アーカイブ

競争から協調、協働、そして価値共創へ

競争から協調・協働、そして価値共創へ

寄稿者プロフィール
  • 藤岡資正プロフィール写真
  • チュラロンコン大学サシン経営大学院日本センター所長
    明治大学専門職大学院教授

    藤岡 資正 Professor Takamasa Fujioka, PhD.

    英オックスフォード大学より経営哲学博士・経営学修士(会計学優等)。チュラロンコン大学サシン経営大学院エグゼクティブ・ディレクター兼MBA専攻長、ケロッグ経営大学院客員研究員などを経て現職。NUCBビジネススクール、早稲田ビジネススクール客員教授。神姫バス(株)社外取締役、アジア市場経済学会理事、富山文化財団監事などを兼任。

はじめに

新型コロナウイルスの出現によるパンデミック(世界的大流行)や昨今の世界情勢の悪化は、あらゆる意味で私たちの想像を絶する危機的な状況を生み出しています。現代社会や日本の抱える課題や歪み、矛盾が一気に顕在化してきたことで、慌ててさまざまな制度や仕組みの見直しが叫ばれるようになりました。新型コロナウイルスは、基礎疾患を有している人に対して猛威を振るうことが知られていますが、疫学的危機のみならず世界情勢の悪化などの危機は、日本という国が抱えてきた社会・政治・医療・経済など、あらゆる分野における基礎的な疾患に対して容赦ない攻撃を加えてきます。

ただ、コロナ禍によって顕在化してきた課題群は、以前から既に私たちの社会や組織が抱えていたものが多くあることも事実です。むしろ新たな問題が出現したというよりは、以前から抱えていた問題が顕在化するスピードが加速し、既存のインフラや仕組みでは対応できない領域が生まれ、さまざまな制度や産業のプレートに多くの隙間が出現したと捉える方が正しいのではないでしょうか。

こうした状況において、あらゆる組織においてリーダーの能力が問われるとともに既存の制度の見直しが図られています。コロナショックは私たちの社会システムに大きな揺らぎを与え、企業経営においても新常態への対応が求められるようになりました(本誌2020年12月号特集参照)。

昨年の特集号(本誌2022年1月号)では、企業経営にとってはこうした環境の変化を時間軸と空間軸、そして組織に対する影響度を鑑みながら、クライシス対応とリスクマネジメントを戦略的に統合していくことで、突発的危機、段階的危機、継続的危機に対応しながら、新常態での生存領域を確保していくことが大切であることを指摘しました。企業経営においては、こうした変化スピードへの対応に向けて組織変革のギアをあげていくと同時に、新たに生じた隙間のなかに機会を見いだし、事業を創造していくことが求められます。

危機的状況においてリーダーの真価が問われる

平穏な環境の中で失われた問題意識、危機意識、当事者意識

「疾風に勁草を知る」これは、平穏で緩やかな風が吹いているときには、どの草が地面深くにしっかりと根を張っているのかを見分けることは困難であるが、激しい風が吹くと、しっかりと地に根を張った丈夫な草とそうでない草を明確に区別することができる、という意味です。英語では、“When waves get stronger, that’s when the strength of truly strong is revealed.”などと表現されます。

これを組織のリーダーに当てはめるとするならば、苦難に直面することで、初めてその人物や企業の節操のあることや意志の強さを見分けることができ、危機的な状況下でこそ人物や企業そして国の人格、社格あるいは国格が露わになる、ということでしょう。コロナ禍に見舞われている現代の社会情勢において、まさに私たち日本人や日本企業の節操や意志が試されているといえます。

これまで平穏な環境に慣れ親しんでしまった私たちは、国や自らの所属する組織の将来に対してそれほど大きな危機意識を持つことなく過ごしてきました。それゆえに、適切な問題意識を抱くこともなく、極めてナイーブで危うい関係性や甘い前提のなかで保たれていた日本という国や組織の現状が、未来永劫続いていくものだと信じていたのかもしれません。

問題意識、危機意識、当事者意識の欠如という問題は、リーダーのみならず、私たち一人一人を含め広く日本社会に共通してみられる傾向ではないでしょうか。危機的な状況に陥るまでは、どこか他人任せで、私たち一人一人が、自ら地に根を張る努力を怠っていたのかもしれません。

危機的な状況の中で問われる企業家・リーダーの役割と価値共創

経営の世界ではかつて、「アメリカと肩を並べて頭なし」と揶揄されることがありました。しかし、ふと気がつくといつの間にか、日本という国に対して、「中抜き大国」、「先進国から衰退国化へ」と表現されるような状況に陥ってしまいました。

こうしている間にも、世界情勢は大きく変化しており、国の存続という次元においても日本は大きな危機に直面していると言えます。コロナウイルスと同様に、さまざまな危機は、こうした脆弱な体制や社会に対して、決して手を緩めることはなく容赦なく迫ってきます。

2022年1月号の特集で「危機における経営」を取り上げましたが、危機管理には、(1)生じうる危機的な状況を事前に想定して、そうした状況に陥ることが決してないように準備すること、(2)危機的状況に陥った場合に、そこから迅速かつ適切に脱出すること、という2つの側面があります。

新型コロナウイルスや昨今の世界情勢への対応には、(2)がクローズアップされてきましたが、(1)の危機管理の重要性をしっかりと認識しておくことが大切です。リーダーの役割は(1)に関連して、「最悪の事態を想定する」ことで、国として企業として死守すべき領域を明確にし、最悪の事態から国や組織を守ることであり、リスクはリストアップして終わりではなく、最終的には主観に基づき、取るべきリスクをとることなのです。

危機的状況下での意思決定の選択肢は、危機発生後の時間の経過とともに減少していきます。事態が生じる前に最悪の事態に備えておくことが重要であり、こうした危機への対応を誤ると、「危機はやがて悲劇をもたらす」ということを忘れてはなりません。

一国の政治やマス・メディアのレベルは、その国の国民の程度を現していると言われることがありますが、少なくともコロナ禍や国際情勢の激変を目の当たりにするにあたり、私たちは、今の社会・政治・経済の仕組みの危うさと、全てとは言わないまでも大学や研究機関の専門家(私自身を含む)、政治家、医師、官僚、そしてメディアの程度について嫌というほど思い知らされたのではないでしょうか。

いずれにせよ、このまま国会議員や官僚や専門家に任せきりにしていては大変なことになってしまうということに多くの人々は気がつき、国民は憤りや不安を覚え、失望したのです。

しかし、失望していても不満を述べていても状況が改善されるわけではありません。新型コロナウイルスの拡大や国際情勢の急速な悪化による世界的混乱という疾風が吹き荒れるなかにおいて、私たちはこれまでの社会経済の在り方を見直し、迫りくる危機への戦略適応を迅速に図ると同時に、新たな生き方を模索し、新たな環境を自らの手で創造していかなくてはならないのです。

“マネジメントの父”と称される経営学者のドラッカーは、「経営者の役割は社会や顧客が求めている価値の創造を担うことである」と説きましたが、今、そしてこれからの社会において、社会や顧客に対する価値を創造するために私たちは誰とどのような関係性を構築していくべきなのでしょうか。先行きが不安な中で、私たちの将来がどうなるかということを予測したくなる気持ちもわかりますが、それよりも、それぞれがどのような将来を描くのか、将来をどう創造したいのか、私たちの「意志」が問われているのです。

こうした問題意識のもと、本年度の特集では、不確実性の高い環境における企業家(リーダー)の役割と価値共創について皆様と考えていきたいと思います。

企業家精神の発揮-不確実性への対応にむけて

企業経営は常に環境の変化への対応であるともいえます。ビジネススクールでは、こうした変化への対応は、主に経営戦略に関する科目で中心的に学んでいきます。戦略とは後で振り返った時に、うまくいったことや失敗をした理由について「後知恵で理解すること」だという研究者もいます。例えば、ある研究者は「戦略とは後づけで合理的に説明されるグッド・ラック(幸運)」であると表現をしています。また、「戦略は必ずしもポジティブな側面だけではなく、ある状況下ではネガティブに機能することもある」という指摘もあります。

このように、戦略には計画的な側面と創発的な側面、トップダウンでの実行とボトムアップでの実行、合理的な面と非合理的な面などさまざまな面があるので、どの立場から戦略という実践を捉えようとしているのかという点を明らかにしたうえで議論をする必要があります。

経営戦略には実にさまざまな定義がありますが、ここでは、「企業と環境とのかかわり方のパターンについて将来志向的に示すものであり、組織成員の意思決定の指針となるもの」という意味で理解しておきましょう。

つまり、企業の将来にとって重要な環境を識別し、環境との相互作用のパターンを将来的に示す中で、社会や顧客に対して価値を創造・獲得していくための指針を示し、限られた経営資源を有効活用するための道筋のようなものです。

事業ドメインを定義することが経営戦略の第一の構成要素

ハーバード・ビジネススクールのマイケル・ポーター教授によれば、戦略とは、何をするかに関する意思決定というよりは、何をしないのかに関する選択であると指摘しています※1。そして、何をするのか、しないのかという決定は、事業ドメイン(どこの、誰に、何を、どのように提供するのか)に関する決定であり、何をいかに獲得するのかに関する資源獲得の仕方の決定にもかかわります※2。つまり、企業がどのような事業に従事し、将来どのような事業に進出していくのかを決定していくための指針を示し、誰に、何を、どのように提供していくのかという事業ドメインの設定とかかわる問題です。

どのように組織の目的を設定し事業が定義されるかによって、対象となる市場や競争する相手も大きく異なるので、経営戦略を考えるにあたりドメインの設定は非常に重要なプロセスであり、ドメインを定義することは経営戦略の第一の構成要素であるといえます。そして、戦略的意思決定とは、行動に対する特定のコミットメントを伴います※3。つまり、戦略とは何をしないのか、誰に嫌われるのかに対する選択であり、それに伴う経営資源の利用に関する経営者のコミットメントなのです。

このように説明すると、なんだか簡単に経営戦略について理解をすることができたような気になりますが、それでは、「環境」や「変化」とは一体何を指すのでしょうか?

組織の構造や戦略は、コンティンジェンシー理論では、環境を反映したものであると考えられています。つまり、組織と環境は互いに独立して認識することが可能なものとして捉えられています。

しかし、組織は環境に埋め込まれており、組織の行動によって環境は創造されることもあります。そうであるとするならば、環境とは客観的に外在しているものとして組織が実際の環境を反映すると捉えるのみではなく、組織成員の環境に対する認知を反映していると捉えることが大切です※4。こうした理解は、価値共創という近年の経営学のキーワードを理解するうえでも重要です。

新型コロナウイルスによって出現した新常態という同じ条件の下でも、企業家が状況をどのように認知し、企業行動に結びつけていくのかによって、企業活動の成果は大きく異なります。極めて激しい競争にさらされていると感じている企業は、そうした認知に基づいて環境適応をするために組織、戦略、組織文化などを変革していくでしょうし、同じ事業のドメインで事業展開をしていたとしても、環境に対して認識が甘ければ、組織への反映のされ方は異なるものになります。

このように、企業家の環境に対する認知によって組織は適応的にも硬直的にも、能動的にも受動的にもなり得るのです。

※1 Porter, M. E. (1996) “What is a strategy?,” Harvard Business Review (November-December), pp.61-78.
※2 谷口和弘(2008)『組織の実学 : 個人と企業の共進化』NTT出版
※3 Mintzberg, H., Raisinghani, D. & Theoret, A. (1976) “The Structure of “Unstructured” Decision Processes,” Administrative Science Quarterly, 21, pp.246-275.
※4 藤岡資正(2009)「管理会計と戦略の相互構成的関係:「実践」という視点」『企業会計』61(6)

危機の中で機会を見いだしトランスフォーメーションの契機とする

2020年12月号の本誌特集で述べたように、コロナ禍(withコロナ)における企業家の環境に対する認知とそれに基づく経営変革の取り組み(business transformation)が、コロナ後(afterコロナ)の新常態における慢性的な危機への対応力と競争力の差となって表れてくるでしょう(図表1)。

新型コロナウイルス対応の移行と業績の関係

不確実性の増大は決して居心地の良い状態ではありませんが、S&Pグローバル1200指数に含まれる企業のうち上位25%は、08年のリーマンショックの影響を大きく受けたにもかかわらず、回復期間が早く、その後の回復幅もEBITDAで5倍と、大きなことが分かっています。

これが何を示しているかというと、競争力の高い企業は、不確実性を優位性に転換する能力を有しているということです。まさに私たちが直面している危機の中で、機会を見いだしトランスフォーメーションの契機とする企業家精神が求められているのです。英雄は乱世にこそ立つといわれますが、経営者としての企業家(起業家)精神も乱世にこそ発揮されるべき職能だと言えます。

経営者は企業を取り巻くさまざまな変化に対して、そうした変化が連続的なものであるのか不連続な変化であるのかということを見極めなくてはなりません。連続した変化は、各種のレポートやトレンドなどのデータを分析することである程度は予測しやすい緩やかなタイプの変化と言えるでしょう。こうした連続的な変化は、経験曲線や規模の経済性といった論理によって企業経営を行いやすく、業界のプレーヤーの入れ替えも限定的で勢力図も安定しています。

一方で、不連続な変化の特徴は革新的なものであり、社会や組織に大きな変革を促すような予測がしにくく、変化のスピードも非常に速いものです。不断に変化する環境のうちで、不連続の変化への対応は非常に難しいことです。

高度成長期が終わりバブルの崩壊、テロや震災による外部環境の激変、新たな技術の出現による過去の技術やサービスの駆逐、現在のような感染症の拡大によるパンデミックなどは、いずれも企業に不連続な変化を要請し、この変化への対応の是非がその後の企業の将来を左右することになります。

変化への適応度が有効であれば生き残ることができる

そして、こうした不連続な変化の特徴は、企業経営の効率性を高めることのみでは対応が不可能であるという点です。これは、生物にも当てはまり、私たち人類は急激な地球環境の変化によって絶滅した恐竜などに比べて、変化への適応度が有効であったからこそ、生き残ることができたとも言えます。つまり、環境の激変期、不連続な変化の度合いが大きければ大きいほど、効率性のみではなく、環境や市場に対する有効性が重要となるのです。

過去と同じ活動をより効率的に行うことと、新たな環境に有効な活動を行うことはトレードオフの関係にあります。しかし考えてみると、企業や生物が現在の環境で生存しているということは、少なくともある時点ではその時の環境に有効に適応していたということです。しかし、環境への適合度が高まれば高まるほど、企業の成功が大きければ大きいほど、企業も生物もこれまでと同じ方向で進化を遂げようとしてしまいます。

環境が安定的で生存条件も緩やかに変わっていく連続的な変化であれば、こうした方向での進化でも問題はありませんが、不連続な変化になると、これまでの延長線上にある活動をより効率的にするだけでは環境との不適合が生じてしまうのです。

知識が価値を生み出す時代と言われて久しいですが、知識の成長スピードは速く、予測不可能な形で進化していきます。新型コロナウイルスによるパンデミックの出現や世界情勢の混沌とした状況は、現在のような高度な情報社会にあっても、未来を予測することがいかに難しいかを我々に突きつけたとも言えます。経済学者であり、哲学者でもある K・ボールディングは「我々は知識が確かに加速度を伴って成長すると認識する。

知識はその成長率を常に増加させている。すなわち知識とは、継続的に上がり続ける利率で蓄積されていく資本総額のようなものである」と指摘しています。つまり、知識やテクノロジーの進化を予測することに力を注いでも、それは徒労に終わる可能性があり、全く予測をしていなかったような知識の発展やテクノロジーの変化に対処しなくてはならなくなるということです。

そうであるとすれば、経営者は自社が何を知らないといけないのかを考えるために予測するのではく、「自社が何を知るべきであるのか」「何を知りたいのか」を考えるためのビジョンを示すことが重要となり、それに基づいた未来洞察(Foresight)が求められるのです。

過去のトレンド情報が原理的に存在しないような非連続の変化に対応するには、過去の傾向を前方に投影する予測(Forecast)でも、将来展望(Outlook)でもなく、未来洞察が重要になります(本誌2020年12月号特集参照)。

経営者の役割-戦略の意味づけ

変化に適応することで環境を自らの戦略に合わせていく

戦略は組織に一定の指針を与える役割を果たしますが、環境条件が大きく変化するような状況では戦略の有効性や前提そのものが成立しなくなります。しかし、そうした場合であっても、戦略に意味を付与するのは内容そのものではなく、リーダーや組織成員が戦略を意味のあることであると強く信じることが戦略の有効性を決定づけます。

経営学でよく使われる事例に山で遭難した隊員の逸話が出てきます。「ある隊列がアルプス山脈で悪天候のなかで遭難の危機に見舞われた際に、隊員が持っていた一枚の地図を頼りになんとか危機を切り抜けた」という話です。そして、「後でわかったことは、実はその地図はアルプスのものではなくピレネー山脈のものだった」という内容です。

話の真相はわかりませんが、この逸話のポイントは、戦略計画というものはこの地図によく似ており、リーダーや隊員が不正確で曖昧な地図であったとしても、皆がそれを有意義であると感じ、信じることで、戦略という地図が大切な意味を有するものとして取り扱うことができるということです。つまり、刻一刻と状況が変化する危機的な環境下では、正確な地図を描くことや、地図を持っているということ自体が重要なのではなく、直面する事態に一丸となって臨機応変に対応するための即興的判断や団結力などが問われるということです。

新規事業に関する研究では、成功事業の約93%が当初計画した戦略を断念したり、修正をしたりしていることが明らかになっており、当初から計画通り戦略が環境に適合していることは稀であることが分かっています。つまり、計画や分析が精緻なものであれば正しい戦略が導き出されるというわけではなく、変化に適応しながら、環境そのものに働きかけることで環境を自らの戦略に合わせていくということも大切になるのです。

環境の変化に対応するためには、「変えるべきもの」と「変えざるべきもの」を峻別することが不可欠ですが、その際に自己の存在論を検討しなくてはなりません。大事なことは自社の存在を問い続ける中で、新常態における自らの価値創造と価値獲得そして価値共創の「型」を発見し、再構築に努めることだといえます。

経営の中身を創造する:「学は立志より要なるは莫(な)し」(『言志四録』)

自動車王といわれたヘンリー・フォードはたたき上げの経営者ですが、ある日、意地悪な知識人たちに「あなたは会社で何か問題が生じた際には、どのように対応するのですか?」と聞かれたといいます。そして彼は、「私よりも優秀な人たちを雇い原因を究明するようにしています。そうしている間、私の頭はすっきりとした状態に保つことができるので、より大事なことに時間を使います」と答えたそうです。

「それではあなたや会社にとって、大事なこととは何ですか?」と再び問われると、「それは、『思考する』ということです」と答えたといわれます。つまり、フォードは、知識や情報の過多ではなく、自分の頭で「考えること」が重要であり、それができる人は非常に限られていることを指摘したのです。

少し話が逸れますが、三島由紀夫は「からっぽの日本」を危惧していました。学問には、出生や身分ではなく「立志」(志を立てる)ことが大切であり、志あるものが己の運命を切り開き、社会を先導するのだという斎藤一斎の教えは、明治という新たな時代を切り開いていった若者たちに大きな勇気と希望を与えたといわれます。現代の企業経営においても、競争に勝つことが目的となり、「なぜ・誰のための競争であったのか」「そもそも何のための経営であったのか」について問う機会が少なくなっています。経営から志が失われていく社会とは、会社という組織から経営者の主体性が消滅し、「からっぽの会社」が宇宙ゴミのごとく目的なくさまよう空虚な現代の社会経済のようです。

同様に、かつてアインシュタインは、「手段は全て揃っているが、目的は混乱している」と指摘したそうですが、さまざまな手段が利用可能な現代の経営を指しているともいえるでしょう。知識や情報は「考えるための手段」であって目的ではないのです。また、情報というものは玉石混淆であり、目的に応じて取捨選択されなくてはならないという点です。情報はオイルに例えられますが、オイルと同じように蒸留装置を通じてそれぞれの目的に応じて精製されなくてはならないのです。

つまり、目的なくして情報を適切に精製することはできません。インターネット上にあらゆる情報が溢れかえり、検索エンジン1つでさまざまな情報にアクセスすることが可能な現代社会は、「高度情報化社会」とも形容されます。

しかし、情報はあくまでも思考のための潤滑油なのであって、目的ではないのです。これは実務家との交流やビジネススクールの教室でも感じることですが、さまざまな情報に簡単にアクセスできるようになればなるほど、そして、情報の量が増していくほど、人間は思考することを簡単に諦めてしまうようです。

先述したフォードは、「障害(好ましくない変化)が恐ろしく感じるのは、目標から目を離しているからだ」と語ったようですが、あらゆる情報が溢れ、事業環境の変化が著しいなかにおいても、手段のみではなく、「今していること(仕事)の本当の意味は何であるのか?」と立ち返ることが必要だということかもしれません。

価値共創経営へ向けて-価値創造の主体は顧客へ

ジェトロの資料※5によれば、タイで活動が確認されている日系企業は約5,900社あり、そのうち40%が製造業(自動車関連、電気機械など)となっています。国際協力銀行の資料※6によると、在タイ日系企業にとってのタイ市場の見立ては、回答企業の50%以上が、「今後の成長性」を期待する一方で、同じく回答企業の50%以上が、「他社との厳しい競争」や「労働コストの上昇」を課題として挙げています。

日系企業にとって、タイは重要な製造拠点である一方で、製造製品の高付加価値化や現地での販売強化が指摘されるようになりました※7

進出国別日系企業の営業利益(黒字化)見通し(製造業・非製造業含む)

図表2は、在タイ日系企業を対象に営業利益ベースの黒字化見通しを聞いたジェトロによる調査ですが、在中国日系企業の回答とは対照的に、2011年から21年の間に、徐々に黒字化見通しが悪くなっていることがわかります。

※5 ジェトロ(2021)「タイ日系企業進出動向調査2020年調査結果」2021年3月)
※6 国際協力銀行(2021)「わが国製造業企業の海外事業展開に関する調査報告(第33回)」2021年12月)
※7 藤岡資正、チャイポン・ポンパニッチ、関智宏(2012)『タイビジネスと日本企業』同友館。

製品を中心とした考え方ではなくサービスを中心として経営を捉えなおす

これまで、タイの日系企業の多くは製造業ということもあり、最終顧客(生活者)との直接的な接点をもたないケースが多く、工場で生産した製品を取引相手に販売した時点で主要な取引活動を終えてきたのですが、近年はIT技術の進展に伴い、製造業も工夫次第で比較的容易に顧客との接点や関係性を構築できるようになりました。

そうなると、製造業が顧客接点(コンタクト・ポイント)を持つことで、顧客と一緒に相互作用して顧客の価値創造をサポートしていくことが可能となり、これまでの製品(モノ)を中心とした考え方ではなく、サービスを中心に経営やマーケティングを捉えなおすことが重要になってきます(図表3)。

新しいマーケティングの組み立て

日系企業は、今後こうしたサービス社会における価値共創を促進していく必要があり、必要な情報や価値を決められるのは企業ではなく、生活者(消費者)である顧客であるという認識を持つ必要が大切です。

