www.classmethod.co.th/ja

213/4 Asoke Towers, Room B, 5th Floor, Sukhumvit 21 Road, Klongtoey-Nua, Wattana, Bangkok 10110

QUALICA (Thailand) Co., Ltd. | 多様なITサービスで製造業の見える化と課題解決に貢献

クラウド型生産管理システム「ATOMS QUBE」と超高速鋳造シミュレーション「JSCAST」

生産管理から会計ソフトまであらゆる製造業向けソリューションを提供するクオリカ株式会社は、日本国内で30年以上の実績を誇るシステム開発企業。同社は世界的な建設機械メーカー、コマツのIT部門から生まれ、1982年に独立した後も、コマツブランドをITの側面から支え続けている。その豊富な経験から製造業の業務を知り尽くし、システムのクオリティを高めてきた。2000年代からは海外事業にも乗り出しており、シンガポール、中国・上海に現地子会社を持つ。20年1月に設立したタイ法人においても、手掛ける業種業態は幅広く、製造業の「見える化」に大きく貢献している。

タイではどのような製品を提供しているのですか

日本本社と変わらない、豊富なラインナップであらゆるお悩みに対応しています。中でも自社開発のクラウド型生産管理システム「ATOMS QUBE」はシンプルな画面構造と直感的な操作性で、ローカルユーザーからも使いやすいと高い評価を得ています。営業の受注登録や購買のPO発行、現場の在庫登録までトラブルの元となりやすいエクセル管理を廃し、徹底的に「見える化」を追求しました。タイ語を始めとした多言語にも対応しており、コロナ禍にあっても顧客数は順調に推移しました。

鋳造シミュレーションソフトの「JSCAST」も自社製品です。どんな鋳造欠陥が起こり得るのかをあらかじめ分析・シミュレートするソフトで、試作期間を大幅に短縮できる生産現場の強い味方です。製造後の品質チェックで不良が出ることも少なくなり、欠陥が生じた際の対策コストの削減にもつながります。ブースでは、以上の2製品を中心に展示する予定です。

昨今のタイ市場をどうみますか

人件費や材料費の上昇など、タイの製造業は改革待ったなしの状態にあると思っています。これまでのような単なる人の削減だけでは限界があることは十分に分かっている、何かしなければならないという意識が、ローカル市場においても共有されるようになってきました。

このような環境下にあるからこそ、我々に何ができるか、何のために当社のようなシステム会社がタイに存在しているのかを示さなくてはなりません。

CHIパビリオンへの出展について教えてください

同パビリオンへのリアル出展は初めてです。まずは、来場される皆さまから最前線のお困り事・相談事を伺ってみたいと思っています。当社は自社製品以外にもさまざまな製品を扱う代理店契約も結んでいます。多岐にわたる課題に対し、ご提示できる解が多いことが自慢の一つでもあります。

最近では現場の可視化ツールとしてニーズが高まっている「Realwear」も取り扱っており、音声による100%ハンズフリーコマンドのスマートグラスを実際にお試しできるようにいたしますので、ぜひ体験いただきたいと思います。

タイの製造業は未曾有のコロナ禍を見事に脱しました。日系・ローカル共々、今後の製造現場をどう立て直していくかに関心が移っています。今後は、一層の前向きな投資が加速していくことでしょう。そこに関与できることに喜びを感じています。

音声による100%ハンズフリーコマンドのスマートグラス


【お問い合わせ】 QUALICA (Thailand) Co., Ltd.

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担当:竹内
Tel: +66 02-666-4851
E-MAIL: sales.qualicathailand@qualica-asia.com
URL: https://www.qualica-th.co.th/

UBC II Building, 20th Floor, 591 Sukhumvit Road., North Klongton, Wattana, Bangkok, 10110

Sansan Global Pte. Ltd. | バックオフィスのデジタル変革をリード請求書の一元管理で業務効率を最大化

Bill Oneの説明図

インボイス管理サービス「Bill One」や営業DXサービス「Sansan」を展開するSansan株式会社は、働き方を根本から変えるグローバルなDXサービス企業。海外拠点は、シンガポールのSansan Global Pte. Ltd.に加えて、昨年の11月にバンコク駐在員事務所が開設されている。タイでは未だ9割以上もの請求書が紙ベースでやり取りされており、政府も電子化に向けた取り組みを急ぐ中、同社の果たす役割が期待される。

今回出展される「Bill One」について教えてください

請求書を紙で受け取っている企業の割合は、シンガポールで5%、日本で20%、タイでは95%にも上ります。そんなタイも、歳入局が2018年に請求書と領収書の電子化対応「e-Tax invoice/receipt制度」を運用開始しており、さらにコロナ禍でデジタル技術を活用することへの抵抗感が薄れたことから、市場の将来性は非常に高いと考えています。

Bill Oneは、紙の郵送、メール添付、アップロードなど、さまざまな方法・形式で届く請求書を全てSansan社が代理で受領し、データ化します。取引先のフォーマットを変えることなく、データの一元化が可能なため、顧客も経理担当者も煩雑な業務に忙殺されることもなく、また不正の介在余地もありません。

DX推進の観点から、新機能も適時搭載予定です。その一つが、注文書と請求書のマッチング(照合)です。注文書のデータをBill Oneに取り込むだけで、Bill Oneに届いた請求書の内容が正しいかどうかを自動で確認。業務の自動化・効率化が一段と進むことが期待されます。

「Sansan」についてはいかがですか

属人性の強くあるタイ市場では、退職や異動などで担当者が入れ替わるたびに、どのような内容を誰が誰とやり取りしてきたのかが全くわからず、後任者が状況を把握するのに膨大な時間がかかってしまうケースが少なくありません。詳しく知っているのは前任者だけ。これらを打開するのがSansanのサービスです。