20世紀に発展した伝統的マーケティングは、交換パラダイムを拠り所として、企業の立場から有形財であるモノを中心として発展しました。ところが、現在のように、情報技術が高度に発展したサービス社会では顧客の立場から顧客の求める時に、顧客が生活する世界の時空間の中で企業と顧客の直接的な相互作用が生じることが増えていきます。

ここでの価値は、市場での交換価値ではなく、交換後に生み出され、交換の対象は知識・スキルになります。換言すると、製品は知識・スキルを移転する道具とみなされます。そして、その価値は文脈価値として、消費者(顧客)によって独自に判断されるのです。

価値創造者ではなく価値促進者であること

モノに焦点を合わせている限り、売り手と買い手の関係は市場での交換を通じた1回きりですが、サービスは、その後、与え手と受け手という関係において、2回目の相互作用に続くことになります※8。すなわち、市場ではなく、生活世界で繰り広げられる、この2回目の相互作用に焦点を合わせていくことで、消費プロセスの時空間に広がりが得られるのです※9(図表4)。

価値共創マーケティングとは何か

こうした考えをマクロレベルに敷衍(ふえん)したのがタイプラスワン戦略であり、日メコンの戦略的互恵関係の構築に際して、生活者基点の価値共創の在り方を再考することが重要となり、日本(企業)は価値創造者ではなく価値促進者であるということを認識しなくてはなりません※10

 

サービス中心の考え方はこれまでの考え方を駆除するものではありません。引き続き伝統的なマーケティングが有効な状況は存在しますし、むしろこの両者は相互補完関係にあると言えます。在タイ日系企業の強みは、タイ市場/顧客との良質な関係性に基づくインタラクションにあり、顧客の生活世界から今一度市場を捉えなおすことによって、新たな生存領域が創出されていくことになると思います。

価値とは、意図的に創造することができるものなのでしょうか?組織の知識創造を理論化した野中教授と竹内教授によれば※11本来、価値とは創造をしようと思って実現されるものではなく、絶対的なものを追求し続けているうちに実現できるものと定義されます。基軸となる考え方は変わることがない中で、時代や環境が変わることによって、そこに新たな価値が加わったりするものだということです。

つまり、価値の創造は、常に絶対的な基軸となるものを追求するという姿勢と覚悟を維持していくことを通じて実現されるのです。そして、経営者の役割を社会に対する新たな価値の創造であるとするならば、目指すべき社会とはどのようなものなのでしょうか。

そして誰のための価値創造なのでしょうか。まさに経営者の経営思想、哲学が問われているのです。

※8 村松潤一(2021)「価値共創マーケティング―市場を超える新たなマーケティングの展開―」研究・イノベーション学会(国際問題分科会)報告資料、2021年1月13日
※9  村松潤一(2016)「ケースブック価値共創とマーケティング論」同文館)
※10 藤岡資正(2015)『日本企業のタイ+ワン戦略―メコン地域での価値共創へ向けて』同友館、藤岡資正(2018)『新興国市場と日本企業』同友館
※11 野中郁次郎・竹内弘高(1996)『知識創造企業』東洋経済新報社

コラボレーションの原則

企業間のコラボレーションでは適切な方式を導き出すことが重要

これまで企業と顧客の関係を議論してきましたが、この特集の最後に、価値共創に並んで重要な、企業間のコラボレーションについても若干の検討を加えていきたいと思います。

情報技術の発展とともに世界中の至る所で、企業規模の大小に関わらず新しいアイデアが生み出される時代になりました。タイ、そしてメコン地域においても、この10年でオープン・イノベーションやコラボレーションといった言葉が頻繁に飛び交うようになりました。

2019年9月には、CPグループが東南アジア最大のデジタル・イノベーションハブとして、True Digital Parkを開設し、オープニング式典には、ソムキッド副首相(当時)などが出席するなど、大きな期待が寄せられていることが分かります。

一昔前からビジネスマンが価値共創やコラボレーションという言葉を流行文句のように使うようになりましたが、よくよく聞いてみると、この両者を混同して使っている人がほとんどです。2023年を迎えるにあたり、ワンランク上のビジネスマンを目指す、ArayZ読者の皆様にはこの違いを理解していただき、明日からの経営に少しでも生かしてもらえればと思います。

コラボレーション(collaboration)の語源は「co+labor」であり、共に働くなどの意味になります。では、なぜ企業はコラボレーションを志向するのでしょうか。対外的なコラボレーションの目的は、最新の技術を確保(導入)したい、新しい原材料を獲得したい、新しい市場を発見したい、自社の弱みを補完したい、自社の強みをさらに強くしたいなどが考えられ、2000年代以降、組織的な知識創造などの文脈で取り上げられるようになりました※12

一口にコラボレーションといってもさまざまな形態があります。ここでは、ネットワークの開放度を「開放的 or 閉鎖的」、ネットワークの統治の構造を「集権型 or 分権型」に分類することでコラボレーション・ネットワークの形態を4象限に分類して考えてみましょう(図表5)※13

最適なコラボレーション・ネットワークを選択する

※12 浅川和宏(2004)「組織戦略とR&D成果:内外コラボレーション戦略を中心として」第12回産研アカデミックフォーラム報告資料
※13 ピサノ, G.・ベルガンティ, R.(2009)「コラボレーションの原則」『ダイヤモンド・ハーバードビジネス・レビュー』2009年4月号、124‐137頁。

ネットワークの開放度は、コラボレーション・ネットワークによって大きく異なりますが、例えば、完全なオープン・ネットワークにおいてコラボレーションの相手を探す場合は、問題を公開し、不特定多数が参加できるようにして、解決策を求めるリナックスの例を挙げることができます。

他方で、閉鎖的ネットワークは、自社が抱えている問題に対して必要な能力を有すると思われる専門家や協力相手にアプローチすることで共同して問題解決に取り組みます。開放的か閉鎖的かという視点は、現在の戦略を鑑みて、コラボレーションの在り方を開放的にした方がよいのか、もしくは閉鎖的にした方がよいのかという分類です。

次にネットワークのガバナンス構造をみてみましょう。意思決定権がネットワーク内の一企業に全て集権されているか、それとも参加者がフラットに意思決定に参加していくのかという視点から、コラボレーションの統治形態(ガバナンス)を分散的かつ自律的に任せるのか、一定の統制力をもち集権型にコントロールしていくのかという分類です。

中心企業が最重要問題の決定や解決策の選択、そして解決案の採用基準の設定などを決めるのが集権型ガバナンスで、参加企業がフラットに決定に参加していくことができるのが分権型ガバナンスです。

このように分類すると図表5のように、

1.参加資格は開放的だが、ガバナンスは集権的な開放的集権型のネットワーク
2.開放的だが、分権型である開放的分権型のネットワーク
3.閉鎖的で集権型の閉鎖的集権型のネットワーク
4.閉鎖的だけども分権型の閉鎖的分権型のネットワーク

というように4つのタイプに分類が可能です。

ネットワークの話になると、開放的でフラットな形態が称賛されることがありますが、これがあらゆる条件下で閉鎖的で集権型なコラボレーションよりも優れているというわけではありません。

適切なコラボレーション方式を導き出すには、それぞれのコラボレーションの長所と、それに付随する問題を比較・検討しながらトレード・オフを考慮しなければなりません。そして、特定の課題に対処するうえで必要なケイパビリティや組織(構造)、資産が自社に備わっているのかどうかを見極めながら、どのコラボレーション・ネットワークが自社にフィットするのか、図表5に示したような内容についてそれぞれ考えていく必要があります。

コラボレーションの選択はあくまで「手段」 、重要なのは「目的」が何であるかを問うこと

コラボレーション戦略は複数を組み合わせて同時利用することもあり、自社ならではの資産やケイパビリティとの関連で考えていく必要があります。例えば、IBMはサーバー事業とメインフレーム事業の戦略を支えるため、複数のアプローチを巧みに活用しています。また、開発から長らく集権型のガバナンスを採用してきたアップル社は、顧客が欲しがるアプリケーションは何であるのかを考えていくうちに、自社開発には限界があることに気がつきました。

そして、アプリケーションの選択を市場に委ねる意思決定をして開発キットを公開(2008年3月)し、サード・パーティーがiPhoneのOSをプラットフォームにしたアプリケーションをユーザーに提供できるようにし、有償アプリケーションは、売り上げの7割が開発者に、3割がアップル社に入るようになっています。

コラボレーション・ネットワークの選択はあくまで「手段」ですので、こうしたネットワークを通じて解決したい社会的な課題や事業の課題といった「目的」は何であるのかを問うことを忘れないようにしなくてはなりません。優秀で創造的な人材を引きつけることや、イノベーションにふさわしい社内環境を整えることは重要ですが、それだけでは現在の事業のスピードに追い付くことはできません。

コラボレーション・ネットワークを構想し、そのネットワークの可能性を引き出す方法を知るビジネスプロデューサーが求められています。

最後に

生活世界があっての経済。 もう一度、経営の本質に立ち返る

価値共創経営セミナーにて講演を行う藤岡氏

不確実性が増加するのは、環境の激変によって、選択の幅が意図的に広げられるからです。そして、まさにその時こそが、企業家の創造力の出番なのです。また、「創造」とは、自らが生きていること、すなわち生命を確認するということであり、「生きる」意味を問うには、「何に価値があるのか」という私たちの価値判断が問われることになります。

人が人間となるのは、人と人の間の関係性においてであり、価値とは、社会とのかかわりを通じて文脈を共有する実践の場において創出される多元的なものなのです。自分の人生や企業の目的とは発見するものではなく、人生とは社会とのかかわりにおいて自らを創造していくことだといえます。

経済価値のみには決して収斂(しゅうれん)されることのないもの、つまり、「私たちにとってかけがえのないもの」、「生活者・社会にとってかけがえのないもの」、これらについて意識的であることが「善い」社会を築くことにつながるのだと思いますし、企業家の責務でもあるのです。

そして、私たち一人一人が自らの持っている可能性を十分に使い切る意識を持つことが大切です。近年再び注目され始めた企業経営と社会とのかかわりにおいて取り上げられる、経営者の責任や道徳性の発揮もこうした可能性の一つだといえます。

つまり、道徳性を発揮することがなければ人生は大きく膨らむことはないのです。

ここで、道徳性には次の2つの段階があることを指摘しておきたいと思います。第一に、「社会や人に迷惑をかけるようなことはしない」という段階であり、これは従来では、多くの日本人ができていたことです。第二に、「社会や人のためになる」という段階であり、タイではタンブン(積徳)ともいわれます。この段階は、日ごろからかなり意識を持って過ごしていなくては難しいのではないでしょうか。

前ハーバード大学のスティーブ・ヤング先生(サシン客員教授)は、野獣キャピタリズムから道徳キャピタリズムへの転換を主張されています※14が、そのこと自体は、私たち日本人にとっては、かつては当たり前のことだったのではないでしょうか。

ヤング先生とは10年来の関係ですので時々ご一緒をするのですが、中国や日本そしてタイなど東洋の思想や仏教を学ぶ中でこうした考え方に行きついたといわれています。石田梅岩は、『都鄙問答』の中で、「学問は心を知ることからはじまる」と説いています。

※14 スティーブ・ヤング氏著『CSR経営:モラル・キャピタリズム』生産性出版,2005年

私は、兵庫県で創業140周年を迎える神姫バス株式会社で日本経済界の重鎮の方々の末席で社外取締役をしています。もう10年近く前になるかと思いますが、ある日、同社の経営会議の席で私が効率化のための路線の統廃合の検討について経営陣の皆様に問うたことがあります。その後の夕食後の二次会の席で、社長と専務が次のように話をしてくれました。

「先生、兵庫県の山間地域に実際に行ってみたことはありますか?そこでは、私たちのバスなくしては生活することができない老家族や幼い子供たちが生活しています。路線自体は全くの赤字なのですが、そうした地域の方々が私たちに『神姫バスさんのおかげで病院にも行くことができるし、子供が学校にも行くことができます。本当にありがとう。』と言ってくれるのです。

先生の言うことはよくわかるのですが、路線については、子供たちの無垢な笑顔や深々と感謝の意を表してくれるご老人の姿が目に焼き付いて廃止できないんですよ」と。

この言葉をお聞きして、私は「はっ」としました。そして、赤字路線を廃止することで収益性を確保するのではなく、こうした人々の生活を守るために収益性を確保し、基幹事業や新事業で競争力を獲得しなくてはならないのであって、そのための経営なのだということに改めて気がついたのです。その時の社長と専務の言葉を聞いて、私はこの会社の方々と働くことができて本当に良かったと感じましたし、こうした会社を社会が育むことが大事であり、そうした存在を世の中に伝えていかなくてはならないと思いました。

ビジネススクールの授業では、東京でも名古屋でも、そしてバンコクでもシンガポールでも上海でもシカゴでも、同じ話をしています。そして、いずれの国の教室でも、学生たちは「心に響いた」と言ってくれます。

つまり、人々が心地よいと思うことは、いずれの国でも大きく異なるわけではなく、他者に「関心を向け」、「共感する」という機会を提供することが大切なのではないかと思います。

そもそも、社会というものは人や家族を基点として形成されているということを忘れてはなりません。そこに経済活動が形作られたのであって、経済あっての生活世界ではなく、生活世界があっての経済なのです。

生活世界に入り込み、文脈価値を共有することで相互作用を通じて価値を共創していくという考え方は、こうした本質に立ち返るということでもあるのだと思います。


記事やセミナーに関するお問い合わせは下記までお願いいたします。

チュラロンコン大学サシン経営大学院日本センター事務局

瀬古 E-mail:taro.seko@sasin.edu

タイ財閥最新動向-変貌を遂げるアジアのコングロマリット

タイをはじめとするアジア各国で絶大な影響力を持つ財閥系コングロマリット。コロナ禍を経て、タイの主要財閥の海外展開はどのような変化を見せているのか。今回は、三菱UFJリサーチ&コンサルティングがタイ財閥の全体像から近年の海外投資動向まで、CP、TCC、セントラル、サイアムセメント、サハグループの5社に焦点を当て解説する。

タイ財閥の成り立ちと特徴

まず周辺国との比較で見たタイ財閥の位置付けについて解説する(図表1)。

タイは歴史的にほとんどが華僑系の民間企業である。例えばタイ証券取引所(SET)に上場する企業の約75%がファミリービジネスであり、タイの国内総生産(GDP)の80%以上も占めるほど存在感を持っている。

歴史的にもタイと中国の繋がりは緊密で、13世紀のスコータイ王朝の時代より中国商人の往来や移住などが活発だった。タイの華人系人口については、ASEANではインドネシアに次いで700万~1,000万人存在すると推定され、タイの食品・小売を主とする有力グループであるチャロン・ポカパン(CP)グループは、そのルーツを辿ると潮州系である。

同様に主要財閥は、大半の出身が中国南岸部に集中しているなどの特徴があり、中国の政財界との人脈が太い財閥も多い。

2点目は海外展開、特にASEAN域内への投資に積極的である点である。タイ国内市場が飽和し、自社の競争力維持のためにもベトナムやインドネシアなど潜在市場への展開が、今後の伸び代として期待されている。

中でも2010年代に積極的に域内投資を手掛けてきたサイアムセメントグループ(SCG)は代表的な事例である。SCGは19年、インドネシアのパッケージング企業であるPT Fajar Surya Wisesa Tbkの株式55%を6億6,500万米ドルで買収し同国への事業強化を図った。17年に地場の建材企業を買収するなど、最も力を入れている国の一つであるベトナムには石油化学コンビナートを造成しており、22年稼働開始を目標に19年から22年にかけて約56億米ドルの投資を計画している。

また、タイ最大の小売財閥であるセントラルグループも、16年にベトナム小売り大手ビッグCを11億4,000万米ドルで買収するなど積極的な姿勢を見せている。

タイの主要財閥の概観

具体的なタイ財閥の顔ぶれについては、世界の上位公開企業2,000社を順位付けした「Forbes Global 2000」が有益な情報源となる(図表2)。今年5月に発表された22年版では、タイからランクインした企業は14社となった。

Forbes Global 2000のタイ企業順位比較 

周辺国のASEAN財閥同様、金融系が約4割を占め構成比が高い点は共通しているが、国営の資源最大手のPTTがトップを維持し、王室系のSCGやタイ商業銀行(SCB)が上位にあり、またタイを代表する食品・小売大手のCPグループが躍進したことが特徴といえる。

本ランキング圏外の企業名などを見ても業種別にはさまざまであるが、タイが「アジアの食卓」という別名を持つだけあり、前述のCPグループをはじめベタグロなど農業、食品・飲料由来のコングロマリットが多く見られる点も特徴として挙げられる。

また、近年は「中進国の罠」からの脱却を図るタイ政府の産業高付加価値化の施策にリンクし、「Thailand 4.0」などの政策に連動した注力分野への投資も見られる。特にEV、デジタル、IoTなどの事業に参入する動きが多く見られるのも特徴である。

タイ財閥の海外投資動向

コロナ以降の投資傾向は二極化、投資対象国はベトナム転換傾向

2000年代に入り、タイの主要財閥は海外展開に舵を切り始めた。海外売上も増加傾向にあり、18年にはタイ上場企業の海外売上が3兆バーツを超え、収入全体の約3割を占めるに至る(図表3)。

タイ上場企業の海外からの収入額推移

タイ国としても18年にマレーシアを抜いてASEANで2番目に大きい対外投資国となっているが、その背景としては、国内市場の成長鈍化、人件費の上昇、ASEAN経済共同体(AEC)発足などによる域内交易の円滑化などが挙げられる。

また、新型コロナ以降の近年の傾向として、CPグループなど経済の停滞をむしろ好機ととらえ、積極的なM&Aなどにより新たな事業を組成する企業がいる一方で、サイアムセメントグループやセントラルグループなど既に参入している分野の育成や既存事業の拡大を主目的とした施策を採用する財閥も見られ二極化している。

投資対象国を進出した企業数でみるとASEANが最も多く、15年に海外投資した192社中152社、19年には232社のうち191社がASEANに投資しており、進出は増している。その中でもCLMVへの進出が8割近くを占めている(図表4)。

地域別進出上場企業数(2015年及び2019年、複数回答結果)

CLMVをさらに細分化するとベトナムとミャンマーが1、2位を争っていたが、直近のミャンマーの政治状況により、ベトナムへの投資転換はしばらく続くことが予測できる。

直近では投資形態に変化も。スピーディかつ低リスク投資傾向へ

直近の投資形態を見ると、企業買収、株式購入や合弁など、パートナーを伴う投資が伸びていることが分かる。買収・株式購入・合弁への投資が2015年に6割程度だったことに対して、19年には9割に至るほど投資形態が変わっている(図表5)。

投資形態別割合の推移(投資額に対する%)

既存事業への投資やパートナーとの合弁に投資をすることにより、スピーディーな投資効果や比較的に低いリスクを企業が求める傾向がより明確になっている。

タイ企業の対外M&A取引による投資の構成は、製造業(食品・飲料系)および鉱業から金融などのサービス分野が上位を占める(図表6)。

対ASEAN投資額累計の部門別割合

CPグループ、TCCグループのタイビバレッジ、ブンロッド、セントラルグループなど、名だたるタイ財閥が食品・飲食系であることからである。直近ではコンビニ、スーパーなどの小売店、レストランなどの外食店に対する投資も活発であり、近隣国の増加する消費市場の需要を取り込むケースも多く見える。

タイ・ユニオンの事例から考察するタイ企業の海外投資目的

Thaiunion

タイ大手企業の海外展開の代表事例として挙げられるのはタイ・ユニオンである。すでに世界トップレベルの水産大手として、1997年から海外進出に成功しており、現在各国に協業先や子会社を有しており、2021年の売上では93%を国外から稼いでいる。グローバルレベルで有望市場に漁業権を持つ一方で、加工工場などを開発しながら、流通網も積極的に確保している。

流通網は特に北米で大きく展開しており、水産業オリオン・シーフード・インターナショナルや外食レストランであるレッド・ロブスター・シーフードなどを傘下におさめている。

すでに同社の積極的な海外投資は一段落したところであり、近年では国内やASEAN域内で豊富な水産物を使った高付加価値製品の開発などに注力している。近い将来、それらの製品をグローバルレベルで確立した販路に乗せ拡販を進めることが想定される。タイ・ユニオンおよびその他の投資事例などをもとに、タイ企業の海外投資の目的を考えると次の3つが挙げられる。

① 調達・生産拠点の拡大によるサプライチェーンの強化

② 販路拡大による顧客確保

③ 投資分散による収益源の確保

まず1点目のサプライチェーンの強化を目的とした対外投資は、原材料の調達先拡大からそれらの加工・生産、製品の販売流通までの垂直展開が挙げられる。アグリ分野から食品加工、販売までをセットで抑えるCPグループが代表例である。

また、直近ではサイアムセメントグループがベトナムでは化学部門、インドでは建材部門において積極的に投資をしているが、ベトナムは原材料調達から生産までの川上、インドでは製造から販売までの川中〜川下強化など、いずれもグループ主要事業のバリューチェーンの強化を目的とする動きである。

2点目の販路拡大による顧客確保は、既に販売網を構築している海外の地場企業を買収することで、円滑な参入と事業拡大を志向するものであり、消費財メーカーに多く見られる。タイ・ビバレッジ(TCCグループ)が、ベトナムの酒類大手であるサイゴン・ビアやミャンマーのウイスキー最大手グランド・ロイヤルグループに出資を行ったことがこのケースに該当する。

3点目は投資分散による収益源の確保である。タイ国内での内需の停滞の補完を目的として、CLMVなど新興エリアでの投資を進めたり、さらなる技術やブランド確保のために高単価・安定収益が見込める欧米など先進国への投資を進めることが挙げられる。代表的な業界は小売業であり、近年積極的に周辺国への展開している点が目を引く。セントラルグループのベトナム進出、TCCグループのカンボジア、ラオス進出などが代表例である。

以降では、タイの主要大手企業がどのような狙いで近年海外での投資を行っているのかケーススタディをもとに考察する。

CPグループ


〈過去のCPグループについての記事はこちら〉

【投資傾向】
● 良質な原材料調達を通じてサプライチェーンを強化する

● 流通販路拡大でタイ国内の中小サプライヤーにも商機を与えて共存する道を模索する

Charoen Pokphand(CP)グループは、川上のアグリ分野から食品加工、小売分野に至るまでの垂直展開を進めている点が特徴である。同グループの投資の代表例として中国市場が挙げられ、1978年の改革開放当時から参入。時を経て、2012年には保険事業として平安保険の株式を総額93.9億米ドルで買収、15年には中国最大の国営コングロマリット・中国中心集団公司への出資など様々な事業での進出を行っている。

その他市場でも、19年にはカナダの最大級の養豚・豚肉加工企業であるハイライフ・インベストメンツを買収しているが、主要国における養鶏などのアグリ分野への投資はもとより、東南アジア、特にカンボジアやラオスなどの近隣諸国へのCPオールの展開や、マレーシアでのテスコ買収などが目立った投資である。

販売網の拡大はEコマースにおいても進められている。20年には香港のオンラインオークションサイト「WeMall」を提供するチリンドを買収した。さらに、Eコマース決済を容易にするため、米国のインターステラー社と提携し、ステラー・ブロックチェーンを利用した越境Eコマースをより安価で容易に行えるよう目指している。

また、同グループは近年中小企業支援を打ち出しており、会長のタニン氏は海外展開を「市場を牽引するCPグループが担う責務」と定義している。同グループが海外進出することで、タイの中小企業や中小規模農家の販売先を増やすことが狙いである。近年目立ったニュースとしてはドイツの流通大手メトロのインド事業の買収などが挙げられる。同事業は総額12億米ドル相当であり、グループの最重要テーマとしてインド国内での販売網獲得に向けた取り組みを進めている。

CP企業概要

業種 食料品、通信、小売 等
設立 1921年
グループ会社 200社超(世界21ヵ国)
従業員数 延べ36万人
総売上高 680億米ドル(2020年)

コンビニエンスストアのセブンイレブンやスーパーマーケットのロータス、食料品卸売のマクロなど、タイに住む人なら誰もが知っているであろう店舗を展開するタイ最大の民間企業CPグループは、1919年に中国からやってきたChia Ek ChorとChia Seow Hui兄弟が、21年に開業した小さな種の輸入店舗Chia Tai社から始まった。今は農業・食品だけでなく小売、メディア・通信、IT、不動産、自動車、製薬まで、様々な分野でその存在感を発揮する巨大多国籍コングロマリットへと発展した。現在の中核事業は大きく分けて食品、小売、デジタルの3つ。原点である農業・食品分野においては動物飼料事業で世界1位、畜産事業で世界第4位、養鶏事業では世界6位など世界有数の企業に成長している。

TCCグループ


〈過去のTCCグループについての記事はこちら〉

【投資傾向】
● 中核のタイビバレッジグループのM&Aを通じて周辺国のサプライチェーンを強化・ 拡大
● 大型小売ビッグCで近隣国の小売市場の先占を狙う

タイ国内の事業拡大において、相次ぐ買収を行ってきたThai Charoen Corporation(TCC)グループは、第2世代による経営に移行し、根幹事業が固まりつつある。その中で、飲料のタイビバレッジや消費財のベルリーユッカー、小売のビッグCやメトロといったグループ企業が海外展開を進めている。

流通事業では、2016年にベトナムのメトロ・キャッシュ&キャリーを買収、タイでビッグCを買収して市場参入するなど、早期からASEAN市場への展開を視野に入れていた。ビッグCについては19年にカンボジア、ラオスに展開している。特にカンボジアでは今後5年以内に市場トップとなることを目指し、今年になって現地コンビニチェーンである「キウイマート」を買収するなど積極的な動きを見せている。

グループの中核企業であるタイビバレッジは、早期から積極的な買収を続けており、過去にはシンガポールの食品・飲料大手のフレーザー&ニーブ(F&N)社を買収し海外での販路を入手するとともに、物流や倉庫などに関するノウハウも獲得した。タイビバレッジはその他にも、ベトナム醸造最大手サイゴン・ビアとミャンマーのウイスキー最大手のグランド・ロイヤルグループを買収しており、アルコール飲料では域内最大企業となっている。

タイビバレッジの代表取締役社長であるタパナ氏は、「ASEANは他の地域と比較して、成長が見える市場であり、人口も6億人を誇る。この地域に展開することが我々の事業の課題である」と述べており、タイビバレッジとTCCグループにとってのASEAN市場の重要性を説いている。特にTCCグループ内では、ポストコロナのASEAN市場は再びリセットされた状態にあると考えており、様々な事業体を通して海外進出する好機ととらえ、小売のビッグCや飲料のタイビバレッジを主軸に展開を加速していく方針である。

TCC企業概要

業種 飲料、不動産、小売 他
設立 1960年
グループ会社 100社超(世界10ヵ国以上)
従業員数 延べ6万人
総売上高 540億米ドル(2020年)

TCCグループは飲料・食品部門以外にも流通・製造部門、不動産開発部門、金融部門、農業部門の5つの事業グループにて構成されている。事業のコアは、東南アジアでも最大級の酒類・飲料企業を筆頭とした飲料・食品部門で、酒類のみならずノンアルコール事業にも積極的に参入。日本食レストランや即席食品を展開するOishiグループを有する他、パッケージング分野も自ら手掛けることで一気通貫で事業の展開が可能である。また、同部門以外にも川上の農業分野から川下の総合商社Berli Jucker PCL(2001年買収)、タイを代表する小売ブランドであるハイパーマートのBig C(16年買収)まで事業範囲を拡大させており、典型的な垂直統合型の企業グループと言える。

Centralグループ


〈過去のCentralグループについての記事はこちら〉

【投資傾向】
● 高級ブランドや店舗はセントラル・パタナが、生活分野に近い小売店舗はセントラル・リテールが中心となって展開
● ベトナムとマレーシアを中心にモダントレードの普及で市場獲得を狙う

セントラルグループは小売最大手財閥として既にタイ国内でショッピングモール事業やスーパーマーケット、ホスピタリティ事業などを展開している。海外進出はグループを挙げての目標であり、タイに依存しない中所得層や新興国市場の深耕を志向している。直近ではベトナム進出を強化しており、2018年から22年にかけてベトナムにおいて約665億バーツの投資を続けている。

グループCEOのトス・チラティヴァット氏は「我々は、毎年10%超の成長を続ける国内総生産と9,300万人超の人口を有するベトナムの経済規模に、強いビジネスチャンスを感じている。更に、ベトナムの人々は強い購買力を有している」と述べている。特にベトナム市場では、21年だけで66億バーツかけて5店舗の新規展開を行い、ベトナムの2大都市だけではなく他地域の主要都市への展開を目指している。現在はスーパーマーケットやホームセンターがメインであるが、今後に向けてはセントラルブランドとしての出店や百貨店「ロビンス」の展開も視野に入れた戦略を発表している。※: 2017年インタビュー時点

ベトナム以外のASEAN市場で大規模投資を行っている先はマレーシアである。セントラル・パタナ社を通して、マレーシアのI-Berhadと協業し、85億バーツを投資してセランゴール州の首都、シャーアラム内のi-Cityにショッピングモールを開発した。東南アジア市場以外にも、イタリアやイギリスの老舗百貨店の買収、グッチやボッテガなどの高級ブランドへの出資など、自社グループの百貨店やショッピングモールの体制強化の動きを進めている。


Big Cは、ベトナムでは「GO!」として事業を展開(16年に買収)

Central企業概要

業種 食品&ブランド 他
設立 1947年
グループ会社 50社超(世界13ヵ国)
従業員数 約8万人
総売上高 推定約80億米ドル(2021年)

タイ小売における最大手セントラルグループはデパートやスーパーマーケットを含む食品&ブランド事業、ホテルや飲食店を含むホスピタリティ事業、大型商業施設やオフィスビルを含む不動産開発事業といったハード面の他、近年は金融・ファイナンス事業、デジタル・Eコマース事業など多岐に渡るビジネスを展開。

なかでも着目すべきは、食品・ファッション、ハードウェアなどの小売・ブランド事業を担うCentral Retail Corp. PCL(1947年創業)で、タイでは51県約1,980店、海外ではベトナムとイタリアで約140店の小売店を展開する。特に食品事業は収益の40~50%を占め、店舗はTopsマーケット、セントラルフードホール、ファミリーマートなど。2020年にはタイ証券取引所に上場している。

Siam Cementグループ

【投資傾向】
● アジア各地域の成長性とそれに乗じた開発需要を見込んで進出国と進出形態を決める
● 建材事業の優先国はインド、化学・包装事業の優先国はベトナム

サイアムセメントグループはタイ及びASEAN域内最大の建設資材関連財閥である。成熟傾向にあるタイ市場からの多角化は同社の経営課題であり、海外展開によりタイ市場だけでなくASEAN市場を代表する存在になっている。

また、同グループ最高経営責任者ルンロート氏は、「今後数年でベトナムが我々の最優先市場になるとみている」と述べているが、同国ですでに現在20社以上の傘下企業を抱えており、ベトナム発のサプライチェーン強化と事業多角化を同時に展開している点が特徴である。事業別には、同社の根幹であるセメント・建材事業がタイ建材小売ブンタウォンとの協業でカンボジアへ進出しており、一定の成果を上げている。一方で自社単独の動きとして、サプライチェーンの強化を狙いベトナムのセメント最大手ベトナム・コンストラクション・マテリアルを買収しており、タイ以外でのセメントの生産能力を大幅に飛躍させている。

また、2018年にインドネシアホームセンター大手のカトゥール・セントーサ・アディプラナと提携しており、同国の小売建設セクターへの進出を目指している。また、近年注力している化学及び包装材事業で特に注目すべきはベトナムのロンソン石油化学コンビナートの建設である。同事業はグループにとって、10年以上投資して築いたベトナム事業の集大成ともいえる約4.4億米ドルをかけた大型投資であり、ベトナム政府からも支援を受けている。同コンビナートの完成によりベトナムからASEAN全域へ石油化学製品の供給を想定している。このように川上事業の安定化を図るとともに、近年は包装材メーカーを多数買収し生産拠点を拡大している。19年にはインドネシアでファジャール社を、20年にはベトナムでビエン・ホア・パッケージング社とドゥイタン・プラスチック社を、そして21年には英国でゴーパックUKを買収している。

 

Siam Cement企業概要

業種 建設資材、化学、包装 他
設立 1913年
グループ会社 342社(世界14ヵ国)
従業員数 約54,000人
総売上高 16,179百万米ドル(2021年)

タイ及び東南アジア最大かつ最古の建設資材財閥。1913年に国王ラマ6世(ワジラウド)の勅令によりタイ初のセメント工場を設立するために設立され事業を拡大してきた。現在はセメント・建設資材、化学、包装の3つを軸にそれぞれの会社が事業を運営している。筆頭株主は現国王ラマ10世(ワジラロンコーン)で、34%弱を保有している。はじめはセメントを中心とした建築資材の製造が主要産業であったが、国内では建設市場成熟による需要が減っており、高付加価値製品を生産する化学事業が大きく成長。2021年はグループ全体の売上の44%弱を占め、全体の33%を占めたセメント・建材事業を上回っていた。22年6月に化学事業の中核会社SCG Chemicalsが上場し、今後のさらなる事業拡大が期待される。

SAHAグループ

【投資傾向】
● 食品・消費財部門を主軸としたASEAN諸国及び新興国への展開拡大
● デジタルをキーワードとした小売事業のチャネル強化

ワコールや、ライオンなど 日本企業との多くの取り組み

サハグループは、グループ会社約300社のうち80社近くが日本企業との合弁であり、ワコールや、ライオンなどタイを代表する多くの日本企業とのパートナー成功事例が見られる(図表1)。

日本企業との提携一覧

また、タイ全土にわたる流通・小売ネットワークを背景とした強力な販売力が同グループの強みの一つであるが、製造分野からその受け皿としての工業団地運営までのノウハウを有しており、日本企業がタイで事業を行う上で必要なノウハウを全面的に提供できる点が特徴である。

これには戦後の経済成長期に、日本の商売への姿勢に触れて理解を深めていったグループ総帥にあたるブンヤシット氏のバックグラウンドが大きく影響している。同グループの日本企業との主な提携実績は図表1の通りであるが、相対的にマイノリティ出資が多いのも特徴である。

直近では、株式会社コメ兵と合弁会社 を設立し、2019年にバンコクで第1号店をオープンした。同社はカバン、時計などの高品質の中古ファッション製品の買取・販売事業を立ち上げており注目されている。また、総合ディスカウントストア事業として、日本のパン・パシフィック・インターナショナルホールディングスとタイ地場企業TOAとの合弁会社DONKI Thailand Co., Ltd.を設立し、25年末までに20店舗を目指し出店拡大を支援するなど、今後も日本企業との提携は変わらず続いていきそうだ。

サハグループの海外事業展開とチャネル拡大戦略

今後の同社の方針として、①既存事業の海外展開による拡充と、②デジタルを駆使した新しいマーケティングチャネルを構築し、強みである販売力をさらに強化するという2点が挙げられる。

①について、ブンヤシット氏は「国際的な拡大は主にASEAN、特にミャンマー、カンボジア、ラオス、およびバングラデシュや特定のアフリカ諸国などのいくつかの新興市場に焦点を当てる」※1とコメントしている。実際に、食品・飲料事業の中核を担うタイ・プレジデントフーズ(TPF)がアジアはミャンマー、カンボジア、バングラデシュに3工場、欧州はハンガリーに1工場を有する。

22年2月にTPF社のディレクターであるPojjana氏は「海外市場からの収益部分を現在の29%から26年に総収益の50%に引き上げることを目指している」※2と述べ、今後1〜2年間で、ハンガリーに駐在員事務所を設立し、インド、マレーシア、ベトナムに代理店設立を目的とした投資をする。また、米国、中東、アフリカに工場を設立し、今後5年間で5大陸に5つの生産拠点を設ける計画をしている。26年に海外収益150億バーツを目指す。

②ついては、デジタル戦略を軸としたチャネル拡大に力を注いでいる。17年には東南アジアのEコマース大手のLAZADAと業務提携するなど、時代に合わせた事業展開も行ってきた。また、グループ傘下のサン・ベンディング・テクノロジーは、タイの自動販売機業界のリーダー(21年で市場シェア約46%)であり、23年までに工場、MRT駅、ガソリンスタンドやマンション、病院など、全国で2万台の自動販売機設置を目指している。また、今後は25年までに自社自動販売機の約75%をスマート化(キャッシュレス化等)することを表明している。

※1:バンコクポスト2014年6月27日記事より ※2:バンコクポスト2022年2月16日記事より

メタバース(仮想現実)技術などデジタル市場にも注力

新たな動きとして注目を集めたのは、2022年6月下旬に開催した第26回サハグループフェアでの、メタバース技術を取り入れた買い物体験だ。また、タイのデジタル資産・仮想通貨取引所Bitkubと提携し、即席麺ブランドMAMAのNFTカードを配布し注目を集めた。タイは暗号資産の保有率世界一、タイ政府観光局が22年4月に仮想ドリアン果樹園の探索を可能にする「アメージングタイ メタバース」の開設を表明するなど、デジタル市場としてのポテンシャルも高く同グループも本分野への投資に積極的に取り組んでいる。

SAHA企業概要

業種 コンシューマプロダクツ 他
設立 1972年
グループ会社 200社超(世界約10ヵ国)
従業員数 約10万人
総売上高 推定約80億米ドル(2021年)

サハグループを統括するのはSAHA Pathana Inter-Holding PCL(SPI)である。売上の6割を占めるコンシューマプロダクツ事業は、I.C.C. Internationalを中核とし繊維・ファッション、家庭用品、美容・化粧品などへの投資を行っている。続いて2割を占める食品・飲料事業の中核は、即席麺の製造、パン・ベーカリー製造・販売である。3つ目の工業団地開発およびその他の事業への投資については、警備会社大手セコム等のサービス業への投資の他に、生産能力拡大及び政府の地域産業拡大政策を支援するために行っており、タイ国内4ヵ所で自グループ工業団地を運営している。近年は、日本をテーマにしたショッピングモール「Jパーク・シラチャー日本村」に約5億バーツを投資し第2期開発に乗り出している。

寄稿者プロフィール
  • 池上 一希 プロフィール写真
  • MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
    池上 一希 Managing Director

    日系自動車メーカーでアジア・中国の事業企画を担当。2007年に当社入社。大企業向けの欧米、中国、アセアン市場での事業戦略構築案件を中心に活動。18年2月より現職。バンコクを拠点に東南アジアへの日系企業の進出戦略構築、実行支援、進出後企業の事業改善等のテーマに取り組む。


  • 金 勲貞プロフィール写真
  • MU Research and Consulting (Thailand) Co., Ltd.
    金 勲貞(キム フンジョン)Senior Consultant

    韓国で大学卒業後、主に米国系事業会社にて営業支援、人事、マーケティングなどを経験。2006年に渡日、一橋大学大学院にてMBA取得後、日系大手事業会社で人事、国際業務、新規事業企画などを歴任。15年よりタイに移住、日系企業タイ現地法人にてマーケティング、人事、その他管理全般を経験。18年に当社入社。
    ※当2名の他、池内勇人(アソシエイト)が執筆

三菱UFJリサート&コンサルティング

MU Research and Consulting(Thailand)Co., Ltd.

Tel:+66(0)92-247-2436
E-mail:kazuki.ikegami@murc.jp(池上)

【事業概要】 タイおよび周辺諸国におけるコンサルティング、リサーチ事業等

品質が必要とされる理由とは?いすゞ、マツダ、三菱、トヨタの役員に聞く、成功への鍵

品質とは、企業が成功するために必要不可欠なものであり、特に自動車メーカーにとっては製品の品質が顧客の安全性、利便性、そして総合的な体験を具現化するものである。そこで、顧客体験研究と自動車産業データ分析のエキスパートであるNielsenIQ Automotive Teamが、タイで最も成功している自動車メーカー、いすゞ、マツダ、三菱、トヨタがどのような工夫をして激しい競争に打ち勝ち、自動車産業の将来を見据えているのかを探った。

タイの自動車市場における消費者の品質に対するニーズは、常に進化を続けている

あらゆる高品質な製品やサービスに見られる3つの重要な側面は、業務効率、消費者の信頼、そして価格に見合う価値だ。自動車産業における品質管理が、時代の変化とともに進化してきたのは当然のこと。4人の経営者の見解では、以下のような要因がこの変革に寄与しているという。

テクノロジーとコネクティビティ

技術革新とコネクティビティの進化に伴い、品質に対する消費者のニーズも進化していると、Toyota Motor Thailand Co., Ltd.のソムキッド・プラディットカムジョーンチャイExecutive Vice Presidentは語る。新しい技術が生まれれば、自動車メーカーはそれを取り入れて車の性能を向上させなければならない。

しかし、だからといって、滑らかな乗り心地、快適な座り心地、エンジンの品質、信頼性、異音のなさ、部品の優秀さなど、クルマに求められる基本的な条件を見失うわけにはいかず、消費者がこれまで以上に製品から提供される技術に注目していることを理解しながら、メーカーはこれらの要素の品質を確実に維持する必要がある。

一方、AutoAlliance (Thailand) Co., Ltd.の猿渡健一郎社長兼CEOは、通信技術の新機能を継続的に開発することが品質保証に持続的な効果をもたらし、メーカーも接続性を技術的進歩の中核に据えると確信している。

トレンド、政府規制、社会問題

猿渡氏は、社会の環境意識の高まりにより、電気自動車が消費者にとってより望ましい存在になっていると考察する。メーカーはこのトレンドに対応する必要がある一方で、カーボンニュートラルやネットゼロエミッションの目標など、世界各国のさまざまな政府規制も舞台設定に欠かせない要素となっている。また、日本の例として、若い世代よりも高齢者の交通事故が多いことを挙げ、この社会問題を解決することが自動車のイノベーションにつながったと紹介した。

エモーショナルな要求

消費者の期待は大きく、メーカーは日常的な設備だけでなく、情緒的な面でもそのニーズに応えなければならない。例えば、人目を引くデザイン、豪華なデザイン、エレガントなデザインは、その人の社会的地位を示し、オーナーに誇りを与えることができるとTri Petch Isuzu Co., Ltd.のウィチャイ シナヌンファDirectorは語る。

Mitsubishi Motors (Thailand) Co., Ltd.の小糸栄偉知社長兼CEOは、消費者のニーズは常に変化しており、“お客様の声”に耳を傾けることが重要だと述べる。また、消費者ニーズが変化しているのは、単に時間の流れだけではなく、国やセグメントによる自動車市場の違いが独自の要求を生み出しているとも指摘。企業は常に顧客の動向を把握し、ニーズがどのように変化しているのか、どのように対応すれば効果的なのかを分析する必要がある。そのため、三菱は社員に対して特別なトレーニングを実施し、顧客満足度を高める企業文化を醸成している。

メーカーから見た品質管理の課題

特に最新の技術革新の場合、「品質管理」は難しい課題であることは4人の経営者全員が認めている。メーカー側は、プロセス、部品、サプライヤー、新製品など、どのような進歩があり得るのか、品質や顧客満足にどのような影響があり得るのか、その方向性を明確に理解する必要がある。

いすゞは、設計、製造、納品、アフターケアに至るまで、すべてのプロセスで品質保証に責任をもち、その結果、顧客から信頼を得ている。マツダは、設計者、技術者、品質管理者など複数のチームが連携し、最適な業務効率を実現している点も評価できる。また、問題が発生した場合にも、迅速に把握し対処している。三菱自動車は、顧客の多種多様なニーズに対応することが重要であると考えており、顧客との共通認識のもと、喫緊の課題から解決し、独自のセリングポイントを持つ車種を生み出している。最後に、トヨタは「安全・品質」を顧客に保証するために、安全・品質原則の遵守、顧客中心の変更管理など、顧客が直面する問題を減らすためのさまざまな基準や手順を持っている。このような方法の成功は、経営者が日々のオペレーションを注意深く監視することに大きく依存している。

自動車メーカーの成功を支える要因

各社とも独自のポリシーやコンセプトを持っているが、消費者の声に耳を傾けてクルマの設計を行い、結果としてブランドに対する顧客の信頼を高めるという信念を共有していることは明らかである。これら4社の経営者は、自動車メーカーが成功するためのキーファクターを次のようにまとめている。

 

 

 

自動車市場はリバウンドの段階にあり、COVID-19の大流行後、再び拡大し始めているというのが、4人の経営者の一致した意見である。消費者は、職業生活、観光、あるいはキャンプなど、自らの視野を広げ始めている。しかし、ソムキット氏とウィラチャイ氏が述べるように、自動車メーカーにとっては、特に金属のコスト高や半導体の入手難など、非常に難しい障害が残っている。

現在の不安定なサプライチェーンには、今後とも十分な注意が必要な一方、多くの国々がパンデミックの影響からまだ回復していない。また、燃料価格の高騰が消費者の自動車需要に大きな影響を及ぼしており、メーカーは今年の販売台数を正確に予測することが困難な状況にある。こうした不安定な要因にもかかわらず、自動車市場は正しい方向に向かっているように思われる。自動車メーカーにとって、消費者の声をより重視し、チームワーク、効率的な製造工程、製品の安全性を確保することは、最高の品質を維持することにつながる。これは自動車業界に限ったことではなく、あらゆる業界の生産者が競争に打ち勝つための指針として捉えるべきだろう。

過去の品質賞の受賞は、経営者の誇りであり、お客様の声を大切にする組織の証である。これらの賞は、自動車メーカーの品質へのこだわりを示すものだ。


NielsenIQは、消費者行動に関する最も完全で偏りのないビューをグローバルに提供するリーダーです。画期的な消費者データプラットフォームと豊富な分析機能により、NielsenIQは世界の主要な消費財メーカーや小売業者に対して、大胆かつ確実な意思決定を可能にしています。

包括的なデータセットを使用し、すべての取引を平等に測定することで、NielsenIQは、あらゆる小売プラットフォームにおけるパフォーマンスを最適化するために、消費者行動に関する将来を見据えた見解をクライアントに提供します。データ統合に関するオープンな理念により、地球上で最も影響力のある消費者データセットを実現しています。NielsenIQは完全な真実をお届けします。