単なる名刺管理にあらずというのが最大の特徴です。名刺情報に、いつ・どこで・どんな会話や情報のやり取りが行われたのかを紐付け、一元集約して組織内で共有化します。これらを通じて、営業現場だけでなく組織全体が必要な情報を瞬時に確認できるようになるため、DX化推進にも寄与することができます。また、現在世界62ヵ国にて利用いただいていますが、タイやシンガポールを中心に東南アジア複数ヵ国(複数拠点)を跨いでの利用希望企業様も増えてきています。

タイ市場をどうみますか

つい数年前までは周回遅れ感のあったタイのDXですが、コロナ禍におけるリモートワークの普及などで状況は一変しました。業務の効率化や省人化においてデジタル技術の果たす役割や可能性が見直され、関心も深まっています。

興味深いのは、タイのお客様はせっかく投資するなら徹底的にデジタル化を進めたい、最大限の効果を得たいとリープフロッグ的にDXを進展させたい方が多いということです。日系に限らず、ローカル市場にも共通した特徴です。そのための投資であれば惜しまない、そんな空気さえ感じます。

タイの展示会出展は初めてです。みなさんがどのようなことに関心を持ち、どのような悩みを抱えているのかに向き合っていきたいと思っています。

請求書受領サービス日本国内マーケットシェアNo.1


【お問い合わせ】 Sansan Global Pte. Ltd. (タイ駐在員事務所)

ロゴマーク

担当:千住
E-MAIL: global-inquiry@sansan.com
URL: https://global.bill-one.com/jp/

2 Jasmine Building, 12th Floor, Soi Prasarnmitr (Sukhumvit23), Sukhumvit Road, North Klongtoey Sub-district, Wattana District, Bangkok 10110

ISID South East Asia (Thailand) Co., Ltd. | タイ市場に合わせたカスタマイズソリューションで生産プロセスを最適化

i-reporterとSIEMENS

システムインテグレータのISID South East Asia (Thailand) Co., Ltd.は、大手広告会社電通と米ゼネラル・エレクトリック社が1975年に合弁設立した「電通国際情報サービス」のタイ法人。2000年代初頭からタイでサービスの提供を始めている。モノづくりに欠かせないCAD/CAMシステムの導入支援から事業を興し、主に設計から生産を中心としたエンジニアリングチェーンにおける課題を改善してきた。

ICHIパビリオンでの出展内容について教えてください

当社では、さまざまな生産DXや製造DXのサービスをタイ市場で展開しています。今回の展示会では、帳票管理と生産計画の最適化という観点から、それぞれにおいて有益な2つの製品を紹介したいと考えています。

一つは、シムトップス社が開発した「i-Reporter」という現場帳票の電子化システムです。誤入力の防止や無駄な入力時間の削減はもちろん、使い慣れた従来の紙帳票のレイアウトを変えずにそのまま電子帳票に置き換えられるため、現場での浸透も早いのが特長です。蓄積されたデータを分析することで、より改善の質を高めることもできます。過去8年間で3,000社以上が導入している優れたシステムです。

もう一つが、独シーメンス社が提供し、これまでに世界中で4,000社以上が導入している生産計画システム「Opcenter」です。モノづくりの現場においてありがちな緊急の受注や生産に必要なパーツ・材料の未納といった突発事象事故。その際、いかに効率良く精度良く生産計画を改変するかが重要になります。

これまでは計画担当者による属人的な対応によってのみ解決が図られてきましたが、離職率の高いタイではリスクも大きい。そのような状況において、生産管理システムと連携し、工場固有の計画策定方法をシステムに反映し半自動的にベストな計画に近づけるのがOpcenterです。計画案によってどのような影響が出るかについても迅速に可視化できます。ロックダウンや部品の供給不足により度重なる生産計画の見直しを迫られたコロナ禍でも、大いにその役割を果たしました。

また、同じくシーメンス社が提供するプログラミング言語を最小限、あるいは、全く使わずにソフトウェアやアプリケーションを開発するためのローコードプラットフォーム「Mendix」もご紹介予定です。時間をかけて市場のパッケージシステムを探して検討するプロセスではなく、自社で必要な仕組みを即座に実現することが可能で、適用が急拡大しています。

タイ市場をどう分析していますか

私が赴任した7年前は、安価な労働市場特性ばかりに目が向けられ、ITを活用した生産現場の効率化に関心のあるお客様は少ない印象でした。しかし、ここ2年くらいでローカル企業含め、IT活用への関心が高まっているのを感じます。日系に加え、スピードの速いローカル市場への浸透が今後のカギとなるでしょう。

そのためには、タイ市場の特性に合った提案も必要となります。企業活動は、日本を含め出身国にあるものをタイに移転・定着させようとします。ところが、単なるカーボンコピーだけではうまくいきません。タイに合った仕組み作りや、タイ人気質にマッチした制度設計が必要です。

とはいえ、何から始めたら良いか悩まれている企業様も多いかと思います。この機会をぜひ、製造業DXの最新情報をキャッチアップする場としていただければ幸いです。

i-reporter


【お問い合わせ】 ISID South East Asia (Thailand) Co., Ltd.

ISID South East Asia (Thailand) Co., Ltd.ロゴマーク

担当:玉井
TEL: +66-(0)99-447-7878
E-MAIL: tamai@isidsea.com
URL: https://www.isidsea.co.th/

159/18 Serm-Mit Tower, No. 1110, 11th Floor, Sukhumvit 21 Road (Asoke), North Klongtoey, Khet Wattana Bangkok 10110 Thailand