アドベントインターナショナルのポートフォリオ企業であるNielsenIQは、約100の市場で事業を展開し、世界人口の90%以上をカバーしています。

詳しくは、NielsenIQ.comをご覧ください。

お問い合わせ
Matooros Maneeruttanaporn
Mail:Matooros.m@gmail.com
TEL:0897680065

Kanjana Jaroenthaithip
Mail:Kanjana.Jaroenthaithip@nielseniq.com

【経営対談】Sasin×GDM:これからの経営者の在り方を考える(後編)

チュラロンコン大学サシン経営大学院創立40周年、タイ・ASEANの今がわかるビジネス・経済情報誌「ArayZ」創刊10周年を記念して、サシン経営大学院の藤岡資正日本センター所長とGDM (Thailand) Co., Ltd.代表取締役社長の高尾博紀が対談を行った。2022年12月号では、EV業界の未来や企業と顧客の「価値共創」について議論した

今号では、日本企業はどう生き残りを図っていけばいいのか、そのヒントを探る。(ArayZ 2022年12月号からの続き)

GDM (Thailand) Co., Ltd. 代表取締役社長 
高尾 博紀Takao Hiroki(左)
早稲田大学商学部卒業。2008年来タイ。1,200,000㎡を超えるタイ不動産取引実績を有し、企業の不動産取得支援を行っている。ホテル・オフィス用地や工場倉庫用地及びホテルやオフィス、商業施設などの事業用不動産売買に強みを持つ。「タイで最も土地取引を行う日本人」として、豊富な知見を生かし企業の投資に関するコンサルティングなども行う。
チュラロンコン大学サシン経営大学院日本センター所長
明治大学専門職大学院教授
藤岡 資正 Fujioka Takamasa(右)
英オックスフォード大学より経営哲学博士・経営学修士(会計学優等)。チュラロンコン大学サシン経営大学院エグゼクティブ・ディレクター兼MBA専攻長、ケロッグ経営大学院客員研究員などを経て現職。NUCBビジネススクール、早稲田ビジネススクール客員教授。神姫バス(株)社外取締役、アジア市場経済学会理事、富山文化財団監事などを兼任。

「ワークライフバランス」とがむしゃらなライバル企業

高尾 日本はここ最近「ワークライフバランス」や「働き方改革」などが叫ばれている一方、中国企業や台湾企業はエグゼクティブ自らが職場に泊まり込んででも、がむしゃらに事業を推進しているという現状があります。労働環境を考えながらライバルの競合企業を見なくてはならないし、ここでもう一度企業、個々のモチベーションをどう駆り立てていくべきなのか。この辺りについて、藤岡先生はどういうお考えをお持ちですか。

藤岡 日本企業は「ワークライフバランス」という言葉が出てきて、がむしゃらに頑張れば「ワークライフバランス」を注意され、「ワークライフバランス」を重視すればどんどん他国に追い抜かれる。スタックインミドルというのも変ですけど、その狭間にはまっている状態ですよね。戦略でもコストも追求して、差別化も追求し、両方とも実現できるっていうのがもちろん理想ですが、現実は難しい。部分部分で見ると皆さん正しいことを言っています。しかし、全体として機能しなければ結局「戦略」にはなりません。

戦略とは「何をしない」のかを決定すること。お客さんとの関係ひとつとっても、どういう人と仕事をしたいか。逆に言うと、どんな人とは仕事をしないのかを決定すること。何をする・しないを決めるのではなくて、「何をしないのかを明確にする」。そのことによって本当に大切にしないといけない従業員であったり、お客さんであったりというのが見えてくる。その決定の一貫性がないと、つまみ食いのような形で流行りのSDGsやCSRのようないろんなコンセプトが入ってくるからブレる。しかし、実際の組織の大きな意思決定っていうのは、全体的に誰もが納得する解を得ようとしてしまうと、結局何もしないことになってしまいますよね。

また、仕事を行う際、当事者意識を持って職務を任されるっていう感覚が中国の組織もタイの組織も早い時期から与えられていることが日系企業と大きく異なる点ではないでしょうか。私個人でもそうですが、サシン経営大学院日本センター所長としてオーナーシップを持って運営を行っています。

エグゼクティブダイレクター並びにMBA専攻長に就任した当初はまだ30歳くらいで「何か失敗したときはどうしたらいいんですか」という不安を上部に相談したこともあります。「責任は私たちが取るから大丈夫」という回答を期待して聞いたのですが、返ってきた答えは「次の候補者がいるから心配しなくていい」という少々ドライな回答でした。そこでもう猛烈にやるしかないと意を固め、業務に没頭していた時期もあります。

皆さん、全員そうだと思うんですが、勉強やスポーツに没頭したり、住み込んで仕事をしたりといった「猛烈」さがあった時期を経験されているのではないでしょうか。その時は考えたり計画したりする暇すらないんです。あの頃はまだ駆け出しで、もうやるしかない、オプションもないわけで、結果を出すしかないのです。だからここでできるだけやってみて無理なら仕方ない。やっぱり今の中国企業・台湾企業はそういう感覚と近いんじゃないのかな、と思いますね。

企業・組織が肥大化したときに進むべき道とは

高尾 戦略は「何をしない」のかを決めることと言われましたが、企業・組織が肥大化したときに決定が難しくなることは明確だと思います。代わりに大企業から今後どんどん小規模化するというような傾向は出てくるのでしょうか?

藤岡 マトリックス組織、事業部制、カンパニー制など、いろいろな組織形態が語られてきましたが、小規模化を含め、どの組織形態が一番良いかという話ではなくて、それぞれの戦略に応じて組織の構造は変わるべきだというのが教科書的には適切です。それは、その時代のポピュラーな組織形態ではなく、本来の環境や顧客への対応として組織を変えるということです。最近は社内のコーポレートベンチャーをCVC(コーポレート・ベンチャーキャピタル)でやってみるなどいろいろな方法がありますけども、やっぱり1つのやり方としては組織を分けていくこと。

高尾 分社化するということですか?

藤岡 分社化もそうですし、プロジェクトベースで立ち上げ、クローズしたり再統合したりする。分社化も含めてそういうことができるのが組織構造の前提です。しかし、日本企業の場合、「作ったものをつぶす」というのができないし、弱いし、遅いというのが研究でも裏付けされています。例えば、日系企業にグループに何社あるんですかと聞くとまれに200~300社あるかなという答えが返ってくる。各々の事業で収益を上げるという意味では適切かもしれませんが、その場合に会社のブランドで、グループとして経営する意味があるのかというと疑問点も多いです。

グループ経営としての本質を見失っている。結局は「当たり前のことを当たり前にする」ということに尽きると思います。

経営とは8割が「やってみないとわからない」ということ

新しくリノベーションを行ったサシン大学キャンパス内にて(左より藤岡氏、チャイポン氏、高尾氏)

高尾 イノベーションのジレンマというところで、ソニーはV字回復できましたが、逆にできなかった会社との差は何でしょうか。客観的に見ればトレンドに乗ったというところがあるのかなと思ったのですが。

藤岡 それもあると思います。経営学を教える側がこういうことを言うと本末転倒になりますが、「やってみないとわからない」ことも多くあります。理論通りにやって理論通りにうまくいくのは2割ぐらいで、残りの8割は運とか縁とか「たまたま」だと思います。しかしながら、その2割をどう捉えるのか。経営とは意思決定の積み重ねです。その2割の確率を少しでも高めていくことに対して価値を認めるか認めないかだと思うんですね。ビジネススクールに来て、わざわざ高いお金を払って勉強に来る人たちはそこに対する価値を見いだしています。

「8割やってみないとわからない」というのはおそらくビジネスの本質で、例えば、「シナジーを生かして」ってよく言いますよね。M&Aもそうだし、スタートアップに向けていろいろ投資したりするのもそうですけども、シナジーが全くない事業に多角化する(非関連的多角化)、これが一番失敗する可能性が高くなります。一方で関連的多角化というのは成功の確率が高い。だから、シナジーをしっかり考えて、関連する事業に多角化する場合は多角化する。これは昔から経営で言われていることなんです。

高尾 ソニーと同じく、昔は成長著しかったGEも衰退しましたが、最近また一気に良くなりましたよね。その原因とはなんでしょうか。

藤岡 ソニーはBack to basicsというのが理由と言われることがあると思いますが、やはり基本に立ち返る。創業の理念あるいはビジョン、ミッションに立ち戻るということです。そこからずれたものに対しては整理をして、コミットメントをしていく。結局そこが経営の本質だと思います。

GEに限らず、成功の仕方っていうのは振り返ってみると共通項があります。しかし、共通項を抽出してみると、何も特別なことではないんです。トップのリーダーシップとか、顧客やサプライヤーとの良好な関係など。同様に、失敗の法則もある程度共通します。「失敗の中から学んでいく」ということです。人間は他人の過去の失敗からも学ぶことができる。これが人間と動物の違いだと思うんですね。

失敗の資産化」ができる企業、もしくは「失敗の資産化」がしっかりできる仕組みを組織として持っているかどうか。僕はここに尽きるんじゃないかなと思います。失敗っていうのは予兆がいろんなとこにあると思います。それが揉み消されたり、ちゃんと上に上がってこなかったりとか。それは「失敗の資産化」を組織としてできていない。あるいはそれを阻害する様々な理由がある。

僕たちが小さな頃、成長するにあたり、やかんなどに触れて火傷など痛い思いを体験することで、次から熱いものに触ろうと思わないんですよね。それも学ぶからこそできること。でも大きな組織になると、同じような失敗が多方で起こる。起こった失敗をちゃんと組織の意思決定の機関に吸い上げる仕組みが組織の中に通っていないと失敗から学ぶことができないんです。だから気づいたときにはもう手遅れになっている。

ArayZが目指す次のビジョン

高尾 ArayZは紙媒体でして、情報発信できる幅に制限があるのですが、この媒体で生まれた寄稿者同士のネットワークが、なんとなく形作られてきていると感じています。そこで2022年、ArayZに出稿されている専門家の方たちの集まりをリアルな場で開催しました。

藤岡 それはすごくいいことだと思いますね。

高尾 私たちがArayZを通して目指す次のビジョンは、読者同士のつながりや藤岡先生のような知見のある方との出会いなど、一定のリスペクトがある関係性を作れる媒体となることです。単純に情報を紙で出して読んで終わりではなく、そこに読者・寄稿者のネットワーク、実際の場で会える機会を作る。今回も実際にお会いして話し学ぶことで、考え方とか在り方とか、本を読むだけでは伝わらないことが伝わってきました。そこが私たちができる価値創造の1つなのかなと感じます。

本日はありがとうございました。


1982年設立。提供される学位の多くがケロッグ経営大学院とのジョイントディグリーである点が特徴的で、特にマーケティングとファイナンスの分野に強みを持っている。MBA、EMBA、HRM、HRMディプロマ、PhDなどの学位プログラムを有しており、正規生として毎年約700名が在籍している。

今、日本の学生に足りないものとは【サシン教授が語る】

サシンマネジメントコンサルティング所長
サシン経営大学院デュプティ・ディレクター
チャイポン・ポンパニッチ 氏

英国ケンブリッジ大学で博士号取得後、マッキンゼーでのコンサルタント勤務を経て、現在はサシンマネジメントコンサルティング所長兼サシン経営大学院デュプティ・ディレクターを務める。

今、日本の学生に足りないものとは

ここ10年間で学生にどのような変化がありましたか

まず、世代交代が起こっていると感じています。X世代から始まって、Y世代、そしてまた新しい世代に代わってきている。彼らは育ち方が違いますよね。テクノロジーとともに育ち、テクノロジーに対して非常に親和的です。インターネットで検索すれば、ある程度の情報は簡単に手に入ります。つまり、彼らが知りたい情報は自分で検索することができる。

そのような世代の学生に対し、大学も今までと同じように教えるのではなく、変わらなければならないと思います。学習というコンセプトが、これまでのジャストインケースからジャストインタイム、ジャストインバウンドに変わってきているのです。

学習の仕方もまた変化しています。すぐに使える知識を得たいと思う学生が増えてきて、それに伴い大学では、学生が実社会で働けるよう会計、財務、その他多くのことを教えようとしていますが、学生は実社会ですぐに使えるものを求めているため、知識だけでなく、スキルも必要になります。だから、私たちはアクションラーニングに重点を置いているのです。教室の中だけでなく、実生活の中で知識を応用することが大事で、MBAのコアコース終了後に、企業と共同でアクションラーニングというプログラムを実施しています。

学生のモチベーションを保つためにどのようなマインドセットが必要だと思いますか?

私は日本に留学していましたので、日本人の生徒と一緒に共同作業をした経験もありますし、日本人の友人もいます。ただ次世代を担う日本人は、意欲や野心に欠けるところがあります。タイでも同じような考えの人たちがいて、彼らも何をするにも控えめなようです。

野心というと少々言葉が強すぎるかもしれませんが、日本人やタイ人の学生にも学びたい、成功したいという意欲を持った学生はもちろんいます。そういった学生へのアドバイスとしては、もっと国際的な視野を持つべきだと思います。もっと外に出て、いろいろな国の違いを知ることで、人との付き合い方を学べるといいなと思います。

なぜ日本の学生が減り続けているのでしょう?

日本は居心地が良すぎるのかもしれませんね。私の経験でも、日本での生活はとても楽しくて、アクティビティもたくさんあって、いい友達もたくさんいました。日本の学生が外に出たがらないのもわかる気がします。

しかし、海外に目を向ける、視野を広げる。それが教育のもう1つの目的です。教室で勉強するだけでなく、何か他のことをする機会が必要です。課外活動をするということです。交換留学もその1つで、より多くの経験をすることができます。サシンの場合、60校以上の国際的なパートナーがおり、学生は行きたい国や学校を選択することができます。

日本センターを設立してもう10年になりますね

タイへの直接投資を見ても、日本の存在感は大きいです。タイにはすでに多くのインフラ、特に製造業が存在しており、両国の間には強い絆、強い関係があります。文化的な面でも私たちはよく似ており、一緒に仕事をするのも難しくはありません。

日本からタイへ、タイから日本へ、2国間の交流は非常に盛んです。ですから、コラボレーションにはもっとチャンスがあると思いますし、ビジネススクールを始めるにあたっても、これまでは、アメリカやヨーロッパのモデルに重点を置いてきましたが、これからはもっとアジアに目を向けたいと考えています。アジアや日本とのコラボレーションは、重要な戦略的パートナーシップの1つです。

タイが中所得国の罠から抜け出すためには、イノベーション主導の経済へと発展していく必要があります。日本とタイの連携もハード中心から、ソフト中心、特にヒトの連携を加速させていかなければなりません。


1982年設立。提供される学位の多くがケロッグ経営大学院とのジョイントディグリーである点が特徴的で、特にマーケティングとファイナンスの分野に強みを持っている。MBA、EMBA、HRM、HRMディプロマ、PhDなどの学位プログラムを有しており、正規生として毎年約700名が在籍している。

【経営対談】Sasin×GDM:これからの経営者の在り方を考える

2022年はチュラロンコン大学サシン経営大学院が創立40周年を迎える記念すべき年である。 そして、タイ・ASEANの今がわかるビジネス・経済情報誌「ArayZ」も創刊10周年を迎えた。 経営者の在り方について今後どう取り組んでいくべきか、サシン経営大学院の 藤岡資正日本センター所長とArayZ発行元であるGDM(Thailand) Co., Ltd 代表取締役社長の高尾博紀が対談を行った。

GDM (Thailand) Co., Ltd. 代表取締役社長 
高尾 博紀Takao Hiroki(左)
早稲田大学商学部卒業。2008年来タイ。1,200,000㎡を超えるタイ不動産取引実績を有し、企業の不動産取得支援を行っている。ホテル・オフィス用地や工場倉庫用地及びホテルやオフィス、商業施設などの事業用不動産売買に強みを持つ。「タイで最も土地取引を行う日本人」として、豊富な知見を生かし企業の投資に関するコンサルティングなども行う。
チュラロンコン大学サシン経営大学院日本センター所長
明治大学専門職大学院教授
藤岡 資正 Fujioka Takamasa(右)
英オックスフォード大学より経営哲学博士・経営学修士(会計学優等)。チュラロンコン大学サシン経営大学院エグゼクティブ・ディレクター兼MBA専攻長、ケロッグ経営大学院客員研究員などを経て現職。NUCBビジネススクール、早稲田ビジネススクール客員教授。神姫バス(株)社外取締役、アジア市場経済学会理事、富山文化財団監事などを兼任。

中国企業に日系企業はどう立ち向かうべきか

40周年を記念して新しくリノベーションを行ったサシン大学キャンパス内

高尾 サシン経営大学院創立40周年、また日本センターも創設10周年を迎えられたとのこと、おめでとうございます。私たちが発行するArayZも創刊して10年になります。年々購読いただいてる方の層も広がり、読者の方から直接お声がけいただく機会も増えました。藤岡先生をはじめ、さまざまな方たちのおかげで我々は成長できていると思う次第です。

私たちのArayZは、編集部独自の意見を書いたりすることは少ないのですが、藤岡先生を含め、有識者の方たちの声を情報発信する「プラットフォーム」としての役割を担っています。

改めまして、本日は過去を振り返りつつ、現在、そして未来はどうなるのか。特に問題が多かったこの10年、さらにこの次の10年にあたって、個人事業主も含め、日本企業はどういう心構えでこれからの時代を迎えるべきかお話を伺えたらと思います。よろしくお願いします。

藤岡 こちらこそ大変お世話になっております。本日は、よろしくお願いします。

中国企業の台頭とEV産業

高尾 早速ですが、直近、特に企業の方から一番関心が高いのが自動車産業のEVです。当社では事業用不動産も扱う中、この8〜9月にかけ中国のEVメーカーの進出がどんどん増えていて、他業界でも同様に中国企業の進出が目立ってきています。私自身、土地を売買する中で、台湾や中国の顧客の数が激増しているのを実感しています。

2018年頃からパワフルでスピーディーな中国企業が入ってきた環境で日本企業はどうすべきか、私も含め非常に興味があります。そのあたりはどう思われますか?

藤岡 サシンでは2008年ぐらいから各種講演や講義などでも中国企業をはじめ新興国企業との競争について取り上げてきました。つまり、現在の状況は、技術革新やコロナによって出現したのではなく、コロナ禍によって懸念していた問題が顕在化するスピードが加速してしまったということだと思います。来るべくして、来たということなのですけども、ご存じのように最近タイの街中を見ても、中国ブランドの家電や自動車などで溢れています。

少なくともコロナ禍以前はまだ、タイの消費者は自動車に関しては日本製、あるいはヨーロッパ製が良いと答えていたと思うのですが、急速に消費者意識も変化しました。家電で起こったことが、自動車でも起こりつつあるとも言えます。

中国企業の決定の速さとは

高尾 中国企業と日系企業のスピードの違いはどこにあるとお考えですか。

藤岡 まず1つは創業経営者。カリスマ的なリーダーがトップダウンで決定し、ほかはそれに従う。文化もあるのでしょうけども、日本の場合、現在はどうしてもサラリーマン経営者の方が多いので、なかなか自分の判断で大胆なリスクテイクをすることができませんし、意思決定の仕組み上どうしても時間がかかります。

この点に関しては、経営学でもアメリカと日本との比較で日本が遅いという研究はありましたが、アメリカ企業の場合決定は早いのですが、さまざまな問題を擦り合わせる前にスタートすることがあるので、運用を始めたら問題が発生してしまい、決定後の実行に時間がかかると言われています。

一方、日本の場合決めるまでは協議・確認を繰り返すことでコンセンサスを得るために長いのですが、一度決まるとその後はスムーズに物事が運ぶとも言われます。

ただ現代は環境が違う。想定外のことがビジネスでたくさん起こってくるのでトライアンドエラーを繰り返しながら修正をしていくことが必要な場面が出てきます。事前に計画・議論している間にいろんな前提も変わってきてしまいます。条件や環境自体がどんどん変わってくるので、細部までしっかり計画・議論する、というようなやり方が通用しなくなってきています。

日本のやり方とアメリカのやり方、どちらが良いということではなくて、それぞれのマネジメントスタイルっていうのは、ある環境にはフィットするし、そこのズレを修正できる経営者の力量や組織学習のスピードが大切になります。中国企業は、意思決定が早く、経営陣を中心に組織成員が夢中で働くという“がむしゃらさ”もあります。

日本企業は今、危機に面している

高尾 先ほどの中国企業のスピードの件ですが、私も実感した事例があります。2018年にタイ進出した台湾の大手企業の土地売買をサポートしました。進出に際して、土地を買い、買った後の工場建設までのスピードの速さに驚きました。

特に工場建設に関しては、通常2年ほどかかるものをぎゅっと1年にまとめた。日本企業からすると、安全面を考慮し時間をかけて作るというのがあるかと思うのですが、彼らはそこの部分は目をつぶってでも生産開始までをとにかく急ぐ。

そこで伝わってきたのは彼らの猛烈さ。工場の中に寝泊まりさえします。日本企業では近年、ワークライフバランスやコンプライアンスが叫ばれ難しいと思いますが、その台湾企業の工場には敷地内に寝室やリビングがあって、エグゼクティブ自ら24時間そこに滞在します。この猛烈さと、近年の「働き方改革」で日本はどう戦っていくのか。藤岡先生はどうお考えですか。

藤岡 サシン経営大学院「日本センター」という名称でやっていますが、ここ数年は企業研修やコンサルティングも含めて、中国企業からの問い合わせが増えています。少なくとも表向きは、謙虚に学ぶ姿勢を示し、企業としても国の戦略としても、一貫して同じ方向を向いている。「国を良くしないと残された時間がない」ということは中国エリートの方はよく理解されており、その危機感が猛烈さにつながっているとも感じます。

また、担当者は自分が結果を出さなければいつでも取り換えられてしまうので、「何とか結果を」という意識は非常に日本よりも強いと感じます。

高尾 ある半導体装置のマネージャーの方がおっしゃっていたのですが、中国企業からある製品の見積りと試作機の制作依頼があり、受注したそうです。そのときは値切りもなく購入になったのですが、1年後には類似品を中国で探してきてそれを使う。金額は3分の1ぐらいなので確かにクオリティは劣るが許容範囲で、しかも安い。

要するに市場が取られてきていることを認識しており、それがここ数年で加速していると。今はまだ日本の製造現場で日本製品のシェアが占有している状況ですが、5〜10年でシェアが入れ替わる可能性を危惧していました。

日本のものづくりはどうしても各々の会社、「点」で戦っているような気がします。中国は国を挙げてものづくりに対する政策を行っている。要は「点」ではなく「面」で戦う、その違いはどこにあるのでしょうか。

藤岡 業界や役割が違っても、昔の日本と一緒で「今、何とか先進国の仲間入りを果たさないと、次のチャンスはない」という意識が中国にはあります。

先ほども述べたとおり、国民の意識が一点を向いていることは想像以上の国力になります。これが良いか悪いかはわかりませんが、「愛国心」や「プライド」が非常に強く、「自分がここで勉強できているのは国や自分のために苦労して支えてくれている家族のおかげ」と考える方が多くいます。

昔は日本もそうであったと思いますし、自分だけのために戦っているのではないという一人一人の意識を感じます。

EV業界の未来はいかに

高尾 今後、またコロナ禍のようなまったく予知できなかった事態が起こるかもしれないということを前提に、企業が今後行っていくべきこと、次の5年、10年先に向けしっかり心がけておくべきことは何かというのが日系企業の皆さんが興味を持たれているところかと思います。特にタイの中でいけば、自動車産業での大きな業界構造の変化が起こり得るかもしれない。

一方でEVが失敗する可能性もあります。そういった先行きが読めないEV業界に対して第一報として挙げることはありますか。

藤岡 これからEVが主流になるかどうか、まだ起こっていない未来なので非常に難しいご質問ですけども、どこがスタンダード・主流になっていくのか、デファクトスタンダードを取るのかというところで、ビデオデッキや携帯電話など、今までさまざまな転換期があったと思います。

今のビジネスマンというのは3年後、5年後を話したがりますが、全ては後になってみないとわからないと思うんですね。だけどもそういったわからない中で船を、組織を動かしていかないといけないし、その責任をすべて取るのがリーダーになります。

本質は「EVがうまくいく・いかない」ではなくて、「社会が何を求めているか」。自動車であれば、「ある地点からある地点まで安全に快適に移動できる」、これが求められています。EVはその手段でしかない。技術的にどうであれ、社会とか顧客とか消費者が求めているものは何なのか。ここにどれだけ寄り添っていけるのかってことだと思うんですね。

少なくとも今の時代っていうのは、企業側が価値を生み出す時代ではないということです。今までは製品を生産した企業が価値を生み出し、製品がマーケットで値段をつけて市場で交換される。お客さんが価値を認めたら買ってくれる、そこで取引が終わる。しかし、情報技術革新によって、価値創出の源泉が企業側ではなく、顧客や消費者の生活空間へ移行していく。つまり、すべてがサービスになっていくのです。

今までは物が中心で、それに付随するサービスであったのですが、今後はサービスこそが価値の主体になってくる。そうなってくると、「物の所有権が移転した後につながりの中で価値の創造が生まれる」。どういうことかというと、価値は製造プロセスで創造されるのみではなく、これからは所有権が移転した後にお客さんがそれぞれカスタマイズして、自分の生活をより豊かにするためにこれを使っていくプロセスで価値が生み出される。

物を買ったところで、それを何らかの価値創造に使われなければ価値が生み出されない、という考えです。

今後を握るキー 「価値共創」について考える

藤岡 企業として大切なのはお客さんとの接点をどう保ち続けるか。これがIoTによって可能になってきているわけですよね。Internet of Thingsですべてがつながっている状況で、いかに生活世界の中で価値を共に作っていくのか、要は「コ・クリエイションバリュー/価値共創」にあります。これがやっぱり決定的に大切になってくると思うんですね。

今はもうIoTでつながるようになったので、お客さんがその製品・サービスを使う中にいかに入り込むのか、そこで価値を一緒に作り込んでいく。すべての企業がそうなっていくと思います。

逆に言うと、プライシングの在り方も変わってきます。今までは企業が決めていましたが、究極のところに行くとお客さんが価値を決める。これも今までは考えなかった流れです。それがどんどんビッグデータ化され、活用され、企業側もお客さんが選べるような仕組みを設けることが技術的に可能になってきました。

結局はビッグデータの話とかに戻ってくるんですが、EV化もそうだし、太陽光もそうだし、バーチャルリアリティーとかもそうかもしれないですよね。しかし「本質的に何を求めているのか」っていうのは事前にお客さんも消費者もわかっていないことが多いです。そこで企業と消費者が一緒に価値を作り込んでいく。

価値の創造者っていうのが必ずしも企業、今、僕たちがイメージする組織体である必要はなくなってくる。誰もが価値創造の側になる。

高尾 今後の日本企業が進むべき道のヒントは「価値共創」にあるということですね。

(ArayZ 2023年1月号に続く)


1982年設立。提供される学位の多くがケロッグ経営大学院とのジョイントディグリーである点が特徴的で、特にマーケティングとファイナンスの分野に強みを持っている。MBA、EMBA、HRM、HRMディプロマ、PhDなどの学位プログラムを有しており、正規生として毎年約700名が在籍している。

仕事に活かせるアプリ30選+α

今すぐ仕事に活かせるアプリ30選+α

いまや生活必需品となったスマートフォン。AI搭載などにより、近年のアプリの進化は目覚ましいものがある。今回はビジネスシーンで活用できるツールを中心に、タイの情報収集に便利なサイトなども一挙に紹介する。

※便宜上アプリと表記しているが、Webサイト、LINEサービス等を含む。

言語

英文ミスからの卒業
GrammarlyAIによる英文添削ツール。単数形複数形、冠詞、時制などの文法ミスまでワンクリックで修正。GmailやWordなどと連携も可能。有料版ではビジネス英語への修正も!
ELSA Speak ネイティブ並みの発音に
ELSA SpeakAIによる英語発音矯正アプリ。95%以上の高精度で音声を認識し、よりネイティブに近い発音ができるよう、AIが最適なカリキュラムを自動作成。TOEICやIELTSの実践対策にも◎。
世界一高度な翻訳
DeepLAIによる翻訳ツール。直訳的でない、自然な文脈で日本語独特の言い回しや微妙なニュアンスも表現。PDF、Word、PowerPointファイルの翻訳も可能。アプリ版では、画像読み込みと音声認識にも対応している。
LINE上で泰英自動翻訳
TH-EN TranslatorLINEの翻訳サービス。相手とのトークに追加するだけで、入力した英語を即座にタイ語変換、タイ語を英語変換してくれるのでタイ人ドライバーとのやり取りなどに便利。
公式アカウント検索>TH-EN Translatorで検索

情報・タスク管理

Sansanが提供する無料の名刺管理アプリ
Eight名刺を撮影するだけでクラウド上に無制限に保存可能。チームで共有もでき、登録した相手がEightを利用している場合、転職や昇進などで名刺が変更されると通知が届き、相手の最新情報をキャッチアップできる。
作業時間をワンクリックで記録
Toggl Track各タスクの開始・終了時にタイマーを押すだけで作業時間を簡単に計測。蓄積データは作業別やプロジェクト別にグラフで確認できるため、どのタスクにどれくらいの時間を費やしているのかを視覚的に把握できる。

日程調整

大人数の出欠表を30秒で作成
調整さんカレンダーから候補日程を選択するだけで出欠表ページの作成が完了。作成したURLを参加者に送り、出欠を入力してもらえば参加希望日の集計が一目でわかる。これからの忘年会シーズンにぜひ活用してみては?
日程調整メールの日時入力を超時短に
以下の日程でご都合いかがでしょうかメーカー表示されたカレンダーの日付や時間をクリックすると、その日程を反映した定型文がテキストボックスに自動出力され、コピペするだけで日程調整メールが完成。日付と曜日を逐一確認する手間から解放される。

メモ

簡単にマインドマップを作成
Mindomo仕事の情報やアイデアを視覚化してわかりやすく整理できるマインドマップツール。ミーティングのアウトラインやコンセプトツリーなど、様々なテーマを選択できる。
情報管理・共有ができる多機能メモ
Evernoteテキストだけなく画像や動画、PDFファイルなどを「ノート」としてクラウド上に蓄積できる情報管理ツール。「Scannable」で撮影した名刺をEvernoteで管理するのもおすすめ。

会議

Web会議中のノイズ問題を解消
KrispソフトウェアをインストールするだけでWeb会議中のキーボードのタイプ音や周りの声、BGMなどのノイズを軽減できる。ZoomやMS Teams、Google Meetなどさまざまなアプリに対応。
1時間の音声データが5分で文字に
Notta日・英・タイ語など104言語に対応した自動文字起こしツール。リアルタイムの音声や動画ファイルのテキスト化、またテキスト化した文章の一括翻訳も可能。Googleカレンダーとの連携で自動的に会議議事録を取ることも可。

移動・交通

タイ発のカーシェアリングサービス
HaupcarソフトウェアをインストールするだけでWeb会議中のキーボードのタイプ音や周りの声、BGMなどのノイズを軽減できる。ZoomやMS Teams、Google Meetなどさまざまなアプリに対応。
交通事故情報や渋滞情報チェック
JS100タイ全土の渋滞状況、洪水情報、事故情報をリアルタイムでチェックができる。同社が運営するツイッターではより早く事故情報などを配信(タイ語)。

twitter: @js100radio

健康管理

いびきを録音し解析。睡眠の質向上に
いびきラボ睡眠中にベッドの横でアプリを実行するだけで、いびきの回数や大きさなどを録音・記録。客観的に自分のいびきを観察することで、睡眠の質を改善・向上することが期待できる。
バーコードを読み取るだけで栄養成分表示
MyFitnessPal栄養、運動、ダイエットを記録する健康系アプリ。膨大な量の食材データが利用可能。バーコードで栄養成分を表示できるので、偏りがちなタイでの食生活管理にぜひ取り入れたい。

Googleアプリでさらに業務効率化!

タイ語にカメラをかざすだけで翻訳
Google レンズカメラでリアルタイムに翻訳。タイ語の看板やメニュー、書類などの簡易的な翻訳に便利。タイ語だけではなく100言語以上にも対応しているため、海外出張や旅行の際にも役立つインストール必須アプリ。
外部連携で効率的に文章を共同編集
Google ドキュメントOCRによる画像テキストの読み込みや音声入力による自動文字起こしも可能。ドキュメントで下書きした文章をそのままGmailで送信もできる。ドキュメント上でもGoogle Meetが開始できるため、共有画面を別で開く手間が省ける。
どこでもタスク管理
Google To Do リストGmailで受信したメールをドラッグ&ドロップすればそのメールをタスクとして追加でき、対応が必要なメールの抜け漏れも防げる。タスクに期日を設定すればGoogleカレンダー上でも確認可能。
アイディアを簡易キープ!
Google KeepGoogleドキュメントとの連携で2つのウィンドウを行き来することなく、Keepに書いたメモがドキュメントに挿入できる。スマホでメモをしてパソコンで文書作成するのに便利。

タイでのGoogle Workspace法人ライセンス導入なら「ストリートスマート」へ

ライセンス販売だけでなく、導入から定着まで一貫した支援

在タイ日系企業で唯一のGoogle Workspaceに特化した企業「STREET SMART」では、サポートや資料も日本語・タイ語で提供可能。 単に「導入して終わり」ではなく、まずはヒアリングから課題を明らかにし、導入後もユーザー様に十分にサービスを活用していただけるよう、業務改善や生産性向上などGoogle Workspaceを用いた課題解決の支援を行っています。

Googleパートナーとして 日本・ASEANにおいて10年以上の実績

STREET SMART (Thailand) Co., Ltd.
電話:02 038 5589(受付時間 平日9:00-18:00)
メールアドレス:info_jp@street-smart.co.th
お問い合わせフォーム:https://street-smart.co.th/contact-us/
担当:二瓶

情報収集・学習

豊富な洋書の要約が読める・聞ける
Blinkist5000冊を超えるベストセラーのノンフィクションの本やポッドキャストをわずか20分程度で読んだり、聞いたりできる。英語コンテンツなので中・上級者の英語学習教材としてもおすすめ。
情報収集の自動化・効率化
InoReader登録したWebサイトやSNSの更新情報を自動で取得。各サイトにアクセスせずにまとめてチェックできる。Googleアラートとの連携で、登録したキーワードに関する情報も自分の代わりに探してくれる。
話題の本が1冊10分で読める
Flierスキマ時間などを活用し、話題のビジネス書・教養書がわずか10分で読める。約2,900冊超の要約が読み放題。本選びの入り口として活用するビジネスパーソンも増えている。
世界中の「知」と最高のプレゼン術に触れる
TED世界中の知識人や著名人によるプレゼンテーションを配信。ビル・ゲイツや、スティーブ・ジョブズなども登壇したことがあり、質の高いプレゼンテーションを無料で閲覧できる。英語学習にも◎。

情報収集・学習

シンプルで見やすい天気アプリ
The Weather Channel必要最低限の情報が分かりやすくまとまっていてタイ人もよく使っている天気アプリ。世界各都市に対応しているため旅行先でも活躍。雨季は雨雲レーダーを、これからの乾季はPM2.5の数値を要チェック。
誰でも簡単にデザインが作れる
Canvaノンデザイナーでもテンプレートを利用することで簡単にスタイリッシュなプレゼンテーション資料や簡易的なポスター、バナーなどを製作することができる。作成したデータはPDF・JPEG・PNG形式でダウンロード可能。
回線スピードチェック
Speedtest by Ooklaインターネット接続スピードをワンクリックで無料分析。オンラインミーティングをする際は10〜30Mbpsの回線速度を維持することが推奨されるため、普段利用している回線のテストを一度はチェックしてはいかがだろうか。

プライベート

ゴルフ場予約サイト
Go Golf入会金・年会費無料のゴルフ場予約サイト。バンコク近郊、パタヤ、ホアヒン、プーケットなどの人気コースを中心に、現在約140コースの予約が可能。LINEで手軽に問い合わせができ、スピーディーな対応が魅力。
定額集配クリーニング
LAUNDRY SAMURAI五ツ星ホテルのリネン類を担当していた会社による高品質な定額制詰め放題クリーニングサービス。自宅までピックアップ・デリバリーしてくれるため、LINEで申し込み、袋に詰めるだけ!
美容や娯楽をお得に
GoWabiマッサージ、歯科医院、脱毛、ヘアサロン、フィットネス、医療サービス、ホテル、ペット関連などのサービスが割引価格で事前購入できるアプリ。ゴルフレッスンの割引チケットなどもあるので要チェック!

タイ人ビジネスパーソンがよく見るタイの情報サイト

タイと世界の動向を知る在タイ外国人の情報源
Bangkok Post
タイを中心とした世界のニュース及びビジネス情報を英語で配信。速報性が高いタイのニュース収集におすすめ。

タイ政府に関連する最新情報
Royal Thai Government
閣議決定の概要や経済指標などのデータ、イベントの写真、首相・副首相の一日のスケジュールまで見れる。

不動産の開発状況や市場分析
PROPHOLIC
最新の開発プロジェクトの紹介だけでなく、市場分析やエージェントに関する記事まで、不動産売買に興味がある人は必見。

タイ発ニュース&カルチャー系サイト
THE STANDARD
タイ国内を中心とした経済、社会、政治、芸術、文化、娯楽、ファッション、ライフスタイルに関するあらゆるコンテンツを網羅。

タイ発インタビューWEBマガジン
The People
「人」にフォーカスしたWEBマガジン。屋台の店長からタイの第一線で活躍する起業家まで様々な「人」へのインタビューが充実。

最新のコンド情報やBTS延伸の進捗状況など
REALIST
コンドミニアム、ショッピングモール、BTS&MRT、高速道路などの不動産・インフラの最新情報を写真や図で分かりやすく紹介。

継続できる“時”管理システムが会社の救世主に

S.I. Asia Pacific Co., Ltd.
Managing Director 厚見 紀彦

あつみ・としひこ/マニュアル制作等を行う企業にて欧州11年、タイ(東南アジア統括を含む)11年にわたり勤務。2021年、デジタル・オンラインを主としたDBを用いた営業・業務活動の改善・効率化のビジネス体制構築のために同社を起業。


人材の入れ替わりが激しいと言われるタイだが、コロナ禍を経て働き方が多様化する今、人の管理も変化が求められている。特に出社する機会が減り、目に見えないところでの業務が増えたことにより、日報や個別面談の頻度を高めるなどの対応を行う一方で、その情報を集約するマネジメント側の負担が増加している。

タイの文化・働き方に特化した勤怠給与管理「JIKANRI」

そんな現状が垣間見えるなか、制作会社の現地トップマネジメントとして10年以上にわたり100人規模のスタッフを束ね、欧州やASEANで改善サポートを行ってきた厚見氏は、自らの経験を生かしたS.I. Asia Pacificを2021年創業。

タイでの豊富なノウハウを持つ同氏がタイ人と共に、タイ人に向けて開発した勤怠給与管理システム「JIKANRI」で顧客が抱える業務課題をサポートする。同系統のシステム展開では後発ながら、JIKANRIが一線を画すのはタイに特化している点だ。

「JIKANRIを簡潔に言うと、タイ目線で開発されたGPS付き出退勤管理・給与計算・人材管理システムです。日本と異なるタイのビジネス環境において、日本式のシステムを当てはめようとすると少なからず合致しない面が出てきます。

例えば勤怠面では、祝日や各企業内の休日、有給休暇といったタイ独自の休日や残業申請・承認フローがあり、給与面では控除や社会保障といったタイの制度が存在しますが、JIKANRIでは基本機能としてすでに搭載しているのでイチから何か設定することは必要はありません。

昼食の経費や日当払いなど人によって異なる処理を行わなければいけない場合も、システム上でできる限り対応させていただきます」(厚見氏、以下同)。

自社開発だからこその柔軟性

通常、融通が効かないことが前提であるシステムにおいて同社は非常に柔軟だ。これは同氏の海外におけるマネジメント経験ゆえであり、単なるシステム開発会社ではなく、次の改善等を希望するクライアントの相談相手として解決策を提示する。

「DXという言葉だけが一人歩きしないように、何をデジタル化していくかを判断・対応していくことが重要です。場合によっては、オフラインも合わせて検討することもあります」。

契約面においても、1年目はシステムに慣れるために定額(サブスク)利用を基本とした料金設定になっているが、2年目以降は1年目で使用したデータ量によって価格の見直しを図るなどフレキシブルに対応。

クラウド利用などを避けたい企業に向けては、内部ネットワークで完結するシステム提供も可能である。また人材データベースの重要性を加味し、来年にはHRM(人的資源管理)の機能も追加予定だ。

JIKANRIの他にもセールス業務可視化ツール、マーケティングをサポートするMAツール、VRを含めたバーチャルショールームなどの納品実績を持つ同社だが、まず重要なのは“継続改善”。

二人三脚で将来的なDX対応に繋げていく。


【お問い合わせ】 S.I. Asia Pacific Co., Ltd.

TEL: TEL:081-936-6061(厚見)
E-MAIL: t-atsumi@siapth.com
URL: https://siapth.com/jp/

76 The Park East, 2nd Fl., Room No. 201, Soi Sukhumvit 101/2, Bangna-Nua, Bangna, Bangkok, Thailand 10260


祝日や社会保障、勤務時間、手当などタイに特化したGPS付き出退勤管理・給与計算・人材管理システム。ネット環境があればどこでも使用可能(日本語・タイ語・英語に対応。ベトナム語も予定)。

脱・単純作業、脱・属人化でクリエイティブな時間を創出

ACTY SYSTEM (THAILAND) CO., LTD.
ITを活用し、顧客の業務管理における効率化・統制強化を推進するソフトウェアメーカー。業務分析による課題抽出から改善フローの提案といったコンサルティングにも注力し、ニーズに合わせたパッケージシステム導入と個別ソフトウェア開発も可能。30名のタイ人SEの他、日本人SEが現地に8名在籍し、日本語によるサポートも行っている。

Managing Director 塚本 裕司
明治大学卒。日本のシステム開発会社でプログラマー・SEとして従事し、2008年に渡タイ。12年にACTY SYSTEM (THAILAND)を創業し、今年で10周年を迎える。タイ国のNo.1会計ポータルサイト「タイ会計サービス比較.com」管理人。


上にある男性のイラストについて「一体、何者なのか」と気になっている人も多いのではないだろうか。その正体は、業務効率化に向けたソフトウェアの開発・販売やコンサルティング提供を行うACTY SYSTEM (THAILAND)のManaging Director塚本氏だ。近年は、コロナ禍における働き方やデジタル化に向けたオンラインセミナーを積極的に実施。告知に使われたイラストが広告塔として活躍している。

「さまざまなサービスが売買される時代に、やはり自分自身も広告塔として皆様の前に出た方がいいと感じ、5年ほど前からイラストを使用し始めました。そのおかげで、私自身を知らなくても、イラスト入りの名刺を見て『あのイラストの人だったんですね』と言われる機会が増え、初対面での相手との距離を縮める効果も感じています」(塚本氏、以下同)。

インタビューに答える塚本 裕司 氏

20代で平均5回の転職
「タイは人材の流動性が高い」

その親しみやすさは、イラストも本人も同様。タイ歴15年・エンジニア歴25年以上という自身の経験を基に、タイの日系企業、特に製造業や商社・卸業が抱える代表的な業務課題を危惧する。

まず1つは、タイ人の離職率の高さに対する捉え方だ。「タイ人を対象にしたある調査では、20代のうちに平均5回転職するという結果が出ています。転職をキャリア・アップとしてポジティブに捉える傾向が強く、1社につき平均2年で辞めるということです。会社側の原因を考えることはもちろんですが、日本とは異なる考え方があるという事実を念頭に置き、属人的な業務を社内から取り除いていくことが必要です。特に、個人で作成・使用するエクセル資料などを廃止し、社内共通のフォーマットで常にデータが共有できる、いつ辞めてもデータが確認できる環境に整えておくことが重要です」。

また、日本企業で働いたことがないタイ人には「引継ぎ」という概念がほぼないと同氏は言う。指示を出さない限り、業務内容の説明資料を残さず去ることが普通であり、引継ぎ業務はジョブディスクリプションに含まれていないためダブルワークと責められる場合もある。そういったリスクを回避するためにも、引継ぎが自然に成立する仕組みが必要だ。

伝票や資料における紙文化と属人化した在庫の管理

2つ目に、発注・請求伝票や作業報告書など紙の多用が挙げられる。製造現場においては、作業日報や機械設備のメンテナンスにも紙のチェックシートを用いることが多い。紙を使うことで手打ち入力による二次作業が発生し、数字の転記ミスなどが生じる可能性が高まることは周知の通り。加えて字が汚いことによる見間違いや、全く読めずに本人への確認作業がその都度発生してしまうという手間にも繋がる。

3つ目に、属人化した在庫の管理である。数量の多少を問わず、倉庫などの現場では担当スタッフによって製品・部品の場所や数が管理され、古い製品が奥に残ったまま結局は廃棄になるケースも少なくない。加えて、スタッフの急な不在や退職などにより状況を把握できないといった人的トラブルを抱えながら、紙とエクセル管理による現場のマンパワーで何とか対処しようとするケースも耳にする。

システム導入・単純作業の解消が優秀な人材確保にも繋がる

同氏は、前述した内容を含めた単純作業や属人化のリスクが伴う業務をITやAIの力に任せ、それ以外の思考が伴うクリエイティブな業務に時間を充てることが有益だと言及する。

「会社の成長・将来を考えるなら、スタッフには新たな企画や業務改善の具体的な進め方といった生産性のある業務をどんどん任せ、ルーティンワークになっている業務はシステム化していくことが今後益々求められてきます。クリエイティブな業務が増えることで、優秀な人材が自社に残る理由付けにもなるでしょう。優秀な人材こそ『単純作業は自分がやらなくてもいい』と思い、早期退職を図る人も少なくないですから」。

同社は、タイおよび周辺国で200社以上に導入されている業務管理ソフト「THOMAS GLOBE」や、タイ国内だけで2,300社に導入されているグローバル対応の中堅企業向け会計システム「SAGE 300 ERP」などの提供を通じ、販売・生産管理、会計・税務業務の正確性を高めると同時に、単純作業の解消へと導いている(上図参照)。

紙を多用する企業にはサイン業務の電子化を含めたペーパーレス化やAIによる紙伝票のデータ化・経理自動化、属人的な在庫管理を行っている企業にはバーコードによるリアルタイムでのデータ管理など、豊富なサービスと個別ソフトウェア開発を組み合わせた顧客ごとの柔軟な対応力が魅力だ。

業務改善は最初が肝心
「課題と目標の共有」で士気向上

新しいツールやシステムを導入する際、同氏が顧客(日本人マネジメント)に念を押すのが現場のタイ人への伝え方だという。  「突然、自分が常日頃行っている業務をシステムで代替すると言われたら、自分を否定されたと感じる人は多いでしょう。『一生懸命やっているのに、会社にとっては不要なのか』といった感情が湧き、大きな反対をしたり、反対をしないまでも心を閉ざしたりといった関係悪化に繋がります。

そうではなく、スタッフたちの日頃の業務に対する感謝を伝えた上で、『みんなの負担を減らすためにシステムを導入する』と説明することがスムーズな導入の鍵になると考えています。また一方的に押し付けるのではなく、課題と目標を社内共有することから始めましょう」。

同社ではコンサルティングの一環として、顧客のタイ人スタッフに日頃の悩み・困りごとを徹底的にヒアリングする。単に外から評価するのではなく、現場スタッフとのコミュニケーションを通して相談しやすい雰囲気を作る、現場目線がモットーだ。靄がかかったDX化への取り組みも、同社のサポートで現実になる。


【お問い合わせ】 ACTY SYSTEM (THAILAND) CO., LTD.

TEL: 02-541-5955
E-MAIL: acty-thai-sales@acty-thai.com
URL: https://www.acty-thai.com/

444 Olympia Thai Plaza Bldg. 3rd Fl., Ratchadapisek Rd., Samsennok, HuayKwang, Bangkok 10310

今、考えるべきは利益の量ではなく「質」の向上

NEO THAI ASIA CO., LTD.
約16,000社472万ユーザーに利用される日本初のグループウェア「desknet’s NEO」を開発・販売する株式会社ネオジャパン(東証プライム上場)のタイ子会社として2021年2月に設立。タイを中心にASEAN各国での販売及び顧客サポートを行う。生産性の向上、非効率業務の削減ニーズを持つ、全ての企業(日系・非日系)の支援を行っている。

Managing Director 渡辺 立哉
わたなべ・たつや/2013年以降、タイをはじめマレーシア、シンガポール、ベトナムと東南アジアで勤務。21年、「desknet’s NEO(デスクネッツ ネオ)」の販売・サポート・アプリ開発を行う「Neo Thai Asia Co., Ltd.」立ち上げと共に現職へ。


赴任期間が平均2〜3年と言われるタイの日本人駐在員。コロナ禍により1年で帰任を迎えたというケースもあり、この短い期間のうちに実現できることは限られているのかもしれない。文化や考え方など日本とは異なる環境に慣れ、業務の流れを把握する1年目。

2年目でようやく業務の全体像と課題に向き合い、具体的にどうするかを考え始めたら帰任は目前。「引き継ぎ作業に追われ、結局何もできなかった」という話も少なくない。それが慣習化し、いつの間にか「改善意識」さえも奪われることになるとNeo Thai Asiaの渡辺氏は危惧する。

駐在員に求められる長期的な視点とマネジメント力

同時に、新たなツールを社内で導入する際に「タイ人が使いこなせるか」といった不安の声を聞くこともあるという。しかし、タイは急速に経済成長を遂げた国であり、特に現在の20代・30代はデジタルネイティブである。日本人以上にデジタルリテラシーは高く、一度覚えればゲーム感覚でツールの使い方を応用する姿も同氏は見てきた。

ただし、従業員自ら導入に積極的かと言えばそうでないケースもあるため、いかに上司がハンドリングするかというマネジメント力が求められてくる。

例えば、タイ人側の意見を知ろうと現場スタッフに新たなツールが必要かと尋ねたとしても、現状の業務フローで成り立っていれば「新しいツールは必要ない」「今のやり方でいい」と返されるのは当然のこと。現場スタッフは経営者ではないため、長期的なメリットやビジョンはない。意見を聞くこと自体は悪くないが、最終的な導入判断を行うのは経営者・マネジメントとしてタイ法人を背負う駐在員の役割と言えるだろう。

目先の利益の量ではなく先を見据えた「質」に焦点を

その一方で、現場が業務改善を渇望したとしても、売り上げに直結しない改善策は日本側に受理されない場合もある。コロナ禍でDX化が進み、オンラインでのやり取りが増える反面、売り上げの大幅な減少により経費削減や売り上げ増加を課される企業も少なくない。

業務量で乗り切ろうとするケースも見受けられるが、刹那的に売り上げが伸びることはあっても、決して長くは続かないだろう。そうした状況を受け、同氏は目の前にある売り上げ増加(利益の量)ではなく、その先を見据えた「質」に焦点を当てることが重要だと言及する。

「最終的な売り上げの数字だけを見るのではなく、『対応のスピードが上がり、問い合わせ件数が増えた』『契約には繋がらなかったけれど、営業件数(機会創出)が増えた』『残業が減り、一人当たりの経費が下がった』など業務改善を行うなかでどのような変化が起きたのか、その過程・質を知ることで次にどのような手を打てばいいかが見えてきます。

打ち出の小槌はないので、簡単に利益を生み出すことはできませんが、毎日の業務を突き詰め、その課題改善を考えていったら、まだまだやれることは多分にあるのではないでしょうか。

現代には多種多様なツールが溢れています。広い目を持って、身近にあるものを活用していくことが売り上げ増加の近道なのかもしれません」。

「探す・確認する・待つ」
現場のロスタイム解消が企業成長に繋がる

社内業務において顕著に見えてくる課題の一つが、さまざまな「ロスタイム」であろう。例えば、資料を一つ探すにしても、会社のサーバーなどに共有されていなければ作成者を確認しなければいけない。

また、もし作成者が最新データを共有せずに退職してしまっては入手できず、たとえ共有されていたとしてもアップデートされる以前の古い情報では意味がない。一つのデータを探すために、あるいは一つの確認を待っているがために自分の業務が止まってしまうという場面は、多くの企業で見られるものだろう。

「探す・確認する・待つといった時間が、もし1日で延べ30分ほど発生しているとしたら、それを改善するだけで30分の余裕が生まれます。さらに、承認待ちや資料の確認といったステップでは、ヒューマンエラーによる二度手間、三度手間が発生することもありますが、人の手を介さない仕組み・システムがあればそういった時間も解消されます。

そうして生まれた時間に、新しい営業戦略を練ったり、毎日1件でもいいから既存のお客さんに電話したりといったことができるわけじゃないですか。その積み重ねが、新規顧客の獲得や新たなプロジェクトに繋がっていくと考えています」。

社内の仕組みを簡単に
業務改善グループウェア 「desknet’s NEO」

前述した社内の業務フローを仕組み化するツールとして大いに貢献してくれるのが、業務改善グループウェア「desknet’s NEO(デスクネッツ ネオ)」だ。日本はもとよりマレーシア、タイをはじめとする東南アジアでも利用され、現在のユーザー数は延べ472万人超。

その実績と使いやすさに定評があり、スケジュール管理や文書確認などに加え、議事録やアンケート機能など業務効率化とコミュニケーションの円滑化を図るツールが標準搭載されている。最低5人・1ヵ月から契約でき、タイでは1人当たり280B/月で全25の機能を利用できる点も魅力的だ。

「デスクネッツ ネオには25の定型アプリを備えた基本機能と、自社の業務に合ったアプリケーションを知識がなくても自由に作成できるツール機能が備わっています。日本では基本機能とツール機能それぞれ別で販売しているのですが、タイでは最初からこの2つがセットになっており、日本でご利用いただいていた方には破格だと驚かれます。同サービスが、タイで戦う日本人の皆様の力になれれば幸いです」。

課題解決への道が、デスクネッツ ネオで見えてくる。

導入企業様の声

NIPPON PARKING DEVELOPMENT (THAILAND) CO., LTD.
President & CEO 川村 憲司 氏

究極は、出席者に関係なく進む仕組みを実践できる企業に

経営者としては「DX」がキーになると思っています。しかし、やみくもにDXを推進するのではなく利益を生むためのDXをやらないといけないと考えています。その中で情報の共有を「一対一」から「一対多」「多対多」でやらなきゃいけない。それには社員の情報をできるだけ早くシェアしないといけません。
以前は会議で情報をシェアしていましたが、欠席した人がいれば、また別途情報を伝えないといけなくなる。これが、デスクネッツ ネオを活用することで情報が共有できない事態を防ぎ、時間の無駄が省かれ、効率化に繋がっています。やっぱり情報が命ですから。


【お問い合わせ】 NEO THAI ASIA CO., LTD.

TEL: 02-612-7305
E-MAIL: enquiry@neothai-asia.com
URL: https://desknets-th.com/jp/

2 Jasmine Bdlg., Room No.23, 12th Fl., Sukhumvit Soi 23, North Klongtoey, Wattana, Bangkok 10110


 

スケジュール管理や文書管理、ワークフローなど業務効率化とコミュニケーションの円滑化を図る全25の機能を提供。ノーコードでアプリが作成できる「AppSuite」を使って社内情報のデータベース化や脱Excel・ペーパーレスといった課題解決にもオールインワンで対応できる。

請求書の受領から処理まで “手間をかけずにデジタル化”

Sansan Global Pte. Ltd.
Global Sales Manager 森内 裕幸
法人営業担当、ERP導入/業務改革支援経験を経て、Sansan Globalへ参画。現在はシンガポール及びタイの日系企業に向けたDX推進支援に従事している。


タイでは近年、製造現場を中心に業務効率化や生産性向上を目的としたDX化を推し進める動きが増えているが、バックオフィスに関わる書類はアナログな紙文化が根強く残っているのが現状だ。

同時に、製造業の集積地を担うタイでは、月1,000枚を超える請求書を処理する場合も珍しくない。スキャンや入力作業に時間も体力も搾取されるといった現状に一石を投じるのが、営業DXサービス「Sansan」や名刺管理サービス「Eight」といった機能を開発・提供するSansan Globalである。

「まだまだ紙に大きく依存するタイだからこそ、弊社のインボイス管理サービス『Bill One』が貢献できると思っています。Bill Oneの狙いは “手間をかけずにデジタル化” へと移行することです。デジタル化・ペーパーレス化といった言葉を聞くと身構えてしまう方もいると思いますが、そもそも会社のシステム全てを変えることは、いくつものステップと大きな労力が求められる、泥臭く地道なものです。

一足飛びで大きなことを実現しようとするのではなく、まずは身近な業務からどのように変えられるかを考え、ゼロの状態から1歩を踏み出すことが重要ですし、その一つの手段として弊社のBill Oneをご利用いただければと思います」(森内氏、以下同)。

紙・メール・クラウド
自社の状況で選べる処理方法

しかしながら、請求書をデジタル化する際に考えなければいけないのが取引先だ。自社でデジタル化を推進しようとしても、顧客側にも当然社内のフォーマットや進め方があり、デジタル化を押し付けることはできない。Bill Oneの大きな強みは、まさにそこにある(上図参照)。

「顧客のフォーマットに問わず、①紙で届く請求書がある場合は、弊社のスキャンセンターに送っていただければこちらですべてデータ化し、②PDFで届く請求書の宛先をBill One専用のメールアドレスに指定いただくことで、日付や料金、社名など自動で統一フォーマットに落とし込むことも可能です。

また、③Bill Oneのクラウドに直接アップロードしていただくこともできるので、各社の状況に合わせたサービスを選んでいただけます。これにより、今まで多数の拠点・部門へバラバラに届いていた全ての請求書の一元管理を実現すると同時に、それぞれの進捗状況もひと目で把握できるなど大幅な業務効率化に繋がります」。

無論、データ化するに当たっては正確に読み取れなければ意味がない。同社の精度は紙・データどちらの請求書においても業界最高精度。これは、非定型の名刺を99.9%の精度で正確にデータ化し続けてきた同社のテクノロジーとオペレーションがあるからこそ。

数字の「1」と英語の「l(エル)」の識別や様式の縦・横を問わない読み込み機能など、これまで名刺で磨いてきた技術をBill Oneに投影しているという。

さらに、現在同社が海外展開を図るタイとシンガポールには海外専任部隊を配置し、現地の市場・需要を把握した上でサービスを展開している点も、注目したいポイントだ。

「アナログからデジタルへ」
移行期のギャップを埋める

請求書がBill Oneを通してデジタル化されることにより、手作業によるミスの解消、作業の平準化や業務効率化、有益な時間の確保、長期的な目で見た人件費削減といったメリットの他、これまでその受け取りのためにオフィスに出社しなければならなかった経理担当者のストレス軽減にも直結する。

また出力や紙面上での提出・承認のためにオフィスに出社しなければいけなかったケースも、デジタル化が進むことにより解消されるだろう。

「現時点でBill Oneを利用可能な国は日本・タイ・シンガポール(言語は日本語・英語・タイ語)に限られていますが、今後は順次拡大を予定しています。早期の取り組みが5年後、10年後の成長に繋がると思いますし、タイでの成功が、他国のモデルケースにもなると考えています」。

アナログからデジタルへ。両者の間にあるギャップをBill Oneが埋める。

導入企業様の声

東亜建設工業株式会社 様
Head of Administration Department 丸山 龍太郎 氏

新たなワークフローの構築で、
人件費や見えないコストの大幅な削減に成功

【導入前】
• 請求書の紛失が発生していた。
• 過去の請求書を検索するために、手間や時間がかかっていた。
• 営業所及び4つある建設現場間で、請求書の送付・社内承認フローをアナログで行っていたため、介在する人材コストと時間がかかっていた。

【導入後】
フローの可視化により、責任の所在が明確化・請求書の紛失を防止。
大幅な人件費や見えないコスト(時間)の削減ができた。


【お問い合わせ】 Sansan Global Pte. Ltd. (タイ駐在員事務所)

TEL: +66(0)2-6127310
E-MAIL: global-inquiry@sansan.com
URL: https://global.bill-one.com/jp/

2 Jasmin Bldg., 12th Fl., Soi Prasarnmitr Sukhumvit 23, North Klongtoey, Wattana, Bangkok 10110


紙やPDFといった請求書の様式を問わず、データ化することが可能。経理部門を含めた会社全体の請求書業務を効率化し、月次決算業務を加速することで企業経営における意思決定のスピード向上へと導く。

今すぐ取り組める!コスト削減

コロナ禍において多くの業種で売上拡大が困難な中、直接的にコストそのものを削り、一刻も早く業績回復を図る企業も少なくない。ただ一口にコスト削減と言っても様々な方法がある。今回は、日本発のコンサルティングファームであるアビームコンサルティングのタイ法人ABeam Consulting(Thailand)Ltd.に、主に短期間で効果を出すことができる取り組みについて解説していただいた。
寄稿者プロフィール
  • 小倉 稚奈 プロフィール写真
  • ABeam Consulting(Thailand)Ltd.

  • 小倉 稚奈 Wakana Ogura

    20年間にわたり、グローバル・ローカル企業の業務改革・コスト削減・新ビジネス戦略立案等、戦略立案・実行を総合的に支援。近年は顧客企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)支援として、DXの成熟度診断、デジタル技術を活用した業務改善、分析テーマの洗出しおよび分析実施他をリード。

先行き不透明な事業環境

昨年から世界各地で猛威を振るっている新型コロナウイルスは、各国の経済にも大きな影響を与えています。

タイも感染拡大防止を目的とした入国制限によって観光産業などが大きな打撃を受けています。昨年11月のタイ国家経済社会開発委員会(NESDC)の発表によれば第3四半期の国内総生産(GDP)成長率は前年同期比△6.4%、通年のGDP成長率は△6.0%と予想され、回復までには長い時間が掛かることが予想されています。

そのような厳しい経営環境下で企業の業績は悪化しており、この危機を乗り越えるために多くの企業が業務の見直しやコストの削減に取り組んでいます(図表1)。

まだ本格的な対応に着手していない企業においては、今後、新型コロナウイルスによる影響の第二波、第三波がやってくる可能性に備え、早急に検討を進めることが求められます。

企業運営においては日々、様々な形でコストが発生しています。それらを改めて再検討することで、コストを最適化し、利益の確保に結び付けることができます。

3つのコストと削減のポイント

一口にコストと言っても大きく3つに分けることができます。製品の原材料や部品など企業の製品やサービスに直接起因している直接材と、事務用品や賃料、光熱費など製品やサービスに付随的に発生する間接材、そして従業員の人件費の3つです。

また、全体の数量を減らしたりスペックを変更することによるコストの削減と、仕事のやり方を工夫することで作業負荷を下げる取り組みがあります。

作業負荷が下がるということは結果的に人件費などが下がったり、余分な仕事が減ることで紙の使用量が減ったりしてコストの削減に繋がります。

直接材は事業にダイレクトに関わる領域のため、それぞれの企業の知見を持って数量やスペック変更に取り組んでいる領域です。

間接材については、それらが果たして適正な価格なのか、価格データと比較しながら最適化を図ることができます。

人件費に関しては労働者は法律で守られており、コストを削減するための解雇という考え方よりも、仕事のやり方即ち無駄または非効率な業務を減らして、より価値のある業務へとシフトさせていく取り組みが重要になります。

迅速なコスト最適化がカギ

収束の見通しを立てるのが難しいコロナ禍においては、従来の仕事のやり方を見直すBPRのご相談に加えて、一刻も早く業績回復を図るためにも「直接的にコストそのものを削減し、迅速に効果を出す」ご依頼が増えています(図表2)。

そのため弊社ではそれぞれの企業のコスト構造に対して、直接そして迅速に作用するコスト最適化ソリューションでご支援を進めています。次ページでは、短期的にコスト削減を図ることができる代表的な取り組みをいくつか紹介したいと思います。

今すぐ取り組める! 短期的なコスト削減方法

①購買コスト削減(次項で解説)
現在の市場の最適な価格・提供ベンダーの情報と比較し、自社の間接材購買コストを各種方法で最適化させます。また、集中的な購買プロセスによる適正な価格・ボリュームでの購買によってコストを早急に適正化します。


②業務委託コスト最適化
委託範囲、サービスレベル、価格などを見直し、コストを削減します。作業の負荷によって料金は変動するため、委託対象業務であっても、事前に自社内で無駄な作業の削減や各部門でのやり方を統一するなどし、作業をスリム化させてから委託することでさらにコストを抑えられます。後述のRPAなどで自動化できない紙媒体でのマニュアル作業などが対象になることが多いです。


③在庫削減
在庫最適化に向けて在庫状況およびその原因となり得る種々の要素の全体的な分析を実施、発見された問題点に対する対応策を立案します(需要予測精度向上、安全在庫、調達リードタイム分析など)。
これによりバリューチェーンの各点における保有在庫を減らし、それに付随する保管スペースの賃料コストなどを削減します。短期的には、過去のデータと見比べて現在の在庫が多すぎないかどうかを確認して是正を図ります。長期的には、デジタル化によってバリューチェーン全体における企業間のデータ連携を進め、最少の在庫で回る仕組みの構築にも取り組みます。


④拠点統廃合
現代は小売りなどでEコマースが浸透し、多様な販売チャネルが存在します。ビジネスの変化に合わせて、リアル店舗の役割、存在意義を改めて考え、今配置しているエリアごとの店舗の必要性などを見直します


⑤オフィス最適化(次項で解説)
新しい勤務体系へ変更することにより、必要なオフィスの機能・環境・面積を再検討して、オフィスの移転や賃貸面積の削減に繋げます。新型コロナウイルスの感染拡大以降、相談が増えています。


⑥業務プロセス自動化(RPAの導入)
RPA(Robot Process Automation)と呼ばれるソフトウェア型のロボットを使い、パソコンのデスクワーク(主に定型作業)を自動化し、従業員の作業負荷を低減します。特にどの会社でも実施しているような基本業務についてはテンプレートを用意して導入を加速させるようにしています。


BPRの実施
BPR(Business Process Re-engineering)では、これまでのビジネスのスキームを抜本的に変更して仕事のやり方を再設計します。本来は業務改革として半年から1年ほど掛けて様々なテーマを設定し対応策を実施しますが、短期的には高い効果が期待できる3つの取り組みに注力して行うことも増えています。

・ 会議:社内で行われている全ての会議の目的、頻度、出席者を洗い出し、内容が重複している会議を統廃合したり、会議以外の別の共有方法に変更、必須の出席者を限定するなどして会議に掛ける時間をスリム化します。
・ 承認業務:多くの企業では、本当に必要な承認と実は不要な承認が混在しているケースがあります。特に部門を跨がって行われている承認業務の中には、要否の検討やリードタイムの適正化等の対象から漏れることも多くなっています。そのため承認業務全体を棚卸し、必要な承認案件を特定した後、適正な承認方法(電子署名やメール承認などへの代替)を決定し、工数を削減します。
・ 社内文書・帳票:作成されている社内文書や社外の取引先ごとに異なる帳票の仕様の統一、デジタル化などを進めて、作成工数や保管コストを軽減させます。社内の類似分析資料の統廃合や、資料のデジタル化により前述のRPA処理対象業務になる可能性も高まります。

役割の大きいデジタル技術

少し話が逸れますが、これまでご紹介したコスト削減における手法においても、デジタル技術が大きなきっかけや役割を果たしています。

もちろん従来の業務改善・改革を検討される際にも、最新のデジタル技術の活用も視野に入れることで、さらにコストの直接的な削減や、業務のスリム化に繋げることも可能です。

①の購買コスト削減では、従来の名刺がQRコード型になりペーパーレスになることもありますし、②⑥のようにデータが電子化されたことによりRPAなどのツール・システム利用が進み、業務やコストそのものがスリム化されることもその一部です。

また③のバリューチェーンや自社内のサービス・商品・製品の流れをセンサーなどでデータ収集した上で分析し業務改善・コスト削減に活用することが可能です。

④はデジタルチャネル、⑤⑦はWork From Home等に代表されるデジタル技術を活用した業務スタイルにより発生したコスト削減の方法です。

弊社が、お客様企業のデジタルトランスフォーメーション(DX*)を支援させていただく際は、4つの象限で表します(図表3)。

今回ご紹介したコスト削減はDXの一角、主に左下の一部分にあたります。

こうしたデジタル技術を活用した業務改善・コスト削減は第一歩であり、無駄の削減や効率化で余力を生み出し、サービスや製品の高付加価値化、バリューチェーンの改革など、より成長領域に資源を投入して企業全体の変革に進んでいくことができるのです。

次ページ以降、特に短期間でコスト削減が見込める①購買コスト削減、⑤オフィス最適化について詳しくをご紹介します。

*DXとは:企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること(経済産業省「デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン」(2018年)より)

1.購買コスト削減

どんな企業でも水やペン、コピー紙など日々、様々な間接材を発注しています。間接材一つずつの金額は小さく、これ以上値段は下がらないと思われているかもしれませんが、それぞれの品目の適正価格を見逃している場合があります。複数年にわたり放置すると大きな金額で損をしていることもあります。

見過ごされがちな間接材コスト

間接材の購買はどのようなオフィスでも行われており、社員が使用する文房具から、複合機やパソコン、社用車などのリース機器、清掃や警備といったサービスまで、見直す品目は多岐にわたります(図表4)。

これらの購買は長年の慣習で同じものを自動発注しがちで、より新しくて品質が良く価格も安いものに変更する機会を失っている場合があります。

バックオフィスで働く人員が多かったり、複数個所に跨っていたり、品目自体の数が多くなればその分削減効果も大きくなり、一度削減してしまえば効果は持続します。

まず初めに実施すべきなのは、品目毎のスペックの適正化です(図表5)。

後述の集中購買によるボリュームディスカウント交渉を行う前に、これを実施すると効果的です。まず社内でこれまで実施されている購買品と価格を取りまとめた上で、利用用途ごとに適正なスペックを決定します。

これにより、同じ用途でもスペックの異なる品目を全社各所で購買していた場合は、適切なスペックに統合することが可能です。

例えば、社内確認用の印刷に、非常に質の良いコピー用紙を利用していたとしたら、そこまで上質なものは不要であるということに気付くことができます。

この取り組みは、発注担当が複数に分かれていても情報を共有することで同じ適正化を行うことが可能です。

集中購買とスペック・価格の適正化

次に実施するのは、集中購買です。部門や地域拠点ごとなどで個別に発注していた間接材を、まとめて発注することにより、数量を大きくしてボリュームディスカウントが可能になる場合があります。自社は集中購買できていると思っていても、実際にヒアリングするとできていないケースがタイではまだ見られます。

集中購買を行うべき範囲(主に地理的な理由で分散することもあります)を特定し、適正価格を提供できるサプライヤーを選定して、様々な品目の価格を交渉します。品目に応じて、削減の工夫の仕方はそれぞれ異なります。年間の購入・レンタルコストが高い品目から実施すると良いでしょう。

間接材購買コスト削減の成功の鍵

この取り組みを行う際の成功の鍵は、前向きな活動として取り組むことです。

これまでの歴史の中で続いてきた購買経緯・方法も多いため、決して現在の購買担当者を責める活動になってはいけません。担当者の知見・社内のコミュニケーションが頼りになりますので、彼らの協力が不可欠です。

管理購買部門の責任者の方に、この取り組みを通じて皆で協力をして見直しを行い、いかにコストを下げることができたかを評価したいなどのメッセージを明確に出してもらうと、活動がスムーズに進みます。

ABeamの間接材 購買コスト削減サービス

ABeam Consultingでは、「特定の担当者に任せていてブラックボックス化している」「そもそも人手が足りない」「どうやって取り組んだら良いのか分からない」などと感じている企業に対して、品目数が多く見直しの工数も掛かる間接材のコスト削減をサポートしています(図表6)。

日本では上場企業において間接材は総費用の約10%~15%を占めるとも言われています。もちろんタイは物価も安く一概に同様の効果が出るとは限りませんが、削減余地は大いにあります。

ABeam Consultingは3つの購買情報データベースを活用します。一つはサプライヤーの業界動向や交渉ポイント、実施手順などをまとめており、各品目の単価をタイではどのように削減できるのかに関するノウハウを持っています。

また、タイにおける各品目の価格のデータベースを持っており、現在その企業が最適価格で購買できているかどうかをベンチマークすることが可能です。

さらに、ABeam Consultingの持つサプライヤーリストの中から、コストパフォーマンスと品質のバランスが取れた最適な取引先をご紹介することが可能です。

その上で、購買専門のコンサルタントにより、現状分析からサプライヤーに対する交渉代行まで実施します。

費用に関しても削減額に応じた成功報酬型を採用しており、企業の負担を最小限に、短期間で確実な成果を目指します。

【コスト削減ケーススタディ】タイでの事例

某インフラ産業企業においては、まずはじめの2週間でタイの現地法人にて全社でどのように間接材の購買が行われているかヒアリングや関連資料の分析を行いました(図表7)。

これにより削減余地の高い品目を特定し、その中で先行して短期的に高い成果が期待できるクイックヒットとして進められそうな品目を診断することができ、後続の実行フェーズの実施判断が可能になります。

次に、高い効果の見込まれる一部の品目のクイックヒットプロジェクトを実施し、成功例を作って自信を深めてから他の品目の購買コストを削減しました。

所要期間はプロジェクト体制によっても異なりますが、本事例では、クイックヒットプロジェクトとして選択した1品目を約3ヵ月掛けて実施し、その後半年掛けて他の品目の購買コスト削減を実施しました。

結果的に、12%~20%の削減効果を出しています。

その他の企業へのご支援実績(図表8)から、図表9のような品目でコスト削減の余地があると考えています。

3ヵ月ほどの短期ではプリンターのトナーや粘着テープなどが削減効果を出しやすく、3ヵ月~1年ほどの期間となると書類保管倉庫の賃料や消防設備点検費用、社用車リース料などの削減にも取り組みます。

国ごとの事情に応じて間接コスト削減を支援

ABeam Consultingは日本やタイなどのアジア、アメリカ、ヨーロッパなど13ヵ国29拠点のネットワークを持っています。海外を含めた事例でも、3ヵ月程度で制服やコピー用紙、またはトイレットペーパーなど、10品目前後のコスト削減プロジェクトを実施し、物価や企業規模など国によって事情は異なりますが、10%~30%程度の削減効果が出ています(図表9)。

これらの他にも、ITコストや外注コストの最適化などの相談も多数寄せられており、ご支援しています。

2.オフィス最適化

新型コロナウイルスの感染拡大を機に広く浸透したのが、タイではWFH(Work From Home)とも呼ばれるリモートワークの導入です。新しい勤務体系の導入などによって、これまでのオフィス機能を見直し、コストを最適化することができます。

リモートワーク推進でオフィスコストを削減

通勤中やオフィスでの感染防止のため各国で普及したリモートワークですが、オフィスに出社する人数が減ることで必要な面積が減り、より賃料の安いオフィスへ引っ越すことでコストを削減することができます。

従業員にとっても、感染リスクの減少に加えて、通勤時間がなくなることでプライベートや家族との時間が増えたり、自分のペースで仕事ができるといったメリットがあります。

デジタル機器が発達している昨今は、インターネットの活用などで物理的な拠点の機能が変化しています。

日本ではコロナ禍のリモートワーク導入時に、ハンコを押すために出社しなければならない社員もいました。一度はリモートワークを導入したものの、オフィスで行わなければならない書類の作業が多く、結局、通常の出社勤務に戻した企業もあります。

リモートワーク導入を通してこれまでの業務を見直し、無駄を省くことで、より生産性の高い働き方が可能になります。

移転の際は、現在入居するオフィスと周辺にあるオフィスビルの賃料単価を調査するほか、範囲を広げてグレードが同等なオフィスビルの賃料も比較します。ただ、契約途中の引っ越しは違約金が発生するため、諸費用のシミュレーションなども加味しながら検討します。

自社でオフィスビルを所有している場合は、リモートワーク導入を機に自社で使うオフィススペースを削減させることで、空いたスペースを他社に貸し出して収益を生むことも可能です。

いずれにしても、将来的にどのようなビジネススタイルに変革していくのかしっかりと方向性を固め、どんな機能がどこにどれくらい必要になるのかを改めて検討することが重要です。

某サービス業企業においては、はじめの2週間で全社でどのような機能がオフィスに求められるかを定義し、段階的なオフィス最適化計画を策定しました(図表10)。

次の2ヵ月の間に、オフィスでの業務を最低限の機能に限定し、その他の業務はリモートワークに切り替えました。同時にこの勤務状況に必要な最低限のインフラは社員に提供され、全社的に全員がリモートワークを行う曜日も設定しています。

その後は半年かけて、デジタル技術を都度採用・導入して社員同士が会議や業務連携を行えるよう促進し、さらにオフィス面積を縮小していきました。例えば承認行為の整理・統廃合と同時に電子署名の導入などが挙げられます。

これらにより社員がオフィスに出向く日数も削減しています。また物理的な改革だけでなく、生産的な仕事の仕方やマネージメントについても工夫をしています。

結果的に32.6%減の削減効果を出しています。

ABeam Consulting × GDM

今、「最適な」オフィスとは何か?

リモートワークの導入など積極的に働き方改革を進めるABeam Consultingと、タイでオフィスや工場などの事業用不動産の取得支援を手掛けるGDMに、昨今のオフィス事情やこれからのオフィス機能、働き方などについて語ってもらった。

25年以上、一貫して日本企業並びにアジア企業のグローバリゼーションを支援。近年は当事者として、日系企業であるABeam Consulting自身の事業成長とグローバリゼーションを牽引してきている。趣味は、タイの歴史とお寺巡り。


2008年より来タイ。ホテル・オフィス用地や工場倉庫用地及びホテルやオフィス、商業施設などの事業用不動産売買に強みを持つ。タイ国内において90万㎡を超える不動産取引実績を有し、企業の不動産取得支援を行っている。

新しい働き方とオフィス移転

 2020年前半、新型コロナウイルスの感染拡大が始まってからはRPAによる業務プロセスの自動化、WFH(Work From Home)を前提とした業務プロセスの見直し、デジタル署名、コスト最適化などの非接触技術や生産性向上に関する問い合わせが多かったですね。また、ウェブ上であたかも実際のショールームにいるかのように歩き回ったりできるバーチャルショールームにも企業の皆様は興味を持たれています。

タイは新型コロナウイルスの感染が抑えられており、かつ日本からも人が入国できるようになって、後半には企業活動も随分戻ってきています。

高尾 私たち不動産業で転換点になったと感じるのが20年8月頃です。日本のお盆が明けた後から企業が動き始めました。土地建物の売買が一気に進んだのに加え、調査案件も動き出しました。例えば、ホテルを開業したいディベロッパーがタイのホテル需要が将来的に回復するかの事業性評価の再開や、戸建て住宅開発用地の調査といった案件です。

工場関連では購入を検討する企業もある一方、売却を考える企業もいらっしゃいます。余剰な資産を一部売却もしくは完全撤退も含めて検討したいという調査案件も動き始めています。その次に多いのがオフィス移転関係のご相談です。

 新型コロナウイルスをきっかけに急速にリモートワークが広まりましたが、タイ国内の感染拡大が抑えられるのに伴って再び元のノーマルに戻ってしまった企業もあれば、これを機にオフィスの在り方を再考したいという企業もありますね。オフィスの機能、働き方を見直して、単純にコスト削減のためではなく新しい働き方に対応するためのオフィスを考えたいという動きです。タイも今後第2波、第3波が来るかもしれない中で特に考えなければいけない点です。

高尾 先行する具体的な事例が出てくると、追随する動きが生まれると思います。それは21年、22年あたりではないかと見ています。オフィス不動産がまさにそうで、トヨタモーター(タイランド)様がオフィスを移転されたという報道がありましたが、実際に最近も都心部にあるオフィスを郊外に移したいという企業様から相談がありました。ただ、大きなオフィスですのですぐに動かすわけにはいきません。次の契約更新が迫っており、移転できない可能性もあります。

オフィス移転には様々な要素が関与してくるため、意思決定に時間が掛ります。移転するのかしないのかを含めてシミュレーションをしておこうという企業が、まさに21年に出てくると思います。弊社でもそういった際のスケジューリングとコストシミュレーションを提供しています。

 我々の現在の状況としては、バックオフィスも含めて90%の社員が週1日以上リモートワークをしており、1週間のうちリモートワークを2日、3日するのが主流になっています。また、毎週水曜日はオフィスを完全に閉鎖して強制的にリモートワークにしています。コロナ前と比べて睡眠、食事の満足度は5割から8割に上がりました。そして85%がリモートワークにより公私ともに充実したと満足しています。

高尾 御社はまさに自らをケーススタディとしてクライアントに見せることができますね。

 私たちはワークスタイルトランスフォーメーションと呼んでいますが、その目的は生産性の最大化とエンゲージメントの向上です。新しい仕事のやり方で生産性をどう上げるのか。これからは色々な働き方に対応する必要があります。

例えば、一人で集中して作業したい人もいれば、コーヒーを飲みながら膝の上にパソコンを置き、カフェにいるような雰囲気で仕事をしたい人もいます。色々な働き方が可能になっていく中で、そういった環境をどれだけ提供できるかです。わざわざオフィスに来る理由がないなら、オフィスは要らなくなります。オフィスに来る理由が何なのかを定義し、それに合わせたオフィス機能を提供することが大切です。

もう1つの〝エンゲージメント〟の向上とは、従業員の従業員の満足度、幸福感といったエンゲージメントを高めるためにオフィスをどのように使うのかということです。この生産性とエンゲージメントという2つの軸に感染防止といった安全面を加えた3つの要素で、オフィスをうまく活用していかなければいけません。

求められる3つの機能

高尾 オフィスの必要論としては、具体的に会う場所が要るという観点があります。

 これからのオフィスには3つの機能が求められると思います。1つ目はおっしゃったように人が集って、コラボレーションを高めることは重要な機能になります。2つ目は、集中して仕事をする環境としての機能です。リモートワークでは、家で子供が走り回っていたり、家のインターネットの電波が弱くて仕事に集中できる環境がない社員が出てきました。そうした社員でも生産性を高めて仕事をするためのオフィスが求められています。

3つ目はオフィスのファシリティそのものです。例えば大きな画面やスクリーン、ホワイトボード、高性能カメラやマイクなどです。多い人数でオンラインミーティングを行うと、全員が小さな画面だけを使っているのは必ずしも効率が良くありません。そこで弊社では、会議をリードするファシリテーターはオフィスに来て、良い設備を使ってミーティングをするようにしています。参加者はリモートでも、ファシリテーターがオフィスの高度な設備を使うことで全体の生産性を上げる。こういった機能も求められると思います。

この3つの機能をどのように社員に提供すべきかを考える必要があります。例えば、後に取り上げた2つなら、必ずしも全員が出社する必要はありません。自宅の近くにそういったサテライトのような場所があれば、そこに行けば良いのです。

高尾 これからオフィスの在り方を考えようという企業にとってはまさに必要な知見になりますね。今はまだ、スペースが余ったので削りたい、もしくは事業継続計画の観点から複数に分散したいというのが主ですが、全体の生産性を上げながらオフィス移転という考えを御社のような企業に旗振りしていただくと、日本企業の生産性がもっと上がるのではないでしょうか。

移転のメリット、デメリットではどうしてもコスト面を主張してしまいがちになりますが、今日のお話を聞いて、これからは原様が話したようなオフィスの機能面も組み入れながら、お客様にご提案していきたいと思いました。そういった部分ではコラボレーションさせていただければと思います。

 是非、よろしくお願いいたします。

【まとめ】コスト見直しは継続的に

今回取り上げたコスト削減・最適化の手法は短期間に成果をもたらすものに焦点を当ててご紹介しましたので、数ある内のほんの一部に過ぎません。また、複数の手法を組み合わせて行うことで効果はより高まります。

日本と比べて人件費や諸品目が安く、企業規模も異なるタイでは、同じ取り組みを行っても日本と同じような削減効果が出るとは限りません。しかし、コストはいつの間にか膨らむことはあっても、自然に減ることはありません

しかも企業が新しい価値を創造し続けなければ生き残れないDXの時代において、できる限りコストを最適化し、人的にも金銭的にもリソースを付加価値の高い活動に有効活用することは不可欠です。コストを見直さない限り、毎年損をすることになりますので、できる限り早く着手することが重要です。

またビジネスの状況が変化し社内で必要な機能やリソースも変化していきます。さらには世の中の技術やサービスは日々進化していますので、絶えずその情報を持って活用することが重要です。そのため、これらコスト削減・最適化の取り組みは一度限りのイベントではなく継続的に無駄なコストを省く癖を付け、削減・最適化のノウハウを蓄積し、世の中の最新技術・サービスを把握していくことが大切となります。

無駄なコピー紙の出費を止める活動が、紙の使用を減らすために業務そのものをスリム化するBPRに繋がる効果もあります。コスト削減は業務改革の第一歩と言えるかもしれません。

そして、コスト削減の際にはトップの人間が覚悟を決めることも重要です。長年の慣習や取引先との付き合いなどもある中で、いかに例外を設けずに減らせるかはトップのリーダーシップに掛かってくるからです。また、誰かを犯人にする活動になってもいけません。あくまでも皆で協力して進めていくことが重要です。

2021年がどのような経済状況となるのかまだまだ予断を許しませんが、企業にとってはこれを機に様々な見直しを進めることで、好転の年となることを願ってやみません。


\こちらも合わせて読みたい/
未来を拓く経営 ~コロナ禍の今こそ経営の基本に立ち返れ~

米国防総省でも採用されたクラウドとは

今、インターネット社会と切り離せない関係になったクラウドサービス。今後、タイでも導入する企業が増えると見られている。企業のクラウド導入を支援するクラスメソッド(タイランド)の三並慶佐代表が改めてクラウドについて6回に分けて解説する。

従来、私たちはパソコンなどの中にあるソフトウェアやデータを利用していました。クラウドはインターネットなどのネットワークを通して、それらを提供するサービス形態です。

2019年10月25日に米国防総省がクラウドの競争入札を行い、マイクロソフトが10年間で最大100億ドルの契約を勝ち取ったと発表しました。入札にはアマゾンをはじめとする大手クラウド企業が参加。様々な観点から話題になりましたが、最も注目すべきは米国防総省のようなセキュリティを最重要視する組織でも採用するまでにクラウドのビジネスが拡大したことだと思います。今回はクラウドとは何なのか、どのようなビジネス環境なのかを説明します。

クラウドサービスと言ってもいくつかの種類があります。

IaaS(イアース)は、Infrastructure as a Service(サービスとしてのインフラ)の略で、サーバを時間単位で貸し出して使うサービスです。今まではハードウェアとしてのサーバを購入し、その保守管理を行って使っていました。IaaSでは1時間単位で利用でき、①初期費用が不要、②使用分だけ費用になるためコストを削減、③保守運用の負担軽減、といったメリットが得られます。

PaaS(パース)はPlatform as a Serviceの略で、アプリケーションの開発や管理に必要な環境を提供します。

SaaS(サース)は、Software as a Service(サービスとしてのソフトウェア)の略になります。今まで購入してパソコンにインストールしてから使っていたものを、月額などを払いオンライン上で使用可能なソフトウェアになります。

IaaS 市場規模(2019年)

有名な例で挙げるとGmailです。昔はメールソフトを購入してからインストールをして設定を行っていました。今ではブラウザからGmailにアクセスすることでメールソフトの機能がすべて使えます。サブスクリプション型のソフトウェアサービスなどもあります。

IaaSに関しては主な事業者としてアマゾン、マイクロソフト、アリババ、グーグルなどがあります。アマゾンのAWS(Amazon Web Service)がIaaSを始めたのが06年。その後、急激に市場が広がり、19年には全世界で約4.8兆円という規模になりました。全世界で利用企業が増えており、今後はアジアでも大きな成長が見込まれています。

IaaSの利用用途は多岐に渡ります。基本的なウェブページの運用から、近年話題のAI、ビッグデータ、IoTなどのシステムでもIaaSを基盤としていることが多いです。その他、社内のネットワークリソース自体をIaaS上に構築し、コスト削減を行う事例も増えています。

次回はクラウドをなぜ使うのかというテーマで、クラウドを利用するメリットなどについて紹介します。

寄稿者プロフィール
  • MD 三並慶佐
  • classmethod(Thailand)Co., Ltd.MD 三並慶佐

    2000年法政大学工学部電子情報学科卒。日本で15年間以上のWEB、エンタープライズやソーシャルゲームなど多くのシステム開発を行う。16年青年海外協力隊として、タイ国トラン県にコンピュータ教師として赴任。20年クラスメソッドタイランドを立ち上げ、タイでクラウドの導入支援を行う。

Classmethod(Thailand) Col.,Ltd

クラウド型AI-OCRシステム Script-Ex

高精度AIで手書き文字を認識 作業効率を大幅向上

タイでは日常業務で多くの書類が使われ、手書きの文字などを目視でデータ入力する作業もまだまだ行われている。東計電算では、手書き文字対応の読み取りツール「Script-Ex」を新開発。文字(Script)+AI分析(Examine)の名の通り、高度なAIを用いたOCR(光学文字認識)技術によって、従来より読み取り精度を飛躍的に向上させることに成功した。納品書や送金明細などのPDFデータを1分間に約10枚、98%の識字率で文字コードに変換し、所定のエクセルフォーマットで出力することができる。伝票目視によるシステム入力時間やタイプミスなど、管理者の目につきにくい無駄を削減し、空いた時間を本業に活用することができる。

日本では、AI-OCRによる手書き書面のデータ化を始点に、自社システムのデータとの照合、数量差や金額差などの違算検知処理までをRPA(Robotic Process Automation)化する事例も増えており、自動車部品工業会に参画する大手企業をはじめ、多くの企業での導入が進んでいる※。

AI-OCRでデータ化したファイルを会計ERPであるswifT PLUSへ連携することも可能。例えば輸入製品明細や支払明細書などをデータ化し、会計システムへ取り込むことで入力工数を削減することができる。

swifT PLUSは昨年タイの財務省歳入局から税務会計ソフトの認定を取得。タイにおける経理会計システムとしての利用は当然、クラウドによるリモートワークの基盤として、またERPとして業務情報を集約し、見積案件の進捗や営業毎の受注/売上粗利などのデータ分析、債権債務の効率的な管理に貢献できる。また、swifT PLUSを活用した経理・会計業務の内製化を進めることで、一般的なタイでの記帳代行サービスと比較し、約30日の月次決算の早期化が実現可能となる。

現場からの情報の入力・収集をより効率化し、日/英/タイ語によるクラウド基盤でのリアルタイムな情報共有により、コロナ禍における「より早く経営状況を把握し、次の行動へ活用したい」というニーズへの1つの解決策となる。

長年培われたノウハウを活かして製造業や物流業向けにさまざまなソリューションを提供する東計タイランド。最近では企業のデジタルトランスフォーメーション(DX)も盛んに謳われている。東計タイランドの早坂氏も「現場の業務と先端技術を結ぶタッチポイントとして、お客様の業務効率化に貢献したい」と意気込む。

※データ照合エンジン(T-check)は東計電算で特許出願中。 タイ語文字の読み取りも次期バージョンで対応される予定。

会社情報

株式会社 東計電算のロゴ

TOUKEI(THAILAND)CO., LTD.
Bhiraj Tower at BITEC 23rd Floor, Room no. 23065, 4345 Sukhumvit Road, South Bangna, Bangna, Bangkok 10260

■ タイ窓口(早坂)
Tel:+66(0)91-726-4301
E-mail: haya2499@toukei.co.jp

■ 日本窓口(佐野)
Tel: +81(0)44-430-0743
E-mail: sano1531@toukei.co.jp

提携パートナー
SME Multi Consultant Co., Ltd.(会社案内PDF)

Room No. 607-609, 6th Floor, Yada Bldg. 56 Silom Rd. Bangrak, Bangkok 10500

Tel : +66(0)-2-632-8130
Fax : +66(0)2-632-8131

お勧めの経営に資する勉強テーマ

Q:新年にお勧めの経営に資する勉強テーマなどあれば教えてください。

A:明けましておめでとうございます。 昨年はとにかく大変な一年でしたが、今年は良い年になるように頑張ってまいりましょう。

さて、ご質問への回答ですが「自分自身について勉強する」というのはいかがでしょうか。忙しく日常を過ごしていると、自分自身以外の何かを気に掛けることは多くなる一方、自分自身についてよく理解する機会を持つことは難しいものです。

他方、心身の健康の保持や仕事上のリーダーシップの発現においても、自分を理解することは非常に大事なことであるとされています。

古代ギリシアの哲学者であるタレスの言葉にも「最も困難なことは、自分自身を知ること」とある通り、非常に難しいことなのも確かです。

そこで今回は、そのための一助となるツールとして私自身や会社経営の中で使用している4つを紹介させていただきます。

④以外は全て無料で診断可能です。

① DiSC

https://jp.vonvon.me/quiz/301

ある環境下で人がどのように行動するかを測定し、人を否定的に判断しない「D主導」「i感化」「S安定」「C慎重」の行動特性で整理するものです。 弊社の従業員研修でも使用しましたが、シンプルで興味深いツールです。在タイ大手日系企業でも、社内のコミュニケーションツールとして使用していると聞いたことがあります。

② MBTI

https://www.16personalities.com/ja

人がその人自身の世界をどう認識し、物事の決定をしていくのかについての心理的な選好を16の区分で整理します。 米国のビジネススクールに留学した際、入学直後に受けたことを覚えています。特に欧米で居住した経験のあるタイ人の中でも利用者が多い印象があり、自己紹介にも使えます。

③ エネアグラム

90問回答式チェック

人の性格タイプを9つに分類し、タイプごとの世界観、動機、特性を明らかにします。タイでも講習が行われており、面白いツールです。

④ ストレングスファインダー

https://www.gallup.com/cliftonstrengths/ja/253634/ホーム.aspx

自分自身について、34の強みの中から何が上位の強みなのかを教えてくれるツールです。これも米国留学中に受診したことがあります。 一般的に成長というと弱みの改善が注目されますが、このツールは強みを伸ばすことについてフォーカスしたアプローチを提供してくれます。


役に立つかどうかは元より、自分を知るというのは単純に面白いことでもあり、是非いろいろ試してみられると良いと思います。

それでは、今年も一年どうぞよろしくお願いします。

寄稿者プロフィール
  • 倉地 準之輔 プロフィール写真
  • 倉地 準之輔

    日本で大手監査法人、外資系企業勤務を経て、2013年来タイ。外資系会計事務所のジャパンデスクにて日系企業向けコンサルティング業務に従事した後、15年10月にBizWings (Thailand) Co., Ltd.を設立。経営コンサルティング業務を提供し、現在に至る。公益財団法人東京都中小企業振興公社タイ事務所経営相談員。ジェトロ中小企業海外展開現地支援プラットフォーム・コーディネーター。公認会計士(日本)。東京大学経済学部経営学科、米ケロッグ経営大学院卒業(MBA)。

「色々ディスカッションにのってくれる相手が欲しい!」と思ったらBizWingsにどうぞ。

\こちらも合わせて読みたい/

第12回 中小企業社長兼経営コンサルによる現場発経営論

企業が抱える問題を解決!オフィス移転CASE STUDY

前月号に引き続き、今月号も企業が現オフィスで抱えている問題を解消する、オフィス移転のケーススタディを解説いたします。

【CASE 1】立地を見直すことで大幅にコストダウン

メーカーA社は、この度のコロナウイルス感染症で事業縮小を計画中です。日本からの駐在員を減らして人員削減を行い、リモートワークも取り入れることでオフィスの大幅縮小を予定しています。賃料価格を安く抑えるため、賃料価格が比較的安く、工業団地へ行きやすい立地への移転を検討しています。

バンコク中心地(駅遠)→バンコク郊外(駅近)への移転

【問題1】オフィス面積が大きい

→人員削減とリモートワーク導入後の日々の出社人数に合わせたオフィス面積に縮小

日本からの駐在員の削減と人員削減をした場合の社員数、またリモートワークを導入することによって日々の出社人数を算出し、適正な面積の新オフィスを設ける必要があります。

【問題2】賃料価格の高さ

→自社にとって許容できる条件の低価格オフィスへ移転

賃料が低価格の物件はその分、デメリットがあります(例えば、郊外・駅から遠い立地・築年数が古いなど)。

今回のケースのようにバンコク中心である必要がない場合は、郊外の新築オフィスへ移転しても現オフィスの賃料価格より安く抑えられる場合もあります。

【CASE 2】居抜き物件を利用し、移転費用を抑える

製造業B社は間もなくオフィスの賃貸契約期間が満了となり、移転を検討しています。 今のオフィスへの不満は少しオフィス面積が広いことと、渋滞が起こりやすい立地にオフィスがあることです。 移転時に費用を掛けたくなく、内装にこだわりがないので居抜き物件への移転を希望しています。

バンコク中心地(駅遠)→バンコク郊外(駅遠)への移転

【問題1】オフィス面積が大きい

→今後の人員増加も踏まえたオフィス面積に

オフィス移転の際は、今後の人員増加も考慮したオフィス面積にする必要があります。  今後人員増加を行わない場合は、現状のオフィス面積が広すぎないかどうかも踏まえてオフィス面積を確定しましょう。

【問題2】移転費用をあまり掛けたくない

→居抜き物件への移転

移転を検討する際に、居抜き物件を検討する企業も多いかと思います。居抜き物件が見つかれば、内装施工費用が掛からず移転費用を制限できますが、バンコクで居抜き物件を見つけるのは容易ではありません。また、見つかったとしても一部リノベーションなどは必要になることも事前に把握しておく必要があります。

【問題3】渋滞が頻発

→渋滞が激しいエリアを避け、業務的に利便性の高い物件へ移転

渋滞が起こりやすいエリアにオフィスがあると、顧客訪問などの移動に時間が掛かってしまいます。効率よく仕事を行うためにも、無駄な時間やコストが掛からないことを目標に新オフィスの立地・内装を検討しましょう。

オフィス仲介実績

  • コナミアミューズメント 様
  • 湖池屋 様
  • 住友重機械工業 様
  • 野村総合研究所 様
  • 三菱UFJリサーチ&コンサルティング 様
  • BizWings 様
  • JXTGエネルギー 様
  • KGK 様
  • モンスターラボ 様
  • 古河電工オートモーティブシステムズ 様
  • 戸上電機製作所 様
  • 日本コムサ 様
  • アンダーソン・毛利・友常法律事務所 様
  • 古河電気工業 様
  • 住友商事マシネックス 様
  • 野村貿易 様
  • 北國銀行 様

\こちらも合わせて読みたい/

Vol.11 企業が抱える問題を解決!オフィス移転CASE STUDY

第37回 コロナ禍でも健闘する上海汽車(MG)

新型コロナウイルスの影響で軒並み自動車市場が落ち込む中で、2013年末にタイ進出した上海汽車(MG)が前年比増を維持している。その要因を考察した。

積極果敢な新モデル発売

MGの20年1月~10月の販売台数は前年比1.1%増の21,400台に達し、シェアは3.5%と19年から1%近く上昇した。

要因としてまず挙げられるのは、果敢な新モデル攻勢である。年に最低3車種の新車を投入する方針であり、投入ペースが速いことが販売増に繋がっている。

19年8月に同ブランド初の1トンピックアップトラック「MG Extender」、9月にSUV Cセグメント(1,500ccクラス)の「MG・HS」を投入。20年10月には同ブランド初の国産PHEV「MG HS PHEV」、12月には業界で初めて100万バーツを切るステーションワゴン型EV「MG EP」を発表した。

ユニークなのは複数のモデルを販売した後、市場の反応を見ながら随時モデルや仕様を調整していくテストマーケティングな手法を取り入れている点であろう。

タイでは余り人気がないステーションワゴンに、なぜ100万バーツを切る「MG EP」を投入したのかという筆者の質問に対して、MG関係者は「新しい顧客層がこの価格帯にいるのか知りたかった」と答える。手堅く絞った車種を投入する日系メーカーとはアプローチが異なる。

外観と装備・機能で攻勢

次の要因として挙げられるのは、若者・女性などを主な顧客ターゲットに据えた「外観重視+満載な装備・機能路線」である。

17年の「MG ZS」以降、業界で初めて3つのコネクテッド機能、すなわちタイ語の音声認識、車両状態のリモート監視、10インチのタッチスクリーンによるインフォーテイメント(情報+娯楽)を持つ「i-Smart」を搭載し、新しいテクノロジーやライフスタイルに関心が強い若者に狙いを定めた。

また、SUVには他社より手頃な値段で特に外観重視のタイ人女性が気に入るようなサンルーフなど過剰とも言える機能を標準で備えた。あるディーラーの話では顧客の9割が外観を重視する女性であり、ピックアップの顧客も女性が多いという。

「投資先行型」のEV戦略

注目のEV戦略は、初期は収益性を重視しない「投資先行型」である。本国の中国が世界最大のEV市場であり、タイのEV完成車輸入税がゼロなこともあって他社より低価格で投入できる利点を最大限使い、EV市場で他社を先行している。

19年に発売したBセグメントのSUV「ZS EV」は価格が190万バーツということもあり、受注は約2,000台に達しEVで首位に立つ。ただし、タイでEVを購入するのは一戸建て住宅に充電器などを据え付けられる富裕層に限られるため、販売台数は想定以上に伸びていない。

それでも怯まずに先述の「MG EP」を投入。2万バーツ程の充電器を設置代込みで無料提供するという大胆なサービスで潜在市場を徹底的に掘り起こそうとしている。

MGとしては22年までにタイでシェア5位内を目指している。また、タイのBOI(投資委員会)がEVに対する投資優遇策を新たに発表したように、EVの普及は長期的に中国系メーカーにとって有利になる。

長らくタイ市場を独壇場としてきた日系メーカーにとっても、同じ戦略を取らない競合とどう向き合うのか真剣に検討する局面に入ったと言えよう。

寄稿者プロフィール
  • 田口 孝紀 プロフィール写真
  • 野村総合研究所タイ
    マネージング・ダイレクター田口 孝紀

  • 山本 肇 プロフィール写真
  • 野村総合研究所タイ
    シニアマネージャー 山本 肇

  • 野村総合研究所タイロゴマーク
  • TEL : 02-611-2951

    URL : www.nri.co.jp

    399, Interchange 21, Unit 23-04, 23F, Sukhumvit Rd., Klongtoey Nua, Wattana, Bangkok 10110

《業務内容》
経営・事業戦略コンサルティング、市場・規制調査、情報システム(IT)コンサルティング、産業向けITシステム(ソフトウェアパッケージ)の販売・運用、金融・証券ソリューション

\こちらも合わせて読みたい/

第36回 第二弾EV投資奨励策 早急な発表の背景

PLIC THERMO

【温度校正ISO/IEC 17025取得】熱電対・ヒーターメーカー PLIC THERMO

 熱電対やヒーターの生産といった温度管理回りの仕事をトータルで請け負うPLIC THERMO Co., Ltd. (パトゥムタニ県)は、フォークリフトのレンタルなどを主力とする物流関連企業PLIC Corp., Ltd.(同)の100%子会社。もともとは親会社内に置かれた一事業部門であったところ、2014年に温度校正のISO/IEC 17025を取得。合わせて社内に温度校正室が設置されるなど事業の本格化に伴って、2年後に独立となった。顧客は順調に増え、昨年は事業開始から20年が経過。部品の輸入販売や提案型ソリューションなどにも乗り出している。

ISO/IEC 17025とは
「試験所及び校正機関の能力に関する一般要求事項」が定められている。“試験所認定”とも呼ばれ、試験所及び校正機関が特定の試験(電気試験、機械・物理試験、化学試験、食品試験等)または校正(電磁気量、幾何学量、力学量、熱力学量等)を実施する能力を有していることを認定する規格。

熱電対20年、ヒーター15年
日本クオリティを供給し続ける

熱電対の生産に携わって20年。ヒーターでも15年。温度管理分野のタイの市場でこのところ、ひときわ存在感を増しているのがPLIC THERMO社だ。熱電対を月に1万本以上生産し、主に日本に向け出荷している。品質が安定しているとして日系メーカーからの信頼は厚く、コロナ禍前までは定期的に日本からの品質監査が行われ、日本人の技術指導者が頻繁に往来していた。

品質にとどまらず、タイの顧客のすぐ近くに工場があることからこそできる、地の利を活かした短納期も喜ばれている。ありがちなローカル調達に対するさまざまな不安を、積み上げてきた数多くの実績が打ち消して余りある。

主力の熱電対やヒーターに限らず、温度調整器(コントローラ)など温度管理にかかる多方面への製品・部品供給も行っている。取引先は日本、欧州、中国などワールドワイド。「顧客のニーズは一つ一つ、会社ごとに違う」とは岩谷茂絵子Managing Directorの基本的な考え方でもある。幅広い豊富なラインナップと提案力で、業界の垣根を超えた需要に応えている。

タイ生産だからこそ実現できた低価格かつ高クオリティ製品

とはいえ、日系企業の中には変化を好まず、日本製や従前からの系列にこだわる顧客も少なくない。タイ進出時に始まった取り引きを、引き継がれるまま継続しているケースも後を絶たない。そういったタイの日系社会に対し、「まずは、当社製品の品質とサービスを見てもらいたい」と岩谷氏は語る。

日本から輸入するよりも、タイで生産するPLIC製品のほうが、遥かに安価であることも意外なほどに知られていない。温度校正にかかる費用も日本に比べ格段に安い。日本国産品と遜色ない高い品質を保ちながらも、価格面で有利な提案ができることも同社の大きな魅力の一つだ。

「知ってもらうためには、より一段と高い知名度アップが必要。まずは、そのための取り組みを始めたい」として取材を結んだ。


問い合わせ先

PLIC THERMO Co., Ltd.

【日本人】
Mail:moeko@plic.co.th
TEL :083-988-0401

【タイ人】
Mail:pinya@plic.co.th
TEL :083-988-0391

(本社工場)138 Moo5, Chiangrakyai, Samkhoke, Pathumthani 12160

URL: http://www.plicthermo.co.th/

ミャンマー小売チャネル・決済方式のリープフロッグ

東南アジア諸国連合(ASEAN)における様々な業界の旬なトピックを、ドイツ発のコンサルティング会社ローランド・ベルガーが経営戦略的な観点から解説する。
今回は、未だポテンシャルを活かし切れないミャンマーの小売チャネル及び決済方式について。

民主化へと転換して以降、急速に経済改革が進むミャンマー。直近ではロヒンギャ問題や未だ拡大を続ける新型コロナウイルス感染など安定的な市場とはまだ言い難く、かつて「ASEAN最後のフロンティア」と呼ばれたそのポテンシャルはあらゆる面で開花し切ってはいない。その一つは小売チャネル・決済方式におけるリープフロッグ(蛙飛び)と呼ばれる一足飛びの急激な進化だ。

小売チャネル・決済方式のステージ論

まずは議論の前提として、小売チャネル及び決済方式の一般的な進化論について触れておきたい。以下は極めて乱暴なステージ論であるが、議論のために敢えて単純化している点はご容赦いただきたい。

小売チャネルについては、家族経営の零細商店や露店といった伝統的小売から、ショッピングセンターやコンビニ等の近代的小売へと進んでいく。そして、今ではEコマースといった新たな小売チャネルが各国で一般化してきている。

他方、決済方式については、現金決済から始まりクレジットカードやデビットカードといったカード決済が普及してきた。そして、現在のトレンドとしてはスマートフォンを介したモバイル決済が浸透してきている。

一般論として、近代的小売やカード決済が既に普及してしまっていると、Eコマースやモバイル決済に進みづらいと言われている。例えば、徒歩圏内にコンビニが複数店舗存在する日本ではEコマースの購買利便性を感じづらい。

また、クレジットカードの決済端末があらゆる商店に行き届いている米国では、モバイル決済に移行するための新たな投資に踏み切りにくい。

ミャンマーの小売チャネル・決済方式の進化

ミャンマーにおける小売チャネル・決済方式の現在のステージはどこにあるのか。

ミャンマーは、ASEAN各国の中でも伝統的小売、そして現金決済の割合が最も高い部類に入る。2019年の時点で、金額ベースで伝統的小売が全小売市場に占める割合は約70%、現金決済の割合は約95%に至る(図表2)。

ミャンマーは小売チャネル・決済方式のまだ初期ステージにいるのだ。

だが、その状況が大きく変わろうとしている。小売チャネルについては、17年あたりからFacebookといったソーシャルメディアを介したEコマースが徐々に増えてきた。これによってミャンマー消費者にオンライン購買需要が存在することが確認されると、Eコマースへの投資が一気に進んだ。

18年にはアリババが現地最大のEコマースサイトであるShop.comを買収。外からもミャンマーEコマースへの投資が進む。他にも、フリーマーケットプラットフォームのOneKyatやフードデリバリーのDoor2Door等、Eコマースチャネルの多様化もミャンマーでは既に見られる(図表1)。

また、ドイツの食品卸大手METROがティラワ経済特区で行った投資も注目に値する。近代的な物流倉庫とともに、デジタル注文システムも備えた最新鋭の拠点を設けた。現地の小売店や飲食店はオンラインで食材を注文し、迅速な納品を受けることができる。これはMETROの中でも、グローバルに先駆けた取り組みだ。その実証実験の場としてミャンマーが選ばれた。

決済方式では16年から多くの動きが起こっている。Wave Moneyがモバイル金融のラインセンス取得したことを皮切りに、KBZpay、OK Dollar、そしてタイのTrue Money等、様々なモバイル決済事業者が参入している。

決済専門の事業者だけでなく、リテールサイドからの参入もある。ミャンマー小売大手のCity Martは独自の決済サービスCity Rewardsを開始した。

また、前述のShop.comを擁するアリババグループは、今年、Wave Moneyへの出資を行っている。アリペイの経験や技術をWave Moneyへ注入するとしているが、それだけではなくShop.comとのシナジーも想定していることは言うまでもない。

ミャンマーが秘める飛躍の可能性

先に示した元々のミャンマーのステージと、ここ数年での小売チャネル・決済方式の急速な変化──これらを踏まえると、ミャンマーの小売市場はASEANの中で最も大化けする可能性を秘めている。近代的小売、カード決済が進んでいないために、Eコマース、モバイル決済へとステージが一気に進む可能性がある。先に触れた通りその動きは既に始まっている。

Eコマースとモバイル決済は相性が良く、互いの浸透を押し進める。しかも、モバイル決済がその影響力を発揮するのはオンライン購買だけではない。最も大きな変化をもたらすのは、実はオフラインでの購買機会だ。

QRコードを介してオフライン店舗でモバイル決済が為されるようになると、オンラインに加えてオフライン購買のデータも蓄積されていく。

オフラインの購買がデータ化されれば、マーケティングや商品開発だけでなく、調達や流通、そして店舗再編といったサプライチェーンの効率化も突き詰められる。どの商品をどのタイミングでどの店舗にどの程度の量、配荷すべきか、さらにはどこにどういった店舗を置くべきかが分かるのだ。サプライチェーン全体に対するリープフロッグが起こり得るのである。ミャンマーはそういった可能性を秘めている。

寄稿者プロフィール
  • 下村 健一 プロフィール写真
  • Roland Berger下村 健一

    一橋大学卒業後、米国系コンサルティングファーム等を経て、現在は欧州最大の戦略系コンサルティングファームであるローランド・ベルガーのASEANリージョンに在籍(バンコク在住)。ASEAN全域で、消費財、小売・流通、自動車、商社、PEファンド等を中心に、グローバル戦略、ポートフォリオ戦略、M&A、デジタライゼーション、企業再生等、幅広いテーマでの支援に従事している。

\こちらも合わせて読みたい/

Vol.9 自動車アフターセールスにおける顧客の選択変化

【シンガポール】「夜の街」消滅か=厳格措置でコロナ抑制(シンガポール支局 新井 佳文)

シンガポールでは緻密で厳格な新型コロナウイルス対策が効果を上げ、感染がほぼ抑制された。それでも政府は手綱を緩めておらず、マスク着用や集会制限、在宅勤務推奨など基本的な予防策を治療薬・ワクチンが世界的に普及するまで「おそらく1年以上」に亘って維持する構え。クラスター(感染者集団)の火種となりかねないキャバクラなど「ナイトライフ(夜の街)」産業の多くは廃業に追い込まれそうだ。

集会制限違反なら国外追放

国内では4月以降、外国人労働者用のドミトリー(相部屋の宿舎)で感染が広がり、人口570万人の島国で、連日1000人を超える感染者が出た。政府は6月にかけて外出制限や職場閉鎖などの都市封鎖(ロックダウン)を断行。マスク着用も義務化し、違反すると初回で300シンガポールドル(約2万3400円)の罰金を科す仕組みを取り入れた。

人の集まりも人数を制限。現行は5人まで。コロナ対策の暫定措置法に違反したと認定されると、初犯で最大で罰金1万ドルと禁錮6ヵ月を科される可能性がある。自粛を呼び掛けるだけの日本とは対照的で、法律により執拗(しつよう)なまでに取り締まる。

シンガポールはもともと、ガムの持ち込みやごみのポイ捨てにも罰金を科しており、「Fine Country」と形容される。「美しい国」だけれど、管理好きな「罰金大国だ」と皮肉る言葉だ。徹底した取り締まりは強権国家のお家芸で、その持ち味がコロナ対策でも遺憾なく発揮された。

集会制限などで外国人も次々と検挙されており、罰金を科された上にビザを剥奪されて国外へ追放されるケースが相次ぐ。外国人だと二重に処罰される。

来店客にコロナ検査

政府は3月から、「カラオケラウンジ」などと呼ばれるキャバクラや、ダンスフロアを備えたクラブ、バーなどナイトライフ業界の営業を禁じてきた。密閉空間に密集するため「感染リスクが高い」と考えたからだ。12月以降、営業再開を一部認めるものの、ハードルは極めて高い。

歌ったり踊ったりする際もマスク着用が義務。ほかの公共スペースと同様、入場の際にはオンラインで入場記録を残す必要がある。極め付きはコロナ検査だ。店側の負担で、来店客に事前に感染検査を受けてもらわなければならない。

現地紙によると業界からは、手間や検査費負担を考えると営業再開は「現実的でない」との悲鳴が上がっている。対応可能なのは、人気クラブ「ズーク」の運営会社など大手くらいだろう。

接待を伴う飲食店の業界団体は指針として、「店員による接待はなし」との方針まで打ち出した。もはやキャバクラやスナックの体を成していない。政府は存続の難しさを重々承知しており、転業なら最大5万ドル、廃業なら3万ドルを事業者に補助する制度を導入した。やんわりと廃業を促すのが狙いのようだ。

一連の厳格な対策が奏功し、11月中の国内感染者は合計で10人程度にとどまった。在住する日本人からは「緻密な対策でシンガポールではコロナが抑制された。無策に見える日本に帰るのが怖い」との声も漏れる。

※この記事は時事通信社の提供によるものです(2020年12月10日)

時事速報バンコク版 1ヶ月間の、無料トライアル受付中!

\こちらも合わせて読みたい/

【ベトナム】徐々に持ち直すベトナム経済 コロナの「新常態」下で成長模索(ハノイ支局 北川勝弘)